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今日、ずっと年下の子とデートした

僕がずっと行きたかった雑貨屋さんの最寄り駅で降りて、線路沿いの道を君と2人で歩く。
君は歩きながら、最近ハマっているSAMAMOTO DAYSを読んでいる。

背中にはリュックを背負っているから、まるで二宮金次郎みたいに見えるぞ。

本来なら、行儀の悪さを指摘するべきところなのに、こんな風に感心している僕はやはりどうかしているんだろう(ひとりのときは危ないから絶対やっちゃダメだよとだけは釘刺していたけど)

そして、線路沿いの道を右に曲がるときに、「君の名は」のラストシーンみたいな階段が現れたから、

「君の名は?」

「西郷隆盛でごわす」

と「君の名は(幕末編)」ごっこをしてから、少し道を進んだところの雑居ビルにお目当ての雑貨屋さんを見つけた。

急な階段を上がって、店に入った瞬間、僕の両目が❤️マークになったくらい素敵なお店だった。

そんな僕の興奮をよそに、また二宮金次郎化する(今度は銅像)君。

僕も銅像になった君をこれ幸いとばかりに放りっぱなしにして、気さくな店主さんと雑貨談義に花を咲かす。

「80年台のメンフィス風のポップなデザイン雑貨のお店だと思ってたんですけど、こんな温かみのあるミッドセンチュリーの食器も扱っているんですね。」

「ええ、そうなんです。これは60-70年台のドイツの陶器で、北欧デザインの影響も受けていて、スティングベリっ名前のブランド名を冠するものまであるんですよ」

などなど…。

結局、うちのジョニー大蔵大臣からあとで大目玉を喰らうのを覚悟で、古いノベルティ人形とドイツ製のトートバッグを購入したのだった。

お会計を済ませて、その間、ずっと二宮金次郎(銅像)状態だった君に、「終わったよ」と声をかけとたんに動き出す君。

そして、自分の趣味の買い物に付き合わせて悪いとは思いながら、心はなぜかうきうきウォッチングな自分。

だって、今日は久しぶりの君と二人きりのデートだったんだもん。

そもそも10歳にもなったら、休日だって、学校の友達と遊ぶのに忙しくて、僕なんかと付き合わないだろうに(実際、子供の頃の僕がそうだった)、こんな風に(マンガで釣ったとはいえ)、半日以上付き合ってくれるなんて、本当にラッキーなことだ。

それは、君が不登校で遊ぶ友達がいない「おかげ」だと思うと、やはり胸が少し痛むけど。

けど、だからこそ、君が不登校のきっかけになった学校の先生たちみたいに、イケてない大人たちばかりじゃなくて、例えばさっきの店員さんみたいに、とても素敵なオトナもいるんだよ、って君に見せたい気持ちもある。

いや、それはちょっとカッコつけ過ぎだな。

本当は、君と一緒にお出かけすると、こんなにも幸せになるオジサンが一匹いることを見せつけたいだけなんだろうな。

家への帰り道。

「あれやって!」と言いながら君が僕の右手を掴む。

君の希望通り、手を掴んだまま、僕は大きく腕を振って、君の体を走り幅跳びみたいに前に放り投げる。

キャッキャとはしゃぐ君。

僕が、まだ君とこんな風に手をつなげる事実にいたく感動しているなんてきっと君は思いもしないだろうなあ。





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