帰らない奴が家に来た

 仕事の帰り道、スーパーに寄ると「パパイヤ」が売っていた。「旬」らしい。
 パパイヤか。そういえば食ったことないな。そうだ、買ってみようか。

 俺はパパイヤを手に取り、レジに向かった。

◼︎

 ここで超スーパーデラックス俺ナゾナゾのコーナー!!!!!!!!

 ーお父さんがイヤがる果物ってな〜んだ?
 (「お父さん=パパ」がヒントだよ!)

 正解は〜、

 「ブイヨン」

 ってそれはクレアおばさんのシチューのヒミツやないかーい!!👆👆

 おお……、悩みでもあるの?

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 元気でやってますよ。元気モリモリ、モリモリマッチョマンでやってますけども。ねぇ。

 おい、面白いこと言うと死ぬ呪いでもかけられたのか?

 パパイヤはまずかった。うっすら甘くてシブいアボカドみたいな味だった。オレンジ色でめちゃくちゃうまそうな見た目なのにな。うまそうな見た目のわりに大したことない食べ物ランキングで「ニンジン」に次ぐ2位にランクインした。

 想像通りうまかったのは「マンゴー」だ。マンゴーはうまい。2年ぐらい前に人生で初めてマンゴーを食べたんだが、嬉しかったからみんなに話した。びっくりしたのが「マンゴー食べたことある?」って聞いたらみんな食べたことあるのな。なんで?

 「パフェとかに入ってるじゃないですか」

 おいおいおい! パフェとかに入ってるのをカウントしてるの!? 頼むぜ〜。パフェとかに入ってるやつはマンゴーじゃないっしょ〜。そしたら俺あれだよ? 風俗行くたびに「歴代彼女」にカウントしちゃうけど平気?? 法律上は恋人だから! 法律上は恋人だから!

 「いいんじゃないですか」

 なんだよ! なんだよもう! くそ! マンゴーの話終わり! 終わりだよ!!

◼︎

 俺の家の近くに、とある有名な宗教団体の本部があって、よく俺のところにも勧誘に来る。新聞を渡してきて、このままだと日本がヤバいことになるからあなたも一緒に祈ろう! って話だ。

 向こうの言い分は一応全部聞いておきたいという気持ちと、俺の方が説得力があったらなんなら俺の信者になるんじゃないかと思って、来たら対話してる。

 ちなみに俺の方は信者は俺1人なんだけど、教義は一個だけで「投資とかよくわかんないから禁止」っていう鉄の掟がある。友達も入りたいって言うんだけど「NISA(ニーサ)」っていうのやってるらしくて、「NISAは禁止?」って聞かれた。NISAってなに? よくわかんないから禁止した。なんか恥ずかしかった。

 このあいだは、そこの団体のワンランク上の信者みたいな人が途中で合流してきて2対1になった。なかなか話は平行線だ。結局向こうはベースに「神秘的なパワーを信じる」があるから「それを別に信じてない」俺と噛み合うことは無い。

 でも、
 「別に信じてないんですよね」
 「なんで信じてないの?」
 「証拠が無いでしょ」
 「じゃあ一緒に来てくれたら証拠を見せるよ」

 って、向こうのホーム(本部)に誘い込まれると断る理由が無くなっちゃうから「別に信じてない」の手だけは打てないのだ。あくまで向こうのパンチをかわしつつ理屈で話さないといけないが、理屈で話しだすと最終的には信じる信じないの話になる。もう「証拠」とやらを見に行くしかないのか!?

◼︎

 宗教の勧誘は結構向こうのエピソードトークが面白いから聞く価値はあるんだが、厄介なのが不動産の営業だ。全く面白くない上に「不動産投資」という俺の不倶戴天の敵を勧めてくる。しかも俺が投資を嫌う理論的裏付けは「よくわかんないからイヤ」というグズグズの土台しか無い。こういうのは知識に差があると不利な戦いになるのだ。

 とある土曜日の夜10時ぐらいだ。突然部屋の呼び鈴が鳴った。この時間に訪ねてくるってことは友達か!? 誰だ誰だ!?

 ちょっとウキウキしながらドアを開けると、全く知らない奴が立っていた。マジで誰だよ。誰だお前は。

 「住まいの未来について考えませんか?」

 なんだって? 言ってること全てが漠然としてるから全くなんなのか掴めない。さっそく帰ってほしいところだが、誰だろうと門前払いだけはしないと決めている。一応話は聞いておこう。

 「住まいの未来? なんですかそれ」
 「ここだとじっくり話せないので、玄関に入れてもらっていいですか?」

 なるほどそうだな。それはそう。寒いし。「どうぞ」と言って玄関に入れた。
 向こうは玄関、俺は1Kの部屋の「K」の部分に立って、じゃあ話そう、と構えていると笑いながらこう言ってきた。

 「いや、ここじゃさっきと一緒じゃないですか。そっち入れてくださいよ〜」

 どうやらこっちの「K」の部分に入りたいらしい。まあいいか。どうぞ。靴を脱いで上がってきた。

 「座ってもいいですか?」
 「どうぞ」

 どかっとあぐらをかいて座った。

 「まあ座ってください。あ、暗いので電気点けてもらってもいいですか?」

 うるせえなさっきから! うるせえんだけどギリギリ許容できる範囲の要求を次々に通してくる。多分そういう「手法」だ。少しずつ要求の範囲を広げて、最終的には「キスしてもらっていいですか?」って言うつもりなんだ。ハレンチめ。もお❤️

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 お互いに座って向かい合う。もうすでに向こうの土俵だ。部屋に入れる、電気を点ける、対面に座る。相手の要求が3つ通っている。主導権を回復しないとあれよあれよとキスしちゃうかも。それもいっかな、なんて、俺のバカ……❤️  うるせえ!

 相手はA4の紙を出してきた。ボールペンで簡単な図を描く。

 「これが持ち家」「それでこれが賃貸」

 「賃貸で40年暮らす場合なんですけどね」と話し出す。ちょっと待て。そもそもお前は今から何の話をする予定なんだ。「住まいの未来について〜」しか聞いてないぞ。

 「ちょっといいですか、これはそもそも何の話なんですか?」
 「ですから、住まいの未来について考えましょうっていうことです」
 「つまり〜、不動産の営業とかそういう話ですか?」
 「いや(笑)、だからそれを今から説明しようとしてるんですよ(笑)」

 「賃貸で40年暮らす場合なんですけどね」と、またさっきの話に軌道修正される。

 「いやいや、最終的にあなた私に何かを売る気でしょう。それを先に教えてください」
 「まあ焦らずに(笑)。これから説明しますから」
 「なるほど、じゃあ聞きましょう」

 そのあと、賃貸と持ち家でかかる値段がどうこうという話を5分ほど聞いた。だがそれでも結局こいつが最終的に何の話に持って行きたいのかさっぱり見えない。俺は話を遮って言った。

 「しばらく聞いたけど結局よくわからないですね。大体どういう話かをまず説明してください」
 「ですから住まいの未来について考えて欲しいんですよ。そういう話です」
 「わかりました。住まいの未来? とやらのことは考えとくのでチラシでも置いて帰ってください」
 「いやいや、そう感情的にならずに(笑)。まあ聞いてください」
 「しばらく聞いてもよく分からないんで言ってるんです。わかりました。そう言うなら、今から3分あげます。3分聞いて私が興味を持つ話じゃなかったら素直に帰ってください」
 「さっきからなんなんですか? 感情的になって酷いですね。ちゃんと話を聞いてくださいよ」

 さっきまでヘラヘラしてたのに急に半ギレで喋り出した。だが俺も引けない。みんな忘れてると思うが土曜日の10時なのだ。本来なら月ノ美兎さんの過去配信を見直してうっとりしてるはずの時間だ。もう帰ってもらおう。俺はスマホをポケットから出して、ストップウォッチを起動した。

 「はい、今から3分、どうぞ」
 「いやいや、そうじゃなくてね。そんな感情的になっちゃったら話にならないでしょ?」
 「話さないのね? そしたらもう帰ってください」
 「いや、帰りませんよ。ほら座って、話聞いてください」
 「いや、帰れ。警察呼ぶぞ」
 「警察は民事不介入ですよ。知らないんですか??」

 ちなみに「帰れ」と言って帰らないのは「不退去罪」といって刑事事件だ。

 「110押したから、掛けるぞ」
 「どうぞ、どうせ警察は来ませんよ」

 通話ボタンを押した。警察に繋がる。
 その画面を見ると「もういいですよ」と言ってその男は飛ぶように去っていった。

◼︎

 同じようなケース無いかな、と思ってネットを調べるとやっぱりあるらしい。中には2時間ぐらい話し続けられて最終的にマンションを買わされたとかいう話も出てくる。

 共通するのは「名乗らない」「名刺を要求しても出さない」「部屋に入ろうとしてくる」「帰れと言っても帰らない」などなど。なかなか厄介な話だ。たしかにどこの会社の何者か結局わからなかった。

 門前払いはしない主義の俺もちょっとあれには辟易とした。今後は「住まいの未来について〜」って言われた瞬間に無言でドアを閉めることになるだろう。「住居のフューチャーについて〜」だったら話聞くからこの前の業者は次回はそれで来てくれ。

 今となっては良い思い出(?)である。

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