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沖縄の激戦地である南部地区から遺骨混じりの土砂を採る事についてのアンケート

 Choose Life Projectでは、先月、戦没者の慰霊事業や遺骨の収容事業に関わる国会議員・団体に対して、沖縄戦の激戦地である南部地区から遺骨混じりの土砂を採る事について認識を問う一斉アンケートを実施致しました。
 また、アンケートに至る経緯と結果について公開致しましたので、ご一読下さい。

<はじまり>
 発端は、日本政府が進めている沖縄県名護市辺野古での基地建設事業である。国は現在も埋め立てを続けているが、軟弱地盤等の存在が明らかとなり沖縄県に対して工事の設計変更を届け出る必要に迫られた。そこで去年4月、防衛省が県に対して行なったのが「埋立承認変更申請」である。県は、審査を続ける中で、法律に則ってその「申請書」の告示・縦覧手続きに入り、それが一般の人の目にも触れることになった。

<沖縄南部地区からの土砂採取計画>
 これが、去年9月公開された、防衛省の「申請書」である。
『公有水面埋立変更承認申請書及び添付図書等』より)

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「埋立土砂採等の採取量」と題された表の中に、「岩ズリ」の「採取量 約16,899千㎥」、「調達可能量 約44,763千㎥」(県内)という記載がある。その「調達可能量」の内訳が次の表に明示されている。

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 左上の表、「南部地区 31,596千㎥」。
 要は、国は埋め立てに必要な土砂を「約16,899千㎥」と算出し、その約2倍の量にあたる「31,596千㎥」が沖縄県南部地区から調達可能だと見積もっているということである。

 沖縄県南部という地域は、沖縄戦の激戦地である。
 沖縄戦では、軍人民間人合わせて約20万人の犠牲者を出しているが、その多くが南部地域で命を落としたともいわれており、現在も遺骨の収集活動が続いている。(『令和2年度 第4回戦没者の遺骨収集に関する有識者会議資料』より)。

<人道上の問題>
 この防衛省による「沖縄戦遺骨混入土砂採取計画」が明るみになり、声を上げたのが、40年沖縄で遺骨収集を続けてきた「ガマフヤー」の具志堅隆松さんである。3月に行ったChoose Life Projectのインタビューの中で、具志堅さんはこう述べている。

  南部の土は、遺骨が染み込んだ土といわなければならない

具志堅さんは長年の経験から、南部にはどうしても収集しきれない骨があり、その土地には”骨が溶けて染み込んでいる”と伝えている。
具志堅さんは続ける。

   基地に賛成・反対以前の人道上の問題だと思っている

 今回の遺骨を含む土砂採取の問題は、辺野古基地建設の埋め立てが引き金になってはいる。しかし、これはイデオロギー的な対立として解釈されるべきでない。これは戦争で殺された人間に対する敬意の問題である。具志堅さんは基地建設の断念でなく、あくまで”南部地区からの土砂採取断念”を訴えている。

<”一致”をみた沖縄県>
 沖縄県内で、具志堅さんのこの主張に異を唱えるものはいない。基地建設を進める自民党やそれを支える立場の公明党もそうだ。
 今月、沖縄県議会では、「沖縄戦戦没者の遺骨を含む土砂を埋め立てに使わないよう求める意見書」が全会一致で可決された。

 では、沖縄選出の国会議員はどう考えているか。「アンケート①」としてまとめた。

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野党議員は押し並べて土砂採取に反対し、自民・国場幸之助議員、宮崎政久議員も反対だった。一方で、4区選出の自民・西銘恒三郎議員と、現在、自民党への復党を希望している下地幹郎議員からの回答はなかった。

<本土側はどう反応するか>
 (一部の沖縄選出・国会議員の回答がないとはいえ)もはやボールは、日本本土側に投げられた形だ。どう応えるのか。3月の時点で菅首相は「土砂の調達先は確定していない。仮に南部から採取する場合は、事業者に十分な配慮を求める」と述べている。

 また4月21日行われた具志堅さんによる政府交渉でも、防衛省は採取地は確定していないと繰り返すばかりで、採取を止める旨の発言はなかった。さらには、遺骨を所掌する厚労省も沈黙を守った。

 厚労省は、2016-2024年度までを遺骨収集の「集中実施期間」と定め、沖縄県や硫黄島、海外での遺骨収容事業やDNA鑑定を数億円規模の予算を組み、国の責務として実施している。遺骨収容の実務に関しては「日本戦没者遺骨収集推進協会」(会長・尾辻秀久参院議員、副会長・水落敏栄参院議員)に委託して進めている。特に、硫黄島については、国会議員との連携が図られていて、栗林忠道陸軍大将の孫である自民・新藤義孝衆院議員が呼びかけ人となって「硫黄島問題懇話会」という超党派の議員連盟(会長・逢沢一郎衆院議員)を組織し、多くの議員が慰霊事業と遺骨収集のために硫黄島を訪れている。

今回のアンケートでは、この「硫黄島問題懇話会」の役職付きの国会議員に回答を求めた(「アンケート②」)。

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回答が得られたのは、立憲・今井雅人衆院議員と国民・玉木雄一郎衆院議員のみで、会長の自民・逢沢一郎衆院議員や呼びかけ人である自民・新藤義孝衆院議員からの回答はなかった。(※岸信夫防衛相も幹事として名を連ねていたが、土砂採取の当事者でもあるためアンケートの送付は見送った。)

(※立憲民主党の泉健太・衆院議員から、アンケートの回答を受けた)
【南部地区からの土砂採取について】× 反対
【理由】議員になる前から、戦没者を慰霊し国内外での戦没者遺骨収集に参加してきた。先人のご遺骨を丹念に探し丁重にお迎えすることは今に生きる私たちの責務。土砂採取ありきではなく、遺骨収集の完了が優先されるべき
(7月5日改稿)

 厚労省から、毎年4-6億円規模の予算で慰霊事業・遺骨収容事業を受けている「日本戦没者遺骨収集推進協会」の幹部議員(会長・尾辻秀久参院議員、副会長・水落敏栄参院議員)及び加盟団体にも回答を求めた(「アンケート③」)。

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政治的な問題が関係しているとして、回答を控えるとした団体があった一方で、戦没者慰霊のため土砂採取に反対するという立場を鮮明にした団体があった。(※高齢や病気、団体代表の不在等でアンケート自体の送付が叶わなかった団体もあった)

<2021年 沖縄慰霊の日>
 具志堅さんは、21日の政府交渉の場において、全国の戦没者遺族にこの南部土砂の問題を知ってもらいたいと繰り返した。そして一緒に、遺骨を含む土砂の採取を止めるために協力して欲しいと求めた。
 具志堅さんは、このまま国が土砂採取の計画を止めないなら、全国から戦没者遺族の集まる、6月23日沖縄慰霊の日において、平和祈念公園(南部地区)でハンガーストライキをすることを表明した。
 国は、防衛省は、厚労省は、国会議員は、日本国民は、本当に具志堅さんにハンガーストライキをさせるのか。 Choose Life Projectでは、その動向を注視していく。(※政府交渉時の具志堅さんのコメントについては、近く動画としてまとめる予定である)

【参考】
具志堅隆松『ぼくが遺骨を掘る人「ガマフヤー」になったわけ。
サトウキビの島は戦場だった』(2012年、合同出版)


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