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【試写】新プロジェクトX「友とつないだ自動車革命 ~世界初!5人乗り量産EV~」

今回の新プロジェクトXのテーマは、日産リーフ。私は正直、予告を見てガッカリした。かつてゴーン氏は「2030年までに日産がEVで覇権を取る」と各所で宣言していたと聞くが、承知の通り、その野望は潰えたからだ。「夢のあと」を今更見させられるのかと。


私が「R35 GT-Rの開発を改めて見たい」とコラムに記述したのは、結局、日本が世界に誇るブランドはGT-Rしか無いからでもある。

番組前に相次いだ「世界初」への指摘

この番組には放送前から不穏な空気が漂っていた。

EPGに当初記述されていた「世界で急速に広がる電気自動車・EV。その先駆けとなったのは5人乗りの電気自動車として世界で初めて量産化に成功した日本車でした」という文言に事実誤認があるという指摘が、X上でなされていたからだ。

急遽、「世界で急速に広がる電気自動車・EV。その先駆けとなったのは5人乗りの電気自動車として世界で初めて年間1万台以上生産した日本車だった」と放送直前に変更(実際、番組本編にも不自然な手直し編集の痕跡が見られた)。

日産が得意とした、条件付きでの「世界初」にまんまとディレクターがだまされたのか、それとも番組にキャッチーさを添えるために意図的に表記したのかは分かりかねるが、見る前から腐臭が漂っていた。

ちなみに、私がこの原稿を記述している2024年5月18日23:30時点で、NHK水戸放送局の記述は次のとおりで、直っていない

世界で急速に広がる電気自動車・EV。その先駆けとなったのは5人乗りの電気自動車として世界で初めて量産化に成功した日本車でした。開発したのは“収益が上げられない”いわば日陰部署の技術者たち。くり返す会社の方針転換や当時社長だったカルロス・ゴーンからの無理難題に苦労しながらも、必ず自分たちの時代が来ると諦めなかったものたちでした。ときに衝突を繰り返しながら芽生えた友情の力で革命を成し遂げた感動の物語です。

2024年5月18日23:30時点のHP内容を公益のため記録

番組自体に良い印象を持っていないこともあり、あまり気が乗らない試写となった。

番組総評

新プロジェクトX「友とつないだ自動車革命 ~世界初!5人乗り量産EV~」

正確性:★★★☆☆
速報性:★☆☆☆☆
公平性:★☆☆☆☆
演出的工夫:★★★★☆
NHKらしさ:★☆☆☆☆

合計:11/25点
オススメ度:★★☆☆☆


日産自動車の日陰部署だったEV開発部が、友と力を合わせ前人未到の5人乗り量産電気自動車「リーフ」を開発した物語。

1991年、カリフォルニアの排気ガス規制を受け、日産にEV開発部が発足。傍流と揶揄され、負い目を持ちながらも担当社員たちはEVの基礎研究に尽力するが、会社の経営危機に伴うカルロス・ゴーンの独断で開発は中断。しかし担当社員たちは諦めず、リチウムイオン電池の車載化を目指し開発を続けた。

2007年、突如としてカルロス・ゴーンの指示で開発が再開。わずか3年で「1回の充電で160km走破する5人乗りEV」の量産という無理難題が突きつけられる。電池開発では発火事故も起きたが、各部門トップの信頼関係とNECからの出向者がもたらした電池開発のブレイクスルーもあり、「リーフ」は世に出ることとなる。

「リーフ」は世界中で高い評価を受け、EV時代の先駆けとなった。その後、EV市場はアメリカ勢・中国勢に席巻されたが、「リーフ」は確かに自動車史に痕跡を残した。

試写した上での感想

番組構成も映像も過去の回と比べて明らかに優れていた随所に挟まれた接写・再現映像も上質で、コメントに負けていない。映像作品として見たとき、敢えてケチをつける点は無い。若手制作者は、教科書代わりにしても良いだろう。

しかし、根源的な疑問は最後まで拭えなかった。それは、「なぜ、今このリーフの番組を見なければならないのか?」ということだ。また、番組には相当にミスリーディング(フェイクと言っても良い)な箇所も含まれていた。

私自身、国産エコカーから欧州スポーツカーまで多数乗り継いできた自動車マニアの端くれだ。また、初代リーフに親族が関わっていたこともあって、多少は内幕を把握している。これらの点も合わせて論評したい。

日産のプロモーションとしか感じられなかった

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