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EUがアストラゼネカワクチンを一時中断した件:その①(3月16日こびナビClubhouseまとめ)

木下喬弘

日本の皆様おはようございます。
こびナビの医師が解説する世界の最新医療ニュースを始めたいと思います。

僕も人間らしい生活を取り戻すべく、久しぶりにジョギングをしてきました。
ボストンはこの週末はとても暖かくて、だいぶ雪も解けて住める感じの街になっていたのですが、今日外に出たところ、意外と寒くて…すごい薄着でジョギングに出たことを後悔して、ヒーヒーいいながら帰ってきました。
久しぶりに運動したので、今日は夜はちゃんと寝て、ちゃんと朝起きて、夜寝る生活に戻ろうかなぁと思っています。
こびナビのメンバー、皆さん結構大変な生活されていると思います。
くれぐれもお体を壊されないように、お気をつけてください。

さて、それでは今日のニュースに入っていきたいと思います。
今日のニュースは世界的に非常に話題になっているニュースですので慎重に見ていきたいと思います。
NYタイムズからで、
Germany, France, Spain and Italy are the latest to suspend use of AstraZeneca’s vaccine.
(ドイツ、フランス、そしてイタリアが最後になってアストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンを一旦中止した)

https://www.nytimes.com/live/2021/03/15/world/covid-19-coronavirus#germany-france-spain-and-italy-are-the-latest-to-suspend-use-of-astrazenecas-vaccine

というタイトルです。
まずは端的に事実をご紹介します。
ドイツとフランス、イタリアが、3月15日に一時的にアストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンの接種を中止しました。
これは、ヨーロッパの各国で「アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンが血栓症を誘発しているのではないか」という懸念が出ていまして、それに追随する形で、ドイツ、フランス、イタリアも一旦アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンを中止したという流れになっています。
WHO(World Health Organization、世界保健機関)を含む公衆衛生の世界的機関は「すでに何百万の人がアストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンを接種しており、血栓(正確に言うと動脈にできる血栓ではなく、静脈にできる血栓)との因果関係は証明されていない」と言っており、専門家も「ワクチン接種と静脈の血栓との間の関連はない」と認めています。またアストラゼネカも「ワクチンが安全である」と言っているにも関わらず、このようなことが起きています。
そもそもアストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンは、ファイザーやモデルナの新型コロナウイルスワクチンと比べると、数値としてはワクチンの有効性も少し低い、つまりアメリカから出ていたファイザーやモデルナのワクチンと比べて若干評判がよくなかった上に、今回のデータが出てきたということで、アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンに対して打撃を与えています。
一方で、このワクチンも含めて、私が把握できている新型コロナウイルスのワクチンに関しては全て重症化や死亡を抑制する効果はいずれも非常に高いです。
アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンも第Ⅲ相試験(イギリスで承認のもととなった試験)の中では、ワクチン接種者の中で入院が必要となった人は1人もいませんでした。
ワクチンは重症化予防というところが一番重要であるということは忘れてはならない」と公衆衛生の専門家は言っています。
このように「一時中断」ということになると、ヨーロッパの国の中で、「ワクチンが怖い」という、つまりワクチン忌避の感情がすごく広がってしまうのではないかということを私自身懸念しておりまして、実際記事の中にもそう書かれています。
そんな中、イタリアなどは今日のニュースで再ロックダウンという状況になっており、EU圏内は再度感染がぶり返してきている国が多くなっています。
感染者数が増加しているタイミングで一時このワクチンを中断というのはかなり議論を呼んでいます。
ワクチンに関する公的機関にはいくつかの種類があり、まずWHOは「安全だ」と言っています。
もう一つ、ヨーロッパにはEMA(European Medicines Agency、欧州医薬品庁)という機関があります。
ここが結構キーになってきて、例えば、フランスのマクロン大統領は「EMAの見解を聞いてから再開するかどうかを決める」と言ったうえで中断しています。
つまりEMAがどういう見解を発表するかというところが、ヨーロッパ全体の中でキーになってくるということです。

追加情報として、フランス、ドイツ、イタリアの前に、オランダ、デンマーク、ノルウェー、さらにスペイン、ポルトガルもいったん中止していますので、ヨーロッパの主要国が軒並み一時中断をしています。
またインドネシアとタイも一旦中止していましたが、タイに関しては「心配なさそうだということで再開する」と言っている状況です。
他の国に関しては、当然ヨーロッパの国となるとイギリスの動きも注目する必要があります。
イギリスはですね、アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンを開発した国、ということでPublic Health England(PHE、英国公衆衛生庁)という公的機関も、「安全性に関してはもちろん重要なので非常にタイトにモニタリングをしている、すでに1100万回アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンを打っていて、この血栓塞栓症(静脈の血に塊ができて、肺とかに飛んで重篤なことになる病気)の報告数は、ワクチン接種を始める前と比べて変わっていない」と、つまりPHEとしてはこのワクチンは安全であるし、止める必要はないと言っているということになります。
あとは、ISTH(International Society on Thrombosis and Haemostasis、国際血栓止血学会。たぶん皆さんあまりご存じないと思うんですけど、私は実はずっと救急で集中治療、敗血症の研究をしていたので、この学会との関係が深いんです。血栓塞栓症については結構プロフェッショナルで、非常にいい学会です)も「アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンが血栓症の原因になっているということは今の時点では考えにくく、ワクチンを中断するといった判断はしなくていいんじゃないか」という立場をとっているというところでした。
このように、世界的にいろいろと意見が分かれているところなんです。
まとめると、各国の政府レベルで一時中断という判断をしているところがいくつかあるけれども、公的な保険機構(WHOやPHEなど)、公衆衛生関連の機関や学会は「今回のワクチンで血栓症が引き起こされている」と言っているところはなくて、一番のキーになるのが、明日のEMA(ヨーロッパの医薬品の審査や監査をしたりとかするような機関)の判断になるというところです。

このニュースに関して、結構扱いが難しくて、いつもよりは軽いノリを抑えてご説明したつもりなんですけれども、登壇されている皆さんから率直なご意見を伺えればと考えているんですけれども、いかがでしょうか。

……(笑) 

えっと、軽いノリじゃないとしゃべれない感じのroomになっているんでしょうかね、ここは(笑)。

安川康介
あのー(笑)…み、峰先生、どうぞ。

峰宗太郎
いや、今僕ご飯食べてるんで、安川先生どうぞ。

安川康介
分かりました(笑)。
では、峰先生がご飯食べている間話します。

これは何回もこびナビのClubhouseで課題になっていることだと思いますが、今回の血栓症が有害事象(単にワクチン接種との前後関係があること)か、副反応(ワクチン接種と因果関係があるもの)なのかが問題になってくると思います。
僕の知る限り、ワクチンが深部静脈血栓症を起こすということはあまり聞いたことがなくて、血小板減少症というものが報告されたことはあるんですけれども、ワクチンを打った後に血栓症がどんどんできるという報告は僕は知りません。
そもそも、血栓症というのはとてもよく見る病気なんですね。
特に人種差があって、日本人などのアジア人には少ないんですけども、例えば黒人の方ではよく見る病気なんです。
僕はいまワシントンD.C.の病院で働いていますが、結構黒人の患者さんが多いんですね。
9割以上が黒人の患者さんで、血栓症というのはよく太ももの静脈にできる病気なんですけれども、本当に頻繁に見る病気で、英語だと「Bread and Butter(パンとバター)」とかいう言い方をするんです。
つまり、パンとバターのようにすごく一般的な病気になります。
今ワクチンを国で何千万、世界でいうと何億という方に打っていますので、その中では血栓症ができる方というのはそれなりの頻度で出てくることを考えると当然のことなんですね。
アメリカですと、血栓症は約千人に一人はかかる病気です。
すごくよく見る病気で、大事なのはそれぞれの国で、Background rate(もともと起きている頻度)と比べて本当に増えているのかどうかを検証しなければならないと思います。
ほかにも検証の仕方はあるんですけれども、今のデータを見ると、Background rateよりも明らかに増えているというデータを見たことがありませんし、ワクチンを受けた人の方が少ないんじゃないかというデータがあるくらいです。
僕としては、血栓症を増加させるというデータが今のところないので、今の状況では因果関係がある、つまり、これが明らかに副反応である、とは言えないのではないかと思っています。

木下喬弘
ありがとうございます。
安川先生には一番大事な部分をご指摘いただいたと思っています。
新型コロナウイルスワクチンというのは、新型コロナウイルス感染症を防ぐものであって、血栓塞栓症をゼロにするものではないので、もちろんそれは何千人、何万人と打っていけば、ワクチンを打った後に自然にそういう病気になる人はいる、ということです。

ワクチンを接種した後に起きた健康上好ましくない現象のことを有害事象と言います。
そして本当に日本のワクチンに対する誤解の一番根が深いところで、僕がワクチンに関する講演などお話をするときに必ず注意喚起するようにしているんですけれども、「副反応」とはワクチン接種と有害事象に因果関係があることが分かったときにはじめて使ってよい言葉なんです。
有害事象の方が悪そうに聞こえますが、有害事象はとにかく起きたことを全部を拾ってくるのが目的です。
有害事象の中でワクチン接種と因果関係があるかどうかということをちゃんと調べて、即ちワクチンを接種していない人と比較して、頻度が多いかどうかということを見て、それが本当にワクチンのせいで起こっている、ということであれば「一旦中止をしましょう」といった判断を行う、ということが非常に重要になります。
今日、この30分の中で、この点を皆様にご理解いただければそれ以上のことはないかなと思います。

それ以外にも、安川先生にいくつかまとめていただきました。
(深部)静脈血栓症とは、いわゆるエコノミークラス症候群という名前でなじみが深い病気です。別にビジネスクラスに乗っていてもなるので、この名前はあまりよくないという話もありますがこれは置いておきます。要は、ずっと足を動かさなかったりすると血流が停滞して、特に足の静脈に血の塊ができて、心臓から肺にとんでいくんですね。肺の血管に結構でっかい血の塊が詰まると、それで呼吸も悪くなるんですけど、何より循環の中で全身の血液は基本的にすべて肺を通るので、そこをブロックされると全身の血が回らなくなり、急激な心停止とかになってしまうことがあります。
静脈血栓症は誰しもがなりうる病気です。
一方で安川先生にご指摘いただいた通り、アメリカではめちゃくちゃよくある病気なんですが、日本であんまりそこまで多くないんです。私はアメリカの救急医と話をしているときに驚かれることが大体二つあって、静脈血栓症が日本ではめちゃくちゃ少ないことと、大動脈解離という病気がめちゃくちゃ多いということです。要は日米で救急をやっている人で診る疾患の頻度に大きく違うのです。
安川先生に「千人に一人ぐらいがなる」と仰っていただきましたけど、そういう背景があって、ワクチンを接種した後に血栓症になっても全く不思議ではないのです。
今のところアストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンに関して把握できているデータは500万回接種で30例なので、めちゃくちゃ少ないということですね。
少ないというのは逆におかしいので、ワクチン接種とは関係がないということでいちいち報告されていない例もおそらくあるんだと思います。
そういうこともあって、今のところワクチンとの因果関係を示すデータはないんではないかというのが、今安川先生からご指摘いただいたことのまとめになります。

他の先生方…峰先生、ご飯食べ終わりました?

峰宗太郎
はーい、はい(笑)。
食べ終わりました。

私の方からはいつも科学の話をしているんですけれども、今回はサイエンスじゃない話をしておいた方がいいんじゃないかなということで、ワクチンの治験や供給の背景についての話があります。

アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチン、モノはすごくいいと思うんですよね。
ウイルスベクターワクチンでして、ウイルスベクターワクチンはエボラウイルスに対するワクチンとしての承認実績もありますし、実際に有効性も高くて、安全性プロファイルも他のワクチンと大きく変わるところがないものである。
モノがいいことは初めからお断りしておくというか、これは念押しをしておかないといけないところなんです。
一方で、アストラゼネカ社のマネジメントが非常に悪い、いろんな意味でですね、「悪い」というのはディスっているというよりは、実際バタバタしていることが非常に多いんですね。

まず臨床試験、即ち治験です。
治験の段階で、「プロトコール逸脱」と言って、プロトコール通りにやらないようなごたごたがありました。
(プロトコール:あらかじめ定められている規定、手順、試験/治療計画などのこと)
論文が非常に読み解きにくくなってしまったり、プロトコール通りにやらなかったのに、それを「新しい試験デザインだ」と言ってしまったり、まずは治験の時にごたごたしていたんですね。

そして、新型コロナウイルスワクチン供給の約束をいろんな国としていまして、特にイギリスの会社ですからヨーロッパの国と支給の約束をしていたんですけど、その供給の量や時期が全く守られなかったりして、結構多くの国がアストラゼネカ社に対して頭に来ているんですよ。
そして、その背景にはBrexit以来イギリスとヨーロッパが非常にギスギスしているというところも原因して、いろいろなところで、いわゆる齟齬があって。
イギリスに変異ウイルスが出た時もいち早くヨーロッパの国々はイギリスからの渡航を停止したように、政治的に過剰に反応するということがここのところ続いているんですね。
そういう背景を考えると、本当に血栓症というものに騒いでこういうことをやっているのか?ということなんです。
「65歳以上で安全性が確認できていない」ということを突然ドイツとフランスが言い出した時も、確かに人数は少ないんですけど、安全性で何か問題が起こったわけではなかったんです。
そう考えると、ヨーロッパの国々は、なんとなく「アストラゼネカ社の新型コロナウイルスワクチンで問題が起きたらもうこれ以上か関わりたくない」「もうアメリカの新型コロナウイルスワクチン打っちゃおうぜ」みたいな、そんな雰囲気を少し出ちゃっているんですよね。
なので、これは科学の話でも、アストラゼネカ社のものそのものが悪いということでも全くなくて、そういう政治背景だとかですね、認識、国のいら立ちみたいなものが入り込んでいる可能性が否定できないので、一歩引いて冷静に見ていくことが必要です。
あとこれからEMAから見解が出てきますけど、科学的に精査された情報かどうかをしっかり見極めて、日本でも変に騒がずに見ていくことがすごく重要なんだろうなと思って、今日はニュースを読んでいました。
アメリカもアストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンをちゃんと評価をしていまして、NIH(National Institutes of Health、アメリカ国立衛生研究所)のフランシス・コリン所長という方がですね、本日の声明で、アメリカでもEUA(Emergency Use Authorization、緊急使用許可)をアストラゼネカも近々得るだろうということを発言していますので、モノはしっかりしているとは言えると思うんですよね。

木下喬弘
ありがとうございます。
本当にもうご指摘の通りで、Brexit以降EUとイギリスの関係性は非常にギクシャクしていて、いろいろな問題が起きてると思うんですけども、なかなかそれだけでもないと思うんですよね。
別にドイツとかフランスが「イギリスの会社のワクチンだから気に入らんから嫌がらせしたろ」と言ったというような単純な問題でもないです。
峰先生がご指摘いただいた通り、実際に私も今のところ全ての新型コロナウイルスワクチンの第Ⅲ相試験の論文を読んでいるんですが、Lancetという雑誌に掲載されたアストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンの論文だけは正直…ちょっとよく分からんのです。
プロトコールが複数あって、各プロトコールによって示された有効性を統合して一つのデータを出してみたり、一方のプロトコールの数値をいろいろ報告してみたりとか、どう解釈したらいいのかこっちでも悩む、みたいなところが結構あって、そういったところもEUの国々の不信感の一端を担っているのではないか、という気は確かにします。
ただ、サイエンスはサイエンスなので、峰先生が仰った通り、少なくともアメリカの基準である「50%以上の有効性」というのはおそらく間違いないと思いますし、安全性に関してはどの国で行われたアストラゼネカの臨床試験でも特別の懸念はありません。
一時、横断性脊髄炎というものが出て、ワクチンが原因かどうか調べるということをやっていた時期もあったんですけれども、それも専門家の評価が終わって、おそらくそれは関係がないだろうという結論になりました。
このような状況で決定を覆すというのもちょっとどうかなとは思います。
まずは明日のEMAの決定を待つという形になるのかなと私も思っております。

先ほど「アメリカで承認される」というニュースもありましたけど、実はカナダも「65歳以下に使う」というニュースが今日入ってきたということで、今日はアストラゼネカのニュースが非常に多いんです。
ポジティブなニュースとネガティブなニュースが同時に来たという感じかと思います。

他の先生方、いかがでしょうか?


岡田玲緒奈
「副反応の頻度とかそんなに高くないのに、どうしちゃったの?なんで止めちゃったの?」という感じはありまして、日本だけではなくて世界でもこういうことがあるんだなぁ、勉強になるなぁと思って見ています。
峰先生からかなり詳しく教えていただいて、どういった社会的背景があるのかというところもよくわかりました。
それは脇に置いても、新しい技術に対する全体的な不安感というのが根底にはあるのかなという気がしています。
日本にもこれからアストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンも入ってきます。
前もっていろんなことを多くの人に知っていただいて、こういう「背景の頻度を考えるんだよ」という知識を皆さんに知っていただいて、少しでも安心した形で、新しいものが入ってくるように準備をしたいなぁと思っております。

木下喬弘
ありがとうございます。
ご指摘の通りかと思います。
日本でも実際HPVワクチンで同じようなことが起きているわけですけれども、海外でもこのような形で一時中断ということが起こるんですね。
はっきり言って、「500万接種の中の33回の血栓症で新型コロナウイルスワクチン接種が中断となると、全部のワクチンが無理やで!」ってなると思うんですが、なかなか冷静な判断は難しいですね。

ですが、いろんな新技術に対する不安からなのか、政治的な判断なのか…あまりちょっと言いたくないですけれども、いろいろな要素があって、こういうことになり得るということは、我々も注意しておかないといけない、という岡田先生からのコメントかなと思いました。

久米隼人氏
今日は皆さんの説明を聞いて、アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンと血栓症との関係が確立されたものではないという話だったので、すごく安心しました。
行政をやっている立場としては、日本で朝のニュースから「アストラゼネカの新型コロナウイルスワクチンの安全性が問題なんじゃないか」という報道がどんどん出てきてしまうとすごく心配なので、今日ここで聞かれている皆さんはしっかり正しい情報を取捨選択していただきたいです。
それからフランスやドイツなどが今回は科学的見地に基づいた行動だったかという点は疑問だった、という話になっていますけど、ただ、彼らの思う「科学」に基づいていろいろとやり方を、右に行ったり左に行ったりと変えているわけですよね。
これをもし日本でやろうとするとよく「この間こう言ったのに、なんでこうするんだ」といったことになりがちなのですが、科学に、特に最新の科学に基づいて政策は決定されていくというのは定石です。
変わってしまうことがある、ということは分かっておいていただけるといいなと思いました。

木下喬弘
ありがとうございます。
これもまた大事なポイントだと思います。
例えばマスクとかも、去年の2月頃に「マスクの着用にはエビデンスがない」といった専門家がいました。
これは実際に正しくて、あの時点ではまだ十分なエビデンスがなかったんですね。
そこから色んな研究が行われて、みんなマスクをした方がいいだろうということになったんです。
このように、科学に基づいた推奨も研究結果の更新によって変わりうるということは、非常に大切なポイントかと思います。

私が個人的に絶対わかっておかないといけないと思うことは、一時中断してもいいんですけど、再開のルールをちゃんと決めておくのはめちゃくちゃ重要ということなんです。
フランスのマクロン大統領が「明日のEMAの話を聞いて決める」と言っていますが、「どういう風に再開する」と決めてから中断するということが非常に重要です。
EMAとしてこの時点で「データとして危ない」と言えるとは到底思えないです。
少なくとも他のデータを持っていない限り、現時点で「危険」という判断になるわけがないので、おそらく明日再開するという話になるんだと思うんですが。
日本のHPVワクチンの問題みたいに長々とだらだら続くようにしないで欲しいとは思います。
中断したまま8年放っておくみたいなのは最悪なので、中断するときは再開の基準を決めるというのはめちゃくちゃ重要なことかなと思っています。

他の先生方、どうでしょうか?

池田早希
そうですね、先生のおっしゃる通りで、あとは中断することによって「このワクチンは安全ではないんだ」ってそういう誤ったメッセージを送ってしまう、ということは懸念しています。
それによって接種をできなかった人たちはたくさんいますので、遅れることによって救えなかった命もたくさんあると思います。
本当にこういう判断は皆さんが仰るように、バックグラウンドの頻度と比較してちゃんと科学的評価ができるシステムがあることが重要であると思いました。

木下喬弘
はい、ありがとうございます。
それもまた重要なご指摘かと思います。
やはりニュースで各社今朝報じるんだと思います。
当然報じるべきだと思うんですけども、例えばフランスが明日EMAの推奨に従って再開したというのであれば、それもまた同じトーンで報じていただくことが重要かなと私は思っています。
本当に徹底的に科学的に正確な情報を報道に伝えていただくということが本当に大事かなと私は思っています。

どうでしょう、今日は久しぶりに若干まじめな感じでいったんですけれども…
黑川先生、お願いします。

黑川友哉
おはようございます。
今日ちょっと遅く入ってすみませんでした。
こびナビの事務局長やっています、黑川といいます。

血栓症のお話、前半聞き逃しちゃったんですけれども、規制当局って世界各国にあって、日本だとPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構、Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)とか厚生労働省、アメリカだとFDA(Food and Drug Administration、アメリカ食品医薬品局)、ヨーロッパだと今お話にあったEMA(欧州医薬品庁)というところがそういった薬事のことを取りまとめています。
もちろんそれ以外の国にも医薬品の薬事をやっている規制当局というものはあって、世界中で情報交換を密にやっているんですよね。
日本も定期的に、FDAやEMAと電話会議みたいなものをやっていて現時点で共有できるような情報を常に共有しながら、世界中でドラッグ・ラグをできるだけなくすために規制の考え方にあまりにも大きな違いが出ることをなくそうね、というような話し合いを常にしているということを知っておいていただいてもいいのかなと思っています。
今回の中止っていうのは「ちょっと一旦待って」という状態なのかなと思っていて、いま世界各国の規制当局が「私たちの国ではそういう報告はありませんよ」とか、そういった情報を集めているような状況だと思うので、明日のEMAのお話も、比較的冷静な判断がされるのかなと私は個人的には予想しています。

木下喬弘
ありがとうございます。
なかなかあれですね、科学的にもなんとも盛り上がる余地がないですし、明日のEMAの判断次第というところで、これ以上議論するところもこれ以上ないかなと思っています。
すでにWHOが先制パンチをして「明らかに多くないでしょう」といったことを言っています。
その上、黑川先生にご指摘いただいた通り、各国では情報交換をしているということから、きっと「明らかに多くないでしょう」という方向性になるんではないかと思います。
もちろんそうならないかもしれないので、明日のEMAの報告をもって、明日もこびナビではしっかりどういう風な判断に欧州各国がなったかをお伝えしようと思っています。

それでは、本日のお話はここまでに致します。
ご参加いただいた皆さん、どうもありがとうございました。
それでは日本の皆さん、良い一日をお過ごしください。


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