それは私にとって新しい世界への扉なのかもしれない映画の話
ウォン・カーウァイの『恋する惑星』を観た後、思い起こせば私は大きな一歩を踏み出している。
他の人からしたらそんなに大したことではないかもしれない。けれど、私にとってはよくまあそんなことしたなぁと後から思えば大それたことをしているのだ。
まずはそのうちのひとつ。
高校時代、テレビでたまたま観た香港映画にはまっていた私は、その流れで『恋する惑星』を知った。
好きな女優さんが出ている上に、邦題がとてもおしゃれ!
テレビで観てそのおしゃれな雰囲気が気に入り、ウォン・カーウァイ監督作品に興味を抱いた。
と、ここまでは何ということもない話。
その後の行動が私にとっては意外だった。
高校時代の自分といえば、大人しくて勉強しかしていないような、まさにガリ勉のイメージしかない。
そんな自分がウォン・カーウァイの最新作を観るためにたった一人で電車に乗り、遠く離れた銀座の映画館に行っていたのだ。
そこまで映画にはまっていたという事実に今ごろ気づき吃驚している。
すっかり忘れていたのか、消したい過去だったのか?
どうも私には夢中になっていることや趣味はできるだけ周囲の人間に知られないように隠す癖がある。その方が自己防衛にもなるし、なんならそんなことはなかったことにもできるからと。
でも、忘れていない。
あの日一人で観に行ったのは『楽園の瑕』という映画だった。
映画そのものの印象として残っているのは、「風景の映像が綺麗で、きっとそこにこだわったんだろうなぁ」と、それぐらいしかない。
正直なところ、『恋する惑星』の方が面白いと思った記憶がある。
それでも、その時の映画体験はとても楽しく、有意義なのもだった。
なにしろ、その当時の私にとっては大冒険だったのは間違いない。
制服以外の服などあまり持っていなかったのに、出来るだけおしゃれをして出かけた記憶がある。
ちょっと大人になった気分だった。
そして、そんな私を周囲の大人の方々が温かく受け入れてくれていた。
直接誰かと会話をしたわけではないけれど、皆映画が好きで、この映画に期待して観に来ているという熱気を感じた。
私はここには自分と同じ趣味の人がいるという居心地の良さを感じていた。
この時の私はまだ想像すらしていなかったのだけれど、その後私は映画や演劇が好きな人々と出会い、とても刺激的で幸せな一時期を過ごすことになる。
あの日映画館で感じた居心地の良さが日常になる、本当に夢のような日々を。
なのに、その時の知り合いに私が香港映画にはまっていたことがあると知っている人はいないはず。
おそらくこの記事をたまたま読んでも私だと気づく人はいないだろう。
受験勉強とともに私は映画から離れてしまったのだった。
それでもその後いくつかの幸運が重なり、図らずも映画を勉強できる環境に身を置くこととなった。
本物の映画好きに比べれば自分はそれほどでもなかったので委縮していたけれど、心の中には一人で遠くの映画館に行ってしまうくらい映画好きな部分があったのだから、他の人の話を聞いたり色々な作品を観たりすることは楽しくないはずがない。
香港映画からも他の映画からもすっかり離れてしまっても、『恋する惑星』のエンディングテーマ曲であるフェイ・ウォンの『夢中人』とその原曲であるクランベリーズの『Dreams』は青春時代を通して聴きまくっていた。
好きなことをして充実しているはずなのに、不安と孤独も抱えて不安定でもあった時期。きっと心の支えだったのだ。
あれから20年以上経っただなんて……。
月日は経ち、また一つ新しい世界への扉を開いたのは今から数か月前のこと。
『恋する惑星』をたまたまテレビで観た。
あの頃面白いと感じたものがやはり面白い。
さらに、大人になったからこそ分かる部分もあるのだと気づかされた。
あの頃は失恋からなかなか立ち直れない男性にたいして「可愛い」なんていう感情は抱かなかった気がする。「なんだこいつ、変なの、面白いなあ」ぐらいにしか思ってなかったかなあ。
あの頃の自分はどれだけこの映画を理解していたのだろう。
今だって理解できているのか?
なぜ面白いと感じたのか?
見た目がおしゃれだから?
なんとなくストーリーが素敵に感じたから?
俳優さんが魅力的だから?
それだけ?
私はもう一度観た、細かくメモを取りながら。
ときめきの理由を知りたくなったのだ。
夢中になって真っ白な紙を小さな文字で埋め尽くした。
そうしていくうちに、新たな気づきが沢山見つかった。
大事なことを理解していないことにも気づいた。
映画のワンシーンは一瞬だから、理解していなくても流れて行ってしまうし、理解したとしても記憶に残らず流れて行ってしまうことがあるのだと、これは大きな発見だった。
そして、この映画やっぱり凄い! めちゃめちゃ良いじゃん! と恋する小娘のように狂喜乱舞したのだった。
できればこの映画の良さについて細かく書きたいのだけれど、自分の今の文章力で伝えられる自信がない。
素晴らしい映画なのに、それに見合う文章が書けない自分がもどかしい。
だから私は今noteで文章修業をしている。
メモを取りながら『恋する惑星』を観た頃、ちょうど私はnoteというものを知った。
「上手く書けなくてもいい」「まずは書いて投稿してみよう」というような内容を目にした。
私のやりたいことができる場所を見つけてしまった。
好きな作品のここが好き、面白い、素晴らしいと書いて誰かにそれを読んでもらえて、共感してもらえたらどんなに良いか!
今、私の身近なところに映画などの趣味の話をできる人はいない。
でも、ネット上なら距離は離れていても共感してくれる人に出会えるかもしれない。
SNSは嫌厭していたが、noteには文章を読んだり書いたりするのが好きな人が集う匂いがした。
いくつか読んでみても皆さん文章が上手い。
ここで書き続けることが出来たら文章を上達させられるかもしれない。
ネット上に自分の書いたものを投稿するなんて、よくよく考えてみるとやはり私にしては大胆なことなのだけれど、また『恋する惑星』のせいか、リミッターを外して直感の赴くままに投稿を始めるに至った。
そして、今こうして憧れだった映画に関する記事を書いている。
文章の巧拙はどうであれ、まずはこの記事を書き上げて投稿する勇気を持てた自分を褒めたいと思う。
あの映画に描かれていたのは新しい世界行きのチケットだったのかなあと、そんな想像を書いても受け入れてもらえそうなnoteに居心地の良さを感じている。
好きなものを好きと素直に書ける場所を与えてくれたnoteにはつくづく感謝!
長々と書いてしまいましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
* * *
最後に、これだけはやっぱり書いておきたいなと思うことを一つ。
私の好きなシーンについて。
今も俳優として人気のあるトニー・レオンが部屋にあるものに話しかけるシーンです。濡れたタオルやぬいぐるみなどに話しかけていくのですが、台詞がどこか詩的で、ユーモアがあって、失恋の傷なども感じられて、昔も今もここが大好きです。
* * *
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ではまた。
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