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どのようにすれば日本でワクチン接種のスピードが加速するか、歯科医師への規制緩和について(4月27日こびナビClubhouseまとめ)

こびナビ広報

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4月27日
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:吉村健佑

【オープニング】ワクチン接種体制の日米差

吉村健佑
そろそろ始めたいと思います。
こびナビ代表の吉村が解説する世界の最新医療ニュースです。
日本の皆さんおはようございます、アメリカの皆さんこんばんは。
最近ちょっと(忙しくて)この Clubhouse を聞く時間がなくて……(苦笑)
木下先生、朝のニュース解説は最近はどのような感じで盛り上がっているんでしょうか?

木下喬弘
そうですね……
今 Clubhouse で一番流行っているのは「徹子の部屋」のテーマソングをみんなで歌うということで、これが一番大変なことになっています。
(※ 4/23の文字起こし参照)


登壇者一同
(笑)

木下喬弘
池田先生が結構得意なので、登壇してもらったらやっていただけるかもしれないですよ。

池田早希
いやいや、聞きたい方は是非 Instagram のインスタライブをご覧いただきたいです!

吉村健佑
インスタライブだと「徹子の部屋」をみんなで歌うんですか?

池田早希
まだ木下先生の回だけ、1回しかしてないんですけど(笑)。
今後どうするかはまた検討したいと思います。

吉村健佑
(笑)
素晴らしいですね。なるほど、分かりました。

「世界の最新医療ニュース」と言いながら、私の回は国内の話をすることが多いです。
私が担当するのはこれで3回目ですね。
1回目は検疫の話、2回目は新型コロナワクチン供給の話をさせていただきました。
今日はいきなり本題ですが、新型コロナワクチン接種の打ち手の話をします。
ここ1週間で打ち手をどうするかという話が厚生労働省や国会周辺でも議論されていまして、その内容を読み込んでいくと結構面白いんです。
ワクチン接種を誰に担ってもらうかという切り口でありながら、実際政策を積み上げていく段階になると、緊急事態における政策立案とか、どのような規制緩和をしていくかというケースになるんですね。
この辺ってどうなんでしょう。
前回の Clubhouse では、アメリカではワクチン接種の担い手として、医学生、薬剤師とか幅広い人が担当しているって話がありましたが、アメリカの皆さん、この辺の詳細やワクチン接種のプロセスってどうなってるんでしょうか?
結構サクサクと進めちゃう感じなんでしょうか。
もし情報あればよろしくお願いします。

安川康介
もともとアメリカでは薬剤師の方がワクチンを打てるので、今回特別措置として打つ人を拡大しなくても間に合っているという感覚があります。
元々 CVS とか Walgreens とかの街の薬局でインフルエンザワクチンとかを提供しています。
今 CVS とかのオンラインサイトに行くと、ワクチンの供給が足りてきていて「予約可能」と表示されていて、多くの方が街にある小さな薬局で薬剤師にワクチンを打って貰えます。
こういうことが、アメリカのワクチン接種がかなり進んでいる一つの理由だと思います。
あとワクチン接種が始まった最初の頃は、高齢者施設に薬剤師の方がどんどん入っていて、ワクチンをバンバン打っていったので、アメリカの中で薬剤師の方はすごく大きな役割を果たしています。

※編集注:
CVS、Walgreens アメリカ合衆国大手の薬局チェーン

吉村健佑
素晴らしいですね。
やっぱり最初から規制がされていない、緩和する必要もなくワクチンの打ち手がいるというのは素晴らしい環境ですね。
日本の場合だとそこをどういう順番で緩和するかという話を整理しないといけないので、そこが後手に回っている理由かもしれないですね。

木下喬弘
私もそんな詳しいわけではないですが、アメリカでは確かに権限の拡大はそんなにしていなくて、それでも州兵が打てるように権限を拡大しています。
あとイギリスは相当接種権限を拡大したので、本当に医療系の資格も何もない人が打てるようになるまで規制緩和しているようです。
ただ、日本の場合どこがボトルネックになっているかというと、医師の問診に時間かかるとか、「あなたのかかりつけの医師はワクチンを打っていいって言いましたか?」というチェック項目などがあるので、そういう一つ一つの確認プロセスに相当時間がかかりそうだという噂になっていますね。

前田陽平(Twitterネーム「ひまみみ」)先生
僕もそのことでちょっと聞きたいんですけれども。
今アメリカの接種の話がありましたが、アメリカでは問診とかって、どうしているのでしょうか?
例えば薬局で薬剤師さんがお薬に関する事を問診するのは業務上自然だと思いますが、ニュースで報じられているようにアメリカでめちゃくちゃ広い会場で人を集めてすごい人の流れでどんどん打っているような状況ではどうしているのでしょうc。あのような大規模な接種会場では、僕らが呼ぶような「問診」というものは実施されてないということなんでしょうか?
それとも申し込み段階で問診をクリアしていて、会場に来たら打つだけという段階にしているということでしょうか?
その辺りの運用について興味があります。

安川康介
前田先生が言っていた後者に近いです。
例えば CVS で予約する段階でチェックリストのようなものがあります。
ほとんどがアナフィラキシーとかアレルギーのことで、あとは妊娠してますか、とか抗凝固剤(血液をサラサラにする薬)を飲んでいますか、とかそういった項目があって、それをチェックしていって、すぐ予約できる仕組みになっています。
当日は熱がないか、体調が悪くないかの確認をするだけで、ワクチンをボンボン打っていってますね。

前田陽平先生
要するに事務的な立場の人が確認するだけで、後は機械的に打たれていくという仕組みで、要は問題のある人がいた場合にその人をどうするか検討するところに回る、というイメージですか?

安川康介
そうですね。
まず今回の新型コロナウイルスワクチンは打ってはいけない状況というのはほとんどないのですが、最終的に薬剤師もかなりプロフェッショナルの方なのでそれで打ってはいけないと判断した場合は医師とかに相談することもあるかもしれないんですけれども。

前田陽平先生
つまりチェックリスト上で懸念がある人だけは、薬剤師に一応確認という手順に回って、そこで判断されるということですかね。

安川康介
最終的に打つ方が簡単に体調どうですかとかを聞いて打つことになると思います。
日本の予診医のような方がいて打つ前に相談する、とかそういう時間は効率を下げてしまうことになります。
僕も Twitter でツイートしたんですけれども日本では「何かしら投薬中の病気がある方は記入する欄」があって、「これを処方している医師はこの予防接種に対していいといってますか?」といったような項目があってですね。日本で働いている医師の方が、患者さんから「自分も受けていいのか?」という確認の電話がかなりかかってきていて、大変な状況になっていると聞きました……

前田陽平先生
そうですね。
その件については、私の所属する病院も、病院としてどういう対応にするか決めようという議論になっていますね。
実際電話が相当かかってきますので。

安川康介
あれは医学的に必要ないと思うんですね。

前田陽平先生
そうですね、まったくそう思います。

黑川友哉
全国の大学病院同じような悩みを持ってますよね。
大学病院だと癌の患者さんがやっぱり多いので、かかりつけの医師から、大学病院の医師にワクチンを打って大丈夫か確認するように、と多分言われるんですね。
そうすると大学病院にそういう問い合わせが山ほど来てるんだと思うんですよね。
これはかなり問題だと思っています。

内田舞
私が思うのは、問診に関しても、検査に関しても、検査や問診をやることによって、またその答えによって、次の介入の仕方が変わるか、ということが重要で、そのために検査や問診をすべきだと思うんですよね。
今回の場合は問診で何に対して YES or NO をいってたとしても、ワクチンを打っていいのか良くないのかの結論はそんなに変わらないです。
もちろん風邪だったり熱だったりそういった症状がある場合は、むしろ予防接種ではなくて自宅待機して欲しいので、ワクチンを打つ打たないという以前に「来ないで」ということになります。
そういった点で、アメリカの薬局などでワクチン接種を予約する際には、質問票に答えるんですが、それはワクチンを打つか打たないかという問診ではなく、薬局に来ていいか来てはいけないかというレベルの問診です。
問診の上で、妊娠しているか、妊娠していないかといっても、どっちにしても打っていいわけだし、何か基礎疾患、例えば糖尿病があります、喘息がありますといって、新型コロナウイルスワクチンを打って悪くなることはないわけです。
ワクチンを打っていいという判断になることが最終的な結論なのであれば、何のためにしている問診なのか、何のためにしている検査なのかということになりますよね。
ワクチンを打つ打たないの判断や次の介入の仕方が変わらないのであれば、私はその検査問診というものは必要ないんじゃないかなという見解です。

吉村健佑
なるほど。

安川康介
そうですね。
あの質問が何のためにあるかというのがちょっと分からないですね。
それで、仮に主治医の方がいいといって、なにかしら起きた時に、その主治医の人に何か責任が生じるのかはっきりしないです。
今後高齢者の方にどんどん何千万回という接種が広がっていく中で、あの項目が結構効率を下げてしまう可能性があるんじゃないかと懸念しています。

吉村健佑
ありがとうございます。
すごい盛り上がりますね、この話題!

峰宗太郎
いま内田先生がおっしゃったことがすごく大事で、問診とか検査というのは結局その結果によってその後の行動が変わるとか判断が変わるっていうことなんですね。
それを考えずに厚労省が書いちゃったのがいけないですよね。
あの問診票の一文、科学的根拠は一切なく、前例踏襲で何も考えず書いちゃったんだと思うんです。
どう注意したらいいのか、その結果によってどう変わるのかがしっかり頭に思い浮かべず「持病がある方は注意」と書いてしまった。
検査検査って木下先生も今朝 Twitter でやたら絡まれていますが、検査も同じ事です。
要は何のために行って、その結果によって何がどう変わるのかをしっかり考えるところが大事ですよね。

それから、さっきの話題に戻っちゃうんですが、今僕 アメリカ公衆衛生学会のホームページを見ているんです。
アメリカで実際にワクチンを接種できる人がどういう人か、まとめて書いてあります。
書いてあることは、医師、看護師、ナースプラクティショナー、医学生、看護学生、検査技師学生、医療アシスタントの方、技術補佐の方、獣医師、歯科医、救急隊員は全て打ち手になれる、それに加えて、権限拡大によって講習を受けた人、州兵たちも打つことができます。

イギリスは20時間の訓練で医療資格のないボランティアを募っている状況です。

実はアメリカも「State Registries for Volunteer Vaccine Administrator Enrollment」というサイトがあって、例えば僕でもここに応募すれば、打ち手になれるんです。

参照:State Registries for Volunteer Vaccine Administrator Enrollment
https://www.ncsbn.org/vaccination-volunteers.htm

このように、打ち手を常に応募してどんどん拡大していまして、1日に400万回接種ぐらいをアメリカやっているんですが、もっと拡大させようとしてますよね。
これはすごいことだと思って見ています。

吉村健佑
素晴らしいですね。
このテーマについて、皆さんからコメントがあふれ出てきますね。

前田陽平先生
ここの登壇者はアメリカで働いている人が多いんでちょっと補足しておきます。
この問診、真面目にやると時間がかかります。
問診票を記入しているうちに、例えば持病のある方といったところで微妙に気になって、ちょっとそこだけ空欄にしている人がいると、その確認をするためにまた時間かかります。
問診票をああいう形で与えられてしまうと、問診票の回答がどっちでも結局ワクチン打つのになぁと思いながらも、結局内容を確認しないといけないので、本当に何やってるんだかなって思います。
さっき内田先生がおっしゃったことが一番大事だと思うんです。
何のために聞いているのか分からない質問があるので、問診に下手したらに2、3分ぐらいかかっちゃうんですね。
今後多くの人に打つとなった時に、問診がボトルネックになって混雑してしまったら、本当に何やってんだか分からないようになってしまいます。
問診票については、是非見直して欲しいです。

吉村健佑
なるほど、そうですよね。問診票。

池田早希
おそらくこの予診票は、日本の従来の(お子さん向け含む)予防接種の問診票をベースに作ったんですよね。

前田陽平先生
そうです、そうです。
ほぼ同じような内容です。

池田早希
それと一緒、つまり(子ども向けなどの)元々あった予防接種の予診票に存在していた、余計な質問が原因じゃないかなと思うんです。

安川康介
ただ、実際にワクチンを打っている人の情報によると、問診票に空欄がある場合は、最終的に予診医が自分で判断していいということなので、必ずしも事前に薬を処方してもらってる医師に対して新型コロナウイルスワクチンの接種を受けることについて確認する必要はないみたいです。

吉村健佑
なるほど。
確かに問診票には、処方医に確認せよということは書いてはいないですね。

池田早希
それでも本当に時間がもったいないです。
私の職場もそうでしたが、アメリカの多くの接種会場は電子化されています。
予診票と同意書が全てオンラインで終わっていて、打つ場所にはスマホだけ持って「オッケー、打っていいです」といったような表示を見せるだけでした。
電子化してどんどんスピードアップしないと駄目です。


【歯科医師が打ち手になれるよう規制緩和された】

吉村健佑
分かりました。

はい、ではちょっと、そろそろ僕がしゃべっていいでしょうか?(笑)
もう17分ぐらい、皆様のオープニングコメントが盛り上がりましたね。
問診票の規制緩和の話がこんなに盛り上がるとは思わなかったです。

今日は打ち手が足りない話をしようと思います。
なぜそう思ったかといいますと、千葉県の北部にある、とある市町村から人づてに相談がありまして。
集団接種の打ち手が足りない、手伝いに来てくれという連絡だったんですね。
そんなに足りないのかと思って、状況を調べ始めたところ、色々分かったんです。

今、新型コロナウイルスワクチンの接種がどのような状況にあるかといいますと、今の打つ順番としては、まず医療従事者が470万人で、打ち終わっているのは3分の1から半分ぐらいですかね。
次が高齢者3600万人、その次が基礎疾患を有する方が1000万人ぐらい、そういう順番で接種が進んでいくわけです。
今それに対して、ワクチンの打ち手が誰に許可されているかというと、医師と医師の指示の下で行う保健師、助産師、看護師、准看護師だけなんですね。
先ほど話題になったように、アメリカではナースプラクティショナー、医学生、フィジシャン・アシスタント(PA)、獣医師とか、周辺も含めて打ち手の範囲を拡大してワクチン接種を進めています。
このため、もう少し日本でも打ち手を増やさないと集団接種が回らないだろうということで、早速、4月22日に参議院厚生労働委員会で質問が出ました。
その質問に対しては、厚生労働省の迫井医政局長が、答弁として「現在薬剤師については現行法上認められていないワクチン接種を行っていただくことは考えていない」という趣旨の発言をしています。
また医学生についても「集団接種会場において接種を行う人材として念頭においてない」として、薬剤師や学生の接種については国会の中で否定しました。薬剤師については、接種体制の構築に向けて既に薬液の補充作業などの協力が薬剤師会に対して依頼されていて、実際に集団接種会場の中でも薬液補填(バイアルから薬液を吸い出す)作業のため薬剤師がメンバーに入っている状況です。
唯一、日本で可能性があると示したのは、歯科医師です。
4月22日の国会で歯科医師に対してワクチン接種を拡大する可能性について検討しよう、と田村厚生大臣が述べていまして、どういうふうになるのか注目されていました。
翌23日に早速(とはいえ、これは前々から準備がされていたわけですが)厚生労働省が「新型コロナウイルス感染症のワクチン接種に係る人材に関する懇談会」というものを開催しました。
その資料は既に厚生労働省のホームページに掲載されていてこれは非常に味わい深い資料です。

参照:新型コロナウイルス感染症のワクチン接種に係る人材に関する懇談会
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18216.html
厚生労働省 2021/4/23

あまりゆっくり話してると怒られそうなので、結論を述べます。
歯科医師に対してワクチン接種を拡大する、これは普通の感覚からすると今すぐにでも始めてほしいところなんですが、その時に立ちはだかるのが法律、法令の壁なんです。
日本は法治国家なので、そこをひとつひとつクリアしていくということが当然求められるので、その苦労が資料から読み取れるんですね。
どういうことかといいますと、例えば医師法と歯科医師法の住み分けの話なんです。
医師法第17条には、「医師でなければ医業をしてはならない」と書かれています。
医業とは何か、ですね。
歯科医師法17条の中にも「歯科医師でなければ歯科医業をしてはならない」という条文があります。
そうすると、ワクチン接種が医業なのか歯科医業なのかということで判断が別れてしまうことになります。
これまでは、ワクチン接種というものが歯科ではなくて医科の範疇であるということ、つまり歯科医師ができないものである、という解釈がされていたということになります。
ただし、医師と、医師の指示の下で行う保健師、助産師、看護師、准看護師だけがワクチン接種できるという規定であると解釈されていたのです。
しかしこれはさすがに緊急事態の中では硬直的すぎるだろうということで、どうやって法律の壁を突破しようかという問題になったのです。
法律の解釈を、突然何の理由もなく変えることはできなくて、やろうとすると違法性を阻却するという手続きを踏まないといけません。
つまり歯科医師がワクチンを接種しても良い、と解釈できるようにするには、医業を歯科医師が行なっても違法性は阻却される(違法ではない)条件を定めています。
その条件に沿っているかが、この懇談会で議論されました。

ちなみにこれまで医師法第17条との関係で違法性が阻却されている事例としては、以下のようなものがあります。
・非医療従事者が街中で AED を使用する:これは医療と解される行為なんですが、緊急性と、それなりの手順を踏んでいるのでオッケー
・テロなどの時に非医療従事者が自動注射器を使って解毒剤を注射する
・介護職員が老健など高齢者向け施設で喀痰の吸引等を行う

今回は歯科医師なんですが、この違法性の阻却、例えば目的の正当性、手段の相当性、必要性、緊急性とか法律用語が幾つか並んでるんですが、結論としてこの懇談会で違法性は阻却されるということになり、3つの条件を満たせば歯科医師が接種してよいということになりました。
1) 必要な医師・看護師等の確保ができないために、歯科医師の協力なしには特設会場での集団接種が実施できない状況であること(医師、看護師を確保しようとしたが難しかったので歯科医師にお願いした)
2) 歯科医師が必要な研修を受けている(僕は研修しなくてもいいじゃないかなという気がしますが)一応2時間程度の研修が提示されて、それを受けているということ
3) 歯科医師の接種について患者の同意を得ること(患者さんに説明して、歯科医師が実施しますけどよろしいですか?という確認を一つ挟むことになるんですね)

これらの手続きを踏んだ上で実施してよいというのが今回の議論の結論でした。
ここまでのところ、どうですかね。
残り5分ぐらいですが、何かコメント等ありましたらお願いします 。
特にコメントないですか?

池田早希
ひとつ質問していいですか?
この「医師法」ってどうやったら変えられるんですか?
アメリカの小児外来ですと、そもそも普段の予防接種でも医師も看護師も予防接種打たなくて、打つのはメディカルアシスタントの方なんですよね。
学生ももちろんいろんなことができますし、日本でも予防接種を打てる人が増えれば、医療行為ができる人の範囲がより広がると、医師、看護師の負担も減ると思いますし、新たな雇用も生まれると思います。
日本のためにも、医師法を変えて欲しいなと思います。

吉村健佑
ありがとうございます。
おっしゃる通りで、タスクシフトとか働き方改革という議論がされていますので、医師の業務の中のどの部分を他職種に移譲するか、移転するかという点が重要な論点になると思うんですよね。
一方で、例えば4月21日に日本医師会の中川会長は会見の中で「歯科医師によるワクチン接種については接種する医師、看護師がどうしても足りない場合、歯科医師が出来る範囲でご協力頂きたい」というコメントを出しています。
これをどういう風に解釈するかですが、医師ができることをあまりにも周囲に委譲してしまった時に医師の業務範囲(有り体にいますと医師が独占している行為)が減ってしまうという懸念があるようです。
この立場に正当性があるかどうかという議論は別としまして、一定数の職能集団としてこのようなステートメント(発言)を出している状況にありますので、そこに対しても一定の配慮しながらということになります。
そのような中で規制緩和を進めているということで、厚生労働省も非常に厳しい状況にあります。
ここに登壇されている方々、医師免許をお持ちの方が多いですが、医師の全部ではない、とはいえ代表組織である医師会がそういったコメントを述べているというのは結構重要なポイントだと思っています。
これをどのような議論でグローバルスタンダードや、他の論点も入れ込んでいくかというところは今後重要です。
いかがでしょうか?
これではちょっと難しいですか?

峰宗太郎
私薬剤師の資格を持ってるものですから、アレなんですが(笑)。
吉村先生はさすが行政におられた方なので、法の建て付けとか、日本の法的な点はさすがだと思います。
これって立法の問題なんです。
法律って、権限をどこまで遡るかとか立法趣旨がどうであるということから建て付けをして、立法するわけです。
これを大きく変えることができるのは立法府なんですよね。
医師会の人たちは別に国民の投票で選ばれている人でも何でもないので、医師会がどう言ったって、これはただの既得権益者のわがままですよね。
国の形をどういうものにしたいか、基本的にはこの権力と権限を有するのは国民であると憲法に書かれていますので、国民がどう考えるかです。
池田先生のようにアメリカ流に国のかたち、例えば安全面をどうだとか、規制されてるがどうだったとか、権威性がある医師に診てもらえたらだとか、そういう声がどのぐらい国民にあるのかというところ、そういったいろんな意見を全部吸い上げて、それを立法という形で国のかたちに反映させていくことは、やはり議員の仕事です。
この議員というのが本当に動いていないのが日本なんだ、と僕は思っちゃうんですよね。
結局、一番のステークホルダーは国民です。
今回の新型コロナウイルスのパンデミックのような自然災害の場合に、そのシステムによる利益を享受するのは国民な訳ですから、ここで薬剤師がどうの、歯科医師がウンヌン、その権限がナントカだとか、その法的な手続きだとかいってる時点で、やっぱり何かが逆転してるんですよ。
法ありきの世の中ではなくて、世の中ありきの法なので、やはり立法に頑張ってもらいたいです。
そういうことを思いましたよね。

吉村健佑
行政側にいる場合、なかなかそこまで言い切ることができなくなるのが良くないのかもしれません。
おっしゃるように、医師は30万人、薬剤師は31万人、歯科医師は10万人いるということでその力を結集して今の状況を打開していく状況が必要なんだと思います。
そこにおそらく立法のリーダーシップ、政府のリーダーシップが必要なんだということは全く同意見です。
これを聞いていらっしゃる方は、今の問題意識を共有できると思うんですが、これは積み上げ型の規制緩和、積み上げ型の制度設計で間に合うのかというのは重要な問題提起だと思うんですよね。
これは緊急事態なので規制緩和を一気に行うということも同時にやんなきゃいけないんだろうなと思います。
その時の責任は政治が取ると言う発信がされると非常に心強いです。

安川康介
吉村先生ちょっと質問です。
今の段階で、医師の指示のもと看護師などがワクチンを接種できるじゃないですか。
あれは具体的にどういう体制なんですか?
例えば、大きな集会所があって、医師が1人、看護師が50人ぐらいで接種していた場合、それは指示のもとということになるのでしょうか?
看護師さんも有効に活用しないといけないので、その点を詳しく教えてください。

吉村健佑
そうですね、おっしゃる通りです。
今集団接種会場のイメージを厚労省が発表していますが、そこに具体的に予診に医師がいて、接種するのは看護師、薬液補充に看護師や薬剤師がいるというような配置がされています。

参照:新型コロナワクチン接種に係る 人材確保の現状について
https://www.mhlw.go.jp/content/10804000/000771984.pdf

現実的には、そこに医師がいて、何かあった時その医師が接種についても、薬液補充についても、接種後の状態観察についても、最終的な判断や医学的な責任を取るという観点での言い方だと思うんです。
現実的な運用としては、そこに医師がいて、何かあったらすぐに聞けるという環境を作りなさい、ということだと解釈するといいと思います。
こういう時だと、「指示のもと」というのも難しいですよね。
保健師助産師看護師法というものがありまして、保健師、助産師、看護師ですと「療養上の世話」とか「医師の指示」のもと行う、というような記載があったりするので、そこに準じた法律上の用語かなと思っています。
あまり内容のない回答かもしれませんが、そんな感じでいかがでしょうか?

安川康介
ありがとうございます。

吉村健佑
もう9時になるんですが、少しだけ。
こんな状況で歯科医師によるワクチン接種についても、4月23日の厚生労働省の懇談会で了承され、順次現場でも実施されていくと思います。
今日はニュースというよりは、こういう最近の接種の流れと、法律の規制緩和の話題を取り上げて、ワクチン接種がスムーズにいくかどうかという話を取り上げました。
今回、こういったものを見ていると厚生労働省のホームページにちゃんと担当者の名前も出ています。
担当したのは、医政局医事課の土岐太郎課長補佐と医政局歯科保健課の小嶺裕子課長補佐ですね。
こういった方々が、様々な意見を調整して、こういった結果の推進をしているということです。
改めて、緊急事態での行政の役割、そして大変な作業をされているんだろうなと思います。
なかなか陽のあたることのない仕事でありますが、非常に重要な仕事をされている医系技官や歯科系の医系技官、そして法令・事務官の方もやっていらっしゃるだろうということで、この場で紹介したいと思います。

皆さん、いかがでしょうが?
今日、このような形の話ですが、なにか質問とかコメントとかありますか?

あ、問診票の規制緩和については、すみません、今日私も準備していなかったので (苦笑)どういう手順でどう議論されているのかはまた分かり次第紹介したいと思います。

木下喬弘
今の日本の接種速度ですと、このままだと全員打ち終わるのに10年以上かかるというスピードなんですよね。
もちろん今のボトルネックは供給量なわけなんですが、 GW明けにワクチンが1,000万本ずつ届くので、一気に供給が加速します。
その時のボトルネックをしっかりと行政が把握して、それに対する迅速な対応をやっていかないと、本当に日本打ち終わるの5年とか……
5年はいかないにしても、アメリカなんて夏には EU にワクチン打った人を旅行させようとしてますから、その状況で日本だけ打ち終わるのは2、3年後だとやっぱりさすがにダメです。
政権はそこまでもたないでしょうし、まあ別に政権はもたなくてもいいんですが、色々やばいので、どうにかしてほしいです。

吉村健佑
はい、ありがとうございます。
こびナビでこういう話を発信するのもなかなか新鮮かもしれません。
さっき池田先生が言ってくださった「医師法をどうやって改正するか?」とか、今の論点すごく大事だと思います。
医系技官の感覚ですと、すごく大きな法律の本文を直接変えるっていうのは重い仕事で、なかなか着手が難しいんですが、確かにそういう根本のところから作り変えないといけないかもしれないですね、池田先生。

池田早希
いや、本当に作り変えないと、日本が終わってしまうと思いますね。
医学生の教育に関しても、世界的に見ても、日本の医学生ができることが少なすぎて、(今は変わってるかもしれないですが)ただの「お客様」だったり、医療チームの中で勤務して学習するということができなかったり、本当に変えていかないと。
日本の将来、つまり私たちがおじいちゃんおばあちゃんになって受ける医療のためにも必要だと思いますね。

内田舞
あともうひとつだけ、筋肉注射ってそんなに難しい手技じゃないっていうことも言っておきたいです。
もちろんそれなりのトレーニングは必要ですが、指導があって何回か練習すればできるようになる手技なので。
そんなに(医師の特権として)守らなくてもいいものだと思います。

吉村健佑
そうですよね、それは多分医師であれば分かると思います。
研修の時にめちゃくちゃ練習したという記憶はないので、数回で「あ、こんな感じか」と身に付きますよね。


【問題提起:日本でのワクチン開発を妨げる非言語障壁】

内田舞
あとは……これはちょっと違う話題なので、また違う日に、吉村先生か黑川先生にコメントして頂きたいんですが、質問があります。
ワクチンの供給に関して、日本がワクチンを確保できていない理由についてです。
以前、私は新型コロナウイルスワクチンではない、違うワクチンに関しての仕事をしている際に、そのワクチンを作っている製薬会社の人が、
製薬会社として日本にワクチンを売る際には、訴えられる可能性が非常に高い。
他の国と比べると免訴が同じようにないので、製薬会社側を法的に守るためのお金も考えないといけない。
日本独特の要求の高さ(例えばこの時の場合は「海外仕様のシリンジは痛いから日本独自のシリンジにしたい」といったような要求)と訴訟のリスクを考えて、日本に売る際は、ワクチンを高めの値段設定にしなければならなかった。
と話していました。
この話自体は新型コロナウイルスワクチンには全く関係ないことですが、過去にこのような話を聞いたことがあるんです。
そういうことを考えると、今までに日本国内で行われてきた、他のワクチンに対する理不尽な訴訟などの歴史や、日本のワクチン忌避っていう文化自体が、今新型コロナウイルスワクチンを日本が確保するために実施している製薬会社との交渉に悪影響を及ぼして、不利な状況になってしまっているのでは?と疑問に思っていたんです。
この辺り、どうなんでしょう?
ごめんなさい、時間過ぎてから大きな話題を振ってしまって……

吉村健佑
いえ、非常に面白い、重要な視点ですね。
おっしゃるような事実があってワクチンの値段交渉で不利に働いている、という話を私自身は聞いたことがないですが、実際そういうことはあるのかな。
ただ、こびナビでも何度も紹介されてますが、日本にはワクチンの救済制度がある以上、その後製薬会社に直接損害賠償請求が行われて莫大なお金を払わなければならないという事実がどれくらいあるかというところは、確認が必要です。
今手元に資料がないので確認できませんが、本当にそうなるのかなというのは確認しなきゃなと思います。

峰宗太郎
いや、実は内田先生のご指摘は正しくて、日本の医薬品の中には非言語障壁が非常にたくさんあるんですよね。
特にワクチンに関しては、アメリカの場合、ワクチンの補償プログラムがあるんですが、ここに提訴をすると製薬企業に対する提訴権はなくなるんです。
日本の場合は救済制度で救済されても製薬企業に対する提訴権が保持されますので、製薬企業を訴えられるんです。
国も訴えていいんですよ。
そうなるとこれは非常に良くない制度で日本も考え直さないといけないということがあります。
実は、治験に関しても、日本はやたら他の国にもないルールを定めまくっています。
いろんな理由を PMDA (独立行政法人医薬品医療機器総合機構)や厚労省はつけるんですが、結局全部ガラパゴス化しています。
実は日本では独自の治験をやらなければならない上に、日本独自の規制に適合したやり方をしなければなりません。
そのくせ、日本の治験の質は非常に低いということが最近言われていて、中国よりも、韓国よりもすでに低いと言われてます。
日本国内で独自の治験をするなんていうのは、もうコストがかかるだけで、もう日本に薬を売るのはやめようといっている製薬企業をも結構あるんです。
これはすぐ改善していかないと、日本の国益を損なうことになります。
薬っていうものを今後日本で育てていく、日本で開発してもらうっていうことを考えると、かなり色々なところに規制改革が必要だということは事実だと思いますね。

吉村健佑
なるほど、峰先生、ありがとうございます。
もう、すごいですね。
確かにおっしゃる通り、ワクチンに限らず薬剤の開発市場として日本の魅力が少ないというのはもう数年前、私が厚労省にいた頃から聞いていた話でした。
ただ、その問題をどう考えたらいいのかというのは、よく分からなかったです。
そこって、どうしたらいいのかなぁ……と思いながら、すいません、もう9時10分になってしまいました。

木下喬弘
いったんここで締めましょうか。

吉村健佑
大丈夫ですね。
それでは、皆さんからの最後の問題提起は今後の宿題として考えさせて頂いて、今日のテーマはワクチンの打ち手である歯科医師の規制緩和へのも含めてそれを例にとりながら日本の規制状況についてご紹介しました。

こびナビの吉村が解説する世界の最新医療ニュース、今日ここまでとさせていただきます。
日本の皆さん良い1日をお過ごしください。
どうもありがとうございました。

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