アプリの利用習慣をわざわざアンケートで聴くメリット

「意気込んでユーザーアンケートをやってみたが、だいたいログデータでわかっていた結果だった」(あるいは、周りがそのような微妙な反応だった)―とりあえずユーザーアンケートに手を出してみたものの期待したような業務成果に至らなかった、という状況は、データ分析体制がある程度整いつつある企業や組織で見られる調査課題です。

また、社内に数あるデータ分析業務の中でもアンケートが後発の存在だと、既に確立されている業務と同等あるいはそれと異なる分析パフォーマンスを求められます。分析しようとしていることが重複していないかどうかや、同一の調査項目でスコアが異なるダブルスタンダードとなる状態を危惧され、必ずしも歓迎されるわけではありません。

その結果、既存部門や花形部門から次のような質問を受けることになります。

「DB分析データとどう違うのか?」
「UX調査データとどう違うのか?」
「CS対応データとどう違うのか?」

皆さんはうまく答えられますか?この回答は正直かなり難しく、「同じと言えば同じ」です。でも、それではリサーチの手法が変わっただけで、会社として予算や稼働を割いてやるべき業務とは認定されません。アンケートならではのデータの付加価値が必要ですし、少なくとも企画時にはそれぞれとの違いについて答えられないといけません。

他方、アンケートの企画が歓迎されすぎる場合にも注意が必要です。そういう時はたいてい、「インサイトを発見して欲しい」「使われない理由を調べて欲しい」というような、マーケティング領域の中でも最高難度のリクエストが付いてきます。両方ともアンケートに向いていますが、相応の設計を施さないと浅い分析に終わってしまいます。

そこでおすすめしたいのが「アプリの利用習慣」をアンケートテーマに据える方法です。アンケートはユーザーの利用時間の長い短いに関わらず、一定期間を切り出して習慣化・定着化を検証しやすい特性があります。この特性を活かして、アンケートならではの付加価値の高いデータを企画・報告することで業務成果を上げることができます。

今回は「アプリの利用習慣アンケート」の活用法を解説します。

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▼ アプリの利用習慣アンケートの企画メリット

アプリの利用習慣アンケートの企画メリットは、主に3つあります。

企画メリット

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①市場競争力を比較できる

データ分析の基本は「比較」検証にあります。ビジネスデータの基本を成す、ウェブログ/POS/VOCなどのデータは、実際のユーザー行動に基づくファクトの蓄積に優れており、前月比・前年比・前日比などを参照することで改善の手がかりに結びつきます。

一方、アンケートデータは自社のユーザー行動の時系列比較だけでなく、市場におけるサービスの競争力を比較する用途にも優れています。サンプル調査方式ではありますが、自分たちが気になるテーマを都度設定して、強み・弱みを明らかにできます。

調査業務では「ブランドポジション調査」に該当する趣旨ですが、このテーマは本格的にやろうとすると準備も実施も大規模なものになるうえ、出口側でデータ活用する難易度も高いため、アプリの利用習慣テーマの中で取り扱うことがおすすめなのです。

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②フェアに実態把握できる

分析の場面を自社のユーザーリサーチの範囲に限ると、データベースなどのログデータは日々の正確な定量分析に向いています。施策の計画~実行までほぼこのデータで回すことができるので、定量分析でアンケートの必要性を感じづらいかもしれません。

しかし営業年数が進み組織が大きくなってくると、「偏った売り方や買われ方が起きている」「ツールの権限設定により閲覧者や閲覧範囲に制限がある」「中期軸で分析する人がいない」など、サービス運営・ツール運用上のひずみがたくさん出てきます。

またアプリ開発の現場ではインタビュー手法を軸とするUXリサーチが普及していますが、上位の意思決定が必要な場面では定量的なファクトデータが求められます。新規の開発や改修にあたり既存データでは情報不足なことが多く、アンケートが活きます。

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③構造改革度を検証できる

小売や流通など消費者に近い位置でサービスを展開している企業では、カスタマーサポート・お客様相談センターなどの機関によるコールログデータがかなり充実していることもあることでしょう。こうしたCS対応データは、課題認識を得るには最適です。

一方、電話口で積極的に物事をヒアリングしようと思うと、ユーザーの協力に加え架電担当者のコール技能が必要になります。基本的には既に起きている事象に対する相談・要望に応答するスタイルが向いているので、別途情報を補完する措置が必要です。

アンケートではコールログで得た基本的かつ最新の事象についての情報を活かして、ファンダメンタル分析(総合的な運営指標の検証)を行うことができます。この文脈でアプリの利用習慣を調べることで、積極的に一定期間の構造改革度を検証できます。

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ここまで、アプリの利用習慣アンケートの企画メリットを説明してきました。上記の①~③の傾向をひとことで言うと、アンケートはデータを企画する時の自由度の高さが特長となっており、これは他のデータソース(調査手法)よりも優れている点です。

データの用途として、他の方法同様に個々の事象を解決することもできますが、マーケティング戦略用の新規データを取得できるところに強みがあるため、そこにフォーカスした設計を試みることで、後発のデータでも高い付加価値を残すことができます。

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▼ アプリの利用習慣アンケートのモデルケース

アプリマーケティングに力を入れているサービスは、周期的にユーザーアンケートを実施しています。そしてその内容は、単にログデータと同じデータを取得するだけでなく、文字通りユーザーのアプリの利用習慣を包括的に理解する設計になっています。

以下では、アプリの利用習慣アンケートで代表的な2つのモデルケースを解説します。

モデルケース

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▼ ①優位判定モデル

優位判定モデルは、「業界や市場のポジション優位判定に使う」調査モデルです。質問内容は主にブランド調査で使われるものがベースですが、アプリという実態を伴ったプロダクトの利用習慣を聴取することで、活用度が高いデータを得ることができます。

ウェブやコールのデータ分析では、基本的にはユーザーが動いた範囲の出来事の分析を主としますが、アンケートでは競争市場を俯瞰する外部情報データを集めることができるため、自社の慣習(目標や制約)に囚われない討議材料を揃えることができます。

優位判定モデル

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<質問構成>
①[○○](カテゴリ名称・特定市場名称)と聞いて、ぱっと思い立ったアプリは何ですか(自由回答)【第一想起】
②[○○](カテゴリ名称・特定市場名称)で、あなたが直近で利用中のアプリはどれですか(複数回答)【併用状況】
③[○○](サービス名称)をどのような目的で利用していますか(複数回答)【利用目的】

核となる質問構成は、①第一想起、②併用状況、③利用目的となります。

2022年現在、マーケティング活動最大の焦点は「時間をいかに消費してもらうか」にあります。アンケートでは①第一想起②併用状況のような質問により、「マインドシェア」観点でマーケットサイズ(伸びしろ)を模索することができるのが特徴です。

市場動向を見るには流通やログのデータが数値としては正確ですが、自社基準の目標設定や達成基準が適用される場合も多いため、別途ユーザー調査で実勢を把握していないと、「自分たちの努力の割に市場評価は低い」事業運営に陥ることもあります。

アンケートでは①~②でアセスメント(現状把握)を行い、③で今後のベクトル(方向性)を吟味することで、前年比や地域比などの自社基準から離れて、マーケットでの実勢に基づいてサービスのあるべきポジショニングを検討することができます。

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ここでは、オープンワールド型アクションRPGゲームアプリ「原神」のプレイ習慣ユーザーアンケートの例を見てみましょう。

原神OGP

<原神>プレイ習慣ユーザーアンケート
①競合するジャンル Q.他に遊ぶジャンルは?(SLG/MOBA/ARPG…)
②継続利用ブランド Q.1ヶ月以上続いたのは?(経験ゲームA/B/C/D…)
③可処分時間シェア Q.ゲーム時間のシェアは?(他ゲーム優先/同等/原神優先)

「原神」ではユーザーのゲームアプリ習慣そのものを尋ねるアンケートを実施しています。①競合するジャンル②継続利用ブランド③可処分時間シェアなどの質問を通じて、ユーザーのゲーム体験全体における原神の位置づけを把握することに努めています。

「原神」はプレイヤーそれぞれに深掘りできる遊び方をアップデートで提供していますが、それはアンケートで同時期における競争市場ポジションを理解し、定期でモニタリングしていくことで現在のロングヒットにつながっていることの表れと言えそうです。

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もう一つ、スポーツ中継・スポーツ番組の動画配信アプリ「DAZN」のスポーツ放送視聴者アンケート例を見てみましょう。

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<DAZN>スポーツ放送視聴者アンケート
①No.1カテゴリ想起 Q.DAZNで思いつくのは?(サッカー/野球/F1…)
②視聴目的コンテンツ Q.DAZNで目当ての番組は?(契約目的/視聴意向/関心無し)
③No.1視聴意向サービス Q.スポーツ放送で一つ選ぶなら?(DAZN/スカパー!/WOWOW…)

「DAZN」ではカテゴリのコンテンツ競争力を見極めるアンケートをたびたび実施しています。①No.1カテゴリ想起のように「DAZN」内で強いスポーツカテゴリを確認しているほか、②視聴目的コンテンツ(例:プレミアリーグ)ごとにも確認を取っています。

これらの質問によって、商品やサービス(「DAZN」の場合はコンテンツ)の特性を通じて、ユーザーの視聴習慣を促す取り組みができそうです。総合型のサービスは特に習慣化が問われるため、③No.1視聴意向サービスの検証に耐え得る内部分析が重要です。

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▼ ②接点確認モデル

接点確認モデルは、「アクティブ時間外を含む接点確認に使う」調査モデルです。自社とユーザーをつなぐコミュニケーションチャネルを総ざらいする形で選択肢を提示・検証することで、特にアプリの習慣化に寄与しているツールの候補が見えてきます。

アクティブ時間外についての話題は比較的誰でも回答しやすいので、自社でユーザーアンケートで実施するにも適しています。また、自社の思い入れ目線から一度離れて、ユーザー側から見たツール接点の整理ができることもアンケート業務の特性です。

接点確認モデル

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<質問構成>
①あなたがふだん利用しているツールは次のうちどれですか(複数回答)【一般ツールの使用状況】 
②[○○](サービス名称)が提供しているツールのうち、あなたがふだん利用しているものはどれですか(複数回答)【自社ツールの使用状況】 
③[○○](ツール名称)について、他のものと比べた時の特徴を教えてください(自由回答)【自社ツールの特性評価】

核となる質問構成は、①一般ツールの使用状況、②自社ツールの使用状況、③自社ツールの特性評価となります。

接点を確認するアンケートでは、自社の重点施策になっているコミュニケーションチャネルをツールベースでリストアップします。(たいてのアプリサービスでは、アプリのメニュー/タブ/LP/メディア/メルマガ/SNS/各種機能などが当てはまります)

そして①②③を通じて、ツールの使用状況及び特性評価を市場のものと比較し、さらに既存のツールにアンケートで得た自社特性を加味して接点創出を強化します。「アプリの利用習慣を高める」観点から聴取することで価値のあるデータを得られます。

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ここでは、サッカーJ1を代表するクラブチーム「川崎フロンターレ」の球団サービスアンケートの例を見てみましょう。

モバフロOGP

<川崎フロンターレ>球団サービスアンケート
①試合日以外の接点 Q.試合日以外の関わりは?(SNS/DAZN/スクール…)
②欲しいもの Q.欲しい商品/サービスは?(フリーアンサー:欲しい商品/サービス)
③見たいもの Q.見たい記事/動画/企画は?(フリーアンサー:見たい記事/動画/企画)

川崎フロンターレのアンケートは、①試合日以外の接点の把握に努めており、対応する選択肢も、公式SNSを見る・DAZNでの試合再視聴・公式サッカースクールに通う・サポーターで集まる・グッズの着用など、文字通り多様な選択肢が揃っています。

これらの項目はいわば「マーケティング施策」に該当します。日常におけるブランドとの接点になる選択肢やその充実度合いを確認することで、非サービス利用時、アプリで言えば非ログイン時にマインドシェアを高める方策を検討・検証できるのです。

また、続く自由回答の質問では、補強・拡充の観点から②欲しいもの③見たいものについて要望を募集しており、接点を担う施策は厚みを増しそうです。(この手の質問では現存しない何かを求めてインサイト発掘をユーザーに丸投げしないように注意)


▼ 取材記事のお知らせ


データマーケティング・マガジン「マナミナ」にて、今回の記事テーマである「アプリの利用習慣」をテーマにしたインタビュー取材をしていただきました。実務での応用方法などはこちらでも解説していますので、よかったら併せてご覧ください。

▼ サービスの改善や価値を高める「アプリの利用習慣アンケート」。ユーザーアンケートならではの付加価値とは?|マナミナ(この記事の取材解説です)




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