2022/08/06

大学教員をやめて民間で働くことにしました.そんなわけで,主に大学院生に向けて色々と書き残します.ついでに大学教員の仕事についても,主に外の人向けに書こうかなと思います.また国立大学の若手教員目線なので,そのような条件付きの文章だと思ってください.

1. 自己紹介
2年ほど前にイギリスの大学院で博士号を取りました.専門は統計学周りです.その後コロナの影響で色々あり,関東圏の国立大学に専任講師(テニュア)として着任しました.今年の12月でやめる(予定)ので,大学教員としての歴は2年ちょっとです.現在32歳です.業績(後述)は,まあ甘く見てこの年齢だと中の上くらいじゃないでしょうか.今の感じだと, 40歳位で教授になってたと思います.これは僕の所属がいわゆる文系学部なので,基本的に年功序列で勝手に職位が上がっていくことによります.

2. 大学教員になるのは大変か?
結論から言うと,分野と経歴によります.僕は正直簡単にテニュア職にありつけました.理由は分野が流行っているのと,海外PhDだからだと思います.同じような人は簡単に決まると思います.逆に,国内博士で分野が廃れている場合はテニュア職をゲットするのは非常に大変だと思います.

3. テニュア職って?
大学関係以外の人も読むかもしれないので補足.現在大学の特に若手の職は5年任期付きのポジションが主流です.ポジションによっては5年間である程度の業績(後述)を残せたら本採用というのもありますし,何をしようとも5年で契約が切れるポジションもあります.テニュア職というのは,ようは終身雇用されるという意味です.本人が望む限り定年までその大学に基本的にいれます.テニュア職だった人間が民間企業に移籍するのは多分国内ですと珍しいです.

4. 業績って?
我々大学教員は研究をし,その研究を論文として公開します.この論文を提出する先として「査読付き雑誌」というものがあります.これは提出すると,匿名のレフェリー(専門家)が査読して,その論文の間違いの有無や,研究の価値等を判断します.このレフェリーや雑誌の編集者(編集者も研究者が兼任しています)がこの論文は我々の雑誌に掲載する価値がある,という判断をくだすと,初めて「査読付き雑誌」に論文が掲載されます.通常掲載されるまえに論文をよりよくする提案がレフェリーから与えられ,その提案にそって論文を改訂して再投稿をするというプロセスがあります.分野によっては雑誌ではなく査読付き会議が主流なところもあります.研究者の業績は「国際査読付き雑誌(会議)に掲載された論文」のみ,ともう認識していいと思います.国際の意味は,要は英語で書き全世界の研究者が投稿する位の意味です.「査読付き雑誌(会議)」にもレベルがあって,掲載するのが難しいのも簡単なものもあります.掲載するのが難しい国際査読付き雑誌に論文(会議)が掲載されると,特に界隈での研究者としての評価は高まります.大学教員が言う「研究」や「業績」とは,以上の事を普通指します.

5.研究以外の大学教員の仕事
学務(講義)と大学運営の仕事が主です.入試についてだったり(教員が作って教員が添削します),なんか細々とした組織を運営する事務仕事が割り当てられます.それと謎の研修や書類が無限に湧いてきたりもします.

6. 大学教員でよかったこと
・ほぼフレックス制なので時間の管理が自分でできる.
・研究は楽しい.
・人間関係が希薄なのでそれで悩むことはほぼない.
・頭の良い・知的な人が周りにたくさんいる.
・若い学生が成長したりしなかったりする姿を見られる.
・自分がやりたい研究をやりたいように出来る.
・海外に知り合いと友人がたくさんできた.


7. 何でやめようと思ったか
一番の理由はお金です.研究だけしてればいいのなら別にこの給料水準でもいいかな?と僕は思えるのですが,それ以外の部分が増えてきたのでそろそろ潮時かなと思いました.またちょっと書きましたが,職位があがっていくとどんどん研究する時間が無くなり,書類を書いたりそういう仕事が増えます.専門性を全く生かさない仕事に時間を割くのは正直嫌なので,転職できるある程度若い年のうちに民間に行こうと決断しました.それと研究費を獲得する書類を定期的に書くのも正直しんどいですし,獲得した研究費を使うのも色々事務処理がめんどくさくて,モチベーションがこういう部分でも低下しました.真面目に研究をするほど,仕事が増える=モチベーションが下がるイベントが増える謎仕様です.

8. 転職活動
僕の転職先は,某学会の企業ブースで展示しているのを見て,面白そうと思ってその場で応募しました.転職を考えている人は,普段から色々な人と交流を持つことを強くお勧めします.その前にもゆるふわで行ったことはありますが,本格的に行ったのは今年の6月位からです.僕はいわゆるデータサイエンティスト職として,経験者採用されました.

9. 学生にアドバイス
・ 博士課程にもし進学したいのなら,自分の専門分野で飯を喰うイメージをきちんと持ってほしいです.正直,分野によっては大学以外で仕事を見つけるのがほぼ不可能なものもあります.またいくらある分野で専門性をもってても,違う分野では経験者扱いされません.
・博士号を取得した理由を忘れないでください.大学で働きたいからでしょうか,それとも何か強い専門性を活かして働きたいからでしょうか.
・大学の外の人ともきちんと関係を持っている方がいいと思います.転職活動のみならず,共同研究の話などにもつながります.
・ 自分を守ってくれるのは業績だけです.コツコツ論文を書き続けることだけが,自分を守る手段だと思ってほしいです.
・周辺分野の院生や研究者ともつながっていくと,研究の幅が広がると思います.特に基礎研究を行っている人は,周辺分野の人と応用研究をすることを強く勧めます.

大学教員という仕事自体は本当によいものだと僕は思いますし, 僕みたいなのを雇って頂いて非常に感謝しています. けれどもう少し給与あるいは事務負担等の待遇の改善があってもいいのかなと思います. 

今後は企業とアカデミアを繋げられるような感じになっていきたいです.

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