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林業への誘い ~人手不足が叫ばれて久しい林業界において、女性たちによる新しい動きとは。

”林業女子会”を発足した井上有加さん。今では全国にその活動が広がり国内外に26の団体があるといいます。林業と聞いてピンとこない人も、実は身近な産業だということに気づくかもしれません。(エース2022年新春号「ある日、森のなか」より)

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林業女子会による植林体験

林業の仕事とは

 林業従事者の数は長期的に減少傾向で推移しています。「国勢調査」(総務省)によれば、2015年の林業従事者は全国で4万5440人しかいま
せん。ここでいう林業従事者とは、木材サプライチェーンのいわゆる「川上」にいる人たちのことです。
 木を育てて収穫するのが川上、つまり狭義の林業の仕事です。プロセスとしては「植林」「下草刈り」「枝打ち」「間伐」「主伐」などがあります。
 野菜の栽培と同様、木の苗も密に植えて後で間引きします。1ha当たり3000~4000本植えるのが標準です(植林)。その苗木に日が当たるよう、周りの草を刈ります(下草刈り)。また節のない木をつくるため、不要な枝を落とします(枝打ち)。
 これらの作業は「保育」というのですが、人間の赤ちゃんと一緒で、人の手で植えた木は放っておいても育ちませんから、お世話をしないといけないんですね。
 木が成長して20~30年たった頃に間引く作業を行います(間伐)。これを行わないと、暗い森になって枝も育たなくなり、ひょろひょろの木になってしまう。また、森林が持つ多面的機能も発揮できなくなるといわれています。間伐材は木材としても使われますから、この作業は保育でもあり収穫でもあります。
 十分に木が育って最終的な収穫が行われるのは、スギの場合、植林からおよそ50年後です(主伐)。
 ここまでが川上になりますが、切られた木の行方、木材サプライチェーンの「川下」はというと、さまざまな流通経路があり複雑です。原木市場や製材所を経て、プレカット工場で加工され建築用材としてハウスメーカーや工務店に渡ったり、木材チップとなって製紙会社に行ったり。最近ではバイオマス発電も増えており、チップが発電用に使われたりもしています。それぞれに関わる人たちが日本中に多くいらっしゃいます。

魚梁瀬杉の森ハイキング

林業女子会で行った魚梁瀬杉(やなせすぎ)の森ハイキング

林業女子会とは

 私は普通のサラリーマン家庭に育ったのですが、環境問題に興味があって大学の森林科学科に入りました。授業で話を聞いたり、山仕事サークルというサークルで作業を体験したりするうちに、林業にすっかり魅了され、その魅力や意義を世間に広く伝えたいと思い、大学院在学中にサークル仲間や知人を誘って「林業女子会@京都」を発足。当時流行していた山ガールや森ガールに対抗して林業を愛する「林業女子」がブームになったら面白い、そういう単純な思い付きでしたが、活動がメディアに取り上げられるようになると、「私たちもこういう活動がしたかったんです!」と静岡県、岐阜県の方が連絡をくださって「@静岡」「@岐阜」ができました。以降全国に広がり、現在では国内外に26の団体があります。
 メンバーには林業や林野行政に携わる方、林業を学ぶ学生さん、川下の仕事をされている方などの他、全く異業種の方や主婦の方も少なくありません。興味があれば誰でも入会できる、そういうハードルの低さを大切にしています。活動も多岐にわたり、木工体験や林業体験、森林浴などを行ったり、他県の林業女子との交流会やキャリア座談会を行ったりと、地域ごとに思い思いのユニークな活動を展開しています。楽しいイベントには旦那さんや子どもたちも参加されますよ。家族も巻き込めるのが、女子の集まりの特性の一つだと思います。
 人手不足をはじめ、今の林業には多くの課題がありますが、課題から入ると立ち止まってしまうので、まずは森や木に触れる楽しさを知り、林業についての理解を深め、生活の中に森を感じるエッセンスを取り入れてもらえたらと思っています。環境問題もそうですが、自分の生活に関係しているという実感がないと、関心を持ちにくいですよね。山と関わる機会を何かしらつくっていくことが、林業女子会のミッションです。

井上有加さん(いのうえ・ゆか)
1987年京都府生まれ。2006年京都大学農学部森林科学科入学。10年、同大学院在学中に「林業女子会@京都」を発足、11年には「若手林業ビジネスサミット」を企画、開催。12年、同大学院修了。林業・木材産業専門のコンサルティング会社勤務を経て、現在は義実家を継いで高知県安芸市にて工務店を営む。井上建築取締役。「林業女子会@高知」代表。
林業女子会ポータルサイト:http://forestrygirls.wixsite.com/portal


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