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「女性は奢られたくないが、男性が奢りたがっている」という見解について

はじめに


 デートにおける費用負担の話題は定期的にTwitterで話題になるが、その中でこのような意見が提示されることがある。



https://news.yahoo.co.jp/articles/828bf46991b646dd481e3f7f6ae2a55d059fd9c8へのコメントから抜粋


 簡単に言えば、「デートで奢るべきと考える割合は男性の方が高く、女性はさほど奢られたいとは考えていない」ということになる。「デート費用負担は男性がしたくてしているだけ」という風にも言えるだろう。

 確かに、(後述するが)その他のデータでも「デート費用は男性が負担すべき」と考える割合は男性の方が高いことが分かっている。しかし、このことをもって「女性は奢られたがっていない」と言えるのだろうか?


内閣府「性別による無意識の思い込み (アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究(令和3年)」の検討



 まず、冒頭で引用した荒川氏のコメント内で触れられていた、内閣府の「性別による無意識の思い込み (アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究(令和3年)」について検討してみよう。


https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/seibetsu_r03.html  赤線は筆者による


 これを見ると、「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」という規範意識に対して「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と考えている人の割合は、男性で37.3%、女性で22.1%と、確かに男女差があることが分かる。このことから、デートの費用負担に関する性別役割意識については男性の方が支持している、ということが言えるだろう。

 では、この結果から「女性は奢られたくない」と解釈するのは妥当だろうか?

 「~すべき」という言葉は、辞書的には次のような意味とされている。


※Oxford Languagesによる定義


 勿論人々が辞書的な意味合いを意識して使用しているとは限らないが、「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」という言葉は「男性が負担して当然である/男性が負担しなくてはならない」という意味合いであると考えるのが妥当だろう。言ってしまえば、これは「道理」や「規範」といったものだろう。

 他方、「奢りたい/奢られたい」というのは個人の「願望」である。一般的に従うべきとされる「道理」や「規範」とは異なるものだ。

 例えば「男性が女性を誘った場合、女性はそれに応じるべきだ」という規範を想定してみよう。誘いというのは食事でも性行為でもいい。
 
 これについて厳密に統計を取った訳ではないので「根拠がない」と言われればそれまでなのだが、現代社会でこうした考えを持つ人はあまり多くないだろう。現代社会は女性の自由が重要視される社会であり、そうした社会を生きる人にとっては「女性は男性の誘いに応じて当然」という意見には賛同できない人が多いのではないか。

 他方で、アンケート項目が「女性が誘いに応じてくれたら嬉しい」というものであったらどうだろうか?女性を誘う立場の人からすれば、相手の女性が誘いに応じてくれれば嬉しいという感情を持つ可能性は高いだろう。かと言って、そうした人が「女性は誘いに応じるべき」という時代錯誤な規範意識を持っているとは限らない。「誘いを断る自由はあって然るべきだが、誘いに応じてくれるなら嬉しい」ということも十分に考えられる(というかそうした人の方が多数派ではと個人的には思う)。

 他にも「~べき」と「~したい」が異なる例は考えられるだろう。例えば、「ダイエットのためには甘いものを控えるべきだ」という見解に同意する人であっても、「甘いものが嫌いだ」と考えているとは限らない。甘いものは好きだが、痩せるためには甘いものを控えなければ・・・という葛藤を抱えている人は少なくないだろう。

 デートの費用負担に関する質問でも同じことが言えるのではないか。つまり、「男性が費用を負担すべき」という規範については「今時そんな時代錯誤な・・・/個人の自由では?」といった考えを持つ人であっても、「あなたは男性に費用を負担してもらえたら嬉しいですか/あなたは費用を負担してくれる男性と交際したいですか」と聞かれれば「まあ私はその方が嬉しいかな」と答える可能性は考えられるということだ。「男性が負担すべき」という規範に同意しないということは、「負担して欲しい」という願望を持っていることを否定できるものではない。

 

デート費用負担に関するその他のデータの検討



 前章では、内閣府の「性別による無意識の思い込み (アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究(令和3年)」について検討してきた。この調査からは、男性の4割弱、女性の2割程度が「デートや食事の費用を男性が負担すべき」という規範にに対し同意していることが分かった。この章では、アメリカで行われた調査について報告する。

 

 Wuらは、アメリカの「ミレニアル世代」を対象に、デートにおける支払いについて調査を行った。この論文でも指摘されていることであるが、ミレニアル世代はそれまでの世代と比べ平等主義的な時代に育った世代である。そうした世代において、デートの費用負担はどのようになっているのだろうか。

結果は以下の表の通り。表の"Actual"の部分は実際の支払い行動に関する結果を表しており、"Expected"の部分は「費用負担に関する価値観(どちらが払うべきか、というもの)」を表す。

Wu et al.(2021)より。数字は%を示す


 この調査で興味深いのは、「初デート(First date)」と「2回目以降のデート(Subsequent dates)」を区別している点である。先に挙げた内閣府の調査ではこの区別はされていなかった。また、費用をどの程度負担すべきか(全額負担か、費用の大部分の負担か、割り勘か)が考慮されているのも興味深い。内閣府の調査では「どの程度」の部分は検討されていない。

 結果を見ていくと、初デートにおいては、男性の84.3%、女性の85.3%が「男性が全額払う」と回答している。つまり、初デートにおいては多くの場合男性が費用の全額を負担しているということになる。二回目以降のデートにおいては、「男性が全額払う」と回答しているのは男性の62.7%、女性の55.7%と、初デートよりは数値が小さくなっている。

 それでは、"Expected"の部分、つまり「どちらが払うべきか」ということについてはどうだろうか。表を見ると、男性の77.5%、女性の55.1%が「初デートにおいては男性が費用を全額負担すべき」と考えていることが分かる。「男性が費用の大半を負担すべき」を含めると、男性は93.4%、女性は71.6%となり、初デートにおいては男性の9割超、女性の7割程度が「費用負担は主に男性によるものであるべき」と考えていることが伺える。二回目以降デートについては、男性が費用を全額負担すべきと考えているのは男性で42.4%、女性で20.5%(「男性が大半を負担すべき」を含めると男性は75.0%、女性は44.0%)となり、こちらも数値が小さくなる。

 この結果から分かるのは、まずは初デートと二回目以降のデートでは大分勝手が異なるという点だ。実際の支払いについても支払いに関する価値観についても、初デートと二回目以降では数値に違いが見られる。が、いずれにしても男性の方が費用を多く支払っており、また支払うべきと考えているということは言えるだろう

 Wuらの調査は先に引用した内閣府の調査とは異なる国、年齢層を対象としているので比較は慎重であるべきだろう。他方、男女平等的な価値観に触れることが多かったと考えられる若年層において、性別役割規範(男性が費用を負担すべきという規範)が比較的強く見られたことは興味深い。また、男性がよりそうした規範を持っているという傾向も日本と共通している。

※ただしWuらの調査は男女の数が偏っているので注意が必要である。項目によっても若干異なるが、初デートの支払いに関する価値観の項目に回答したのは男性182名、女性322名である。

 とは言えこれもあくまで「規範」である。なぜそうした規範意識を持っているのか、という部分までは推測に頼るしかない。例えば男性がより性別役割意識にとらわれがちであると解釈することもできるし(フェミニストなどはそう解釈するだろう)、「本当は払ってほしいけどいつまでも払ってもらうのもな・・・」といった葛藤の末の結果であるかも知れない。いずれにせよ、願望の部分について検討するには他のデータが必要だろう。


 こうしたことを考える上で、Leverらがアメリカ人17,067人(男性8,549人、女性8,518人)を対象に行った調査は興味深い。この調査は先に引用したWuらの調査では検討されていない、ユニークな項目が多く使用されており、デート費用負担に関する価値観を考える上で有効であると考えられる。
 

 結果について検討していこう。多くの結果が報告されているが、ここでは一部のみ抜粋する(全文はこちらから確認できる)。なお男女の規範に基づき、男女で異なる質問に回答しているので注意(ただし、同様の項目もある)。

 まず、男性向けの項目として「最初の数回のデートの後は、女性は費用負担を手伝うべきだ」というものがあるが、これに同意したのは64%の男性であった。また、「女性がデートで勘定を払おうとすると困る」という項目に同意した男性は全体の35%であった。これらを踏まえると、多くの男性は女性がデートで財布を出すことにはあまり抵抗がないと考えられる。それどころか、複数回目のデートでは「女性も少しは負担すべき」と考えるべきと考える男性が多い

 次に女性向けの項目について検討しよう。女性向けの項目として「自分が費用負担を手伝うことを男性が受け入れてくれないと困る」という項目があるが、これに同意した女性の割合は全体の40%であった。つまり、単純計算では約60%の女性は「自分が費用を(一部)負担することを男性に断られても特に困らない」ということになる。

余談であるが、「自分の方が相手の男性よりも稼ぎが多い場合、自分が払うべき」という項目に同意した女性は全体の32%であるが、「相手の男性の方が自分より稼ぎが多い場合、相手が支払うべき」という項目に同意した女性は全体の51%であった。

 Leverらの調査からは、男性は「少しは払ってほしい」と考える人が多いことや、女性の多くは自分が(少し)払うという申し出を男性に断られても困らないということなどが示唆される。この結果を踏まえるのであれば、「男性が奢りたい/女性は奢られたくない」というのは疑わしいと言えるだろう。男性の多くは全額負担にはあまり肯定的でないし、女性の多くは奢られることにそこまで否定的というわけでもない。

 ここまで、デートの支払いに関するアメリカの研究について触れてきた。調査結果からは、アメリカの若年層においてもある程度費用負担に関する性別役割意識が見られることや、男性が奢りたい/女性が奢られたいという見解が必ずしも当てはまるわけではないことなどが示唆された。

 
 次章では、結局どちらが払うべきなのか?ということに関する私見を述べていこう。


結局どちらが払うべきなのか?(私見)



 この章では、前章までの内容を踏まえ、デート費用負担に関する私見を述べていく。

 結論から言えば、筆者は「男性が全額支払うべき」であると考えている。ただしこれは「道理」や「規範」としてではない。どちらかというと、「デートを成功させたいのであれば男性が全額支払った方が無難である」といったニュアンスである。

 なぜ筆者がこう考えるのか。簡単にまとめるのであれば、「全額負担することで女性からマイナス評価を受ける可能性は低いが、女性側の費用負担や割り勘を求めた場合はマイナス評価を受けるリスクが高くなる」ためである。


 まず大前提として、女性がパートナーを選択する際、男性の経済力が重要となることが多くの研究で分かっている。例えばFalesらの調査では、女性の69%が男性の稼ぎの多さを「必要である/望ましい」と回答している。また、女性の51%は、男性に少なくとも自分と同じくらいの稼ぎがあることを「必要である/とても重要である」と回答している。さらに、DunnとSearleによる実験では、高級車に乗った男性は中級車に乗った男性と比較して女性から有意に魅力的であると評価されることが分かった。

こうしたことを踏まえると、男性がデートにおいて費用を全額負担することは、自身の経済的余裕をアピールすることができるためある程度は有効であると考えられる(デートのクオリティなども重要ではあるが)。

加えて、女性はパートナー選択における選り好みが強く、自分の希望に合わない場合に"No"を提示する可能性が高い。例えばOverbeekらが実施したスピードデート実験では、女性は男性よりも相手に"No"を提示する可能性が高く、男性よりも”Yes”を獲得する可能性が高いことが分かっている(いずれもp < .001)。従って、もしも男性が「経済的な余裕がない(≒異性としての魅力がない)」と判断された場合、Noを突き付けられる可能性が高くなるということが考えられる。デートで割り勘を求めることは、女性にとって「自分に支払いを求めなくてはならないほど余裕がない」と評価される可能性を高めるだろう。

 しかし、あくまでこれは「初デート」の場合だろうという意見もあるかもしれない。先に引用したWuらの調査では、二回目以降のデートの場合は女性の55.6%が「割り勘であるべき」と回答していることを踏まえれば、二回目以降は割り勘を提示すべきではないか?と。

 これについては、筆者は「少なくとも全額出す姿勢は見せるべきだろう」という風に考えている。先ほど引用したLeverらの調査を踏まえるのであれば、約60%の女性は自分が費用を(一部)負担することを男性に断られても特に困らない。つまり、「いいよ俺が払うから」と言っても問題が発生しない可能性の方が高いのだ。

 もちろん、「費用を全額負担すること」で直ちにデートが成功するわけではない。デートのクオリティなど影響してくるだろうし、身も蓋もないことを言えば「身体的魅力」などで足切りされることもあるだろう。しかし、身体的魅力が同程度のライバルがいて、自分が割り勘を提示しライバルが全負担を申し出た場合、ライバルに負ける可能性はかなり高い。そう考えると、全額負担がやはり無難ではないかと思われる。


※以下は客観的な根拠に基づかない個人的な意見であるため、興味の無い人は高速スクロールして飛ばして頂いて構わない


ぶっちゃけ奢られて嫌がる女性はまずいないだろう。そして奢ってくる男性が多数であれば奢らないことはかなりのマイナスになるので、やはり奢るべき



終わりに


 今回は、デート費用負担問題において、「男性が奢りたいと考えている/女性は奢られたくない」という見解に関して検討してみた。簡単にまとめると、確かに「男性が費用を負担すべき」と考える割合は男性の方が高いものの、それは必ずしも願望と一致するものではない。そして、「自分が支払うという申し出を男性に断られても困らない」という女性の方が多数派であり、女性が経済的に余裕がある男性を好むということを踏まえると、少なくとも「女性は奢られたくない」という見解は懐疑的であると言わざるを得ない。そして、デートの成功という観点で見るのであれば、男性が費用を負担した方が無難であるため、やはり奢るべき・・・となるだろう。




 

 





 


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