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「女性の視点」で森を考える:フェミニスト・フォレスト

Rina Horisawa

森を「女性視点」で捉え直すと、森や自然と私たちとの関係はどのように変わるだろうか。ブラジルのアマゾンで森林伐採と戦う女性たちの事例をヒントに、森と人との関わり方をリデザインする視点を探る。

Feminist Forest?

黒鳥社のnoteシリーズ〈blkswn NGG Research〉に掲載された「フェミニスト・シティ」に関する記事を読んだ。「女性視点」で都市を見直すと、これまで取りこぼされてきた視点が見えてくるのではないかということを世界の事例と共に紹介している。

このフェミニスト・シティという捉え方は、もしかすると、シティ(都市)だけでなく、フォレスト(森)にも援用できるものかもしれない。そう思い立ち、女性と自然や森の関わりについてリサーチをしてみた。今回の記事では、そのリサーチについて紹介したい。

女性の視点から森を捉え直す「Feminist Forest(フェミニスト・フォレスト)」と言えるものがあるとしたら、そこからは何が見えてくるだろうか。


アマゾンの森の女性戦士たち

文献に幾つか目を通してみると「The Amazon Is A Woman」という興味深い記事を発見した。

ブラジルでは近年、違法な森林伐採によるアマゾンの荒廃が進んでいて、その森林に暮らす先住民の女性たち自らが違法伐採者たちから森を守る運動をしているという。その女性たちのストーリーを描いた記事だ。

過剰に進む違法伐採の背景には、2019年に就任した極右政権による急進的な政策や、アグリビジネス・鉱業の推進など、ある種のマスキュリン(男性的)なパワーの影響があるとも言われている。

都市部や鉱業地帯に出稼ぎにいく機会の多い先住民男性たちの森林保護活動が、鉱業業者との癒着に終わってしまうことが多い中、社会的に弱い立場におかれていた女性たちが自ら行動を起こしている。

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↑"The Amazon Is A Woman"より
Photograph by Liliana Merizalde

もともとアマゾンに暮らす先住民が、自分たちの森を守るために森林をパトロールすることは珍しいことでは無かったが、女性がイニシアティブをとるのは近年の珍しい事例だという。

Climate feminism

近年、このように森林や環境を守る活動において女性がイニシアティブを取ることを推進する活動はクライメイト・フェミニズム(Climate feminism)と呼ばれているそうだ。

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米NRDCのinstagramより


米国の環境団体NRDCによると、クライメイト・フェミニズムとは環境問題に起因する気候危機に取り組むためには、フェミニストのアプローチが必要だという思想。具体的には、気候変動への取り組みに対して、男女が平等に参画することや、女性の視点をより取り入れることを目指す。

欧米では、近年の気候変動問題への関心とも相まって、広く活動が起こっているようで、主要女性誌のVOGUEやELLEでも取り上げられていた。

クライメイト・フェミニズムの広がりの背景には、多くの国で、社会的弱者である女性たちが、男性よりも気候変動による被害の当事者になることが多いという事実がある。国連のレポートによると、世界で環境破壊によって住む場所を終われる人の80%が女性と推定される。また、自然災害発生時に、女性やトランスジェンダーの人はジェンダーによる暴力を受けやすいことなどが報告されている。

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前出のVOGUEの記事中で紹介されていた2020年のDiorのショー。ランウェイ上部には「Patriarchy = Climate Emergency(家父長制=気候危機)」というメッセージ
https://www.thecut.com/2020/02/dior-had-a-massive-consent-sign-on-the-runway.htmlより

生態学的要因や、社会的なロールの影響で、女性やマイノリティの人々は、環境問題による被害を権威的男性に比べて受けやすいというわけだ。

前出のアマゾンの女性たちの例もしかりだ。彼女たちの社会的ロールは、森の中で暮らしをつくり、子供たちを育てること。森林破壊が進んだ時、真っ先に暮らしを破壊されるのもそこにいる女性たちだ。被害の当事者である女性の視点や考え方から自ら森との共生を探って活動している。


「共に暮らす」森へのまなざし

森林保全や気候変動のテーブルに、女性や女性に限らず被害の当時者ほど参画できていないというのは、日本でも見られる光景かもしれない。SDGsを掲げたフォーラムなのに、登壇者がなぜか一定年齢以上の男性しかいなくてげんなりしてしまうことだってある。災害は社会的に周縁化された人々やマイノリティにこそ被害が及びやすいけれど、当事者の声が議論のテーブルに上がっているとはいいがたい。

森林管理に関して言えば、高度経済成長期に「経済成長」の呼び声のもと政策として大量に植林された人工林は、さらなる「経済成長」のために輸入される海外製の木材に押され、いまや土砂災害や植生の荒廃の原因となっている。(参考:https://www.shinrin-ringyou.com/ringyou/)その結果の土砂災害等で被害を第一に被るのは、政策を作り出した人々ではなく、川辺や山奥の集落に暮らす人々だ。

アマゾンの森林破壊にせよ、日本の高度経済成長期下の人工林の増大にせよ、そこでは経済成長を促すための「資源」「燃料」としての森への視点があった。一方、アマゾンに暮らす女性たちにとっての森へのまなざしは「資源」でも「燃料」でもなく、「共に暮らす」パートナーであり、ある種の拡張家族のような存在だ。

What rulers call “resources” the indigenous call “mother.”
「政権が森を「資源」と呼ぶ時、女性たちは森を「母」と呼ぶ」
                  ーー"The Amazon Is A Woman"より

森は直接的に資材や燃料としても使われるけれども、周辺の植生を利用して食物を育てたり、木々から精油を取り出したり、天然林を残すことで里山的な利用もできる。



かつての日本の森や自然は霊の宿る「神」の象徴だった。そして高度経済成長期下の人工林は「経済成長」の象徴となり、時代やその時々の慣習によって、森と人はその関わりのあり方を少しずつ組み替えてきた。

これまでの男性的な森への視点が、さまざまな歪みを起こし森との関わり方の再考を迫られている今日。女性の視点から森を考えることは、「経済成長」という言葉の元に取りこぼされたきた人々の声を拾い上げ、新しい森との関係性をデザインするための一歩になる。フェミニスト・フォレストとは、対等なパートナーとして「共に暮らす」森との未来の姿なのかもしれない。

ACTANT FORESTでも、オルタナティブな森との関係性のデザインを引き続き探ってゆきたい。


参考文献

・都市を「女性視点」で捉え直す:フェミニスト・シティとは何か? 【NGG Research #9】|Kei Harada,blkswn publishers inc.

この記事は、2020年9月20日に、黒鳥社のnoteシリーズ〈blkswn NGG Research〉に掲載された記事です。

・The Amazon Is A WOMAN|Eliane Brum, ATMOS

Climate is a feminist issue|NRDC

What is Climate Feminism?|NRDC

How climate change affects women more—and why they need to be listened to|Emily Chan, VOGUE

Why We Need More Women Leading The Fight For The Planet|KATHARINE K. WILKINSON AND AYANA ELIZABETH JOHNSON、ELLE

Overview of Linkages of between gender and climate change|UNDP

Hurricane Katrina left survivors vulnerable to sexual assault. Here’s how to protect Irma evacuees.| Anna North, VOX

Dior Put a Sign That Said ‘Consent’ on the Runway|Sarah Spellings, the CUT

日本の林業の現状|森林・林業学習館

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