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232.カレーに「もうレシピは要らない」のか? 問題 “サイエンス”編

カレーのカルチャー的側面とサイエンス的側面をいったん区別して考え、両翼を持ち、自分の作るカレーと向き合うということを実践してきた。
カルチャーは経験主義。たとえば「インドでは、長い間、あのカレーはこうやって作られてきた」という事実を元にしているのが経験主義だ。そこには、それを伝えるためのレシピが重要視される。
サイエンスは実証主義。すべての調理プロセスに「なぜ?」と問い、「なぜならば」と答えるのが実証主義だ。理由のない(意味のない)プロセスは存在しない。それらは体系的に整理され、メソッドが生まれる。

『システムカレー学』の第3章では、シェフたちのカレーの作り方(カルチャー)を取材し、そこからテーマを導き出して分析(サイエンス)した。この分析の部分でお知恵を拝借したのが、味の素株式会社食品研究所エグゼクティブスペシャリストの川崎寛也氏である。調理科学の専門家だ。
8種類のカレーに対して、「水野仁輔の視点・川崎寛也のエビデンス」と題して、各2ページ、合計16ページにわたって分析をしている。見出しとポイントになりそうなキーワードだけランダムに抽出しておきたい。

【北インド】
*油と加熱の関係
*100℃を超えるかどうか
→加熱時、そこに水分があるかないかは大きなポイントとなる。
*調味料を必要としない
→調味料が活躍する料理は、ある種、実体が乏しい料理だと捉えられるのかもしれない、と。
*知識の味、感覚の味
→油はある程度の酸化によって匂いを生む。本来、動物はその匂いを好むそうだ。

【南インド】
*均質か不均質か
→水分との界面に接して初めて香気成分は揮発します。
*なぜスパイスを炒めるのか
→スパイスにはそれぞれ欲しい香りだけではなく、個別に必要のない香りを含んでいる。
*逃がすか定着させるか
→油で炒めたスパイスの香りが水分との界面で揮発する。
*不均質を生むタイミング
→不均質な味わいを好むのは世界共通だ。

【スリランカ】
*スモーク香の不思議
→スリランカ料理にはスパイスを利用して、別の香りを生み出そうとする手法がある。
*それはスモークではない
→リグニンを含まないスパイスが焙煎された場合は、スモークではなく炭化になる。
*どこまで攻めるか
→どこまで攻めるか、という感覚はフランスの料理人にとっては大事。
*発酵の具合に似ている
→ローステッドカレーパウダーと発酵には共通項が見出せる。

【ネパール】
*タイミングと香り
→鍋中で加熱される玉ねぎの量が少ないことが肉のメイラード反応を促進させている。
*料理はバックキャスト
→最終的にどういう料理にしたいかが先にあって組み立てる。
*技術が発達する環境
→ネパールでは「プロセスを意図的に組み替える」という部分が発達したと考えられる。
*門外不出の配合はない?
→タイミングによる香りの重層化というテクニックが飛躍した。

【タイ】
*叩きつぶす技
→微生物によってタンパク質が分解されてグルタミン酸がたくさんできていた。
*ペーストの存在
→タイでは今でも石臼は一定の地位を確立している。
*実はノンオイル
→ノンオイルであるために加熱温度が上がりにくく、フレッシュな香りが香味に変わることなく保たれるのだ。
*ドライかフレッシュか
→乾物を戻すと風味が強まるのは誤解。

【欧風】
*肉の味の残し方
→アルコールが入ることによって筋繊維の保水性が高まって肉がやわらかく感じる。
*浸透と拡散の謎
→冷ますと味が素材に戻るというイメージがあったが、どうやら誤解らしい。
*どの味を肉に戻すのか
→濃いほうを薄めようとする動きが浸透圧。拡散による均衡状態が生まれる。
*カレーのモジュール化
→鍋中で混然一体とさせて加熱するインド料理をフランス料理の観点からモジュール化(分解再構築)したものが欧風カレーなのではないか。

【中華】
*うま味調味料とは?
→僕は現段階ではこの仕組みで作るカレーを「ウマミカレー」と名付けることにしている。
*グルタミン酸が鍵
→『グルタミン酸の味をちゃんと認識すればタンパク質を摂れたことにしよう』というのをやっているのが動物。
*うま味が増幅する
→イノシン酸とグアニル酸にはうま味がない。
*究極的な効率化
→中華カレーは効率化が極まったカレーのスタイル。

【日本】
*脱水とメイラード反応
→玉ねぎの糖度は加熱しても変わらない
*うま味は関係ない
→そもそもメイラード反応とは、大前提として、「うま味は関係ないんです」。
*カラメル化反応
→反応は違えど褐色に色づいて独特の香りが生まれ、味わいをおいしくする点では同じ。
*進化を続ける玉ねぎ炒め
→手法だけでなく、1人分あたりの玉ねぎ使用量の増減もカレーの味わいには大きく影響する。

少しでもピンと来たり疑問を持ったりすることがあれば、『システムカレー学』を開いてみるのがいいと思う。


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