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「普通って何なの?」。ドラマ「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」の原作者うおやまさん(広島県在住)が作品に込めた思いとは。

 この秋に放映中のテレビドラマ「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」(広テレなど日本テレビ系、水曜夜)を見てますか。弱視の少女と不器用な不良少年の恋を描くラブコメディーは、広島県在住の女性漫画家うおやまさんの漫画が原作。多様な登場人物を通じて「普通って何なのか」をやわらかく問い掛けています。うおやまさんに、ドラマの感想や作品に込めた思いを聞きました。(標葉知美)

ドラマで広がる「奇跡」

 10月にドラマが始まってからは、うおやまさんにもツイッターなどで反響が届いているそうだ。視覚障害のある人から「弱視のことを知ってもらえてうれしい」。障害のあるきょうだいがいる人から「(ヤングケアラーの)気持ちを描いてくれてありがとう」。うおやまさんは「描いてよかったとしみじみ」と喜ぶ。

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(ドラマ「恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~」から)

 毎週、ドキドキしながらドラマを見ているという。弱視で白杖(はくじょう)を使う主人公のユキコを演じる杉咲花さん、不器用で純粋なヤンキーの森生(もりお)役の杉野遥亮さんについては「弱視について本格的に学んでくれるなど、深く演じてくださっている。役者さんはすごい」と感心する。
 脚本オリジナルの部分もあり、うおやまさんが知らない展開も。「『見えにくさ』を抱える人のことを知ってもらいたくて描き始めた漫画が少しずつ広がり、たくさんの人の力で実写化された。奇跡だなあ、と思っています」

漫画を書くきっかけは父の視覚障害

 原作「ヤンキー君と白杖ガール」(KADOKAWA)は、うおやまさんが2018年6月から漫画投稿サイトで連載を始め、100話以上を掲載してきた。

ヤンキー本


 視覚障害をテーマにした漫画を描こうと決めたきっかけは「父でした」。30代で網膜剝離になり、現在は右目が失明、左目は視野が通常の4分の1になった。そんな父がいるうおやまさんにとって「見えない世界」はごく身近なものだった。
 だから、見える人を基準につくられた社会が、視覚障害のある人にいかに不便かがよく分かる。例えば、コミックの1巻に出てくる「セルフレジ」。人件費削減のために導入が進むが、視力の弱い人や高齢者には使いづらい。

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生きづらさは障害のある人以外にも

 さらに、描き始めてすぐ気付いたことがある。それは、障害のある人以外にも「生きづらさ」があることという。いじめが原因で対人恐怖症になった黒川の子分のハチ子、元ヤンキーで同性愛者のシシオ、「障害者の姉」として生きてきたユキコの姉イズミ…。「いつのまにか、心に何か抱えている人ばかり登場させていました」とうおやまさん。「私にとって社会からはみ出ている人の方が普通に感じられるからかも」と笑う。


 自身も子どもの頃から、集団になじむのが苦手だったそうだ。多くの時間を漫画を描いて過ごした。大学卒業後、非正規で働きながら約10年の下積み期間を経てプロデビュー。結婚の経験はなく「世間の『こうでないと幸せじゃない』の枠から、だいたい外れて生きてきました」。
 そんなうおやまさんは、こうも思う。障害の有無にかかわらず生きづらさの原因は、実は「社会」にあるのではないか

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コロナ禍の中「どうしようもないことも起こる」

 2020年春から続くコロナ禍の中で、その思いはさらに強まった。「真面目に生きていてもどうしようもないことも起こるとあらためて感じました」。仕事を辞めざるを得なくなった人、経済的に困窮する人…。メディアから伝えられる現実に、もどかしい気持ちを募らせた。
 漫画の中では、ピンチに直面した登場人物を、知り合いや通りすがりの人が助ける。「こういう社会になったらいいなと思いながら描いているところもあります」
 ドラマ放映が始まっても、自身の生活にあまり変化はない。今も、自宅にこもって淡々と漫画を描き続けている。コロナ禍で人に会う回数が減り、一人で海岸に出向き、足で砂の感触を確かめたり、鍾乳洞を訪れて匂いや手触りを確認したり。「登場人物の感覚に少しでも近づくよう努めています」とうおやまさん。「取材を重ねるたび、新しい発見があります」

ヤンキー漫画

(「ヤンキー君と白杖ガール」から ©うおやま/KADOKAWA)

 「ヤンキー君と白杖ガール」は、ウェブサイト「マンガハック」などで月1、2回公開している。単行本1~6巻は、視覚障害者向けの音声データがある(詳しくはサピエ図書館)。12月23日に第7巻が発売される。