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経産省、AI事業者ガイドライン策定

2024年4月19日経済産業省と総務省は、生成AIの既存のガイドラインを統合・アップデートし、「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を策定しました。AI戦略会議で取りまとめられた「AIに関する暫定的な論点整理」(令和5年5月26日)に必要な改訂を盛り込み、経済産業省及び総務省でガイドラインを統合・アップデートし、広範なAI事業者向けの分かりやすいガイドラインにしました。


全てがふわっとした表現

基本理念

どうとでも個々人の考えで行動できる玉虫色の表現になっています。

  • 人間の尊厳が尊重される社会(Dignity):AIを道具として使いこなし、人間の能力をさらに発揮できる社会を目指す。

  • 多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会(Diversity and Inclusion):AIを適正に開発・展開し、多様性を包摂した新たな価値を創造する社会を目指す。

  • 持続可能な社会(Sustainability):AIを活用して社会の格差を解消し、環境問題や気候変動に対応可能な持続可能な社会を構築する。

共通の指針

これまた個々人の考えでどうとでも解釈できる様な文言が並んでいます。

  • 人間の尊厳及び個人の自律の尊重

  • AIによる意思決定・感情の操作等への留意

  • 偽情報等への対策

  • 多様性・包摂性の確保

  • 利用者支援

  • 持続可能性の確保

各主体が取り組む事項

上記とほぼかわりませんが、一応書き出しておきます。

  • AIシステム・サービスの開発・提供・利用を促進し、人間の尊厳を守りながら、事業における価値の創出、社会課題の解決等を目指す。

  • AI活用に伴う社会的リスクの低減を図るため、安全性・公平性、プライバシー保護、セキュリティ確保を行う。

  • システムの検証可能性を確保しつつ、透明性を向上させ、アカウンタビリティを果たす。

  • 各主体間で連携し、バリューチェーン全体でのAIの品質向上に努める。

追加で下記の項目もあります。

社会と連携した取組が期待される事項

  • 社会と連携し、全ての人々にAIの恩恵が行き渡るための教育・リテラシー確保の機会を提供する。

  • 公正競争の確保及びイノベーションの促進に貢献し、新たなビジネス・サービスの創出、持続的な経済成長の維持、社会課題の解決策の提示を目指す。

人間中心

人間中心と言っておきながら、すでにAGI、ASIが開発された時の心配事がもりこまれています。

  • 人間の尊厳及び個人の自律の尊重

  • AIによる意思決定・感情の操作(注01)等への留意

  • 偽情報等への対策

  • 多様性・包摂性の確保

  • 利用者支援

  • 持続可能性の確保

※注01:現在のAIは、特定の狭い分野で人間を上回る性能を示すことがありますが、あくまで人間が設定した目的に沿って動作するものであり、自律的な意思決定を行うものではありません。また、感情を持つことはできません。

しかし、将来的にAIの技術が大きく進歩した場合、AGIは、人間のように幅広い分野で知的な活動を行うことができ、自律的な意思決定が可能とされています。また、ASIは、人間を遥かに凌駕する知能を持ち、自らの意志で行動することができると想定されています。

こうした高度なAIが実現した場合、AIの意思決定が人間社会に大きな影響を及ぼす可能性があります。

AI 提供者に関する事項

AI提供者は、AI開発者が開発するAIシステムに付加価値を加えてAIシステム・サービスをAI利用者に提供する役割を担います。AI提供者は、AIの適正な利用を前提としたAIシステム・サービスの提供を実現することが重要であり、適切な変更管理、構成管理及びサービスの維持を行うことが求められています。

AI提供者にとって重要な事項は以下の通りです:

AIシステム実装時:

  • 人間の生命・身体・財産、精神及び環境に配慮したリスク対策の実施

  • 適正利用に資する提供

  • AIシステム・サービスの構成及びデータに含まれるバイアスへの配慮

  • プライバシー保護のための仕組み及び対策の導入

  • セキュリティ対策のための仕組みの導入

  • システムアーキテクチャ等の文書化

AIシステム・サービス提供後:

  • 適正利用の定期的な検証

  • プライバシー侵害への対策

  • 脆弱性への対応

  • 関連するステークホルダーへの情報提供

  • AI利用者への「共通の指針」の対応状況の説明

  • サービス規約等の文書化

AI 提供者に関する事項具体例

具体性に欠けわかりずらいのでリライトしますと以下の様になるとおもいます。

このガイドラインでは具体的な法律への言及はありませんが、AI提供者が留意すべき一般的な事項が示されています。ご質問の「人間の生命・身体・財産、精神及び環境に配慮したリスク対策の実施」については、例えば以下のような具体的な取組が考えられます:

  1. 生命・身体への配慮:

  • AIシステムが人間に危害を加える可能性がある場合(例:自動運転車、医療診断支援システム等)、厳格な安全性テストを実施し、危険な動作を防止するためのセーフガードを組み込む。

  • 使用上の注意点を明確に提示し、適切な使用方法を周知する。

  1. 財産への配慮:

  • AIシステムの誤作動により経済的損失が発生するリスクを評価し、賠償責任保険への加入等の対策を講じる。

  • 不正利用を防止するためのセキュリティ対策を実装する。

  1. 精神への配慮:

  • AIシステムがユーザーの精神的健康に悪影響を与える可能性(例:過度な依存、不適切なコンテンツの表示等)を評価し、適切な利用を促すためのガイダンスを提供する。

  • AIシステムとの対話により生じる可能性のある心理的影響について注意喚起を行う。

  1. 環境への配慮:

  • AIシステムの開発・運用に伴う環境負荷(例:電力消費、データセンターの冷却等)を評価し、環境に配慮した設計・運用を行う。

  • 環境関連法規の遵守状況を確認し、必要な対策を講じる。

AI 利用者に関する事項

AI利用者は、AI提供者から安全安心で信頼できるAIシステム・サービスの提供を受け、AI提供者が意図した範囲内で継続的に適正利用及び必要に応じてAIシステムの運用を行うことが重要です。これにより、AIによるイノベーションの最大の恩恵を受けることが可能となります。また、人間の判断を介在させることにより、人間の尊厳及び自律を守りながら予期せぬ事故を防ぐことも可能となります。

AI利用者にとって重要な事項は以下の通りです:

AIシステム・サービス利用時:

  • 安全を考慮した適正利用

  • 入力データ又はプロンプトに含まれるバイアスへの配慮

  • 個人情報の不適切入力及びプライバシー侵害への対策

  • セキュリティ対策の実施

  • 関連するステークホルダーへの情報提供

  • 関連するステークホルダーへの説明

  • 提供された文書の活用及び規約の遵守

高度なAIシステムを取り扱うAI利用者は、「第2部 D. 高度なAIシステムに関係する事業者に共通の指針」について、I)~XI)は適切な範囲で遵守し、XII)は遵守すべきとされています。

AI利用者は、社会又はステークホルダーからAIの能力又は出力結果に関して説明を求められた場合、AI提供者等のサポートを得てその要望に応え理解を得ることが期待され、より効果的なAI利用のために必要な知見習得も期待されています。

これらの取組により、AI利用者はAIシステム・サービスを適正に利用し、AIのイノベーションの恩恵を最大限に享受することが可能となります。

こちらも少々具体性に欠けるので、下記にリライトしてみます。

AI 利用者に関する事項具体例

AIの危険な利用法としては、意図的な悪用だけでなく、無知や不注意による不適切な利用も含まれます。具体的には以下のような事例が考えられます:

  1. 意図的な悪用:

  • AIを用いた犯罪行為(例:詐欺、なりすまし、不正アクセス等)

  • AIによる有害コンテンツの生成・拡散(例:フェイクニュース、ディープフェイク、差別的表現等)

  • AIを利用した個人情報の不正収集・利用

  • AIを利用した他者のプライバシー侵害や監視

  • 脱獄(筆者補足):「AIに対する脱獄」は、意図的な悪用の一種と言えますが、より一般的には、AIシステムの意図しない動作や有害な出力を引き起こすような操作を指すと考えられます。

  • プロンプトインジェクション(筆者補足):プロンプトインジェクションとは、AIシステム(特に言語モデル)に対して意図的に細工されたプロンプト(入力テキスト)を与えることで、本来意図されていない動作を引き起こすことを指します。これは、AIシステムの脆弱性を突く攻撃手法の一種です。

2.無知や不注意による不適切な利用:

  • AIの能力や限界を理解せずに過度な期待を寄せ、重要な意思決定をAIに任せてしまう

  • AIの出力結果を鵜呑みにして、人間による検証を怠る

  • プライバシーに関する設定を適切に行わずに、個人情報が流出するリスクを高める

  • 学習データやプロンプトに意図しないバイアスが含まれていることに気づかず、AIが差別的な出力を生成してしまう

  • AIシステムのセキュリティ対策が不十分な状態で利用を継続し、サイバー攻撃のリスクを高める

プロンプトインジェクション具体例:

  1. AIシステムに機密情報や個人情報を漏洩させる

  2. AIシステムを操作して、有害なコンテンツ(例:差別的表現、暴力的表現、フェイクニュース等)を生成させる

  3. AIシステムに違法行為や非倫理的行為を助長するような出力を生成させる

  4. AIシステムのセキュリティを破り、不正アクセスやデータ改ざんを行う

AIシステムの安全性と信頼性を確保するためには、開発者と利用者が協力して、悪用のリスクを最小限に抑えることが重要です。ガイドラインで示されている「安全を考慮した適正利用」の趣旨を理解し、プロンプトインジェクションのような悪用行為を防止することが求められます。

なぜこの様な具体性に欠けるガイドラインになったのか検証

このガイドラインが抽象的な言い回しになっているのには、いくつかの理由が考えられます。

  1. 技術の進歩に対応するための柔軟性: AIの技術は急速に発展しており、具体的な事例を列挙すると、ガイドラインがすぐに時代遅れになってしまう可能性があります。抽象的な言い回しにすることで、技術の進歩に合わせて柔軟に解釈・適用できるようにしていると考えられます。

  2. 多様なAIシステムへの適用可能性: AIシステムは、その機能や利用分野が非常に多岐にわたります。具体的な事例を示すと、特定の分野に偏ったガイドラインになってしまう恐れがあります。抽象的な表現を用いることで、様々なタイプのAIシステムに適用可能な汎用性の高いガイドラインになっていると言えます。

  3. 事業者の創意工夫の余地: 具体的な取り組み方法まで規定してしまうと、事業者の創意工夫の余地がなくなってしまいます。抽象的な原則を示すことで、各事業者がその原則に沿って、自社のAIシステムに適した方法で対応できるようになっていると考えられます。

  4. ステークホルダーとの対話の重要性: 具体的な事例を示すよりも、ステークホルダーとの対話を通じて、それぞれの状況に応じた適切な対応を見出すことが重要だと考えられます。抽象的な表現は、そのような対話を促すための出発点になるとも言えます。

一方で、抽象的な言い回しは解釈の幅を生む可能性があります。AIに関するリテラシーの高い人と、そうでない人とでは、ガイドラインの理解に差が生じる可能性があります。

この点については、ガイドラインの解説資料を作成したり、具体的な事例集を別途提供したりするなど、理解を助けるための補助的な資料が必要だと考えられます。また、事業者団体や専門家団体が、業界ごとのより具体的なガイドラインを作成することも有効でしょう。

いずれにせよ、このガイドラインを実効性のあるものにするためには、事業者とステークホルダーの間で継続的な対話を行い、具体的な取り組み方法を共に模索していくことが不可欠だと言えます。

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