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詩の蜜酒を飲むオーディン【オンライン・キャプション】

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キャプションに書ききれない作品情報を解説するnoteです。

作品の制作手法はこちらのnoteで解説してます。

詩の蜜酒を飲むオーディン
サイズ:250mm x 250mm
マテリアル:アクリル板 アクリルガッシュ
2021年8月制作

こちらも、ギャラリー幻さんの「アルコオル幻想」展に出すために制作した作品です。モチーフは北欧神話の「詩の蜜酒」と呼ばれるマジカルなお酒。


クリアのアクリル板に黒い線をUVプリントしアクリルガッシュで着彩、うしろからイエローのカラーアクリル板を組み合わせています。

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裏側から見るとこんな感じ(3つの月の部分の絵具がまだ乾いてなくてつやつやしています)。

ふだんはパキパキに明るいビビッドな色ばかり使っていたのですが、この絵では少しダークで落ち着いたカラーリングにしたいという考えがあり、グレーや黒との混色を試すチャンスになりました。ジェットブラックってちょっと青いんだなあ、という発見がありました。

オーディン is 誰

北欧神話の主神です。

やたらと守備範囲が広くて、知恵の神でもあり、戦争の神でもあるという複雑な性質を持つ神様です。戦場で死んだ人をヴァルハラと呼ばれる「あの世」に連れて行って日々訓練していたり、かと思えば世界中にお供のカラスを飛ばして情報収集していたりと、けっこう忙しい生活を送っている様子です。

知力UPに異常に興味があり、知恵の泉の水を飲む代償として左目を差し出してみたり、ルーン文字を手に入れるために首を吊ってみたりと、あんまり自分を大事にしない印象です。(ルーン文字を手に入れるため自身を生贄に捧げて神に祈るのですが、自分より偉い神様が存在しないため「自分自身に祈る」という手法を取ります。それで良いの?)

詩の蜜酒 is 何

飲むと詩の才能が得られるお酒です。

作られる過程がけっこうグロくて

①スーパー賢い神を作る
②スーパー賢い神を殺す
③スーパー賢い神の血とハチミツを混ぜる

という方法で醸造されています。

上記の方法で詩の蜜酒を作ったのはドワーフなのですが、ドワーフが巨人の夫婦を騙殺し、それを知った巨人夫婦の息子であるスットゥングがガチ切れしてドワーフを殺そうととし、ドワーフが命の代償として詩の蜜酒を渡すというヴァイオレンスなエピソードを経て詩の蜜酒はスットゥングの持ち物となります。

才能を与えるマジックアイテムとはいえ、両親を殺したやつらの命の代償が酒でいいのか?という疑問が湧きますが、そもそも酒を造る時点で一人死んでたりするのでその辺のモラルはあんまり気にしない方がいいです。

後ろの女の人 is 誰

手前にいるのはオーディン、後ろにいるのはスットゥングの娘であるグンロズです。

スットゥングは詩の蜜酒を山の中の洞に隠したうえ、娘のグンロズを洞に住まわせて見張らせていました。

詩の才能が欲しいな~と思ったオーディンはまずスットゥングの弟を懐柔し、それが駄目だと分かると、詩の蜜酒を管理するグンロズに直接交渉を試みます。

枕するから酒をくれ

オーディンの戦略は……美青年に変身しての「口説き落とし」です。

一人山の中に閉じ込められ、父親に言われるがまま蜜酒を見張っているだけの日々を過ごすおブス(女巨人なので)のもとに突然スーパーイケメンがやってきたら、そりゃグラッと来ちゃいますよね!

オーディンはグンロズと3晩を共にすることで「詩の蜜酒を3口飲ませてもらう」という約束を取り付けます。

で、いよいよ詩の蜜酒を飲ませてもらえる段になって、「3口だけだから」と言いつつ全部飲み干し、さらには鷹になって速攻で逃げ出します。グンロズも彼を追いかけますが捕まえられず、詩の蜜酒はオーディンのものとなって神々に振舞われましたとさ。

オーディン、酒(=詩の才能)のためなら枕営業も躊躇なくこなすモラルの無さが本当に怖い。同じくギリシャ神話の主神であるゼウスがひたすら美男美女を追っかけまわしているのがマシに見えてきます。

浅学にしてその方面に詳しくないんですが、Twitterとかに時々広告が流れてくる、メンヘラ女子を搾取するホストみたいなイメージ。しかも欲しいのは金でも女でも権力でもなく「詩の才能」です。高知能サイコパスか?


力は「アイテム」に宿る

「神さま」というとうっすら全知全能・できないことは何もない、みたいなイメージを持ちますが、こと多神教の神さまについては「アイテムを得ることによって能力を得る」というシステムであることも珍しくありません。

例えば、「詩の才能」というのはもともとオーディンに備わっていたものではなく、詩の蜜酒を飲んだことによって後天的に獲得したスキルです。

そもそも、神々が不老不死であること自体も、神が「不老不死になる食べ物」を摂取することでもたらされている性質だったりします。北欧神話では黄金のリンゴ、ギリシャ神話ではネクタルという飲み物とアンブロシアと呼ばれる食べ物、インド神話ではアムリタという酒がそれにあたります。

北欧神話の中には、黄金のリンゴが奪われ、神々がどんどん老いていくというエピソードがあります。一回食べたらOKじゃなくて、定期的に食べていかないとダメなんだというのがかなり人間っぽい。

他にも、トールの武器である槌・ミョルニルには「投げても的を外さず、手に戻ってくる」という性質があります。トールがエイム上手なわけではなく、ミョルニル自身にホーミングが付いているということですね。こちらも、「ミョルニルを奪われてしまい、神々大ピンチ」というお話があります。

魔力のこもったアイテムの力を借りて怪物や巨人と戦う神々の姿と言うのは、テクノロジーの力を借りて自然の脅威に立ち向かう人間の姿にも似ています。

絵の解説はマガジンにまとめていますので、興味がある方は他のnoteも見ていただけると嬉しいです!



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