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【特別編】コロナ禍の妊婦に関わる公的機関やメディアの科学コミュニケーション、逼迫する現場からの声(8月18日こびナビTwitter spacesまとめ)

※非常にタイムリーな話題なので、特別編として公開させていただきます。なお、このSpacesの議論は下記のニュース前日に開催されたものであることをご了承ください。

▼コロナ感染の妊婦 搬送先見つからず自宅で早産 赤ちゃん死亡(動画あり)
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20210819/1000069082.html
NHK NEWS WEB:2021/8/19


2021年8月18日(火)
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース
本日のモデレーター:内田舞

内田舞
皆さん、おはようございます。こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュース、本日はハーバード大学医学部の Assistant Professor、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長の私、内田舞が担当いたします。


NHK「フェイク・バスターズ」にこびナビ登場

皆さん、先週の NHK の「フェイク・バスターズ」、ご覧になりましたか? 黑川先生は男前な白衣の着こなしも素敵でしたが、たくさんのお問い合わせに真摯に対応されている姿も、誠意が伝わるインタビューも素敵でした。患者さんが来ていないか確認しているところはなかなかの見どころでした。

谷口先生は、同じく感染症内科医の安川先生や池田先生にも通じることなのですが、やはり最前線の現場で患者さんを直接診られてきて、論理だけではない、毎日の実体験の中からの発信という点で、胸に響くものがありました。

▼【フェイク・バスターズ#5】〈参照・番組の内容が記事化されています〉
『こびナビ』 ”信頼できる情報”を発信し続ける 医療者たちの挑戦
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0016/topic031.html?cid=gendaihk-tw-210815-gendai
「ドンと背中を押してもらった」妊娠中の女性がワクチンを打つまで
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0016/topic027.html
新型コロナワクチン “不妊デマ”はなぜ拡散し続けるのか?
https://www.nhk.or.jp/gendai/comment/0016/topic028.html

池田早希
黑川先生も谷口先生もかっこよかったですよね! 「フェイク・バスターズ」で黑川先生が着ていらっしゃった白衣は、千葉大生や千葉大医師の間で普及している、2外(第2外科)白衣というんですよ。

内田舞
なるほど。長袖のシャツの上に半袖の白衣を着て、襟がすごくおしゃれでした。

池田早希
そうなんです。何を着ていても襟で隠れるので、便利で人気なんですよ。

内田舞
なるほど、そんな便利な白衣なんですね。

「フェイク・バスターズ」の番組内で使われた私のインタビューの中で番組で使っていただいたセグメントに関して、私が自分自身が妊娠中に新型コロナワクチンを接種したことで、それをメディアで見た人頂いたメッセージの中に、お腹の中の赤ちゃんは死ぬ、虐待だ、最悪の母親などという言葉に加えて、「死因は母親のワクチン接種」と書かれた死産報告書と葬儀の手配が送られてきたなど、多くの誹謗中傷のターゲットになったというお話をさせていただきました。

番組放送後に、たくさんの方から、私やこびナビ全体が情報発信することへの感謝や「無理しないで」というお言葉をいただきました。その一言一言の励ましの声は私にとってものすごく励みになっているので、まず皆さんに、心からの感謝の言葉を今ここで伝えられたらと思います。本当に皆さんありがとうございます。

そして第2に「私は大丈夫ですよ」ということも皆さんにお伝えしたいです。番組のインタビュー中には、涙を流していましたし、もちろん妊娠中に死産報告書とか、赤ちゃんの葬儀の手配なんていうものを貰って良い気がするわけではありません。しかし、彼らが何を言っても新型コロナウイルスのバイオロジー(性質)は変わりませんし、私の妊娠状態を生物学的に変えることもできません。この人たちが死産報告書を送ろうが送るまいが、私の妊娠はワクチン接種をしたことでコロナ感染や発症から守られ、妊娠は進んで、出産して、元気な子が育っています。おかげさまで今6ヶ月で、上のお兄ちゃん2人にも激かわいがられながら、すくすく育っています。ですから、私は本当に大丈夫です。

れおにい先生が以前インスタライブで、「科学で勝てない人には、このような手段しかない」ということをおっしゃっていました。本当にその通りですが、その一方で、私やこびナビは科学的エビデンスを淡々と皆さんにお伝えしていきますので、これからもよろしくお願いします。

しかしいくら私自身が大丈夫と言っても、これからもより多くの人が正確な科学情報をお届けできるようになるには、この環境は、変わっていかなければならないと感じる文化の一面でもあります。番組内でけいゆう先生がおっしゃった言葉で、「公的機関、学会、また発信を専門とするプロのメディアと協力してやっていかない限り、個人での発信は続けられない」ということに、私も同感です。


公的機関の科学コミュニケーション: キーワードは「Transparency & Peer Review」

コロナ禍は私のように今まで発信に関わっていなかったような医療者や公的機関や学会の一言一言が多くの人の目に触れ、多くの人の判断に影響を与えることになりました。今までは淡々と医療行為を行い、淡々とデータを見て、淡々と論文や、公的機関ならガイドラインを書いたりしていたのに、パンデミックで医療機関や医療者の一言一言が突然大きくインパクトを与えるものになりました。私自身、慣れないことをしつつも、学ぶことの多い時期でしたし、公的機関や学会も模索しながらの発信だったと思います。

そのような中でコミュニケーションを凄く上手にしていたのは、なんといってもアメリカの公的医療機関でした。
・CDC(アメリカ疾病予防管理センター)
・FDA(アメリカ食品医薬品局)
・NIAID(アメリカ国立アレルギー・感染症研究所)

が特に素晴らしいと感じました。

2020年のアメリカは特に最悪な状況でした。科学を完全に無視した大統領が、「マスクはしなくていい、コロナは中国が作り出した偽ウイルスかもしれない」などと公的に発言し、多くの国民の判断に大きな影響を及ぼしました。その結果、信じられない数の方々が新型コロナウイルスに感染し、2020年は全人口の1000分の1が COVID-19 で亡くなったと言われています。

全人口の1000分の1が亡くなることは、戦争でもなかなかない、相当な人数です。そんな大統領やその大統領に従う人が結構な人数いる中でも、各公的機関は、
・今わかっていること
・わかっていないこと
・わかっていることから考察した今やるべきこと
・これからわかるようになること
を曲がらずに発信していたのを目にして、非常に尊敬しています。

例えば FDA では、ワクチンの緊急使用許可の承認の可否を議論し、投票する会議や副反応の調査に関して報告して議論する会議を、全世界に対して生放送のストリーミングで公開したんですね。これは本当にすごいなと思うんですよ。私なんか、今 Twitterスペースでライブで話すことすら少し緊張しちゃうくらいなのに、この方々は世界中の人に影響を及ぼす議論を、生で公開してやっていたんですよね。よほど自分自身の知識量、考察の力、また自分が対話するお互いの知識量や考察の力に信頼がない限りはできないと思います。また、データの正確性に信頼を持てない限り「公開して議論」というのはできません。このように  Peer Review(ピアレビュー、相互評価)のプロセスを公開し、私たちにクリアに見せてくれたことに感謝したいです。ワクチンが承認される前にデータや解析方法と結果は全て公開されたので、私自身も目を通しましたし、世界中の何万人もの科学者や医療者が見ることになりました。

私の夫は音楽家で、チェロを弾くチェリストですが、全く分野が違う専門の話でも、何が重要かを的確に指摘する、鋭い洞察力を持った人です。数か月前の話ですが、夫と日本のワクチン事情に関して話していて、
「今の日本のワクチン忌避のように、様々な人が様々な意見を持って、知識があっても無くても気にせず自分の意見が正しいと声を大にして言っているときに、大切な科学的事実を見失わないためにはどんなことが重要だと思う?」
と訊きました。そのとき夫が言ったのが、
「Transparency & Peer Review」
という言葉だったんですね。それが私には重要なキーワードになっています。

Transparency は、日本語では「情報の透明性」と申しましょうか。「隠すことがない、はっきりとしている、明確な」という感じですね。

Peer Review は、第三者の専門家が複数名検証、審査、意見をして、その中でみんなが納得することを発表するという過程です。

もちろん、論文を受理する際にも必ず Peer Review はありますし、FDA が行った、複数の専門家がデータを見て議論して承認の可否について判断するのも、Peer Review の過程ですね。とにかくこの Transparencyと Peer Review に関し、アメリカの FDA や CDC は本当にしっかりとやってくれました。


アメリカCDCが妊婦へのワクチン接種を推奨

つい先週、CDC は妊婦さんへの新型コロナワクチンに関して「推奨(recommend)」とアップデートしました。今までもずっと妊娠中のワクチン接種は可能で、私自身も1月初め、FDA の承認の約2週間後にアメリカで接種しましたし、CDC は妊婦さんのワクチン接種に対しては一貫してすすめる態度をとっていました。しかし今回の発表は「接種可能」というものではなく、妊娠中に「打った方がいい、推奨する」という提言でした。

▼COVID-19 Vaccines While Pregnant or Breastfeeding
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/recommendations/pregnancy.html
出典:CDC Updated 2021/8/11

この提言に使われた言葉が、何が分かっていて、何が分かっていないかということを明確に書いていて、それらの情報を考察した上で、最終的に「私たちが推奨します」というメッセージが伝わる書き方だったので、公的機関の情報のコミュニケーションとしても本当に美しいと感動しました。全部は読めないのですが、ウェブサイトのアップデートで一番最初に「いま知っておくべきこと」の3つの点について書かれています。

新型コロナワクチンは12歳以上の全ての人に対して推奨されています。推奨の対象は、妊婦さんや授乳中の方、妊活中の方、将来妊娠するかもしれない方も適用です。

妊娠中のワクチン接種に関する安全性と有効性のエビデンスは積み重なってきています。データによると、新型コロナワクチンを妊娠中に接種するベネフィットの方がリスクよりもずっと大きいことが示唆されています。

「安全性が証明されている」「有効性が証明されている」という断言ではなく、「積み重なってきてどんどん増えているよ」という表現を使ったのを美しいと思いました。嘘をつかない形で今あるものを伝えてくれています。

女性に対しても男性に対しても、新型コロナワクチンを含むどのワクチンに関しても生殖性に影響を与えたというエビデンスはありません。

その後にエビデンスの整理が続きます。

・妊娠中のコロナ感染は、重症化するリスクが絶対的には低いけれども、同年代の妊娠していない人と比べるとICU治療や人工呼吸器が必要になるリスクが高い。また、コロナ感染は早産のリスクを上げる。

・動物実験で妊娠前や妊娠中にワクチンを打ったネズミさんにおいて、妊娠や胎児への悪影響や異常はない。

・アストラゼネカ社やジョンソン・エンド・ジョンソン社のウイルスベクターワクチンに関して、今まで存在した他のベクターワクチンの妊娠中の接種において、妊娠や胎児への悪影響は認められていない。

・ワクチンによって感染は起きないので、ワクチンを打つことによって妊娠や胎児にコロナ感染が起きることはない。

・メッセンジャーRNAワクチンを妊娠中に接種した人の追跡研究の初期データにおいて、各国のデータ、例えばアメリカ以外にイスラエル等のデータを見ても、妊娠や胎児に悪影響を与えるというエビデンスはない。そして現在も追跡調査を継続している。

・妊娠中にワクチンを接種した場合、母体で作られた抗体が胎児へ移行することが確認されている。妊婦だけでなく、赤ちゃんをもコロナ感染や発症から守ることが期待される。

何がわかっていて、何がわかっていないかを示した上でこれらの情報を考察した結果、CDC としては妊娠中にワクチンを推奨するということが明確に伝わる文章だと感じました。

これまでの提言に関して「推奨」という言葉は使われない中、ベネフィットがリスクを上回るという姿勢が貫かれていましたし、さらにアメリカでは、このワクチンが承認された一番最初から、妊婦さんが接種の優先枠に入っていました。そして ACOG(アメリカ産婦人科学会)も CDC と同じような論調でした。その結果、アメリカでは既に14万人以上の妊婦さんがワクチンを接種しています。


日本産婦人科学会の提言

さて、日本でも CDC の推奨の後を追って、日本の産婦人科関連学会が合同で声明を先週出しまして、妊娠のどの段階であっても、妊婦さんとその同居者のパートナーの接種を推奨することが提言されました。職域接種などで妊婦さんが接種を断られているというニュースを聞く中で、重要な声明です。妊婦さんの感染経路として最も頻度の高いのがパートナーからの感染なので、パートナーの接種を推奨するあたりは非常にありがたいです。

私としては、このような言葉を学会がやっと発信できる状況になったことにホッとしています。また、学会がこのような発信ができるということは、世の中のワクチンの認識の流れが変わってきている証拠でもあり、非常に励まされた気持ちです。

少し前までの日本の産婦人科学会の提言に関しても少々説明させてください。6月末まで、日本の産婦人科学会では、妊娠中の接種は12週まで避けることがすすめられていました。さらに、その前のバージョンでは、妊娠中の接種は接種前と後にエコーをとることがすすめられていましたし、産科の対応ができるところで打ってくださいという提言でした。今はどの週数でも接種推奨になっていますし、エコーは必要ないとされています。

検査というのは、その結果によって次の介入が変わるときにやる必要があります。しかし、この場合、エコーで何を見るのか、何を発見したらワクチン接種の可否の判断が変わるのかについて説明されていませんでした。これは医学的には意味がないものだと、多くの専門家が口を揃えて言っていました。私は、妊婦さんがこの提言を見て、前後でエコー取らなきゃダメだよと言われ、負担が増えるだけではなく、不安まで煽っていないかと心配しておりました。

12週まではワクチンを避けるように日本産婦人科学会が推奨していたことは「ワクチンを打っても打っていなくても起こったであろう流産を、間違ってワクチンのせいだと思ってしまうと大変だから」と、医学的ではない理由が記されていました。医学とは関係ない理由で12週までは避けるという推奨がされていました。この時期の流産は、ほとんど染色体異常で起こることなので、妊婦さんが何をしたから/していないからという理由で起こるわけではないことの方が多いです。例えば運動、転倒というようなことはこの時期の流産にほとんど関係がありません。エビデンスとしては mRNAワクチンは妊娠超初期に接種された方も妊娠や胎児に悪影響はない結果が出ています。科学的に考えて、12週までのワクチン接種を避ける理由は、私には考えつきませんでした。

でも、「私は間違って流産がワクチンのせいだと思うのは嫌だから、その時期にはワクチンの接種はしない」という個人の判断は、すっごく気持ちがわかるんですね。そのような判断をされた妊婦さんがいたら、他の手段で感染予防を頑張っていただいて、地域の感染状況を見ながら、妊娠が進んでからワクチンを受けるのも、全然アリだと思います。

しかし、私がここでポイントだと思うのは、この判断は妊婦さん自身がするべきだということです。学会や公的機関の役割は、妊婦さんの代わりに判断してあげるというのではなく、妊婦さんやそのご家族が、責任ある判断と自分に合った判断ができるように、その判断を助けるための科学情報を提供することだと思うのですで、その際に妊婦さん自身が何を選択するかは自由ですが、「12週までに打っても悪影響があるというエビデンスはない」という科学的な情報を伝えることが、妊婦さんを実際にサポートすることになっていたのではないかと私は感じております。

産婦人科学会に関しては、すっごく大変な立場だなとも思っています。この提言でも、日本の産婦人科医さんや学会の「何かあったときに法律的に身を守るために防御策を必死にしなければならない」という思いがひしひしと伝わりました。日本のワクチン忌避の文化の深さ、産婦人科領域のこれまでの理不尽な訴訟の多さ、非科学的でも世間の人が不安に思っている世論になんとなく合わせなければならない公的機関のシステムが影響していると感じました。

例えば、私に軽く死産報告書なんか送ってくる人は、死産になってしまったご家族に、産科医の先生方がその現実を報告するときの気持ちなんて、全く考えたこともないと思うんですね。このように頑張っている医師たちだけでなく、公的機関すら正確な科学情報を元にした提言をしづらくしている日本の文化には問題があります。

起因が文化にあるとはいえ、やはり公的機関の発言は影響力が大きいです。例えば私があるインタビューを受ける中で「12週まで打たないでくださいと言ってください」と言われたので、「それはちょっと言えません」と言ったら、記事が没になっちゃったことがありました。「公的機関がこう言っているから、それに従わない人のメッセージは発信できない」というような、発信を妨げてしまっている部分もあったりして、なかなか難しいバランスだと思います。

また、私が受けた誹謗中傷も「日本産婦人科学会はこう言ってるのに、アメリカの情報だけで妊婦へのワクチン接種を語っている悪女」というのもありました。さらに記事自体や私の発信以上に、記事や動画についたそういったコメントを見て、なんか怖いと思って、ワクチンは怖いものだと印象を持ってしまったという方も何人も連絡ありました。

また、何か月間も妊婦のワクチン接種に関して消極的なメッセージを出してしまった後に、感染状況とCDCに後押しされて、「推奨」という提言をしても、既に蔓延してしまった消極的なイメージは変わらないというのが現状です。

このようにパワーがある公的機関のメッセージなので、なんといってもキーワードの「Transparency & Peer Review」を大事にして欲しいと私は思っています。

これは、メディアの報道の仕方においても言えることですので、妊娠中のコロナ感染やワクチン接種に関して報じられる際、本当に科学的事実を報じているのか確認が必要なのはもちろん、さらにどのようなトーンで報道するかに関して気をつけていただきたいと切に願っています。私が発信を始めたのは1月初旬で、当時から私の発言内容は変わっておりません。しかし、アナウンサーのコメント、BGMの雰囲気などで、私の発言の受け止められ方は大きく変わっています。

このトピックを持ち出した理由をお話しします。私は学会や公的機関やメディアの批判をするために意見しているのではなく、その背景には、我々一人ひとりが生み出す文化があるということを共有したいと思ったからです。どれだけ勇気を持った正しい発言ができるかというのは、世論や国民が創り出す社会のトーンが基本になっていると思うんですね。ですから、はじまりは何と言っても、私たち一人ひとりなのです。我々一人ひとりがしっかり考え、言及、行動することが、社会全体をポジティブな方向に動かす一番の原動力だということを今日お伝えできたらと思ったのです。

安川康介
まず最初に、内田先生は、日本人の妊婦として多分世界の中でもかなり最初の方にワクチンを受けてそういう発信をしていただいたので、本当にすごく大きな影響があったと思うんですよ。すごいプレッシャーや誹謗中傷の中、内田先生のような方がいたのは、日本の妊婦さんや不安を感じている方にとって本当に計り知れないくらいの影響を与えたと思います。本当にありがとうございます。

内田舞
ありがとう。

安川康介
すごいプレッシャーだったと思いますし、嫌なコメントももらったし、はっきり言って内田先生は、別にそんなことをする必要がないんですよ。ハーバードで精神科や脳科学に関する輝かしい研究をされて、素敵な家族で過ごしていて、別にやらなくても良かったと思うんです。だけど、敢えてやろうとしたのは、正確な知識を伝えたいということと、日本で新型コロナウイルスの感染が流行したときに、亡くなる妊婦さんとか、亡くなる赤ちゃん、そういう方を減らしたいという強い意志があったからだと思うんですよね。内田先生がずっと力強く発信してきたことは、本当に日本にとってありがたいことだったというのは、ここ半年活動してきてまず思うことです。

また、「Transparency & Peer Review」というのは本当に全くその通りで、今回のワクチンは高い透明性を保ってやってきたと思うんですよ。ACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)のミーティング等を僕はリアルタイムで聴くことがありましたが、わざわざワクチンに非常に強く反対する団体の意見を聞く時間があって、もう本当にボロクソ言われてるんですよね、諮問委員会の方とかが。彼らにもそういう機会が与えられていて、それがオープンになっているのはものすごく重要で、日本でも見習うべきことかなと思います。

ちょっと一旦ここで切って、他のメンバーの意見も聞きたいですね。

内田舞
励みになる言葉をありがとうございます。
峰先生、どうぞ。

峰宗太郎
いや、本当に内田先生の活躍というか、身を張ってしていただいた活動に頭が下がります。今日お話しいただいたこの「公開している」ということは本当に面白くてですね、まず雑談から入りますが、その ACIP の会議の後、ワクチンに反対する人が自由に叫ぶ時間みたいなのも放送されてたんですよ。で、時間になるとブチッて切られるんですよ(笑) 

「ワクチンなんか絶対に打ったら毒でなん(ブチッ)」みたいな、あれを生で見た人はいいものを見たと思うんですけど、まあ雑談は置いといて、少し残念だなと思っていることもありまして。

それは何かと言うと、日本とアメリカを比較したときに公的情報の発信の透明性、 Peer Review、クリアさ、潔さ、そして専門性の高さで、これはもうアメリカに絶対軍配が上がるというか、見習いたいところですよね。ここには多くの人は全然反対しないと思うのですが、一方で、情報の受け手である国民はどうなんだということを考えると、アメリカはちょっと惨憺たるものもあるんですよね。

内田舞
その通りですよね。

峰宗太郎
この分断は日本からはちょっと想像ができないくらいのものがあります。特に前政権のときは、政権を支持している人が、なぜか行政機関は支持しないというねじれになってしまっていました。今は政権と行政機関が一致してきましたが、まあどこかって、言わなくても皆さんわかっちゃうんですけど、テキサスとかですよね。州政府や知事などが、政治的信念で科学をひどく押し曲げる動きをしたり、それに呼応する国民や州民の方が非常に多い地域があって、今アメリカではものすごい勢いで感染が再拡大しているわけです。主にフロリダやテキサスなどで、ワクチンの接種率は低い、感染予防措置も取らない、公的情報を完全に無視して反動的になっている人たちがいます。その人たちは、端から公的情報や学術団体が出す情報は信じない、そういうのは嘘なんだ!と、こういう分断があるのは、アメリカの非常に残念に感じるところですよね。

一方で日本の場合は、公的情報を熱烈に信じる人も少ないのですが、熱烈に反対して「政府や行政がなんか陰謀論だ」というのは一部の方だと思います。国民がなんとなく話を聞いている一方で、政府機関とか公的機関とか学術団体がはっきり意見を出さないんですよね。特に透明性の部分が足りないと思いますし、Peer Review もどうしても弱い。例えば、厚生労働省も一体どういうプロセスを経てこの推奨を出しているのかよく分からなかったり、情報が遅かったり、厚生労働省の情報を盾にとられて今度は反対運動をされてしまうような、隙があると言ったらいいですかね? 全部見せていない、甘いところがあると感じます。

日本の学術団体は、特に IDSA(米国感染症学会)なんかと比べると、日本感染症学会とかそういうところは、一体何をやってるんだかわかりません。文化の差もありますが、いいところ同士を取り合っていけるといいですよね。本当はアメリカのようにはっきりとした情報発信、透明性の確保、Peer Review をしっかりするのはもちろんのことながら、受け手側もリテラシーを上げるとか、「自分が憎いと思った反対政党が言っているから従わない」とかではなく、政治信念でもなく、科学的に判定するべきことは科学的に正しい手順でやっていけるといいですね。

そういう意味での情報提供活動もまだまだ必要かな、なんて思いながら聞いてました。ちょっと長くなりましたけど、漠然とそんなことを考えています。

内田舞
本当にアメリカの文化というのは分断の文化で、特にこの5年ほどは大変な状況でしたね。「この政党の言うことは全部信じる」とか「この政党は全部信じない」とか、そんな白黒はっきりすることなんて世の中にはほとんど無いわけで、そうなってしまうこと、それについて行く人たちがいることは問題だとずっと感じておりました。

谷口先生、お願いします。


コロナ禍の妊婦 変異ウイルスデルタで逼迫する現場

谷口俊文
今、日本の妊婦の方を取り巻くコロナの状況を簡単に説明させてください。

いま若い方を中心に感染が広がっているので、妊娠されている方もかなり多くの方が新型コロナウイルスに感染しています。妊娠後期、つまり出産間近の方が感染して、収容する病院が無いんですね。出産に対応できる病院が非常に少ないということもあって。

妊娠後期の方がこれくらい収容困難になっているという連絡が、連日バーッと届くんです。それくらい逼迫しているのです。

▼新型コロナ 自宅療養中の妊婦 搬送先なく早産で新生児死亡
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210819/k10013211121000.html
NHK:2021/8/19

▼コロナ感染の妊婦 搬送先見つからず自宅で早産 赤ちゃん死亡(動画あり)
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20210819/1000069082.html
NHK NEWS WEB:2021/8/19

(このニュースの事例を受けて)
これに僕たちは本当に衝撃を受けて、本当にあってはいけないことが起こってしまったということで、千葉県の周産期の医療機関でも緊急会議を今後開いて行くことになっています。

やはり僕たちの体制も本当に悪かったと思っています。ただ、若い方の中でも少しデルタ株に対する感染の油断があるのかもしれないし、ちょっとわかんないんですけども、ぜひぜひ、本当に妊婦の方にワクチンを打って欲しいと思っています。

あの…なんて言うんですかね?

ごめんなさい、あの…。

ぜひ、ワクチンを怖がらずに打って欲しいと思っています。怖いのはウイルスです。

…ごめんなさい、以上です。

内田舞
ありがとうございます、谷口先生。お言葉を聞いて、私も本当に胸が詰まる思いです…。
子どもが生まれるのをずっと楽しみにしている中でコロナに感染してしまったときも、息苦しくなって溺れるように苦しいときも、お腹が大きい状況でこの方は一体どんな気持ちでいたのだろうと想像すると、言葉もありません…。

今は苦しい現実しか見えない時期だと思いますが、どうかご無事にこのお母様が回復されることを祈っています。そして、少し時間が経った後に、ご自分を責めすぎずに笑顔が戻ってくることを心から祈っています。

妊娠や子宮についてはなんとなく神々しい神秘的なものだと、日本だけでなく世界中で考えられていると思うのですが、子宮も卵巣も胎盤も、すばらしい機能を持ったただの臓器です。ワクチンに関して、例えば妊娠中はなんとなく神々しいものだから介入してはいけないと思う方がいらっしゃることは、私も感覚としてはわかるのです。しかし、妊娠中のワクチン使用の高い安全性は科学的に示唆されています。先ほど申し上げた通り、動物実験でも証明されていて、今のところアメリカでは14万人の妊婦さんがワクチンを接種しています。その追跡研究の中でも、ワクチンを打ったことで因果関係のある、妊婦や胎児特有の有害な副反応は何ひとつ報告されていません。ワクチンを打った人と、パンデミック前の一般の流産率とを比べても、全く変化はありません。

神々しいものに介入しなかった場合のリスクも、生物学的に考えなければならない。妊娠中のコロナ感染は重症化するリスクが高く、早産になってしまうリスクも上がります。また、母子共に救うために緊急帝王切開になる場合もあります。早産は妊娠週数が早ければ早いほど、赤ちゃんが数々の身体的なリスクにさらされます。

デルタ株の蔓延により、今まで以上に20-40代の方の感染、重症化が報告されています。ちょうどその年代が一番多い妊婦さんも例外ではありません。

谷口先生が紹介して下さったような悲しい出来事を、安全な介入をすることで一例でも減らしたいという思いです。「Transparency & Peer Review」を問うた CDC の妊娠中のワクチン推奨を、皆さんに重く感じていただけたらなと思います。

吉村先生、お願いします。

吉村健佑
おはようございます。内田先生のメッセージに胸を打たれております。行政の動きを紹介いたします。やはり妊娠中にコロナ陽性になってしまうと、受け入れ可能な医療機関や分娩に安全に対処できる医療機関が、限られてしまいます。

自宅療養の方で、コロナ陽性で妊娠中の方が結構いらっしゃいます。谷口先生がおっしゃった通り、妊娠中の方にはワクチン接種をぜひご検討いただきたいですね。それが広がると、先ほどのようにご本人が苦痛を感じるケースを少しでも、1つでも減らせると思っています。このメッセージをお伝えしたかったです。

内田舞
吉村先生、ありがとうございました。ワクチンで予防というのが第一のことですし、それ以外の予防、マスク、ソーシャルディスタンス、パートナーのワクチン接種で、妊婦さんの感染リスクが下がるというように、予防をしっかりすることが大切だと思います。

先ほど、谷口先生の発言の中で、ご自身を責める発言をされていたのですが、このような悲しい例が起きてしまい、現場の先生方に罪悪感を感じさせてしまうシステムは、私は間違っていると思うんです。谷口先生など、感染症内科の先生方が最前線で頑張ってくださっていて、1人でも多くの人を救えるように毎日やってくださっているからこそ、このようなディスカッションができています。同じく関わられた医療者の方々は全力を尽くされて、非常に悔しいお気持ちだと思われます。頑張って下さってる方々にこんな思いをさせてはいけないです。

やはり昨日、吉村先生が、安全に対応できる入院先が見つからないことに関する政策的、法的なハードルがあると非常にていねいにお話しくださいまして、すごく勉強になりました。そういったシステムには、今このパンデミックだからこそ変わらなければならない部分があります。1件1件に関して、ある程度フレキシブルな対応ができるように政策を緩めるとか、医学的に必要なフレキシブルな対応をした医師に対して罰則を与えないといった対応が必要です。今政策側も動いているという先生の報告を聞き、ありがたい思いです。

また、アメリカでは、コロナ陽性に特化した周産期医療センターというものはなく、陽性の妊婦さんでも付き添い付きで通常の周産期医療施設で分娩が可能です。今は特に、スタッフがワクチンを接種し、マスクをし、感染対策をすることで、通常通り、分娩に対応されています。もちろんそれをそのまま日本でやればいいなどという考えではございません。日本でもコロナ陽性患者さんを扱える周産期センターが増えてくれることを切に願っておりますし、そのために各施設や医療者に必要な知識や器具のサポートなどが行き渡ることを願っています。

厳しい状況ですが、日本の皆さん、これからもコロナ禍、パンデミックを終わらせるために頑張っていきましょう。まずは感染対策です。そして今ここで皆さんが聴いてくださってるように、いろいろな正確な情報、科学的な情報を自分自身が噛みしめることが、私は社会がポジティブな方向に向かう第一歩だと思っております。皆さん一緒に頑張っていきましょう。

こびナビ自体は本当に個性的なメンバーが集まっていて、衝突することももちろんあるのですが、大きなディレクションとして私たちは科学をベースにいつも同じ方向に向かっていて、そしてまさに「Transparency & Peer Review」ですね。

では、今日はここで締めさせていただきます。皆さん本当に長い間お聴きいただき、どうもありがとうございました。
See you next time!


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