学力と成績は違うけれど、なかなか理解されない。林社長と薮中社長のはなし。

「苦手な範囲やできないところはプリントをやらせるのではなく、問題集や参考書にもどって理解して、しっかり演習を積んだほうがいいのではないか?」

元マネーの虎である株式会社 MONOLITH Japan (モノリスジャパン)の岩井良明社長がプロデュースする『令和の虎』でこんなやり取りがあった。『令和の虎』は、私が子供の頃放送していた『マネーの虎』のオマージュである。

出資をうけたい志願者が、出資をしてくれる(かもしれない)虎と呼ばれる5人の社長や資本家を説得して、融資、出資、社内ベンチャーなどのチャンスを掴み取る。

冒頭の発言は武田塾を運営する株式会社A.verの林尚弘社長と志願者である株式会社ICの薮中孝太朗社長の、学習方針のやり取りでの林社長の発言である。

薮中さんが提案していたのは、問題のエディター機能(作問)、データーベース(保存)、シェアリング(共有)のワン・ストップ・サービスであるEcommonsである。

例えば、あなたが学校や塾の先生であったとして、生徒の学力に合わせたプリントを作りたいとする。そのとき、先生は、問題集から問題を寄せ集めるか、自分でオリジナルの問題をつくることになる。

もし、作問したものをデーターベースにためていき、しかもそれをみんなでwikipediaのように編集、共有していったら、学校や塾の労働環境は幾分いまよりましになるのではないか。少なくとも、作問する時間や、教材開発にかける時間はかなり圧縮されるはずだ。

薮中社長はそう考えた。

その話の流れで、林社長は「そもそもプリントを作る必要があるのか?」という問いを発する。その主張の裏付けとなるのは、プリントでちょこちょこっとやっても、その場しのぎになってしまうので、しっかり時間をとって、わからないところに戻り理解させ、演習をさせたほうがいいのでプリントは効果的ではないのでは、というものだった。

藪中さんもそれに対して反論をするのだが、それは映像の中で確認していただければと思う。それよりはなぜ、二人がこのように違った考えを持つに至ったかが興味深い。

それは二人の塾人としてのキャリアの違いである。より具体的にいうと、対象としている生徒、学力、学年の違いが、如実に現れている。これは突き詰めると学力VS成績の話である。

まず、林社長は大学入試向けの学習塾としてキャリアを積んでいる。対して、薮中社長は、中学生向けの補習塾としてのキャリアを積んできた。塾業界ではない人からみたら、いっしょの塾に見えるかもしれないが、大学入試をゴールにすえる林社長の武田塾と、内申点が重要となる高校入試をゴールとする薮中社長の塾は全く別物だ。

それは同じ保険でも、生命保険と損害保険ぐらい違う。

大学受験は、「で、試験当日、解けるの?」しかない。必要なのは学校の成績ではなく、学力、つまり実力である。これは一朝一夕で身につくものではなく、年単位で培っていく能力である。対して、高校受験では、内申点が重視される。つまり学校での「成績」が受験には必要だ。

もちろん、公立高校とはいえ、上位校は学力が必要であるが、中堅校以下では、殊、学校の成績が優先される。つまり大学受験専門塾は、「学力」を一義的に考えるのに対し、高校受験(補習塾)では「成績」を一義的に考えることが必要となる。

とくに、薮中社長が奮闘している大阪市西成区では行政も一体となって重点的に基礎学力を拡充しようとしている政策などもあり、薮中さんの志と熱量はなみなみならぬものだろう。youtubeのコメント欄にもそれを指摘するようなものがあった。

対して、武田塾は大学入試、しかも一般試験に強みをもつ塾なので通っている生徒の学力は平均と比べて高い生徒が多い。大学受験者自体が54.67%であるのももちろんだが、その中でも推薦ではなく一般受験する層というのは、それ相応の学力を持っている。

私立大学に限って言えば、おおよそ50%が推薦入試、AO入試であり、学力を戦わせる一般受験は50%にとどまっている。周りが大学受験をしている人だらけの進学校にいると気が付かないが、国公立をうけたり、私立大学を一般受験するという層は実は、少数派であり、かなり学力的には優秀な層にはいる。

トップ層をより伸ばす武田塾とこぼれていかないように手を差し伸べる薮中社長の塾ではこのように通っている生徒の層も違う。

これらから「定期テスト」の重さも決まってくる。

大学受験の一般受験では定期テストは「乗り切るもの」である。受験勉強の邪魔であると考える塾もあるほどだ。たいして、高校受験の塾では、定期テストは「すべて」である。その納期までに解ける状態にする必要がある。

つまり、大学受験では自分の力で難しい問題を解いていく必要があるので根本的な理解が必要だが、高校受験では分かっていなくても、定期テストの簡単な問題がとりあえず一問でも多く解ければいい。極論をいうと、根本的な理解は必要ないのである。納期までにとりあえず取れる問題を増やす。いかに効率的に解ける問題を増やすかが中学校の補習塾の命題である。

定期テストに間に合わせるためには、参考書や問題集に戻っている時間はないのだ。プリントで間に合わせなければならない。納期までにやらなくてはいけないことは、多い。

例えるならば、高校受験は-1×-1の答えは1でいいのだ。「-1は虚数iの2乗だから、複素平面上で180°回転するから-1からだと1になる」と理解する必要はない。解ければいいのだ。でもそれでは、大学受験での難しい問題には対応できない。

林社長、武田塾の主眼は「学力」であり、学校の定期テストの成績がいくら良くても当日解けなければ意味がないと考えている。対して、薮中社長の塾の主眼は「成績」であり、定期テストまでの間に、とにかく点数を取らせてあげなければならない。

どちらもプロで、どちらも真剣だけど、二人の立ち位置が違っただけだ。合っている、間違っているではない。そんな目線でもう一度この動画を見ると、また違った楽しみ方ができるかもしれない。

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