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持続したフェミニズム社会の実例、読書感想文 ~ 女たちの王国: 「結婚のない母系社会」中国秘境のモソ人と暮らす~

フェミニズムを正しく評価する物差し

 フェミニズムとは、いったい何だろうか?
 それは有用で有益な思想なのか。それとも、一部の人達が述べるように、むしろ有害で破滅的な考え方なのか。

 論争は常にある。
 だが、その議論はあまりに非建設的だ。

 アンチフェミニストは、しばしばフェミニストの論理的矛盾を指摘する。それはダブルスタンダードであるとか、一種の逆差別であるとか。しかし、論者の未熟さをもってフェミニズム自体の価値を決定することができるだろうか?
 フェミニズムは雄弁術ではない。仮にフェミニストがディベートに勝つことができないにせよ、それだけではフェミニズムの価値を否定することはできない。
 フェミニズムは論理学ではない。社会運動である。ならば理屈はどうあれ、それによって社会が好ましい方向に変革されるのであれば、有用であると評価できよう。

 だが、アンチフェミニストは、ここでまた、異論を差し挟むことだろう。
 現にフェミニズムの弊害は明らかだ。日本を見ろ、いや韓国を見ろ……対馬を挟んだ向こうの半島では、男女二人から生まれる子供の数が一人以下にまで下がったぞ、と。フェミニズム国家と呼んで差し支えない北欧諸国はどうだ。フィンランドは三十代の女性首相を旗頭に据えているが、出生率は依然、危機的な水準にあるではないか。

 だが、ここに至ってもなお、フェミニストには抗弁の余地があろう。なぜなら、継続されたフェミニズムによって社会がどうなるかを、今の時点では誰も評価できないからだ。
 今、先進諸国で出生率の低下が起きているのは、あくまで社会の過渡期だからではないのか。もしさまざまな不利益が生じているとすれば、それは古い家父長制の文化との摩擦が原因ではないか。社会が完全にフェミニズムによって置換されれば、アンチフェミニストが述べるような諸問題はおのずと解決するとしたらどうか。
 実際、フェミニストの反論は、そのような文脈において行われることが多い。男性のつらさの構造はフェミニズムの影響ではなく、既存の家父長制社会に原因があるのだとされる。

 とすると、フェミニズムを正しく評価するには、実際に完成されたフェミニズム社会というものを目にするまでは、判断できないことになる。

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