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「みみずくん」とは何のメタファーだったのか

お立ち寄りいただきましてありがとうございます。
今回はいつもの様な記事と異なり、写真無しの読書感想です。



先日U-NEXTで「すずめの戸締り」を鑑賞しました。
予備知識が全くなく、なんとなく「女の子が、やたら走り回る小さな椅子と旅をするロードムービー的なもの」を想像していました。(;^_^A

映画はとても面白かったのですが、観始めてからすぐに既視感が。。

作品のモチーフが、村上春樹さんの「かえるくん、東京を救う」を連想させます。

これは読んだ経験のあるかたはだれもが抱く感想の様で、noteでも考察をされている方がいらっしゃるようですし、ネットにもたくさん出てきます。

いろいろな解釈や考察ができて、共通の趣味の人と語り合えるのが、映画や小説の醍醐味だなと感じます。

「かえるくん、東京を救う」を知ったのは、アニメ『輪るピングドラム』で重要な何かを示唆する作品名として登場し、その難解なアニメを深堀りするために手に取ったのがきっかけです。

読んでからかなりの時間が経過したので再読しました。
(ここからは、登場する2つの作品を読んでいないと「なんのこっちゃ」です。すみません。。。)

「かえるくん、東京を救う」

新潮社から2000年に刊行されている「神の子どもたちはみな踊る」という短編小説集に収録されています。
この小説集は、1995年の阪神淡路大震災をきっかけに作られた作品たちで、英語のタイトルは"after the quake"となっています。

物語の冒頭

信用金庫に務める主人公の片桐がある日帰宅すると、2mほどある巨大な蛙「かえるくん」が家で待っています。
「かえるくん」は、東京の地下にいる「みみずくん」が地震を引き起こし、甚大な被害が出ることを説明し、一緒に地下に入って「みみずくん」と戦って地震を阻止してほしいと片桐に依頼する。。。

というところからスタートします。
私が村上春樹さんの作品が好きなところは、登場人物たちの会話の素敵さで、こちらの作品でも堪能できます。

再読して思ったこと(ネタバレ含みます)

みみずくんがなせ地震を引き起こすのか、作中では以下の様にかえるくんから説明されます。

「腹を立てると地震を起こします。」
「遠くからやってくる響きやふるえを身体に感じとり・・・・そしてそれらの多くは何かしらの化学作用によって憎しみという形に置き換えられます。」

かえるくん、東京を救う


個人的な解釈は、ミミズという形状の生き物が地下で蠢いていて、それが地震を引き起こすということが、日本特有の地脈の比喩であったり、土地神信仰が色濃く残っていた過去から、都市部での"その場所で生きていける感謝"の気持ちが希薄になったことに対しての怒りや、その場で生きている人たちの自然に対する恐怖の様なものに繋がっている。

そういった怒りや漠然とした不安な気持ちが、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」に登場する、地下に神殿を持ち、時には人間をも捕食してしまう「やみくろ」たちが、人間に対しての憎しみを抱いていたのと同様に、地下という得体のしれない場所にずっと蓄積されていき、やがて憎しみとなって具現化されたものの様に理解しました。

そんな憎しみの塊の様なものと、「あなたのような人のためにぼくは東京を救おうとしてるのです」と平凡な人々のために戦ったかえるくんの最後が、今まで捕食したものに浸食されていくというのは皮肉でもありますし、痛烈なメッセージだと、考えさせるのもがあります。

かえるくんのためにも、負の「やみくろ」と対比する、善の「一角獣の頭骨」が優しく光るように、世界が優しい光で包まれればいいのにと切に願います。

と、とりとめもなく考えてしてしまう夜でした。
雑な考察にお付き合いいただいたかたには感謝です。
ありがとうございました。

最後に

作中で引用されている、ジョセフ・コンラッドが書いた「真の恐怖とは人間が自らの想像力に対して抱く恐怖のことです。」という一節が、『輪るピングドラム』のテーマでもあると思っていますので、懲りずにまた書きたいと思います。
それではまた。




















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