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イデオロギーは作れる!~歴史系シナリオにおけるバックストーリー作成術~

探索者のバックストーリーを、その時代ならではのものにしてみませんか。

この記事は、新クトゥルフ神話TRPGの歴史系シナリオ(=現代日本ではないもの)に参加するプレイヤーに向けて書かれました。「歴史系シナリオにおけるバックストーリー作成術」として、探索者のバックストーリーを作成する際に参考にされるべく書かれています。

・バックストーリーを作るのが苦手だ
・「イデオロギー/信念」って悩む
・時代モノをやってるって感じを得たい

という方向けに、歴史的背景と「イデオロギー/信念」に基づいた探索者をよく作りがちな、当方のバックストーリー作成過程をできるだけ解説します。

この記事を通じて、「エントリーを作成するやり方の手がかりになった」「時代モノの探索者を作るのって楽しい!」と思えてもらえたら幸いです。



はじめに

探索者を作成するにあたって、7版ルールブックでは以下の手順が提示されている。(p.28)

1.能力値を導き出す
2.職業を決める
3.技能を選び、技能ポイントを割り振る
4.バックストーリーを想像する
5.探索者に装備を与える

しかし、これから提示する手順は、ルールブックの手順とはいささか異なる。「能力値を導き出す」のステップの直後に、バックストーリーを想像する手順を挟むのだ。そして、その「バックストーリーを想像する」手順は、詳しく見ていくと①~⑥の手順に細分化される。

1.能力値を導き出す
2.バックストーリーを想像する
  ①舞台となる年を確認する
  ②シナリオのトーン、テーマを確認する
  ③時代、地域、歴史を調べる
   ・舞台となる地域社会の特徴を確認する
   ・大きな歴史上の出来事を調べる
  ④探索者の出来事への関わり方を決める
  ⑤年齢を決める
  ⑥名前を決める
3.職業を決める
4.技能を選び、技能ポイントを割り振る
5.探索者に装備を与える


とはいっても、実例がなくては具体的にどのように探索者のエントリーを作成したか伝わらないと思うので、実例をあげつつ解説をしていきたい。
これは、当方が『ナチス邪神帝国の陰謀』のシナリオ、「ベルリン1939」に参加した際の探索者だ。

探索者:エルンスト・バウマン、小説家、42歳

イデオロギー/信念
表の顔は帝国文学院(帝国文化院)の職業文芸家であるが、本当はナチス・ドイツのマッチョイズム的な美的感性とは相容れない。人間心理に対する関心が強く、フロイトによる精神分析にも興味がある。抽象主義、印象主義、超現実主義や、フロイトの思想を守りたい。特に、焚書から本を守りたいと思っている。

秘蔵の品
フロイトの著作。1932~33年ごろにはフロイトの本は禁書に指定されて公的には焼却処分されている。

特徴
表の顔は帝国文学院の職業文芸家。プロの中で見れば特別に優れた執筆技能を持つわけではないが、党に阿る文章やナチス・ドイツの称揚したゲルマン讃美的な文章も書けたため、低いとはいえ収入はちゃんとある。宣伝、視覚芸術(映画)が重視されていたことから、スピーチの原稿や映画の脚本も手掛けている。
1920~30年代の抽象主義、印象主義、または超現実主義を愛好している。個人的には人間心理に対する関心が強く、フロイトによる精神分析にも興味がある。焚書から、こうした左翼的・民主的・ユダヤ的著作家の作品(思想)を守りたいと思っている。

この探索者の作成過程を、詳しく見ていきたいと思う。


1.能力値を導き出す

ダイスを振ろう。ただし、振るだけである。年齢によるEDU上達チェックや技能値の減少については、次の「2.バックストーリーを想像する」を終えてから行う。


2.バックストーリーを想像する


① 舞台となる年を確認する

1938年が舞台だ。それだけだが、これは後の「③ 時代地域歴史を調べる」のステップでとても重要になる。主に気にするのは年号までで、何月というところまではあまり気にかけなくていい場合が多い(気がする)。


② シナリオのトーン、テーマを確認する

このシナリオでは、事前にハンドアウトが配られ、探索者は「イギリス諜報員」「反ナチス活動家」のうちどちらかになる。私は今回「反ナチス活動家」のハンドアウトを選んだ。ただナチスの政策に反対する……というだけではあっさりとしすぎているので、探索者がどのような「イデオロギー/信念」に基づいて反ナチスの道を選んだのかをこれから決めていく。


③ 時代、地域、歴史を調べる

時代、地域、歴史を調べる。具体的には、「舞台となる地域社会の特徴を確認する」パターンと、「大きな歴史上の出来事を調べる」パターンがある。どちらになるかは調べていくうちに固まっていくことが多いし、両方が関連しあっていることも多い。なので、あまり決め込まずにウィキペディアを開く。そう、まずやることとして、最も手軽で、容易な方法は、ウィキペディアを見ることかもしれない。その時代地域のサプリが出ているなら、それももちろん参考になる。あと、もし持っていれば、高校世界史の教科書を該当箇所だけ読んでいくのもいいと思う。専門書は、クトゥルフ神話TRPGのキャラクターの背景を作るためだけに購入したり読んだりするのは、若干ハードルが高いかもしれない。

さて、今回は、舞台となる地域社会の特徴を確認するために、「ナチス・ドイツ」のWikipediaのページを開いてざっくりと眺めていく。ウィキペディアは、クトゥルフ神話TRPGのキャラクター作成に使用するにあたっては記載が細かすぎることがある。特に「ナチス・ドイツ」なんていう有名な時代の場合は、今まで知らなかった人名や地名が恐らくたくさん出てくるだろう。なので、あくまで「ざっくりと」でいい。

この際、基本的には、ステップ1で調べた、シナリオの舞台となる年月のところまでを見れば良い。未来で何が起こるかについては、探索者は知らないはずだからだ。

こうして「歴史」の欄や、「ナチス・ドイツの思想」や「政治」について読んだりして、舞台となる地域社会の特徴を確認していく。更に、探索者を関わらせることができそうな、有名な事件や出来事についても眺めていく。そして、すでに行われている項目のうち、以下のトピックが目についた。(実際はもっとたくさんのトピックに目を通したわけだが、初見で「難しいな」と感じたものや、「初めて知ったこと」はRPに活用するのが難しいという経験則が個人的にはある)

・シナリオ開始時点は、ヒトラー内閣の成立後
・国会議事堂放火事件のあと、緊急大統領令により、ナチスの政敵が政治犯として強制収容所に収容されていた。
・最初の強制収容所はすでに設立されている。
・少数民族や同性愛者、障害者の迫害があった。ユダヤ人迫害は有名。
・焚書があった。
・プロパガンダがすごくつよい。

最初にまずユダヤ人探索者を考えたが、「ユダヤ人問題の最終的解決」(大量虐殺を決定したもの。1942年)がまだ行われていないにしても、だいぶ自由が効かなすぎるような気がしたので、やめることにした。政治犯(=共産主義者等)も、同様の理由でやめることにした。

次に、「焚書」と「ユダヤ人迫害」に着目できそうな気がした。ルールブック掲載の技能「精神分析」の発端となったフロイトはユダヤ人だ。フロイトの著作は焚書されていなかっただろうか。精神分析は当時のナチス・ドイツには受け入れられていなかった気がする。

この閃きをもとに、ウィキペディアのページをあちこち飛びまわり、1932~33年ごろにはフロイトの本は禁書に指定されて、公的には焼却処分されていたことがわかった。また、当時、人間精神への着目が軽んじられ、ナチス(ドイツ民族)賛美的なプロパガンダが好まれていたことも、確信できた。

これだ、と思った。探索者は人間精神に関心があり、フロイト派の精神分析を好んでいる。当時焼却処分されていた本を隠し持っていることだろう。探索者が反ナチスの道を歩んだのは、肉体的強靭さを礼賛するマッチョイズム的な側面と合わなかったからだ。探索者のおおまかな形が見えてきた。


④ 探索者の出来事への関わり方を決める

探索者の立場を決める。人間精神に興味がある、という点から、精神科医か小説家がいいだろうと思った。今回は、焚書から本を守りたい、という要素を入れたいため、小説家ベースにすることに決めた。

また、探索者が、ナチス政権下でいかにして生計を立てているだろうかということについても考えた。地下に潜って隠れて生活し、反ナチス的なパンフレットを書いているのもよい。あるいは、表向きはナチスに迎合しつつ、裏でスパイ活動をしているのもよい。

これはもう、個人のインスピレーション次第だろう。「表向きはナチスに迎合しつつ、裏の顔はスパイ」というのがカッコいいと思ったので、それに決めた。当時のナチス政権化でプロパガンダを担っていた組織の名前を調べた。「帝国文学院」だ。ここに表向き所属していることにして、収入(信用)もそれなりにはある、ということにしようと思った。


⑤ 年齢を決める

シナリオ開始時点で、「反ナチス」の姿勢を既に確固として持っている探索者にしたいなと思った。我が身を呈して「反ナチス活動家」をやっているのだ。それなりに悩んだ結果たどり着いた反ナチスの道というのは、かっこいいのではないだろうか。20代では若すぎる。収入(信用)もそれなりにはあるという設定なので、シナリオ開始時点で40歳前半ぐらいがいいだろうかと思った。ステータス的には40歳も42歳も減少値が変わらないので、直感で42歳に決めた。このあと、EDU上達チェックを行い、探索者のEDUが決定した。


⑥名前を決める

折角当時風の背景をつけたのだ。せっかくなら名前にも当時のものをつけたい。ここで使うのは探索者が生まれた年である。この探索者は、1938年の時点で42歳なので、1898年生まれだ。

ここでグーグルを別窓で立ち上げ、「1900年代 ドイツ 名前」を検索する。検索するときは1の位を四捨五入し、1898年生まれの今回ならば、ざっくりと1900年代というくくりで検索をかける。検索の際は、英語で検索するのがオススメだ。日本語のサイトでは、言っちゃ悪いがあまり参考になるページは存在しない。

英語で「1900s German name」と検索をするところだが、たまたま私は簡単なドイツ語なら読めるので、ドイツ語の「1900 Deutsch Vornamen(1900、ドイツ、名前)」で検索した。

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出てきたページはこちら。1900年代ドイツの命名ランキングだ。
この一覧の上から順に見ていき、気に入った名前をつける。これはカンでいいだろう。こだわる人なら、名前の原義や由来を更に追加で検索したりして、探索者のイメージにあう名前を選ぶと良い。私の場合は、なんとなく「エルンスト」がいいなと思ったので、直感で決めた。

同様の手順で名字についても検索をかける。名字は年代で代わることが少ないので、特に年代指定はせず、「Deutsch Familienname(ドイツ 名字)」で検索をかける。

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ドイツ語ウィキペディアのページ。「ドイツのよくある名字リスト」だ。設定にこだわりたいときは、「ゲルマン系の名字」であるかどうかとか、「ラテン系の名字」であるかとか、「ユダヤ人の名字」であるかとか、名字の由来とかを追加で調べたりもする。ただまあ、今回は単純に直感で「バウマン」という名字を選んだ。こうして、探索者の名前、「エルンスト・バウマン」が完成した。


3.職業を決める

今回は「2.④ 探索者の出来事への関わり方を決める」の時点で、すでに「帝国文学院」に所属している文芸家であるということを決めていたので、ルールブックの職業一覧から、一番近いであろう職業の「小説家」の職業技能を見た。特に新しい職業の創造をせずともそのまま行けそうだったので、小説家ベースで職業技能ポイントを計算し、技能を割り振ることにした。

ナチス・ドイツが宣伝(プロパガンダ)や視覚芸術(映画)を重視していたことも調べてわかっていたので、スピーチの原稿や映画の脚本も手掛けていることにして、バックストーリーのエントリーに記入した。

4.技能を選び、技能ポイントを割り振る

職業ポイントと興味ポイントを割り振る。フロイトの著作を愛好しているということから、「精神分析」に興味ポイントを大きく割り振った。

5.探索者に装備を与える

今回は「秘蔵の品」のエントリーに、フロイトの著作を加えた。
KPや他のPLに、なぜフロイトの著作を秘蔵しているのかを伝えるために、「1932~33年ごろにはフロイトの本は禁書に指定されて公的には焼却処分されている」ということも書き加えた。



おわりに

これで、一人の探索者が完成しました。当方のバックストーリー作成過程をできるだけ解説したつもりです。バックストーリーは、もちろんダイスでヒントを得て決めてもよいのですが、時代背景を踏まえたバックストーリーを作成したり、卓中でバックストーリーを活用したRPを行ったりすることは、それ自体がかなり楽しいなと個人的には思っています。バックストーリーの作成方法を解説する記事を書くことで、だれかの探索者作成の参考になったらいいなと思い、今回筆を執った次第です。

記事冒頭の記述の反復になってしまいますが、この記事を通じて、「エントリーを作成する手がかりになった」「時代モノの探索者を作るのって楽しい!」と思えてもらえたら幸いです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
それでは、良きセッションライフをお過ごしください。

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