【怖くない話】イタイイタイイタイイタイ【「禍話」リライト番外編】
いやぁ~どうも皆さんこんにちは、稲川淳二です、なんかねぇ、いきなり憑依しちゃって驚かれてるかと思うんですが、
今日はねぇ、深い意味もなく、この稲川淳二の口調でもって、怖い話をするツイキャス、「禍話(まがばなし)」の中でもね、楽しい話、笑える話をやっていこうかな~、とこう思ったんですよねぇ、
なので、今回のリライト、怖い話、怪談じゃあないんだ、まぁ強引ちゃあ強引なんだけど、10話やったから? 「怖い話のツイキャスだけど、こういう話もあるよ」って意味も込めてね、書いてみようかな、と、そういうわけなんですよ、
で、今回はね、「禍話」の語り手の “かあなっき” さん、仮に、Cさんとしておきますかねぇ、そのCさんと、彼の後輩かつお友達が、九州のアパートでもって体験したお話なんです…………
…………これは、Cさんの学生時代の話なんですよ、ですからもう十何年も前の話になるんですが、当時Cさん、大学に通うために九州の、K荘ってアパート、ここに住んでた、
当時、もちろん勉強もちゃんとしてたんですが、友達も多かったので、大学の文芸部の部室だとか後輩の家だとか、あるいはCさんの部屋でもって、遊ぶことも多かった、
その日もね、同じK荘に住んでた後輩で友人の、そうですねぇ、仮に、加藤さん、としておきましょうか、彼がね、部屋に来てたんだな、
Cさんの部屋は2階、そこでもって、あーでもねぇこーでもねぇーってやってた、
ところがね、このアパート、ここにねぇ、どうも妙な人が住んでたってんですねぇ、
夜中にね、酒が入ったりするってぇと、何かにつけて気に障るようで、ちょっとした物音に「うるせぇぞ!!」なんて、怒鳴りながら外廊下に出てくる、
まぁ大抵の場合は放っておけばいいんですが、「なんだぁ?」ってんで部屋から顔を出したりするとしつこく絡んでくる人で、正直すごい迷惑してたんだぁ、
で、その日もね、ちょうど部屋から出てきた人がいたらしくって、外でもって揉めてるんだ、「おめぇかぁ!」「何ですか!?」って、
Cさんの方は、あ~始まったな~、ってなもんなんですが、この後輩の加藤さん、すごく正義感が強いというか、ちゃんとした方でね、
「ぼく、仲裁してきますよ!」
って、部屋から出ていこうとした、
そこでCさん止めたんだ、「いや~いいよ加藤くん」って、「やめときなよ」ってね、
そもそもね、ここ、学生用のアパートなんですよ、大学生や院生専用の、
でもねぇその人、もう40歳越えてるんですよ、オッサンですよねぇ、工事現場とかで働いてる人らしくて、しっかりした体つきで、坊主頭でね、顔も怖い、
おかしいじゃないですか普通、普通、40歳の人が学生アパートには住めないですよ、ありえないじゃないですか、でも住んでたんだ、
Cさんもね、住んでるだけならまだしも、こう騒がれるようなら困るなぁ、とは思ってた、正直、大家さんも困ってたそうなんですねぇ、
「だからね、加藤くん危ないから、出ない方がいいよ」って諭したんだ、でも彼、「行きます、行きます」って、出ていっちゃった、
加藤さん、行きましたよ、Cさんもついて行った、
加藤さん、オッサンと若い人の間に入ってね、「寝れねぇだろうが!!」「何すか!!」つってるとこに「まぁまぁお二人とも……」って割って入ってる、
うわぁ~すげぇな~オイ~と思いながら、Cさん見守ってたそうですよ、
ほしたらね、どうもそのオッサンの方が、やっぱり酔ってるのかなぁ、やたらと強そうなことばっかり言う、
「てめぇ~! 蹴り殺すぞお!!!」
「今からアタマを蹴り殺すぞお!!!」
とか言ってるんだ、
そんなムチャなこと言うもんで、加藤さん、ちょっと魔が差したんでしょうねぇ、思わず
「いやアタマ蹴り殺すって、ネリチャギやないんやから……」
ってツッコんじゃった、ネリチャギ、テコンドーのね、踵落としみたいなやつ、格闘マンガとか不良マンガとかにも出てくるやつですよ、ほしたらいきなりオッサン、
「なんじゃァ!! おまえ韓国人かぁ!!!!!」
って急に怒ってね、差別主義者か何だか知らないですけど、もう何でもアリか、みたいな怒り方なもんで、加藤さんも
「いやもう、なんなんですか…………」
なんて返事をした、
それでまぁ、間に入ったからなのかはわかりませんが、オッサンも若い人も、お互いに、手は出さない、
でもオッサンの方がどんどんどんどん、言うことがデカくなってくる、最後にはね、
「オラァ! 俺はなぁ! 工藤会の山口だぞ!!!!」
って言い始めた、工藤会、暴力団ですねぇ、当時の九州ではこわーいこわい団体だった、
でもねぇ、そういう風に組の名前なんか出すの、ウソなんだぁ、名前出すと組に迷惑かかりますからね、絶対にハッタリなんだな、そういうこと言う奴もね、大したことないんですよ、
加藤さんそれ「読んだ」んだな、あぁこのオッサン、大したことないな~、って、
酔ってるし、まぁいいか、って思ったんですかねぇ、加藤さん、
「いやまぁ、山口組の工藤だか工藤会の山口だかどっちでもいいッスけどォ」
って言っちゃった、絡まれてる住人もCさんもププッって吹き出しちゃって、オッサンだけ「なんじゃあコラァ!」つってる、舐めプですよね、
まぁそんなこんなで、煽りながらもね、なんと加藤さん、その場を納めちゃったんですよ、ビックリですよねぇ、
「いやぁすごいねぇ~」ってね、Cさん褒めたそうですよ、
部屋に戻ってから、「そもそも学生でもないのに学生アパートに入ってさぁ、揉める方がよくないよ、今度何かあったら出ていってもらわないと」って言い合った、
あとね、「あぁいうさぁ、蹴り殺すとか言う奴に限ってケンカは弱いんだよねぇ」「そうですよねぇ」とも話してたんですね。
で、Cさん、しばらく後に、用事でもって数日間、そのK荘を離れてたんですよ、
で、数日後、帰ってきたら、そのオッサンいないんだ! 部屋が引き払われてる、
で、ビックリして加藤さんにね、「どーしたの?」ってCさん聞いたんだ、ほしたら加藤さんニヤニヤしながら、「いやぁ先輩、これが痛快無類なんですよ」って、語り始めた、
Cさんがいない内にね、そのオッサン、また騒いだらしいんですよ、バイクの音がどうとか言って、
しかもバイクとか関係のない、無実のね、カップルの住む部屋に文句をつけに行った、
そこへもって、不幸なことというか何というか、そのカップルの部屋、外に短い物干し竿か何かがぶら下がってた、
オッサンそれ手にしてね、「コノヤロー!」とか言いながら、カップルの部屋の窓ガラス、ガシャーン! って割っちゃったんですよ、
これ、もう事件ですよねぇ、
加藤さんも「あっ、またあのオッサン騒いでる!」と思って出ていったら、オッサンは棒を振り回してる、ガラスは割れてる、部屋の中からは男女の叫ぶ声がする、
こうなると本当に危険なんですけどねぇ、加藤さん少し離れた場所から「何してるんスか!」と咎めたそうですよ、でも向こうは武器を持ってますからね、近づけない、危ない、
そうこうしていたら、ガラスを割られた部屋のカップルが通報してたんですかねぇ、警察官がひとり駆けつけたそうなんですよ、
この、警察官からしたらね、男が「ナメやがってー!」とか叫んで、棒を振り回してる、アパートのガラスが割られてる、部屋の中からはタスケテー!って声がしてる、そんな状況ですよ、
これもう、実力を行使していい流れですよね、
加藤さん曰くね、「やっぱり警察官ってすごいですね!」と、もう目にも止まらぬ速さでもってバァン! と棒を叩き落として、一瞬で腕をとって後ろに回してギュッ! と、関節をキメたらしいんですよ、
「オラッ! おとなしくしろ!!」
でね、そこで加藤さん、驚いた……!
さっきまで棒を振り回して「てめぇコノヤロー! ぶっ殺すぞ!!」とか言ってたね、あのいかついオッサン!
こないだ蹴り殺すとか俺は工藤会とか言ってたオッサンがですよ! 腕をキメられた瞬間!! 途端にですよ!!
「イタイ イタイ イタイ イタイィ~~~~~~~~~」
「コラッ! クスリでもやっとるんか!」
「イタイ イタイ イタイ イタイィ~~~~~~~~~」
…………少女のような声で、そんな悲鳴を上げたんですよ、
加藤さんもこの声があんまりおもしろいんで、一回ね、自室に戻っちゃった、笑いが止まらなくて、
その間も外からは組み伏せられたオッサンの声が
「イタイ イタイ イタイ イタイィ~~~~~~~~~」
そのうちね、警察官の同僚とか先輩らしき人が来て、どうした、何があった、と聞く、
で最初の人が押さえながら「いや、この男が棒を振り回して」と説明するわけです、
何ィ、こいつがか! オイあんた! とさらに押さえたり揺すったりする、そうするとまた
「イタイ イタイ イタイ イタイィ~~~~~~~~~」
オッサンずっと言ってるんで、加藤さんもうおかしくておかしくて、ずっと笑ってたそうですよ、
そのうち近くのアパートとか家からもね、住人が何事かと思って続々と出てくる、
考えてみたらホラーですよね、男の「うるせぇぞコノヤロー!」みたいな絶叫が聞こえて、ガラスが割れる音がして、女性の悲鳴が聞こえたと思ったら
「イタイ イタイ イタイ イタイィ~~~~~~~~~」
って謎の声ですから、何だぁ? って出てきたら怖そうなオッサンが押さえられて、か細い声で泣いてる、みんな「なにあれ???」ですよね、
しばらくしたらね、警察官の中でも年嵩の、少し偉い人なのかな、という容姿の人がやって来た、
「んー、何、どうしたの?」って聞くので、オッサンを押さえてた人が「はい、この男がですね……」と関節技を一回解いた、そしたら
「なんやオラァ!! ナメてんじゃねぇぞォ!!!!
テメェら俺はなァ!! 工藤会の山口だぞコラ!!」
元に戻った。
元に戻ったのでハイッ、ヨイショッと警察官がまた腕をキメると
「イタイ イタイ イタイ イタイィ~~~~~~~~~」
(なんで、なんで一回元に戻ったんだ…………)
ってね、近隣住人も警察官も、全員下向いて、プププッ クスーッとね、失笑だったそうですよ…………
「…………で、まぁついに警察沙汰になったので、大家さんからも言われて、出ていってもらったんですよ」
と、加藤さんは締め括ったそうです。
まぁ危ないっちゃあ危ないんですけどね、いやぁ、そういう痛快で面白いこともあるんだなぁ、見たかったなぁ、と、Cさん思ったそうですよ。
こんな話を……聴きましたねぇ…………アタシも笑いましたよ………………
「禍話」には、こういう話もあるんですねぇ………………
(おしまい)
★この記事ね、無料のツイキャス、「禍話(まがばなし)」っていう、こわーい怖い話をする放送、その録音があるんですが、
そこの【震!禍話 第24夜】から再構成して、稲川淳二の口調でお送りした、そういうわけなんですねぇ、えぇ……
http://twitcasting.tv/magabanasi/movie/491446708
【 禍話リライトまとめ「まがマガジン」第2号 】につづく……
サポートをしていただくと、ゾウのごはんがすこし増えます。