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嫁と味覚の秋

朝起きると嫁が栗を煮ていた。
ぐつぐつと。

「・・・なに?どうしたの、この栗」

「秋だからね」

「はい?」

「栗ごはんを作ろうかと思って」

「!!おおっ」

「好きでしょ?栗ごはん」

「大好きです!」

「それにしてもさー、覚えてないの?」

「・・・ん?何を?」

「私、昨日栗ごはん作るって言ったじゃない」

「・・・そうだっけ?いや、言ったかな」

「言ったよ。ほら、昆布で出汁をとるとか」

「あー、言ってたような。昆布見つかった?」

「いや、昆布切らしてた」

「なんだって。じゃあ、買ってくる?」

「いや、今回は昆布ナシで作ってみるよ」

「マジですか。大丈夫なんですか」

「私を誰だと思っているんだ?」

「野良ちいかわ?」

「栗ごはんはいらないようだね」

「嘘です嘘です料理の鉄人嫁様です」

「わかればいいのだよ」

「ところで、栗ごはん、朝に食べれるの?」

「・・・ちょっとそこに座りなさい」

「へい」

「今!栗を!煮てるでしょう!?」

「へい」

「既に!お釜に!ごはん炊いてあるよね!?」

「へい」

「これからどうやって栗ご飯作るっていうの!」

「へい。すんません」

「お昼かな。お昼には出来るから。栗ごはん」

「ふーん。栗ってけっこう煮るもんなんだね」

「うん。栗の硬い皮の底に傷入れとくといいんだ」

「マジ?この煮てる栗全部に傷入れてあるの?」

「いやーそれが入れてないんだ。忘れてて」

「・・・いいの?それで」

「大丈夫でしょう。なんとかなるよ」

「まあ、嫁ちゃんが作るといつも美味いからね」

「まかせておきたまえ」

「あれ?じゃあこのお釜のごはん、昼までに…」

「そう。空(カラ)にしなきゃならないよ」

「えっ、じゃあ朝から爆量ごはん大会?」

「休みだしいいじゃん。肉と魚どっちがいい?」

「えっ、魚が食べたい」

「じゃ、アジを焼くけど、いいよね」

「食べたいっす!」

「あと茄子の味噌田楽と、きんぴらごぼうと」

「おお!おお!」

「特盛あおさ汁でどうだ」

「最高っす!」

「アイスコーヒーでも作って待ってなさい」

「了解っす!」

「いやー今日は作るものいっぱいだ」

「朝からめちゃ豪勢だもんね」

「買いすぎたシーフードミックスを消費したい」

「ああ、三袋も入ってたね。何作るの?」

「エビを追加してエビチリなんかどうかな」

「さいっっこうじゃないですか!」

「美味しいもんね。うひひ」

「味覚の秋やばいね。また太っちまうな」

「散歩してカロリー落とせば大丈夫でしょ」

「・・・ところでさあ」

「なに?」

「嫁ちゃん、栗食べられないじゃない」

「うん」

「それでも毎年栗ごはん作ってくれるんだね」

「まあね」

「すごくありがたいけど、なんで?」

「なんで、って?」

「嫁ちゃんが食べられないっていうのに
なんで美味しく作ってくれるの?って」

「はあ」

「いやぼくは嬉しいよ。ありがたいよ」

「それはね」

「うん」

「美味しいって食べてくれるからだよ。
言わせんな恥ずかしい」

洗い物をより一層完璧にやり遂げる。
そう思いなおした秋の朝でした。


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