朗読シナリオ『飲み足りないハーブティー』

真麻:もうそろそろ寿命だね

斗真:何の寿命?

真麻:精子の寿命

真麻は腹を撫でる。斗真は暫し考え、

斗真:ああ、この前の不妊治療の話?

斗真は読んでいた本を閉じる。

真麻:うん、そう。なかなかうまくいかないなって思って、色々調べてたの。そしたらね出てきたんだ、精子と卵子の寿命について

真麻はハーブティーの入ったカップに口をつける

斗真:へえ。考えたこともなかったな

真麻:最後に病院に行って卵管の近くに人工授精したのが1週間弱たったところだから。まだ生きてるのかなって

真麻の薄い腹を斗真は見る。

真麻:あかちゃん、できるといいな

斗真:そうだな。でも真麻。俺は真麻の負担になってないか、心配なんだ

真麻:私の負担?

斗真:最近、夜寝れてないだろ。寝る前にラベンダーのハーブティーをよく飲むようになった

真麻:偶々だよ、ラベンダーとリンゴのハーブティーをお母さんから沢山もらったの

斗真:それに隈だってひどい

真麻:それは顔が浮腫んでるからじゃないかな

真麻の顔に張り付いた髪を斗真は整える。

斗真:無理に妊活をする必要はないんだ

真麻の目の縁に涙が盛り上がった。

真麻:あなたは、あかちゃんが欲しくないの?

斗真:違う、そうじゃない

真麻:なら、どうしてそんなこと言うの?

斗真:俺は、君があかちゃんを授かりたいと思っているのは知ってる。俺もそう思ってる。

真麻:もう子供は望めないから、諦めろってこと?

斗真:俺は君と二人で生きてる今だって十分幸せなんだ

斗真は真麻の手を握る。

斗真:子供は授かりものだ。それを分かって欲しい。

斗真はハーブティーの入ったカップを端に退ける。

斗真:焦って君自身が憔悴してしまっているのが、俺はとても気がかりだ。不妊の理由はお医者さんですら分からないんだ。地道に行けばいい。子供を授からなくては、と思うのではなく、子供が授かれば、くらいに思えばいい。

真麻:……ごめんなさい

斗真:謝る必要はないんだ、今日はもう寝よう。

斗真は真麻の肩を抱き、真麻の涙を拭ってやる。真麻と斗真は寝室に行き、真麻は布団に潜り込む。

真麻:最近、大学からの友達がね『子供の世話が大変』ってフェンスブックで言ってたの

斗真はリンゴマークの書かれた薄い基盤を枕元に置く。

斗真:うん

真麻:もちろん、私に言ってるんじゃないって分かってる。でも、お母さんになった友達同士がそうやって話してるの見て

真麻は枕もとに置いてある紫色のポプリを握りしめる。

斗真:それは悲しくなったね

真麻:……ごめんなさい、勝手に怒ったり泣いたりして

斗真:そういう時も必要だよ、俺だって辛い時は真麻に支えてもらってるし。今度気分転換に、どこかに行かない?海とかさ

真麻:……なら、ラベンダー畑に行きましょう

斗真:ラベンダー畑か

真麻:うん、ちょうど満開の頃だから

真麻は目を閉じる。真麻が眠ったのを確認してから斗真も目を閉じたが、不快なにおいのせいで上手く寝付くことができなかった



この台本はつるこ。主催のボイコネ謎解き×シナリオ競作企画の参加作品です。

作品を読んで&演じて、共通する「3つのキーワード」と「キーワードから連想される原作」をあてる「謎解き」×「シナリオ競作」イベントです。

詳細は、Twitterで #謎シナ企画ルール と検索してご確認ください。

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