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2024.5.6 J1第12節 北海道コンサドーレ札幌 vs FC東京

札幌のホームゲームです。
札幌は、岡村がベンチに戻ってきましたが、CB中央は前節に続いて家泉が担います。
FC東京は土肥が離脱し、森重を右CBへ移動。左CBにはエンリケ・トレヴィサンが戻ってくる形になっています。右SBは白井が担うことが多くなっていますが、このゲームは長友。荒木、松木、遠藤らは引き続き不在です。


FC東京のカウンター発射台

このゲームは、両チームともFC東京陣地側で、札幌がボールを持つ時間を中心にプレーすることを志向していました。FC東京は札幌のボール保持に対して4-4-2ブロックで向き合い、カウンターの機会を伺います。

FC東京の狙いのひとつは、サイド突破です。左サイドでは俵積田とバングーナガンデが縦方向にパス交換し、ディフェンスを一気に追い越すプレーを狙います。俵積田がバングーナガンデを前向きにプレーさせるためのポストプレーをしつつ、自身もスピードアップしてスペースへ進入します。
このとき小泉、高、森重、エンリケ・トレヴィサンの4人は、FC東京ゴール前に構えたままで、サイドを押し上げるような振る舞いは見せません。FC東京はボール保持であっても非保持であっても一貫して、4人でリスクのあるエリアを塞いだまま、それ以外のエリアを少人数で打開しようと試みます。

俵積田がスペースへ抜け出すことに成功すると、ドリブルで持ち運びつつ、逆サイドでは安斎、後方ではバングーナガンデが同様にスピードアップして、ディフェンダーがケアできていないスペースでパスを受ける準備をします。またディエゴ・オリヴェイラと仲川は中央で待ち構えて、クロスや折り返しに反応するための準備をします。
もし突破の試みが失敗しても、FC東京はその管理のために4人を後方に残しています。安定したカウンター発射台へ繰り返し戻るような構造を用意しておくことで、FC東京はサイド突破の試行回数を増やすことができます。

FC東京は同様の構造で、中央突破も選択肢として持っています。後方に4人を残した状態のまま、ディエゴ・オリヴェイラと仲川が近いポジションで縦パスを待ち受けていて、ディエゴ・オリヴェイラがキープに成功すると仲川が背後をスピードで脅かします。
後方を安定させながら、ディエゴ・オリヴェイラと仲川、俵積田とバングーナガンデ、安斎と長友をそれぞれカウンターユニットとして突きつける、という構図です。

一方の札幌は、低い位置に構えようとするFC東京のプランを、根本から動揺させようという意志は持っていなかったようです。長い時間、かつ高い位置でボールを保持し、カウンターは対面のディフェンダーが止めながら、FC東京のブロックを攻略しようとします。

サイドから反転の機会を伺う

ゲームは、開始直後の4分に札幌が先制して始まりました。
左サイドでスパチョークと青木がキープした後、自陣方向へ戻したボールを、荒野が右サイドへ展開します。これに4バックの外側に走り込んだ馬場が追いつき、ダイレクトでアーリークロスを選択しますが、これがミスキックになってそのままゴールニアサイドに決まります。対面の俵積田はしっかりポジションをとって、馬場のトラップの次のプレーに備えていましたが、意外な形で札幌が先行します。

その後は両チームの想定通りに、FC東京が札幌にボールを持たせる状況が続きます。
札幌は主に右サイドから攻撃を組み立てました。バングーナガンデの周辺を起点に攻撃をすることで、サイドのカウンターの開始地点にストレスをかける、という点は意識されていたかも知れません。近藤が縦方向のプレーを選択しつつ、浅野がエンリケ・トレヴィサンの外側に立つと、俵積田に守備の負担をかけたり、中央に留まろうとするFC東京のCBをサイド方向へ引く効果が生まれます。

近藤と浅野を後方からサポートする馬場に対して、中央の閉鎖を優先するFC東京は強くアプローチに行きません。札幌はこのエリアを拠点にして攻撃をやりなおしたり、クロスによる中央への進入を試みていました。クロスのターゲットはファーサイド、森重の背後です。鈴木がここへ入って競り合い、同時にスパチョークと青木がそのこぼれ球を狙っていました。

しかしゴール前の意識が高いFC東京は、常に鈴木の動向を監視しており、対面の森重は単純なクロスでそれを見失うようなことはありません。札幌はほとんどシュートシーンまで持ち込むことはできませんでした。
FC東京はゴール前に脅威がなければ、前向きになれる瞬間を待つだけです。前線のプレイヤーも多くの時間を守備対応に使いつつ、札幌の背後方向へ飛び出す機会を伺います。

25分、FC東京が得点します。
リスタートの場面で長友がディエゴ・オリヴェイラへのフィードを使うと、家泉が後ろから倒してファウルになります。FC東京はこのフリーキックを高、長友、安斎と右サイドでつなぎ、中央にいるディエゴ・オリヴェイラまで届けます。再開までに一度最終ラインに戻っていた家泉は、ディエゴ・オリヴェイラの中盤のプレーに対して対応が遅れました。一瞬時間を得たディエゴ・オリヴェイラは、裏へ抜ける高へスルーパス。高はダイレクトで逆サイドまでクロスを送り、これに俵積田が合わせました。
FC東京はフリーキックを機会にしてプレーエリアを押し上げ、高い位置から右サイドで加速することに成功。札幌の攻撃をやり過ごしながら、狙い通りのプレーで同点とします。

同点となったあと、札幌はややトーンダウンし、FC東京のSBの裏へ進入したり、そこから前に出ようとするFC東京からボールを奪えなくなっていきました。FC東京は安斎や俵積田が前向きにプレーする機会を増やして、度々カウンターから質の高いチャンスを作り、ペースを握ります。しかし得点は動かず、1−1のままハーフタイムへ。

ピッチ中央の空洞

後半も同様の展開が続きます。
札幌はディエゴ・オリヴェイラと仲川の背後や、小泉と高の周辺にパスコースを作ることができません。結果として最後方の荒野と家泉を中心に、ブロックの外側でボールを動かすことに終始し、FC東京の前向きの圧力を受けやすくなっていました。サイドチェンジで前線を目指しますが、中央やサイドの深い位置に脅威がないFC東京は、余裕を持ってスライドで対応することができていました。FC東京はカウンターの開始地点を押し上げ、攻勢に出ます。

64分、FC東京が追加点を挙げます。
札幌がコーナーキックをしのいだ次の場面、ゴールキックから再開しますが、GK菅野から荒野へのパスがミスになり、トラップが大きくなったところを安斎が回収。ショートカウンターの場面をつくると、ディエゴ・オリヴェイラと仲川の縦のパス交換から、最後はディエゴ・オリヴェイラがディフェンダーを振り切ってダイレクトで流し込みます。1−2とFC東京がリードします。

71分、両チーム交代を実施。
札幌は荒野、スパチョーク、近藤に代えて髙尾、中村、キム・ゴンヒが入りました。左CBに中村、菅を左WBに上げ、青木は2列目左へ。キム・ゴンヒがトップに入り、鈴木は2列目右へ移動。浅野を右WBへ下げる変更です。
FC東京は、痛みが出たバングーナガンデと仲川が下がり、白井と原川。いずれも同ポジションで守備強度の維持を図ります。

交代は、札幌の中盤を厚くする効果がありました。低い位置に下がった青木と駒井に小泉と高が対応し、森重とエンリケ・トレヴィサンがキム・ゴンヒの裏抜けを警戒すると、その中間に鈴木がポストプレーをするための空間が生まれます。札幌はここへボールを供給することで、FC東京を帰陣させることができるようになります。

札幌は鈴木を起点に重心を上げると、青木や浅野がサイドを押し込んだ攻撃で同点を狙います。髙尾が浅野の背後に生まれたスペースを使ってボールを得ると、ゴール前へパスを送って青木のシュートシーンを演出する場面が数度ありました。しかし全体としてはFC東京が中央方向への進出を許さず、札幌は単調なクロスに終始することになります。交代によって前線のカウンターの威力、守備の規律を維持したFC東京が危なげなく逃げ切り、1−2で勝利しました。

感想

このゲームの札幌には、FC東京がカウンターの加速のために使いたいスペースを先に埋める、といった意図があるようには見えませんでした。ディエゴ・オリヴェイラ選手や俵積田選手の脅威はわかった上で、攻撃面の収穫を大きくすることに賭ける、ということです。札幌と対戦するFC東京にとって、ゲームを通しての試行回数は少なくても、数回訪れるチャンスでしっかりプレーできれば得点できる、という昨シーズンまでによく見た状況が再現しました。結果は、FC東京が必要な場面で必要なクオリティを発揮しての、逆転劇です。

2023シーズンまでの札幌は、高い重心で攻撃機会をひたすら稼ぐ一方で、守備面では相手の大きな一撃に目をつぶってきました。相手チームが数少ない大振りの攻撃に失敗、あるいは1、2得点にとどまってくれれば、攻撃面で札幌が得られるメリットが上まわる、という一か八かの戦略です。
2024シーズンの札幌は、それと比較すればかなり普通のチームになっていて、攻撃においても守備においても、そこそこのチャンスがそこそこの回数訪れるように変化していると思います。よく攻撃ができなくなった、というシーズン比較を見かけますが、守備においても質が変わっていることと合わせて議論すべきでしょう。

そんな流れもあり、札幌にボールを持たせたいFC東京に対して、カウンターのスペースを消し、引き込んで逆にカウンターを出すことができれば2024シーズンらしい進化だと思えたのですが…ディエゴ・オリヴェイラ選手が前線にいますし、そういう選択はできなかったのでしょう。札幌に残された選択肢はFC東京の思うつぼであったとしても、FC東京の低重心からメリットを得られるよう頑張る、カウンターさせないようできるだけ頑張る、ということだったようです。

そのためには守備ブロックを内側から破壊するような攻撃が必要でしたが、得点ができていた2023シーズンまでも、引いても特に問題はないと考えているチームに対しては沈黙してきています。それが急にできないのも仕方がないところですし、むしろ、ゴール前にとどまりたくない相手チームが、前に出ようとする隙をひっくり返して得点する2023シーズンまでの札幌の得点パターンは、イケイケの前のめりの攻撃で押し込む時間が長いことによって、相手チームにストレスを与えることが背景になっていたとも言えると思います。このゲームのように低めの位置でブロックの周辺をボールを動かすだけでは、嫌がってもらえず、嫌がってもらえないということは、札幌のショートカウンターの機会も消えるということです。普通のチームになりながら、攻撃もバージョンアップする、というのは容易ではなさそうです。おわり。

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