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これは、憲法違反である。 #日本学術会議への人事介入に抗議する Vol.3

日本学術会議の会員6人の任命を、菅総理が拒否した問題について、Choose Life Projectではこれまで何度か、番組でお伝えしてきました。

今回の記事は、12月4日に配信した「これは、憲法違反である。#日本学術会議への人事介入に抗議する Vol.3」をまとめたものです。

番組では、前半に、憲法学者の木村草太さんによる
「任命拒否の違法性について議論の余地はあるのか」をテーマとした講義。

続く後半では、2名の研究者にも加わってもらい、
「この問題が若手研究者にどのような影響を与えるのか」について議論しました。

番組のアーカイブはこちらです。

出演:木村草太 教授(東京都立大学/憲法学)
   藤田政博 教授(関西大学/社会心理学)
   笹倉香奈 教授(甲南大学/刑事訴訟法)

司会:亀石倫子(弁護士)

配信の内容をまとめました。是非お読みください。

亀石
このテーマについては、任命拒否が発覚した直後の10月から、何度か取り上げていますが、菅総理はいまだに任命拒否の理由について説明していません。

さらに、政府・自民党は「学術会議のあり方そのものに問題がある」というような主張をしていて、学術会議を国から独立させ、民営化させようという動きもあります。

問題の本質がどこにあるのかを考え、そして政府に説明責任を果たしてもらうために、何度でもこの問題を取り上げていきたいと考えています。

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木村
今回の問題は「違憲で、違法で、過去の政府解釈にも反している」ということになります。

最初に経緯を確認した後、憲法問題、法律問題、政府解釈問題の順にご説明をしていきます。

任命拒否問題の経緯

今年の8月28日に安倍前首相が辞意を表明。
それと前後して8月31日に学術会議の方から首相に会員候補名簿が提出されております。

9月29日に任命拒否された松宮教授がFacebookで「任命を拒否されたらしい」ということを投稿。
これを新聞「赤旗」が報道し、他のメディアも追いかけ、大きな問題になったということになります。

10月1日には任命拒否をした理由について加藤官房長官から、流行語の候補となりました「総合的、俯瞰的」という言葉が出てきました。
10月3日、学術会議は幹事会で「要望書」を決定し、内閣府に「さっさと任命しろ」という文章を出しています。

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この後から政府の答弁は右往左往します。
10月5日に菅氏は「共謀罪や安保法制に反対していたことが関係したかと言われれば、それは一切関係ない」と発言。
10月9日には菅首相が「リストを見ていない」という「超能力で選びました宣言」をしているところであります。

なぜ「違憲」なのか 
23条「学問の自由」は何を保障しているのか 

このような事態に対して「憲法23条が保障している学問の自由の侵害ではないか」という声が上がりました。

学問研究の自由というのは、23条がなくても、個人の自由として保護することができます。
学問研究というのは、例えば研究書や研究論文を読む、講義を聞く、実験や調査を行う、考える、発表する、教える、といったプロセスからなるわけですけれども、自分で研究をするということについては、表現の場を保障した憲法21条1項で保障されているとされます。

頭の中で考えるのは、思想良心の自由で憲法19条。

研究成果の発表や教授は憲法21条で保障されるということになりますので、そもそも憲法23条がなくても、個人の権限は保障されるわけです。
個人として研究をできるかどうかを保障するために、23条が書かれたということであれば、23条はあまり意味がない。
なので、この「個人としての研究」を超える何かを保障した、そのためにあるのが23条だろうというのが一般的な理解かなと思います。

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そこで権威的な著書や、憲法学者が言っていることを整理してみると、例えば長谷部恭男先生の憲法の教科書では、学問の自由23条が保障しているのは「学問の自律性だ」という解説がなされております。

「学問の自律性」とは、「学問分野ごとに受け入れた手続きや方法に基づく、真理の探求の自律性を確保する、これが学問の自由であり、政治の世界から学問への介入・干渉を防ぐこと、これが憲法23条の目的なんだ」という解説が書かれています。

「学問分野ごとの手続き方法」というと、難しかったりするかもしれませんが、憲法学的にはどう考えても違憲というようなものを、政治家が圧力をかけて「合憲だ」と言われても、それは法学的に筋の通った合憲には全くならない。

自然科学もそうですね。
自然科学の分野では厳密にコントロールされた実験、これから導かれる理論というものが評価をされる。
そのデータを出されると非常に困るので「データを改ざんしろ」と政治家から言われて改ざんするのでは、自然科学が本来の価値を果たせないということになります。

つまり「政治権力が学問の専門家の判断を、学問以外の理由で覆す。これが駄目なんだよ」というのが憲法23条の趣旨です。

今回の事態というのは個々の人が研究できるかどうかということではなくて、学術会議という公的学術機関の人選という”学問に基づく判断”を政治が覆したということで、これはまさに学問の自由が働く場面だということが、全くおかしくない立論だということになるかなと思います。

また今回、憲法問題としては別の問題もあって、過去の政治的な発言を理由に、公務員の任命を採用するということになると、これは信条で差別をしたということになるので、憲法14条1項「信条において差別されない権利」に直球で反する問題も出てくるということになります。

政府側が主張する「憲法15条」について

これに対して政府は、憲法15条「公務員を選定し、およびこれを罷免することは国民固有の権利である」から「今回の事態は正当なんだ」と言っているんですが、亀石先生どうですかね、政府が何を言ってるか分かりましたか。

亀石
この条文を出していること自体が、すごく違和感があったんですけど「関係あります?」って思いますよね。

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木村
多くの人はそう思ったと思います。
これは「首相が公務員を自由に選べる」って書いてあるんじゃなくて「国民が選べる」と書いてある条文ですね。

政府が何を言いたいかっていうと、憲法15条は「全ての公務員は直接又は間接に国民によって選ばれなくてはいけないんだ」こういう話です。

日本国憲法のシステムを見てみると分かるんですけれども、主権者はまず国会議員を選挙で選びます。
国会議員は、直接主権者に選ばれていて、それが首相を指名し、首相が閣僚を任命する。
内閣を構成して、その内閣は行政官僚や裁判官を任命する。
こういう流れになるわけですが、この図を見ていただくとわかるように「行政官僚も裁判官も大臣も首相も、矢印をたどっていくと最終的には主権者に行き着きますよ」こういうことであるわけです。

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これが憲法15条の趣旨で、国民主権の国なんだから公務員は必ず直接又は間接に国民に選ばれなくてはいけない。

一方、政府の主張は、「首相は行政官僚を任命する資格を与えられているから、首相が好きに選べるんだ」、こういう論理になっているわけですね。
しかし、これは無茶苦茶な話で、憲法73条という条文があって「内閣が行政官僚に関する事務を行う場合には、法律の定める基準に従わなくてはいけないよ」って書いてあるので、内閣が官僚の任命をする時は好き勝手にやっていいではなくて、法律の定める基準に従わなければいけないことになっているわけです。

憲法15条ばかりを強調する政府は、憲法73条を意図的に隠してます
この条文が出てきたら、日本学術会議法に則ってやらなきゃいけないよねという話になって、法律論の話になると不利になるのが明らかですので、73条4項を政府は積極的には言及していません。

なので、あえて隠しているんですが、憲法の条文ですので隠すには限界があるということです。

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なぜ「違法」なのか 
足し算・引き算・割り算ができればわかる

法律上、違法かどうかという問題に次に入っていきますが、今度は「足し算引き算ができれば違法であることが分かる」ということをこれからお話していきます。

菅首相がやったのは99人を任命し6人の欠員を生じさせたというものです。
日本学術会議法という今回の基準を定めた法律を見てみると「日本学術会議は210人の会員をもって組織する」とあります。
6人欠員が出ておりますので、現在204人で組織しております。

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問題です。
204人で学術会議を構成することは、日本学術会議法7条1項に違反するでしょうかどうか。

これ引き算、足し算ができればわかりますが、明確に違反をしているということになります。

次に任命をしなきゃいけないんですけれども、3項を見ると、会員は任期6年、3年ごとに半数を任命しなきゃいけなくて、今年の10月1日に99人の任命しました。

210人の半数とは何人か。
これも割り算ができれば、すぐ分かる話でありまして、半数は105人ですので、この条文に違反するということになります。

ということで、欠員を埋めなきゃいけないんですけれども、欠員を得るにはどうしたらいいかというと、首相が好きに埋めるわけにはいかず、17条の規定による推薦に基づかなきゃいけないということになっています。

ここで「首相が推薦過程を好き勝手できる」という条文があれば、首相が好き勝手できるんですが、科学者の評価というのは科学者じゃないとできません。
それを首相がやるなんていうことは能力的に無理だし、首相はそもそも科学的な能力で選ばれているわけではないですから、それは無理だろうということで日本学術会議法の17条は、この推薦者を選ぶ権限、候補者を選ぶ権限を日本学術会議の専権としております。

また日本学術会議の職務というのは、そもそも独立して行わなくてはいけないので「政府の意向に従えるかどうかは要素にしてはいけない」というのが、日本学術会議法3条から明らかであるということになるわけです。

なので、法律上も任命拒否は違法であるということは明らかだし、欠員を補充しないということが違法であるのも明らかだし、99人の任命でとどめることが違法であることも割り算ができれば明らかだとこういうことになります。

”政府解釈”問題 83年答弁との矛盾

政府はこれまでどう解釈してきたかということなんですが、1983年に現在の任命制が導入された時にこういうやりとりがありました。「推薦された方の任命を拒否するということはないのですか」というまさにドンピシャリの質問が、当時の粕谷議員からされております。
政府の側は「総理大臣の任命で、会員の任命を左右することは考えておりません」と言っています。

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また「任命拒否が起きないという保証はどこにありますか」という質問もまたドンピシャリでなされておりまして「これは現在の法律の7条2項で、全くの形式的な任命という表現で解釈して、これは内閣法制局の審査でも十分詰めたところでございます」という答弁があります。

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驚くべきことに現在、政府は、「83年答弁を変えていなくても今回の措置は適法なんだ」という答弁をしておりまして、当然「83年答弁と矛盾するじゃないか」と追及されるんですが、それに対して政府は、「83年の答弁の趣旨はよくわからない」と答弁しています。

ご覧いただいたように83年答弁は極めて明確です。
学術会議のこれまでの政府解釈とも整合しないことを今回やっているということになります。

論点まとめ

●「学術会議の会員にならなくても自由に学問できます」という問題については、そもそも学問の自由というのは、科学者集団が学問に基づき判断したことを政治権力は覆してはいけないという原理で、今回の事態は、当然、憲法23条に反します。

●政府は「憲法15条で公務員選定罷免は国民の権利とある」と言うわけですけれども、そもそも憲法15条を強調すると「終局的任免権者である国民にきちんと理由を説明しなきゃ駄目だよね」という話になる。
憲法15条を持ち出すことは、任命の拒否の理由を全く説明しない政府が、むしろ問題あるということになってしまうので、自分で地雷を踏みに行ってるというような答弁になっています。

●政府は「国民の代表に選ばれたから、公務員を好きに選んでいいんです」ということを言いたいようなんですが、そもそも憲法73条4項に「内閣は管理に関する事務を行うときは法律の定める基準に従え」と書いている。

●法律問題から見ると「99人の任命は適法だ」と言っているけど、日本学術会議法7条3項は「105人を任命する」と定めています。
「6人の欠員は違法じゃない」と言ってますけども「210人で組織する」と定めています。

●「首相が公務員を好きに選んでいい」と言うけれど、学術会議法7条2項で会員の任命は「学術会議の推薦に基づく」必要があるとなっている。

●「首相が好きな人を選びたい」と言ってますが、学術会議法17条は、会員を選ぶ際は、学問の研究と業績で選ばなきゃいけないとなっていて、首相が介入できるような話ではない。

以上、明白な違法行為なので、私の見解では、次のような問題設定には全く意味がありません。

世論調査の”問題設定”の誤り

「任命拒否が適切か不適切か」あるいは「問題か問題でないか」を世論調査で問う傾向がありますが、そもそもこれは違法行為であり、不適切に決まっているので、そんなことを問う意味はありません。

「任命拒否は違法行為ですが、これは問題ですか」と世論調査をしても「これは政府の違法行為が問題ですか」という世論調査ですから「それは問題だ」という答え以外にあり得ません。
そんなことを調査すると国民に失礼、こういうことになります。

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学術会議の問題は論点ではない

今回の論点は、「政府の違法行為」です。
日本学術会議の問題を云々するというのは、犯罪が起きた時に犯罪被害者の問題を云々すると一緒で、非常に卑劣な態度と、こういうことになります。

拒否された人々の業績云々も、同じとことになります。

現在の「法状態」
菅総理は違法状態を継続させている

最後に確認しておきたいのが、現在の法状態の理解についてなんですが、政府はいま言ったように「任命拒否は違法じゃない」「欠員状態は違法じゃない」と言っています。
結果として「首相は欠員を埋める義務はない」と言っています。

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6人の欠員が生じている。
この問題については「99人の任命で手続きが終了しているので、推薦名簿はすでに無効である。よって補充には新たな推薦が必要で、その推薦が来てないので欠員を補充しないのは首相の責任ではなく、新たな推薦をしない学術会議の問題である」と、こういうことを言っていて「首相は何も悪くない」と言っております。

一方の日本学術会議側は「欠員状態は違法なので是正義務を負う」と。
また「任命拒否はそもそもできないんだから、8月31日名簿は当然なお効力を持っていてその通り任命しろ」と10月3日にも言っているので、首相にはきちんと欠員6人分の推薦をしたという状態になっている。
従って、首相は違法状態を継続させている

というような認識の違いが現在生じています。
実はこういう食い違いが生じてるってことは、報じられていないところなので、皆さん是非この点を理解していただければなと思います。

亀石
憲法・法律・政府の法解釈という視点から、この問題の本質についてまとめていただきました。
視聴者の方々からいくつか質問が来ています。

視聴者からの質問

憲法学者の皆さんが「憲法違反」と言っても、政権が「憲法違反ではない」と言えば、それ以上どうすることもできないんでしょうか?

木村
今回、法律・憲法の問題もあるんですけれども、まず注目してほしいのは憲法よりも日本学術会議法の諸々の数字です。
「政府は半数を任命、つまり105人を任命する」と書いた条文があるのに、99人にしか任命してなくてそれを「適法だ」って言ってるんですね。
「これを何で適法と言えるのか」っていうことを、国民の側から声を上げる、ジャーナリストが聞く、国会で質問していけば、政府の側は「我々は割り算ができません」とこういうふうに言うしかなくなるわけですね。
国会の場で「私は割り算ができません」と発言することが、いかに恥ずかしいことか皆さんも想像していただければわかるかと思います。

亀石
「効果的な徹底抗戦方法は持久戦になるのでしょうか」という質問も来てるんですが、やはりそうやって国会でネチネチと追及していくしかないですよね。

木村
学術会議は現在「要望書」というのを提出しております。
それの返答を待っている状態です。
返答がないそうなんですけども、ろくな返答ができないから返答しないんだと思います。

「新たに推薦が必要」というのが政府の立場で、これに対して「学術会議はさっさと6人また同じ人の名前書いて出したらいいじゃないか」っていう意見もあります。
確かにそういう見方もあるでしょう。
しかし、学術会議の側は軽々しくそういう手は差してません。

なぜかと言うと、学術会議というのは、その名の通りかなり面倒くさい組織でありまして、果たして新たな推薦名簿を出すことが学術的に正しいかということを精密に検討してからでないとアクションをしない団体なんですね。
「新たな推薦をしてしまうと、任命拒否の適法性を認めたかのようになってしまうので、かえって良くないのではないか」という意見がまずあるわけです。

「でもそうは言っても、推薦が無効になってるんだから、事態を打開するためには推薦名簿を出した方がいいんじゃないか」これも正論としてあるわけです。

どちらがより学術的に正しいのかということを、慎重に法律家、あるいは科学者の皆さんが検討しているというのが学術会議でありまして、その検討は非常に時間がかかります。

学問的に正しい判断をするというスパンから見れば、問題が起きてからの1ヶ月や2ヶ月というのは、まだまだ序盤戦ということになるわけでして、持久戦というよりも「そもそも、そういうスパンで議論をしていくというのが、学術会議のアクション」このように見ていけば、宜しいんじゃないかと思いますので、まだまだ始まったばっかりということです。


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それでは、後半に移りたいと思います。
新たにお2人のゲストに加わっていただきます。
社会心理学がご専門で、関西大学教授の藤田政博さん。
刑事訴訟法がご専門で、甲南大学教授の笹倉香奈さんです。

笹倉
私の研究している分野である刑事法学は、常に権力側と対立するっていうような可能性が非常に高い学問でもあります。
私たち刑事法研究者も声明を出しまして、その中で次のように言ってます。

「刑事法学は性質上、国家権力と厳しく対峙する場合もある学問領域である。我々は刑事法研究に従事する者として、今回の事態を看過することは到底できない」

やはり制度を良くするためには、こういうふうに対峙して、よりよい制度を作っていくっていうことが必要だと思います。

亀石
この後半の本題に入る前に、本日午後6時から行われた菅総理の記者会見の様子をご覧いただこうと思います。

亀石
菅総理の会見で「これほどアカデミズムからの問題が大きくなるってことがわかっていましたか」という質問に対して「わかっていました」という確信犯的なお答えがありました。この発言をどういうふうに捉えますか。

藤田
「内閣法制局のOKをもらったからOK」と言っていると理解しました。
そうすると内閣の内輪だけで決めたことで、国会で決まったことをひっくり返せると言っているので、国会が国権の最高機関でなくなっちゃう

彼が言ってる「大前提だと思います」っていうその大前提自体が、法律違反なのではないかと、疑問に思いました。

笹倉
典型的な「論点そらし」です。

聞かれているのは「これが違法かどうか」であって、法律あるいは憲法と照らしてどういうふうに考えるかということなんですね。
でも菅総理はその点については何も答えておらず、学術会議の中が縦割りや既得権益、悪しき前例主義になっているというふうにおっしゃいましたけれども、具体的にどこの部分を指してるのかっていうことも分かりません。

そのような言葉を並べて批判していますけれども、本当の問題には答えてないっていうところが問題と思いました。

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木村
かなりぼんやりとした質問なので、ああいう答えが許されるんだと思います。

例えば日本学術会議法7条3項は105人を任命すると定めいて、菅総理は99人を任命しました。
菅総理は「半数というのを99人とご理解されているんですか」こういう質問すれば、日本学術会議法7条3項問題に入ることができたと思います。

先ほど言ったように学術会議の面々というのは、正しいことを精密に検討して、いかに間違っているかを明確にするということのプロ達でありますので、「ニヤニヤ笑ってるのはまだまだ序盤だからだぞ」というふうなことは指摘しておきたいと思います。

亀石
先ほど木村さんの前半の説明の中で、こういう問題設定は意味がないっていうことをおっしゃった。
まさにそういう問いかけを、メディアがしていて、どんどん論点がずれていく。問題の本質に気づけないままに、論点がすり替わっていくという状況が起きていると感じます。

次に、今回の任命拒否問題というのが、若手研究者の皆さんにとってどんな影響を与えているのかということを伺いたいと思います。

若手研究者への影響

藤田
私達とか、もっと若い世代の研究者にとっては「政治に関わるような問題を扱ってはいけないな」とか「政治に関する意見を表明しちゃいけないんじゃないかな」と、恐れを植え付けられているという感じを受けました。

もしかすると国からもらえる研究費とか、あるいは将来のポジションとかそういうので不利な扱いを受けるかもしれないという懸念が広がっていると感じます。

特に法学は、政府と直接対峙するような意見を表明しないといけないこともあると思うんですけど、心理学の方は必ずしもそういうところへ踏み込まないでの研究は可能なので、そういうところを踏み込まないで研究しておこうという雰囲気を作りつつあるという気がします。

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笹倉
若手の中には「ここで声を上げてしまうと、将来的にもっと規制が厳しくなってきた時に自分が研究費をもらえなくなるんじゃないか」とか「この学問分野が支持されなくなってしまうんじゃないか」というような、漠然とした不安があると思います。

何がそれを引き起こしてるのかっていうと、得体の知れない任命拒否だっていうのがあると思うんです。そもそも何が何だかよくわからない。そしたらここで声を上げない方が得策ではないのかというような、何か変な忖度が起きると思います。

でも研究というのは、権力におもねったりしてしまうと、その研究自体の命を奪われてしまうようなところがあると思うんですね。
みんなが忖度して、同じような方向の研究が増えてしまうと、多様性がなくなってしまう。それが一番怖いことだなと思います。

亀石
私は自分事としてすごく危機感を覚えました。

私達、法律の実務家は、国民の権利とか自由が侵害されたり、制約されたりした時に権力と対峙して、それを守るために訴訟する時に、研究者の先生方の力を借りるということが、沢山あります。
そういった時に権力に対して、物が言える人がいなくなってしまうと、結局私達が訴訟しても、そういったお力を借りることができなくなり、権力に対峙するってことが難しくなる。

そこに直結するなと、非常に危機感を覚えました。

木村
笹倉先生は「理由がわからない」とおっしゃいましたけれども、多分、理由はご存知だと思うんですね。

外された6人に何が共通点かって言うと、一つしかありません。
要するに「安倍政権が物議を醸した法案に、何らかの形で反対の声明とか反対の意見を述べていた」ということしか共通点がない。
理由は隠してるけど、みんな知っている。
そういう状態であると思います。

ただその理由を真正面から言うと、当然、「差別でしょう」「14条違反でしょう」とこういうことになるので言えない。
でも「ああいうことをすると、こういう扱いをするぞ」と、んそんな空気を作ることには成功しているんだろうと思います。

亀石
実はこの問題が起きた時に、身近な弁護士たちとこの問題について話したんですが、「学問の自由と何が関係あるの」って言う人もいるくらい「憲法23条の学問の自由が何を保障してるのか」というところの理解が、実務家でさえきちんとできていなかったところがありました。
なので、この問題によって「憲法23条は何を保障してるのか」、そこがすごく深く理解できたなっていうところはありました。

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今回、670もの学術団体が抗議し、野党も批判を繰り返していますが、説明責任を果たそうとするどころか、先ほどの記者会見を見てもお分かりのように、学術会議を民営化するなど、組織の問題としてすり変えている。
次のテーマは「論点のすり替えに対して、どのように対抗するべきなのか」です。

論点のすり替えに抗うには

藤田
「見直し」はとても便利な言葉です。
例えば政府は「政学術会議を変えたい」ということを指して「見直し」と言っていますが、それを世間の方は、何かいい方に変わるのかなって受け取る。

そういうマジックワードを付けたりして、論点ずらしを図っているというところがありますので「それは論点ずらしだよ」っていうことを、しつこく指摘するということが必要なのかなと思います。

笹倉
前の政権も含めて、ちゃんと国民に説明をしていない。
論点をずらして、別のことを答えるっていうことが続いていると思います。どうしてこれが問題なのかっていうことを、きっちり理論立てて向こうにも説明してもらう、そしてそれに反応するっていうような作業が必要かなと思います。

そのためにはやっぱりメディアが、ちゃんと質問をぶつける、国会でしっかりと答弁させる、そういう形をとっていく必要がありますし、それを国民がバックアップする体制が必要と思います。

視聴者からの質問

亀石
「学術会議が民営化すると何が問題なんですか」という質問が来ています。これに答えることも何かちょっと少しこの問題がずれたところに答えるような感じもするんですが。

木村
まさにおっしゃる通り。
その手の議論をしないことが重要です。

今回、学術会議の問題云々を議論されたときにどう振る舞えばいいか、私は官房長官時代の菅さんの態度から多くのことを学べると思います。
すなわち「ご指摘は当たりません」とただ言い続ければ良いというだけの話で、「問題はないですか」と言われれば「問題はございません」「ご指摘は当たりません」とただそれだけ答えていけば良いということであります。

亀石
先月の時事通信の世論調査でも、実は5割以上の方が「学術会議のあり方について政府が見直す方針に賛成している」ということです。

まさに政府による論点ずらしと、耳障りのいい、何か良い方向に変えていこうというような言葉に世論が惑わされているような気がするんですけれど、この世論の動きに関してはどう思っていますが。

笹倉
確かに「見直すべきだ」というのは賛成54%なんですけど、同時に「政府の説明が十分か」っていうと「十分ではない」が63%と圧倒的に多いんです。
なので国民は必ずしも今の政府の説明に納得していないということは、明らかだと思います。

木村
合わせて「菅内閣に問題があるか」とか「改善してほしい点はあるか」とか「内閣府とか財務省に改善して欲しい点があるか」っていうふうに聞けば、多分学術会議と同じぐらい出るんじゃないかなというふうに思います。
菅内閣の支持者だって「ここの点は変えて欲しい」ってあるわけですから。

今回の世論調査というのは、実はあんまり有効な世論調査ができていないと思います。
世論調査をやるなら「半数を99人だと思っているらしいんですけど、これは適法な理解と思いますか」とか、そういうシャープな聞き方をしてあげた方がいいと思います。

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受け止め側の問題

藤田
「政府の論点ずらしが成功してるな」と感じました。

これはいじめ被害者に対して「被害者の方はこういう点も悪い、ああいう点も悪い」という議論であって、そもそも問題の本質とは関係ないところの話です。
「被害に遭った人には、何か悪いところがあるんじゃないか」そういう考え方を刺激するような論点ずらしがあって、それが成功しているのかなという気がします。

政治家はそれをおそらく経験的に知っているのかなと思います。
こういうふうに話をずらしたりとか、こういう場合は被害者の悪い点を指摘すれば、そちらに注意がいったり、あの人が悪いとかですね。

社会心理学に「公正世界仮説」というのがあります。
「良い人には良いことが起き、悪い人に悪いことが起きるんだ」っていう信念を私たちが持っていて、「悪いことが起きた人は何か悪かったんだ」という思考が後から出てくることがあります。
そういうのも経験的に知ってるんじゃないかなっていう気はします。

学問は何のためにあるのか

亀石
最後のテーマは「学問というのは何のためにあるのか」ということと「学問と政治はどういう関係であるべきなのか」ということについて。

笹倉
やっぱり「なぜなのか」っていう理由を考えていくこと。
これが学問なのかなという気がしています。

法律の分野だったら「どうしてこの制度ができたのか」「この制度は何のためにあるのか」を考えていくということなのかなと思います。

時には政治の側に耳が痛いようなことを言ったりもしなければいけないことだって当然あるわけです。
政策への批判をすることによって、差別的な扱いをするというような、そういう政府、政治ではなくて、いろいろな批判を受けて修正していくと、より良い社会を築いていく。
そういう国で日本はあってほしいなと思います。

藤田
本来、学問って、それ自体が目的を持たないものだと私は思っています。

私達が世界を知るっていう営みそのものだと思っていて、我々の生きることの自然な一部にある「知る」っていう営みであって、それを組織化して、形式化して高度にしたのが学問なので、普段生きている私達が「知る」っていうことですね。

知ったことをその結果を便利に使ったりとか、あるいは今回みたいに人を傷つけるために使ったりとか、あるいは単に知的好奇心を満足させるために使ったりとか、いろんな使い道があるわけですけど、人が生きていく中でやっていることの中の一部なのかなっていう気がしてます。

木村
学問というのは「閉じた円環」でありまして、その中に入るとその営みの中で非常に心が豊かになったり、いろんなことを知れたりするわけですけれども、その外にいると何の価値があるかよくわからない。

「学問は何のためにあるのか」というのは、究極的には「そういうあまり豊かでない質問が出て来なくなるようにするためにある」と言ってもよいと思います。

学問というものの価値というものがみんなに分かれば、非常に豊かな状態になっているわけですから、当然何のためにあるのかなどという質問がなされないということであるわけであります。

閉じた円環の例として、この間まで日本シリーズやってましたけれども、福岡の野球場の中で野球を見てる人たちは、なんで野球なんかあるのかってことは聞かないわけですね。

最後に

笹倉
私自身も法律勉強してますけれども、やはり憲法の下に立ち戻って議論するということの重要性を再認識した次第です。
「自律性」が、この問題を考える時のキーワードになっていくと思います。

また、学問をしている人たちと一般市民や社会の関係の仕方も、やはり今後考えていかなければいけないと思います。
「学問とは何なのか」という問いがなくてもいい社会にしていくために、もう少し社会との対話をしっかりやっていくことが、これからの研究者には求められているというふうに思いますし、それが社会をより良く豊かなものにしていくと思います。

藤田
私の観点からすると、この論点ずらしとか、あるいは玉虫色のワーディングによって世間の受け止め方を変える。
具体的にどういう方式を使うと、どう影響を行使できるのかという社会心理学の題材をいただいたという観点で、捉えられるんじゃないかなと思いました。

木村
弁護士さんが「学問の自由なのか」と言う。
逆に司法試験を必ずしも受けたわけではない様々な法律学以外の分野の学者の先生方がいろんなところで学問の自由に言及しているんですね。

むしろやっぱり学者さんだからこそ、私が解説したような専門的な教科書を多分読んだことがなくても、いま自分がやってることがこういうことで、そして今回の政権がやったことがこういうことでご理解を得たんじゃないかと。
やはり最前線で学問をやってる皆さんは、憲法学に教えられるまでもなく、学問の自律、これの大事さがよくわかっているんだろうというふうに思いました。

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亀石
実務家になると憲法から離れてしまう面もあり、司法試験の勉強したときの知識だけになってしまって、この学術会議の自律性というところまでなかなか理解が及ばない弁護士も、私の周りには多かったです。

なので、今日の配信は私自身勉強になりましたし、アーカイブで残りますので、是非何度か見ると「そういうことなのか」って気づけるところも出てくるかと思います。
この問題は決して忘れてはいけない問題だっていうことを、改めて今日思いました。

Choose Life Projectでは今後も長期的に取り組んでいきたいと思いますので、是非皆さんも注目していただきたいと思います。



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