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「こんな政権なら乗れる」 #投票2021 第2弾

シリーズ「投票2021」の第2弾として、ゲストに政治学者の中島岳志さんと、NPO法人キッズドア代表理事の渡辺由美子さん、司会に政治アイドルの町田彩夏さんをお迎えし、「こんな政権なら乗れる」という番組を配信しました。このタイトルは、ゲストの中島岳志さんの著書からお借りしています。著書のなかで中島さんは、政権交代の受け皿がないなか、国民が乗れる「もう一隻の船を浮かべよう」と呼びかけています。
 
2021年9月3日、菅総理が自民党の総裁選に立候補しないと表明し、それにともなって、総裁選の行方など自民党内の「政局」に関する報道が目立っています。そのなかで秋の衆議院選挙を前に私たちは何を考えていくべきなのか。番組内容をnoteにまとめたので、ぜひご一読ください。

番組のアーカイブはこちら。


町田彩夏(以下、町田):菅総理が総裁選への不出馬を表明したことにより、今、政治報道の中心を占めているのが、自民党内の政局に関するものです。その波に流されることなく、秋の衆議院選挙を前に、私たちが何に注目し何を考えていくべきなのか、ゲストのお二人にお話を伺いながら、政治の主人公は私たちなんだということを確認していきたいと思います。

自民党総裁選から見えること

町田:現在、自民党総裁選の動きがある一方で、政府与党は、野党4党が憲法の規定に基づいて求める臨時国会の召集を拒否しています。この状況をどうご覧になっていますか。

中島:とにかく臨時国会を開かないといけません。国会が開かれないまま選挙になってしまうのは非常に大きな問題です。国会を開き、与野党協議のもと国民が強く求めているコロナ対策を前進させていくべきです。国民は、誰を幹事長にするかという話よりも、病院をつくってほしいと思っています。

渡辺:私も、とにかく国会を開いてほしいと思っています。私達が支援している困窮子育て家庭は本当に今大変な状況にあります。コロナ感染や、子どもの学校の休校などで仕事に行けなくなると、来月生きるためのお金が全く入ってこない。それなのに、そこに対する補償が全くない。親が入院してしまえば、家にいる子どもは食べるのにも困ってしまいます。大変な問題がたくさんあるので、政局より今困っている人をどうにかしてほしいと思ってしまいます。

町田:自民党総裁選をめぐる政局報道というのが相次いでいる中、私達が忘れてはならないこととしてどんなことがあるでしょうか。

中島:自民党総裁選となり、新しい顔のように出てきている政治家に対して、この1年半であなたたちは何をやったんですか、としっかりと問い詰めないといけないと思います。

渡辺:国民は総裁選に対して決定権はないですが、私たちは衆院選には参加できます。衆院選に行くことを忘れないことが大事だと思っています。政局論争に乗るのではなく、実際どこにどれだけお金を出し、具体的に何をしていくのかをしっかりと聞き、見て、問うていきたいです。

政治を見ていくための指標

町田:中島さんは、著書の中で政党を四つの指標でわけていらっしゃいますよね。

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中島:政治がどういう仕事をしているかを大きく分けると、お金の問題と価値の問題をめぐって仕事をしていることがわかります。

縦軸は、国民から徴収した各種税金をもとに、どこにどれほどの予算をかけるかの指標になります。
税金を安くする分、病気や事故などのリスクに対しては個人で責任をとってもらうのが下の「リスクの個人化」です。
上にある「リスクの社会化」とは、リスクは誰しもに振りかかってくるものと捉え、社会全体で受け止めようとします。なので、行政のセーフティネットを分厚くし、税金は高く取る。

一方で横軸は価値の問題とありますが、政府はお金だけではなく価値も扱っています。例えば、選択的夫婦別姓の是非は価値観の問題です。

リベラルとパターナルの問題

中島:近代の「リベラル」とは、もともとtolerance(寛容)という意味を持って誕生しています。ですから、他者に対しても、自身の思想・信条に対しても、自由に考える権利を保障するよう求めます。

よく、「リベラルvs保守」と言われたりしますが、リベラルの正確な反対語はパターナルであると思っています。パターナルは、父権的と訳されますが、非常に大きな力を持つ”父親”が他の家族にあれこれ指図をするように、力を持ってる人間が、他者の価値の問題に対して土足で介入していくうのがパターナルという考え方です。

このように、価値とお金の問題(リスク)によって分けていくと、四つの象限ができます。選挙のときには、こうした区分から、自分がどの政党や政治家に一番シンパシーを持つのかを選択の基準としたらいいのではないかと考えています。

町田:各政党を、中島さんの四つの象限に分けたものがあります。

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中島:野党側は大きくは二つにわかれていて、維新だけが自民党に近いんです。だから本来であれば、連立内閣は自民と維新がやり、立憲や公明を含めた政党がもう一つのゾーンでわかれるというのがわかりやすいのですが、日本の場合はそこが非常に複雑になっています。

過去を振り返ると、2017年、2のゾーンにいた民進党の前原さんが、それとは明らかに真逆の4に位置する小池百合子さんをトップに掲げた希望の党に合流する形になり、野党支持者からは「選択肢がない」という戸惑いの声が多く見られました。
その戸惑いが、新たな選択肢をつくってほしいという声につながり、枝野さんが立ち上がって、政治学用語でいう、ラディカルデモクラシーと言われるような民主主義のあり方が盛り上がったのが、立憲民主党の結党でした。

しかし、2018年の春に国民民主党が結党したことで、立憲民主党は野党第一党はどちらなのかという数争いをやり始めて支持率を下げました。支持者からすれば、こうした動きがあると、自分たちの声なんて届いてない、と思ってしまいます。2のゾーンが陥りやすい罠が、「言ってることはリベラルなんだけど、やってることはパターナルなおじさん政治」というものです。

町田:理念やマインドとしては四象限に分けられても、政党が運営されている仕組みやスキームとなるとリベラルの中でも権威主義的な動きがあり、有権者や支持者が乖離を感じ、支持率が伸びない現状があるんですね。

四象限からみる自民党総裁選

町田:続いて、自民党総裁選で名前があがっている方々を、こちらの表に当てはめて見ていきたいと思います。

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中島:安倍・菅内閣と同じく4のゾーンに入る人は、下村さんと高市さんだと思います。

少し違ってくるのが、河野太郎さんです。彼は自助努力・自己責任の考え方は強く、お金の面では新自由主義者ですが、価値観の問題についてはリベラルです。

一方、小泉内閣の閣僚だった石破さんは、かつては新自由主義者でしたが、自分たちのやってきた新自由主義的な政策が、このところ地方を痛めつけ、格差が広げたことを受け、リスクを社会化していかないといけないという方向に舵を切ったんですね。野田聖子さんもよく似た政治家です。

岸田さんは、言っていることは2のゾーンに入るのですが、彼の背後には安倍さん、麻生さんがいます。この人たちの後ろ盾によって首相になっていく道筋を描いてるので、菅内閣の4のゾーンに引きずられています。

高市さんと野田さんは、同じ女性候補でも明らかに対極にあるので、私達も選択しやすい、見やすいなと思いますね。

これらを踏まえて、誰が総裁になった場合、どういう国になるのかを私たちはよく見極めていかないといけないと思います。

野党がやるべきこととは

町田:市民の皆さんの声を聞いていると、本当に野党に任せてよいのかという疑念や、野党に実行力はないという言説がそこはかとなく漂っている印象を受けています。コロナ対策を一例に、政府や野党の政策に対してどのような評価をしているかお聞かせください。

中島:世田谷区長の保坂展人さんが、立憲民主党にも提案したけれども受け入れてもらえなかったことの中に、野党の側も専門家委員会をつくろうという案があります。
与党は専門家委員会を置き、与党の側から政策を打ち出しますが、野党も野党できちんと科学的知見を持った専門家や、現場をよく見ている自治体の人々からなる専門家委員会をつくり、政府側が出してきた政策に対して、意見をしっかりと打ち出せる場をつくらないといけないと保坂さんは言います。
そういった力のある人たちを野党が組織して、オルタナティブな、そして現実的なリアリズムに基づいたリベラルを常に提示していけば、国民の信頼感につながってくると思うのですが、その工夫ができていません。

渡辺:野党はやり方が下手だと思います。台湾モデルやオーストラリアモデルをやります、といえば国民も乗っかりやすいのに、「ゼロコロナ」とわざわざ新しい言葉、格好いいイメージの言葉を打ち出しても国民は乗りづらいと思います。
与党に関しては、決められる政党なのだからどんどん決めて実行していってほしいです。現金給付だって、結局はいつかはやるんでしょうが、やることが遅いせいでますます状況は悪くなっていってるのだから、すぐにやればいいのに、と思います。

政治の役目は、外が何と言おうと、自ら必要なものを判断して必要なときに実行することなので、もう少し、国民の求めていることを判断してやって下さるといいなと思います。

選挙の「2:5:3」の法則とは?

町田:各政党が象限をきちんと示し、選択肢をわかりやすくするという話をこれまでしてきましたが、それ以前に人々が投票に行くのかという問題もあると思います。中島さんはこれまで、2:5:3という法則を挙げてその問題を説明されています。

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中島:2:5:3は、永田町界隈で、特に自民党の人がよく言う数字です。これは、選挙においては10人に2人が野党に入れる、5人はいわゆる浮動票と言われる人たちで、かなりの割合で近年は選挙に行かないという選択している。そして、3人が与党側(自公政権)に入れる、という数字です。

安倍さんは、自公政権が3対2の固定票によって勝つことができるように、5の人たちの投票率を下げようとする手法で選挙に臨んできました。選挙前になると、「アベノミクスは道半ば」などといって、争点をはっきりさせないで選挙になだれ込みます。

小泉内閣の時は、これとは違う選挙の戦い方をしました。自民党にとって一番の集票マシーンであった郵便局を既得権益だと敵に回して、とにかく投票率を上げ、無党派と言われる5の人たちを含んだ支持率を高揚させることによって、政権維持をしていくのが小泉さんのやり方でした。

なので、これから重要なのは5の層がどう動くのかです。まずはこの人たちが選挙に行くような仕掛けをできるのか、考えていかないといけません。

町田
:渡辺さんは、特に若い方たちの投票率を上げるために「目指せ!投票率75%」というプロジェクトを始めました。どんな方々と、どんな思いからこのプロジェクトを立ち上げたのでしょうか?

渡辺:政府に声を届けようとしても、なかなか届かないもどかしさがずっとありました。そこで、壁を突破するために一つ重要なのは、投票率を上げることじゃないかと思ったんです。そうした思いでスタートしたのが、「目指せ!投票率75%」プロジェクトです。

前回の衆院選で一番投票率が高かったのが60代の方たちで、投票率は72%でした。対して20代の投票率は34%しかなく、そのギャップはすごく大きいと思います。だから、どの世代の投票率も75%になったときに見えてくる世界は違うと思います。それは必ずしも若い人向けの政治になるというわけではなく、政治家が国民の方を向き、国民の声に耳を傾けるということです。国民の声が届くようになります。

町田:こちらのプロジェクトで行っている、「衆議院議員総選挙を見据えた10の争点」というアンケートから見えてくることはありますでしょうか。

渡辺:まず、アンケートに対し、現在、4万5000票ほどの回答が来ていることが実行委員会としても驚きでしたし、若い方、現役世代の方、女性の方など、なかなか自分たちの思いをぶつけるところがなかった人たちが多く回答してくださっていました。
争点に関しても、マスメディアがとるアンケートとは違う回答が上位に上がってきています(注:9月中旬公開)。

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東京・世田谷区を例に考える-主体を引き出す民主主義

町田:中島さんがご著書『こんな政権なら乗れる』の中で、世田谷区長の保坂展人さんとお話をされていた、「主体を引き出す民主主義」とは、どのようなものなのでしょうか。

中島:渡辺さんがおっしゃったように、なぜ多くの人が選挙に行かないのかを考えていかないといけないと思います。先進国各国でも投票率は下がっていますが、これには、新自由主義や二大政党制など、様々な要因があります。しかし、根本的に重要なのは、選挙の投票率を上げるためには選挙だけ見ていてはいけない、ということです。

もちろん、私たちの主権の核になるものですから、選挙もとても重要なものです。しかし、あって年に1回ほどの選挙で自分の投票した政治家が勝たなければ、「主権からの疎外」という感覚を産んでいきます。そこで重要になるのが、投票以外にも、政治にアクセスするためのいろんなルートがあることです。

世田谷区長の保坂さんは、熟議デモクラシーを非常に実践をしている人です。世田谷区は100万都市とも言える大きな区でありながらも、保坂さんはこの10年、区長自ら車座集会に出かけて市民の声を聴き取ったり、無作為抽出の人たちに集まってもらって議論をし、よい議論は区長がそのまま引き受けて政策に反映していったりしています。デモクラシーのルートが選挙以外に無数にあるんです。こうなると、市民も自分たちは政治に関与できると思い、投票率も上がっていくんですよね。
民主主義とは、こうした地道な熟議にあります。選挙以外にも、市民の声が届くルートを根づかせていくことが非常に重要なんだと思います。

渡辺:私は世田谷区の一人親家庭の学習支援をずっとやっていますが、世田谷区は、行政の委託事業として、国が制度化する前からNPOの無料学習支援をいち早く始めていました。
保坂さんは、必要な方々に必要なサービスを届けることを、すごく前向きにやられる方です。私たち以外にも、いろんな市民活動が世田谷区の中にはあって、重層的に絡み合っているのが素晴らしいと思いますし、世田谷区に住んでいる方達は、「自分たちが主役なんだ」というような空気を持って、自分たちのつくりたいものをつくる気概があるように感じます。

町田:若い人は政治に関心は持っているものの、政治について話す環境がないことが先程のアンケートからもわかってきたと思うのですが、意見を交換する場所があれば自分も参加したい、と思う方もいると思います。
世田谷区のような双方向的なやりとりや市民の政治参加について、どう思われますか。

中島:例えば空き家の改築利用のように、なんとなく多くの人が不便に思ったり、「もっとこうなったらいいのに」と思うことに対して、市民の主体性をうまく引き出して、その人たちの思いをカタチにする場を無数につくっていくことが、民主主義にとても重要なことだと思います。

渡辺:私は、選挙に行って投票をすることが一番最初の参加だと思っています。そして、自分が投票した政治家や政党がどう成長していくのかを見ていくことも大事だと思います。選挙を通して、そういう楽しみ方を持ってポジティブに参加できるといいのかなと思います。そうなっていけば、政治や政治家に対して、お願いしたいこと、やってほしいことが出てくるんじゃないかなと思うんです。

私たちのアンケートで争点に関して聞いたのは、争点は政党から出されるものではなく、私たちが聞きたいことに政治が答えるという正しいあり方を思い出させるためです。今のように大変な状況になったときに、政治に任せっぱなしにするのではなく、自分たちの意思を伝える場を持たないといけないんだと思った人はすごく多いのではないかと思っています。

もう一隻の船を浮かべるために私たちにできること

町田:今回、「こんな政権だった乗れる」ということをテーマにお話してきましたが、選挙が近づいている今、もう1隻の船を浮かべるために私達ができることにどんなことがあるでしょうか。

中島:まず、先程の2:5:3に従うと、2を固めることが野党の絶対条件だと思います。ですから、野党共闘をしっかりとやらなければいけない。でも、それだけでは足りません。もっと支持率・投票率を上げ、5の人たちに投票してもらうことが重要になります。
そのためには、「リベラル」で「リスクの社会化」の2のゾーンをしっかりと理念として掲げ、わかりやすく伝え、そのうえで共闘している姿を見せることが大事だと思います。

僕が保坂さんに注目をした理由は、今の野党にはない実行力があるからなんです。野党はこの9年間ずっと野党であり、しかも地方組織が弱いので、現場で一体何が起きてるのかということについて、野党議員は情報の面でも弱いところがあります。

ですから、保坂さんのような、実績を出している首長としっかりとタッグを組んで、下からのボトムアップの声を届けて、リベラルなリアリズムをしっかりと探求する。そうして信頼感と安心感を国民に与えていくべきだと思います。

渡辺:私達がいかに政治に向き合い、次の選挙で投票率を上げるかが問題になると思います。投票率が低いということは、ある意味伸びしろが高いということです。参加してこなかった人たちが選挙に行くとなった時、各政党や候補者も変わり始めると思います。とにかくみんなが政治の方を向くことがパワーになると実感できたらいいなと思います。

町田:ありがとうございます。

私から皆さんに投げかけたいのは、今の生活に全て満足していますか、という問いです。生活に余裕があるかどうかは人それぞれ違うと思いますが、自分の生活に全て満足しているのかを考えてみると、例えば社会保険料ちょっと高いなとか、手取りがもう少し増えたらなとか、学費がもう少し安かったら大学行けたのになとか、そういう要望が、皆さんの生活の中に一つはあるのではないかと思います。

投票は、社会を変えるためにあると思います。変えたいことがあるなら投票に行きましょう。何か一つでも、自分の生活が良くなってほしいなと思うことがあるのなら、投票に行きましょう。それを変えるのが、投票の持つ力です。あなたの生活の中にある願いを一票に託し、変えていく。そうして変えた議会・国会というものを、4年間ないし6年間しっかりと監視していく。そういうプロセスが、より良い民主主義を築いていくのだろうと思います。

本日も長い間お付き合いいただきまして、ありがとうございました。

最後にChoose Life Projectからのお知らせ

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