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男性の筋肉について 〜筋肉質な男性はモテるのか?〜

はじめに


 ジェンダー平等の必要性が叫ばれて等しい。特に日本は男女格差が大きい国とされており、国連開発計画(United Nations Development Programme, UNDP)が発表している「ジェンダー不平等指数(Gender Inequality Index)」において日本は191か国中22位(2021年)という順位に甘んじている。

https://hdr.undp.org/data-center/thematic-composite-indices/gender-inequality-index#/indicies/GII

 このような状況の中で、「男らしさ/女らしさ」といった規範から降りようという風潮が強くなっている。「女性なら〇〇であるべき」といった言説は厳しく批判されてきたが、最近では「男性なら~であるべき」といった言説についても見直しがなされている。


 まあ、とは言えなかなか「降りる」ことが難しい「男らしさ」も存在する。それは「身体的な男らしさ」である。ということで、今回は身体的な男らしさの象徴とも言える「筋肉」について考えていこう。

 

筋肉について


 好むと好まざるにかかわらず、男性と女性の身体は様々な点において異なる。身長などはその例であるが、他にも性差が指摘されている特徴がある。それは「筋肉」だ。


男性は女性よりも筋肉量が多い


 LassekとGaulinがアメリカの全国健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey, NHANES)のデータを分析した研究では、筋肉量の性差について検討されている。その結果は下記の表の通り。

Lassek & Gaulin (2009)より筆者作成

 見て頂くと分かると思うが、男性は女性よりも筋肉量が多い傾向にあるのが分かるだろう。ちなみに、効果量dは差の大きさを表す指標で、d = 0.2が「小さな効果量」、d = 0.5が「中程度の効果量」、d = 0.8が「大きな効果量」とされている(Cohen 1992)。これを踏まえると、筋肉量の性差は大きいと言える

 また、筋肉量の増加とテストステロンが関連していることも分かっており(Griggs 1989)、こうしたことを踏まえると、より筋肉質であることは男性的な特徴であると考えられる。


筋肉質な男性はモテるのか


 
 さて、ここからが本題だ。筋肉質であることは「男性的」な特徴であるが、筋肉質な男性は「モテる」と言われることがある。しかし、男性の筋肉について真面目に議論されることは多くない。例えばTwitter男女論界隈においてよく議論されるのは収入であり、他にはコミュ力などが議論されているが、男性の筋肉はモテと関連するのだろうか?

 実は筋肉とモテ(魅力?)との関係については色々研究がなされており、様々な知見が得られている。ここで簡単に紹介していこう。


①適度な筋肉量が一番魅力的?


 FrederickとHaseltonは、より筋肉のある男性がどのように評価されるのか、ということに関する研究を行った。研究では、筋肉質さや体格が異なる6人の男性のCGを用意し、女性にその男性を評価してもらった。6人の男性CGの特徴は以下の通り。

・筋肉質で小柄な男性(Toned)
・筋肉質で中柄な男性(Built)
・筋肉質で大柄な男性(Brawny)
・筋肉質でなく小柄な男性(Slender)
・筋肉質でなく中柄な男性(Typical)
・筋肉質でなく大柄な男性(Chubby)

 さて、結果はどのようになっただろうか。下記のグラフがその結果を示している。


Frederick & Haselton (2007)

 まず分かりやすい項目として、"Physical Dominance"の部分を見てみよう。この項目はここでは「他の男性にとって威圧的か?」ということを表している。
 見て頂くと分かると思うが、筋肉質な男性(Brauny,Built,Toned)は、筋肉質でない男性(Slender,Typical,Chubby)と比べ、Physical Dominanceの項目で高く評価されている。このことは、女性は筋肉質な男性を、そうでない男性と比べ「他の男性にとって威圧的」と考えていることを示唆している。なお、筋肉質な男性の中では、体格の大きい方がPhysical Dominanceの項目における評価は高い。強そうな男性がこの項目で高評価を得ることは、直感的に考えても分かりやすいだろう。
 
 同様にして、"Commitment"、"Volatility"の項目も見てみよう。"Commitment"の項目は、ここでは「女性パートナーに対し献身的であるか」ということを表している。結果としては、筋肉質な男性は筋肉質でない男性よりも献身的でないと評価されているようだ。また、"Volatility"の項目は「怒りっぽいか、虐待的であるか」ということを表しており、筋肉質な男性は筋肉質でない男性と比べ、女性から「怒りっぽい、虐待的である」といった評価をされやすいようだ。

 では、筋肉質な男性は女性から魅力的であると判断されるのか、ということについてはどうであろうか。上のグラフの"Sexual Desirability"に注目してみよう。この項目は、「どの程度性的に魅力的か」ということを表している。
 グラフを見ると、筋肉質な男性は筋肉質でない男性と比べ性的魅力において高く評価されていることが分かるが、筋肉質な男性の中で比較してみると、他の項目とは傾向が異なっている。例えば"Physical Dominance(他の男性にとって威圧的か)"と言う項目では、筋肉質で体格が大きい(Brauny)男性が最も高い評価を受けていたが、"Sexual Desirability(性的魅力)"の項目では筋肉質で体格の大きい男性(Brauny)の評価は(筋肉質な男性の中では)低かった。このことは、性的魅力に関しては、筋肉質で大柄すぎると女性からの評価が下がってしまう可能性を示唆している

※とはいえ上のグラフを見ると分かるが、筋肉質で大柄な男性(Brawny)と他の筋肉質な男性との間で大きな違いがあるわけではない。また、筋肉質で小柄な男性(Toned)との差は有意ではないので注意。

 また、FrederickとHaseltonが次に行った研究では、女性が魅力的だと感じるのは適度な筋肉量の男性であることが分かっている。この研究では、筋肉質度合いが異なる8枚の男性の絵を女性参加者に見せ、その魅力を評価してもらった。その結果は下のグラフの通り。


Frederick & Haselton (2007)

 

※グラフの縦軸は女性による男性の魅力評価、横軸は男性の写真の筋肉質レベルを表している(右がより筋肉質)。

 グラフを見ると分かる通り、中程度に筋肉質な男性は、筋肉質レベルが低い男性と比べ女性から魅力的であると評価されるものの、筋肉質レベルが中程度以上になると魅力評価が低下していくようだ。グラフの形はいわば「逆U字型」になっており、筋肉が極端にない男性や極端に筋肉がある男性の評価は低くなっている。

 FrederickとHaseltonの結果をまとめると、女性から最も魅力的であると評価されるのは「適度」に筋肉質な男性であるということが言えるだろう。筋肉質であっても体格が大きすぎたり、筋肉が付きすぎている男性は、適度に筋肉質な男性よりも評価は下がる。


②より筋肉質な男性が魅力的?



 先に紹介したFrederickとHaseltonの研究では、「適度な筋肉量の男性が一番魅力的」ということが分かっていた。しかし、実は異なる研究結果もある。

 Sellらは、参加者に実在する男性の筋力・魅力を評価してもらうという研究を行った。評価対象となった男性は、事前に実際の筋力や身長、体重を測定していた。

 研究の結果、最も上半身の筋力が強いと推測された男性が最も魅力的であると評価され、最も筋力が弱いと推測された男性が最も魅力的でないと評価されることがわかった。なお、参加者による男性の筋力の推測は、実際の男性の筋力を良く予測していた。
※参加者には男女どちらも含まれていたが、男女で評価の違いは見られなかった。

男性の上半身の筋力評価と魅力評価の関係は下の図を参照。縦軸が魅力評価、横軸が筋力評価である(3つあるのは3種類の写真を使用したため)


Sell et al (2017)

 グラフを見ると、男性の筋力と魅力との関係は、先に紹介したFrederickとHaseltonの研究で示されていたような「逆U字」型はなく、直線型であることが分かる。より正式な分析においても、筋力と魅力との関係が「逆U字型」である根拠は確認されなかった。

 FrederickとHaseltonの研究結果とSellらの研究結果の違いをまとめると次のようになる。

・Frederick & Haselton(2007)
→男性の筋肉レベルと魅力との関係は逆U字型(中程度の筋肉レベルが最も魅力的)
・Sell et al (2017)
→男性の筋肉レベルと魅力の関係は直線型(筋肉レベルが高まるにつれ魅力が高まる)

 なぜこのような違いが生じたのか?これはSellらが指摘していることであるが、実は二つの研究には方法論的な違いがあるのだ。より具体的には、Sellらの研究では、評価対象として実在する男性の写真を使っていたのに対し、FrederickとHaseltonの研究で使われたのは男性のCGや絵であった。Sellらは、FrederickとHaseltonの研究ではCGや絵で男性を作り出している故に、通常の人間の筋肉レベルを超えたマッチョマンをつくり出してしまったのではないかと指摘している。これを検証するためにはさらなる研究が必要だろうが、確かに誇張されすぎた特徴は望ましくないと評価されてしまうことは十分にあり得ることではある。



③体のバランスが重要?



 ①と②で紹介した研究では、男性の身体にどのくらいの筋肉があるか、ということに着目していた。しかし、単なる筋肉量や筋力だけでなく、体のバランスを考慮することも重要であるかも知れない。Maiseyらの研究では、胸が筋肉質でウェストが引き締まっている男性ほど女性から魅力的であると評価されやすいことが分かっている。この研究では、”WCR(Waist to Chest Ratio)”という指標が使われており、WCRが低い男性ほど「胸が筋肉質でウエストが引き締まっている」状態であると言える。

下のグラフはこの結果を示している。
※横軸がWCR、縦軸が魅力を表している。


Maisey et al (1999)  

 
 後年行われた研究でも同様のことが分かっている。 Garzaらの研究では、女性はWCRが高い男性と比べ、低い男性を最も魅力的であると評価することが分かっている。この研究で最も魅力的であると評価されたのはWCRが0.7の男性であり、これは上のMaiseyらの研究とも一致する。


④実際のところ筋肉質な男性はモテているのか?


 
ここまで、男性の筋肉と魅力との関係を示してきたが、実際に筋肉質な男性は多くの女性と関係を持っていることが示唆されている。先ほど紹介したFrederickとHaseltonの研究(研究4~6)では、より筋肉質な男性は過去に多くの性的パートナーがいたことが分かっている。さらに、これも先ほど紹介した研究だが、LassekとGaulinの研究では、除脂肪量が多い男性ほど過去の性的パートナー数が多く、四肢筋量が多い男性ほど過去1年間の性的パートナー数が多いことが分かっている。

まとめ



 男性の筋肉についてまとめると、まず男性が女性と比べ筋肉量が多い傾向にあるということが言える。そして、筋肉質な男性はモテるのかということについては研究によって異なる部分はあるものの、少なくとも適度に筋肉質な男性は女性から魅力的であると評価されやすいということ自体は言えるだろう。また、実在の男性を用いた研究で「筋力が高い男性ほど魅力的であると評価される」という結果が出ていることなどを踏まえると、基本的には「筋肉質な男性は魅力的」と考えてよいのではないかとも思われる。さらに、筋肉量などだけではなく、体格のバランスなどの要因も考慮する必要があるかもしれない。

 しかし、なぜ筋肉質な男性はモテるのだろうか?これについては次章で検討していこう。

※長くなるので、時間がないときには、ひとまずここまで読んで「終わりに」に飛んでもらっても構わない。時間が許せば、是非この先も読んで頂けると嬉しい。



なぜ筋肉質な男性はモテるのか?


 前章では、筋肉質な男性はモテる、という話をしてきた。結論としては、人間としてヤバいレベルはともかく、筋肉質な男性はより女性から魅力的であると評価され、実際に多くの女性と関係を持っているようだ。

 では、なぜ筋肉質な男性はモテるのだろうか?これについては様々な可能性が考えられ、どうしても仮説レベルになってしまうのだが、せっかくなので考えてみよう。


筋肉質の男性は「女性を守れる」説



 インターネットで「男性 筋肉 なぜモテる」などといったワードで検索をかけると、次のような記事が出てくる。

筋肉質の男性は女性にとって守ってもらえそうな「安心感」を感じる女性が多いと言われています。また、人間のDNAに刻み込まれた「自分にないものに魅力を感じる本能」も、女性が筋肉質な男性に魅力を感じる理由の1つです。

https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/202205090025-spnavido

 なるほど、筋肉質な男性は女性を守れると感じられるということ、人間は「自分にないものに魅力を感じる」ということが、女性が筋肉質な男性に魅力を感じる理由であると・・・。
 
 申し訳ないのだが、「自分にないものに魅力を感じる」というのは正直良く分からないのであまり検討しないことにするが、守ってもらえそうな安心感というのはある程度は当たっていると思われる。実際、「愛する人を守る能力」が男性のWCRの低さと魅力の関係を説明する一つの要因であると指摘する研究もある。

 しかし、「愛する人を守る能力」だけで筋肉質な男性の魅力を説明することは難しい。先ほど紹介したFrederickとHaseltonの研究では、女性は筋肉質の男性を、そうでない男性よりも「怒りっぽい」「パートナーに対し献身的でない」と評価していた。このことから、女性は筋肉質の男性と交際する上での「リスク」をある程度認識していることが分かる。それにも関わらず、女性が筋肉質の男性に魅力を感じるのは、「守ってくれそう」だけでは説明がつかないのではないだろうか?

 では、女性が筋肉質な男性を好むのには、他にどのような理由が考えられるだろうか。



筋肉質の男性は「競争に有利だった」説


 ここで提示するのは、女性が筋肉質の男性を好むのは、筋肉質の男性が「競争に有利」であったからかもしれないという説だ。これは一体どういうことだろうか?

 この説は、なぜ男性が女性よりも筋肉質なのか?という部分と関わってくる。というのも、男性が女性よりも筋肉質な理由として、競争という要因が指摘されているのだ。この辺りは、パンチ能力の男女差について研究したMorrisらの研究論文でよく説明されている。

多くの種において、オスの交尾機会は戦闘能力やオス同士の争いにおける能力によって決定される(Andersson, 1994; Darwin, 1871)。このため、体格、武器の大きさ(犬歯など)、相手を操ったり傷つけたりする能力を高める筋骨格系の特徴(例:Clutton-Brock, 1985; Crook, 1972; Morris and Brandt, 2014; Morris and Carrier, 2016; Morris et al., 2019; Plavcan, 2001; Plavcan and van Schaik, 1992, 1997)などの戦闘能力を向上させる特徴において、オスに偏った性的二型が進化してきた。哺乳類や霊長類の多くの群において、戦闘関連形質の二型性の程度は、オスの戦闘能力に対する性淘汰の強さを示す一般的な指標である(Clutton-Brockら、1977;Mitani et al.,1996;Plavcan,1999、2004;Plavcan and Van Schaik,1997;Puts,2010,2016)。

Morris et al (2020)より

 他の生物を見渡すと、メスを巡ってオス同士が争うというのはかなり頻繁に目にする光景だ。筆者は小学校時代カブトムシが好きだったのだが、カブトムシがツノを使って争うのはまさにメスを巡るオス同士の争いである。

(ゴリラみたいな霊長類はオス同士の戦いが激しく、それに対応した体格が進化しているという話をしているが、長くなるので省略)

他の大型類人猿と同様に、ヒトの男性も頻繁に戦闘を行い、戦闘は非常に有害または致死的である場合がある(Adams, 1983; Chagnon, 1988; Daly and Wilson, 1988; Keeley, 1996; Puts, 2010; Wrangham and Peterson, 1996)。男性は女性よりも除脂肪量が41%多く、腕の筋肉量が75%多く、その結果上半身の筋力が90%高い(脚の筋肉量は50%多く、筋力は65%高い、Lassek and Gaulin, 2009)。ヒトの上半身の性的二型が大きいのは、男性同士の競争におけるパフォーマンス向上に対して性淘汰が働いた結果であるかも知れない(Carrier, 2011; Lassek and Gaulin, 2009; Morgan and Carrier, 2013; Puts, 2010)。

Morris et al (2020)より

  ヒトの男性も頻繁に争いに従事するというのも事実だろう。例えばChagnonが実施したヤノマミ族に関する研究では、ヤノマミ族ではしばしば「女性」に関する争いが発生すると指摘されている。また人類の歴史においては様々な争いが存在し、その多くは男性によるものだ。さらに先史時代にも争いは存在したとみられており、Crevecoeurらがジェベル・サハバ墓地(1万3400年前の墓地遺跡)の再分析を行った研究では、後期更新世の狩猟漁労採集民が小規模な紛争を繰り返していたことが示唆されている。

 特に上半身の筋肉が発達している男性は、身体的な競争において優位に立てた可能性が高い。そうした男性はパンチにおいて強さを発揮していたかも知れず(Morrisらはそう指摘している)、相手を抑えることにおいても有利だったかもしれない。さらに、仮に相手の打撃を受けたとしても、筋肉が発達していればある程度はダメージを抑えることもできたと考えられる。

 人間の進化の歴史において、身体的に強い男性は競争相手を傷つけたり威圧することによって、競争相手を排除することができただろう。そうなれば優先的に生殖の機会を得ることができ、自らの遺伝子を継承する際に有利になる(逆に、身体的に弱い男性は自らの遺伝子を残すことに関しては不利になる)。こうして、身体的な争いにおいて有利な特徴が男性に備わっていき、結果として女性よりも筋肉質になったのではないか。


 ここまで「男性が筋肉質になった理由」について検討してきたが、簡単にまとめると「筋肉質の男性は強いから生殖の機会を得やすかっただろう」ということになる。そして、これを踏まえると、なぜ女性が筋肉質な男性に魅力を感じるのかということについてもある程度予測できる。

 男性同士の競争に強く、競争相手を排除し多くの女性と関係を持つことができる男性は、人類の心が進化した時代においてはより多くの子どもを持つことができただろう。そして女性は、そうした男性との子を産むことで自身の遺伝子を伝えやすくなるかも知れない。特に、競争に強い男性の遺伝子を引き継いだ男子が誕生し、その男子に父親と同様の特徴が現れた場合、その男児も他の男性との競争に強くなり、子孫を残しやすくなる可能性が高まるだろう。従って、競争における強さを示す特徴(筋肉など)を持つ男性に性的魅力を感じる女性は、自身の遺伝子を後世に伝えることにおいてより有利になったと考えられる。こうしたことは、いわゆる「セクシーな息子仮説」という説から予測することができる。

 ※なお筋肉は遺伝の影響を一定程度受けると考えられており、膳法らの研究では筋力の遺伝率は52%と推定されている。

 筋肉質な男性がモテるのは、筋肉質な男性は「競争に有利だったから」説をまとめると、次のようになる。

・人類の進化の歴史において、筋肉質な男性は競争に有利で、より生殖の機会を得やすかった
・女性は、子孫を残しやすい男性と関係を持つことで自身の遺伝的利益を確保できた
・上記のような背景から、女性の中に筋肉質な男性に魅力を感じるような心理が進化した

  


余談①男性の競争力と魅力


 女性が筋肉質な男性に魅力を感じるようになったのは、筋肉質な男性は競争に強かったためではないかという話をしたが、そうであれば男性の競争力それ自体も女性にとっては魅力的なのではないか?

 実際、女性は男性の競争力それ自体にも魅力を感じやすいことが示唆されている。例えばSnyderらの研究では、女性はスポーツの文脈において支配的な男性(競争心が強く心理的に相手を支配することができる男性)をより魅力的であると感じることが分かっている。他方、女性はスポーツ以外の文脈(論争)においては、支配的な男性を魅力的であるとは評価しなかった。下記のグラフはこの結果を示している。


Snyder et al (2008)


 また、BrewerとHowarthの研究によると、女性は「競争的で攻撃的なスポーツ」に従事する男性を、「魅力的であるか・デートをしたいか・性的関係を持ちたいか・長期的な関係を持ちたいか・結婚したいか・(その人と)子どもを持ちたいか」ということにおいて高く評価していた。下のグラフはこの結果を表している。


Brewer & Howarth (2012)


 さらに、スポーツだけでなく、「戦闘」における強さも男性の魅力と関係していることが指摘されている。Ruschらの研究では、戦闘において勲章を獲得した男性兵士は、女性からより魅力的であると評価される可能性が示唆された。下記のグラフはこの結果を示している。

※縦軸は性的魅力を表す。横軸の"No war"は「戦地に赴いたことのない男性兵士」、"War"は「戦地に赴き帰還した男性兵士」、"War with heroism"は「戦地に赴き帰還し、勲章を授与された男性兵士」を表している。


Rusch et al (2015)

 
 こうしたことを踏まえると、男性の「強さ」は女性から魅力的であると評価される上で重要な要素であることが考えられる。筋肉はその「強さ」の手掛かりの一つなのだろう。


余談②必ずしも「戦う」必要はない


 男性の筋肉について「競争力」という要因を強調したが、恐らく進化の歴史において常に「戦い」が生じていたわけではないと考えられる。というのも、戦いにはリスクがつきものであり、当然命のリスクというのも生じてくるためだ。従って、戦う前から結果が分かっているような場合、例えば相手の体格が自分と比べ明らかに大きい場合などは、むやみに戦わず場を去るのが賢明だ。こういうケースでは体格の大きい男性が「不戦勝」となり、メスも彼を相手として選択するだろう。
 
 こうしたことは他の生物でも観察されている。主に北極海に生息する哺乳類のイッカクは、オスが長いツノ(に見えるが実際は牙)を持っていることで知られており、しばしばこのツノを他のオスに対する武器として使用する。しかし、イッカクのオスが常に戦っているかというとそうではない。イッカクのオスの間には、互いの牙の長さを誇示し合うという「儀式」が存在する。この「儀式」は、本格的な争いが生じる前に相手の戦闘能力を見極め、コストのかかる争いを避ける役割があるのではないかと指摘されている。

 下記の図はオスがメスの前で自身のツノを誇示し合う様子を表している。


Graham et al (2020)より

 とは言え、イッカクのオスの成獣には頭部にかなりの傷があることが分かっており、それなりに争いは起きているようだ。「儀式」によって互いの牙の長さが明らかに異なることが分かった場合は戦いは発生しにくいが、牙の長さが同じくらいであった場合は戦いになりやすいのかも知れない。

 


その他の説明

 

 他にも、人類がその大半を過ごした狩猟採集社会においては、筋力は狩猟の成功とも関わっていたかもしれない。アトラトル(槍を投げる道具)のような便利な道具が開発される前は、特に狩猟における筋肉の重要性は高かったであろう。ちなみに、タンザニアのハッザ族を対象に行った研究では、上半身の筋肉が強い男性は女性からハンターとして高い評価を受けている。

 そして、より優秀なハンターの子は、栄養状態が良いため筋肉が発達しやすかった可能性もある。ハッザ族に関する研究では、最も優秀なハンターの家族は、優秀でないハンターの家族と比べ約3~4倍のカロリーを一日当たりに消費していることが分かった。下のグラフはこの結果を表している。優秀なハンターの家族は、特に大型動物の肉(Large Games)を多く消費できるようだ。

※狩猟で得た肉は成員に分配され、家族が消費する食料は分配後のものである。実際にコミュニティに持ち込む量に関しては、最も優秀なハンターは最も優秀でないハンターと比べ12.3倍のカロリーを持ち込んでいた。

Wood & Marlowe (2013)


 筋肉に関しては先ほど遺伝の影響を強く受けると述べたが、環境要因も無視できない。特に、筋肉の発達においてはタンパク質が重要な役割を果たすが、狩猟採集社会における主なタンパク源は動物の肉だ。従って、優秀なハンターの家の子は、よりタンパク質を摂取しやすく、筋肉を発達させやすかったのかもしれない。進化の歴史において、男性の筋肉は「コミュニティ内の社会的地位が高い家庭で育った」ことを示すシグナルとして機能し、それによって女性からの魅力を高めることができたのではないか。

 ちなみに、現代の文明社会においても社会的地位の高い親の子は筋肉量が多いことが示唆されている。Tianらの研究では、中国の大学生において、家庭の社会経済的地位が高い大学生はより骨格筋量が多いことが分かっている。


終わりに


 今回は男性の筋肉について検討してきた。筋肉質な男性は女性にモテる。そうなれば、男性がとるべき行動は一つ。








肉を食べよう。











 




 




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