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認知症フレンドリーって?園芸用品の商社が当事者とつくるやさしいバッグ

こんにちは!
熊本の一般社団法人BRIDGE KUMAMOTOです!

熊本地震を機に設立した私たちは「社会課題をクリエイティブの力で解決する」を掲げて、災害ゴミとなった廃棄ブルーシートをバッグにし、収益の一部を被災地域に寄付する「ブルーシードバッグ」というプロダクトを作ったり、企業からお預かりした寄付金を現地のニーズと、企業さんへのPR効果に合わせコーディネートを行ったり、さまざまな事業を行っています。

最近、さまざまな企業や団体の方から「社会課題に関する商品やサービスを作りたいけれど、なにから始めればいいかわからない…」というお問い合わせをいただくようになりました。

「アイデアはどうやって生まれるか」「どうやって仕組みを作るか」について私たちなりのやり方をお伝えしてみたいと思います。

認知症の方にやさしい園芸用品を

今回ご依頼をいただいたのは、西日本最大の園芸・農業専門商社である株式会社ニチリウ永瀬さま(以下、敬称略)。

コーポレートブランド「welzo(ウェルゾ)」は「新しい種を植えよう。」を合言葉に、持続可能な社会と人々の暮らしを豊かにする商品・サービスを提供しています。
今回、認知症の方にも安心して使っていただけるような園芸・ガーデニング用品を通じて、誰もが心身ともに健康な暮らしができるよう貢献したいとお話をいただきました。

2012年で 462 万人だった認知症当事者は、2025年には約 700 万人に増加。65 歳以上の高齢者の約5人に1人に達することが見込まれており、認知症の症状のケアや当事者の方が過ごしやすい仕組み・プロダクトは社会にとって、重要です。

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引用元:認知症の現状と将来推計(三菱UFJ信託銀行)

株式会社Zero-Tenさまを通じて、商品企画・プロダクトデザインの面で、ご相談をいただきました。

まずは、ひとと効果・目的をイメージする

初回のお打ち合わせでは、デザインの手引きや、今回のプロジェクトにご協力くださった医療法人すずらん会たろうクリニックのご意見を参考に、デザインの面で意識すべきことや、どんなアイテムを作るかについてディスカッションしました。

◯ニチリウ永瀬が園芸用品の専門商社であること
◯五感を刺激する園芸は、認知症予防や認知機能の維持・向上が期待できる◯現在流通している認知症の方向けのアイテムは、幼児向けのようなデザインのものもある

という点から、アイテムを考えるうえでの条件を

Why(目的):当事者の認知機能の向上や、認知症の予防のため
Who(だれが):認知症の方はもちろん、そうでない方も
What(なにを):園芸を
When(いつ):気軽に始められ
How(どのように):楽しく続けられる

と整理しました。園芸を始めるタイミングで使用するものということで、はさみやスコップなどの道具が揃った「スターターキット」があがりましたが、物を揃えることよりも、自立した行動のサポートになることが認知機能の維持・向上にとって重要であるという目的に立ち返り、取り出す、置く、しまうといった行動の支援になる「ものを無くさないバッグ」の制作という方針で決まりました。

また、デザイン面では、ニチリウ永瀬 本社所在地である福岡市が、認知症になっても暮らしやすいまちづくりを目指して発刊している「認知症の人にもやさしいデザインの手引き」を参考に

◯色は明度のコントラストが強い二色
◯ピクトサインを使用

を方針としました。

商品開発だけに言えることではないかもしれませんが、アイデアから考えるのではなく、条件を整理すること、目的やアイテムを通じて誰にどうなってほしいかを考えることが最も重要だと思います。そして、条件や目的も専門家や当事者の意見を聴くことで、より解像度が高く、寄り添うアイテムが作れるのではと考えています。

ともに考え、試行錯誤する

デザインを制作したのち、試作は熊本県内の就労継続支援B型事業所トイロハンドワークスにご依頼しました。

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(左)ベース:緑 × ポケット:黄
(中)ベース:紺 × ポケット:紺(ピクト:白)
(右)ベース:紺 × ポケット:クリア(ピクト:白)

試作品はニチリウ永瀬によって、認知症の方が過ごされている施設にお持ちし、実際に使っていただきました。

その状況の動画や様子、専門家や施設の職員のご意見も含めて、フィードバックをいただきました。

◯安全性の面で、はさみのポケットも刃が出ない仕様がいい
◯熊手は刃が下に、取っ手が上に出てくるサイズが良い
◯紺 × 紺 は認知しづらい
◯クリアポケットは物が入っている様子が認知しやすい
◯バッグの生地が柔らかく、自立したほうが使いやすい

アイテムカラーを紺×クリアポケットに限定し、ポケットやバッグのサイズを改良し、再度試作品を制作。

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また、作業中の安全性や衣服の汚れの予防を目的に「脱着しやすい」園芸用エプロンを制作しました。

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首部分は柔らかいゴムに、腰部分には形状記憶ベルトを差し込み、ワンタッチで脱着できるよう、というアイデアは、トイロハンドワークスの代表 山本さんによるものです。山本さんは、訪問看護の経験を活かし、障がいをお持ちの方が衣類を通じて、もっと何かがしやすくなることを目指して、身体的特徴、疾患、可動域の範囲などを勘案した衣服の提案・製作も 一般社団法人ReFREL で行っています。

自分たちで出来ることには限界がある、と災害支援を通じて体感している私たちだからこそ、自分たちだけで考えるのではなく、さまざまな方に協力をいただくことも重要だと思っています。

仕組みもデザインする

試作も形となり、本製作を進めるにあたって、製作をどこに依頼するかという課題があがりました。

ニチリウ永瀬としては、このアイテムだけで、園芸が身近な状態をつくるというよりは、この商品開発を起点に、さまざまな取り組みをしたいと考えていました。私たちは、ニチリウ永瀬やこの取り組みについて知り、応援してもらえる、つまり広報・PR効果も見込めるよう、ソーシャルグッドのかけ合わせを提案しました。

今回は「障がいのある人のはたらく、​くらすを充実」を合い言葉に、手作り帆布バッグの制作や、清掃事業・便利屋事業を行う、障がい者福祉施設「光あけぼの園」にご依頼しました。倉敷帆布を使用したオーダーメイドでのバッグの制作を行っている事業所です。

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光あけぼの園|社会福祉法人大和福祉会 はんぷ工房 結 にて

SDGsの目標のひとつの「働きがいも経済成長も」では「2030年までに、若い人たちや障害がある人たち、男性も女性も、働きがいのある人間らしい仕事をできるようにする。そして、同じ仕事に対しては、同じだけの給料が支払われるようにする。」ということが述べられています。

また「つくる責任 つかう責任」という目標があります。食糧廃棄や廃棄物の削減、化学物質などの放出の低減についての内容ではありますが、「誰一人取り残さない」ことを誓うSDGsの目標やターゲットを参考に、自分たちの仕事ひとつ、工程ひとつに意味を持ってご依頼することで、プロダクト開発と同時に社会の仕組みもデザインしていくことが大事だと考えています。

このプロダクトの意味

先日、取材時に「このアイテムのポイント、希少性は?」という質問をいただきました。西日本最大の園芸・農業用品の専門商社であるニチリウ永瀬が取り組んでいるということが、まずとても大きな意味を持っているのではないかと思います。

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「福岡オレンジパートナーズ」と「オレンジ人材バンク」の設立会見時にバッグ・エプロンを取り上げていただきました。

ESG投資や、SDGs、企業の社会的責任といった言葉がだんだんと広まるようになり、さまざまな企業がさまざまな取り組みを始めています。
これまでの事業を否定するのではなく、社会貢献の幅を拡げていくために、いかに自社の強みや事業の強み、これまでの成果を活かすことが出来るのかという視点がよりよい取り組みへの一歩になるのではないかと、ニチリウ永瀬さまとの取り組みで改めて感じました。


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