液晶のコモディティ化を見通せなかったシャープの敗北

シャープは大阪府堺市にある子会社・堺ディスプレイプロダクト(SDP=堺工場)で生産していたテレビ向けの液晶パネルを9月末までに停止する。2023年3月期に最終損益で2000億円を超える赤字を出した主因となっていた。これで、国内でのテレビ向け液晶パネルの生産は消滅する。
「世界の亀山モデル」と謳い一世を風靡してから約20年。シャープの経営陣は何を見誤ったのか。『シャープの謎』(2004年6月)を上梓していた筆者が、「あのときのシャープ」に時計の針を戻し、成長ステージの落とし穴について論じる。
2000年代に入り製造装置が標準化され、それを購入さえすればどのような企業でも液晶を生産できるようになった。その結果、韓国メーカーに続き台湾メーカーが参入。その後、中国メーカーが勢力を拡大し価格は下がり続けた。
追い打ちをかけたのが、2008年秋のリーマンショックである。先進国だけでなく急拡大していた新興国市場でもテレビの伸びが鈍化。60インチ以上の大型テレビが普及すると見て、2009年10月に、大画面テレビ向けの大型液晶を生産するため、4200億円もの巨費を投じて建設したSDPは、無用の長物になってしまった。

東洋経済オンライン

シャープは、大阪府堺市にある工場での液晶生産を停止する。あれだけ、「液晶のシャープ」と言われていたにも関わらず、である。「亀山モデル」などともてはやされていたこともある。

競合である、韓国や中国のメーカーの存在を無視し、突き進んだ末路がこれだ。「単品モノ売り」では、いつかはこうなるのだ。今でこそ韓国の人件費は日本と同じくらいだが、2009年頃は韓国のほうがコストは低かった。コストで負けるならば、単品モノ売りではいつか追いつかれるのは予測できたと思うのだが。

日本の製造業は、「すり合わせ」技術が得意であると、東京大学の藤本隆宏教授は言う。製造業は「モジュラー」と「インテグラル」があり、中韓はモジュラーが得意で、日本はインテグラルが得意らしい。液晶は、単純に製造装置と素材さえあれば製造できるので、中韓の得意なモジュラーだったのではないかと思える。「自社の強みは液晶だから、液晶で突き進めばいい」というのは、あまりにも安直な発想であった。

自動車などすり合わせが必要な産業(インテグラル型産業)では、いまだに日本の競争力は高い。シャープは、戦略を間違えてしまったのだ。「イノベーションのジレンマ」という概念がある。クリステンセン氏は「既存の商品に磨きをかけることばかりに集中して、まったく新しいイノベーションを生み出せなくなる」と警鐘していた。まさに、シャープはこれに当てはまってしまった。「道は一本しかない(この道しかない)」という思い込みがシャープを破滅の道へといざなったのだ。

まあ、シャープの強い製品はBtoCが多く、もろに中韓と競合するものばかりなので、いつかはこうなる運命だったのかもしれない。早めにパナソニックまたはソニーと統合する決断をしておけばよかったのかもしれない。BtoBが強い三菱電機は長い歴史で2回くらいしか赤字になっていない。

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