短編小説「もし私が女だったら、、、」

 アラームと共に目が覚めた。
 時計は、朝の七時をまわったところだ。
 朝目覚めたとき、これまで自分に備わっていた物が無くなっていて、逆にこれまで自分になかったものがあったとしたらどうだろうか。
 私の場合、今朝目覚めたとき股にあった自分がいなくなって、胸に大きな違和感を感じていた。自分の手もなんだかいつもより細く感じる。ベットの近くにいつも置いてある携帯を覗こうとした私がいつもの私ではなかった。なんだかいつも以上に頼りなさそうな目をして、顔つきも男気が無くなっていた。
 そう、私は女になっていたのだ。

「もしも、私が女だったら」

 私は元から女になりたいと全面的に思ったことがない。しかし、心の奥深くにある願望によって女になっていたのだ。
 多くの小説や漫画の世界で女になったらまず、自分の胸や股を触る描写が多いが、現実いざ自分が女になったところでそう言った、自分の胸などを触ろうとは思わない。もしかしたら自分では無くて、クラスのマドンナ的な存在や有名女優になっていたとしたら話は別だが。
 それとは別にまず、私は自分の着ていた大きな服を脱ぎ、自分の身体をよく観察した。自分が女になった身体を一度見てみたかった。
 身長は、男だった(あくまで認識していた)時より、だいぶ小さくなっていていた。股には、これまで共に過ごしていた物は無くなっていて、胸はやや膨れている。恐らく、そこまで大きくない部類だろう。顔は、何とも冴えない感じだった。髪は、肩まで伸びていた。折角女の子になったのだから、ぱっちり二重で唇が薄く、肌がきめ細かい可愛らしい女の子になりたかったものだ。そして世の中の男からチヤホヤされたかった。
 私は、自分の身体を眺めると同時になぜ自分がこうなったのかを整理した。
 私は、もとより人が嫌いだった。
 なんだか、厨二病のように感じるが、事実だ。特に最近の人たちを見ると特に嫌になる。
 ネットでは、顔を見せないことで調子に乗り、自身の承認欲求のために平気で見ず知らずの人に暴言を当たり前のように吐いている人たちでありふれているし。(今の私も、もしかしたら同じような感じかもしれないが)
 現実では、何かあるたびに携帯をいじり、カメラを向けて、街では騒いで。そんな人たちを見るのが嫌いだった。
 特に、男というものが嫌いだった。声も大きいし、自分たちが良かったらそれで良いと行動する人が多かった。同性だったからこそわかる、気持ち悪さだ。
 だからこういった感情の積み重ねで、私の体は女になったのだろう。
 私は、私なりに自分に起こった出来事を整理し、満足した。
 今日からまた新たな人生が始まると。

 私は、なんだか居ても立っても居られなくなり、外へ出るために身支度をした。
 普段は用もない場合、家から一歩も出ない私だが、今日は新たに生まれ変わった自分を誰かに見てほしかった。まあ見せる相手なんてどこにもいないけど。
 服を着替えようと、たんすを開けた。たんすには、ジーパンをはじめとしたズボンやスキニーパンツが多く入っており、加えてパーカーやトレーナーの服が入っていた。
 せっかく女の子になったのだから、私は綺麗な服を着てみたかった。男が、かっこ良い服を着るように。でも、たんすの中にはそれらしい服がなかった。至って地味。それが私の服に対する印象だった。まあ良い。兎に角服に着替えて、外へ出よう。
 空はカラっと晴れており、良い天気だった。
 とりあえず、最寄りの駅まで行き、用事もないのにスーパーへ入った。
 私は、スーパーの食品売り場で食品を見ていると言うより、食品を見ている私を見ている人を見ていた。なんだかややこしい言い方だが、つまり食品なんて見ていなかった。
 元々引きこもり気質な私なため、一人でどこか遠くへ行く気にはなれなかったが、私の承認欲求を満たされたいが為に今日は勇気をだして、電車に乗って遠くへ出かけようと思った。普段、街中でナンパをしている男を毛嫌いしていた私だが、今日に限り「もしかしたら、ナンパされるかも」なんて思っていた。ナンパをされてその男にひどい目を見せてやりたいとイキっていた。
 言い忘れていたが、家を出る時メイクでもしてみようかと思っていたけれど、これまで男として生きてきたので、メイクのやり方なんて当然知らない。つまり、今の私は俗にいうスッピンだ。
 私は電車の中でソワソワしながら、大きな街へ着いた。たまに友達と遊びに来る時や映画を見に来る時に使っていた大きな街はいつも以上に大きく見えた。そして、いつもは街中で誰とも会わないように願って過ごしていたが、今日だけは誰かに会いたい気分になっていた。私の体の変化を誰かに見てほしかった。
 女の子になったからと言う訳ではなくて、ただ自分の体が大きく変わったことで自分の気持ちにも多少の変化が現れていた。
 ほぼ、一文無しの状態で家から出てきて、気分のまま電車に乗って街へ出てきたため、買い物をすることなんてとてもじゃないけど出来なかった。私は、また最寄り駅でしていたように、今度は大きめのスーパーに入って、すれ違う人達を見ていた。たまに店内にある鏡の前に立っては何度も自分の姿を確認した。鏡の前に立つたびに自分は女の子になったのだと感じさせられる。
 しばらく歩き続け、足が疲れてきたので私は家へ帰った。
 今日を振り返って思ったこと、それは人間、思っていた以上に人を見ていないということだ。私、一人女になったからといって誰もその事実を知る人なんていなかった。いるはずもない。私が待ち行く人が振り向くくらい可愛らしい女の子なら話は別だが、男の時だってそうでもなかったように、女になっても対して変わるはずがなかった。
 久しぶりに外に出たので、私は歩き疲れてしまい倒れるように眠りについてしまった。「私は女になったのだ」と心の中で何度もつぶやきながら。

 次の日起きたときも私はちゃんと女だった。
 誰しもが当たり前に思うことだが、昨日と今日の私は女と言う事実を確認せざる終えなかった。私は男性であった悲しみと同時に何をしようかと心が弾んでいた。こんな気持ちになったのは、初めてだった。私は少なくとも女になったことを楽しんでいた。
 予定をたてようとしたが私は、今日はアルバイトだった。
 アルバイト先へ行くのには少し抵抗があった。今の私を見たらみんなはどのような反応をするのだろうかと。緊張で膨らんだ胸が少し大きくなりそうだった。
 時間が近づくにつれ、私は行きたくなさを感じていた。昨日まであれだけ人に会いたがっていたが、いざ人に会うとなると恥ずかしさがこみあげてくる。会うのと会いに行くのでは話が違う。
 私が、かれこれ一年位働いている飲食店のアルバイト先に着くと思っていた以上にみんな普通の反応だった。
 そう、普通の反応。
 つまり真実はこうだ。「私はこの世界では、元々女だった」ということだ。一昨日あたりまで、男として生きてきたが、それはあくまで違う世界の話。昨日目覚めた時から私は、「自分が女として生きてきた」世界になっていたのだ。女の子として生まれ、女の子として生きてきた。それだけだった。
 だから私を見ても周りの反応なんて無に等しかった。
 都合が良いことに私が女であっても男であった時と同様に周りの環境や人間関係は変わっていなかったのだ。つまり、私がただ女になっただけと言う事実が私には残っている。
 「おはようございます」
 私はいつも以上に大きな声であいさつをした。自分の高くなった声を楽しんでいた。
 朝礼。実際は昼過ぎだがアルバイトが始まった。私は毎日やることがないので昼から生活のためにアルバイトをしていた。
 今日は休日なので、自分と同い年位の子も一緒に働く。今日も隣にはあの子がいる。松場リコだ。私が男であった時から、想いを寄せていた女の子だ。リコは、年齢関係なく誰に対しても優しく、明るい子だ。そして笑顔が明るい素敵な子だ。私は、ヘタレなのでリコに対してアプローチなんかできていなかったけれど、今の私は違う。この世界で私は、女なのだ。それを存分に活かしてやろうと考えているのだ。(「女になったから彼女に近づく」と言うのもヘタレっぽさがでてしまうと思うが、そこはあえて突っ込まないでおこう)
 リコは、今の私と同じくらい肩まで伸びている綺麗に染まった茶色の髪の毛を一つに束ね、業務に取り掛かろうとしていた。一方私も、ゴワゴワしている黒い髪の毛を一つに結ぼとしていたが、それが中々上手くいかなかった。ポニーテールは自分でするのは難しい。業務が始まってしまう焦りで私はパニックに陥っていた。そんな時に女神が現れた。
「大丈夫ですか」
 茶化すようにリコがやってきた。近くでリコの二重の目と長く伸びたまつ毛を近くで見れて嬉しかった。
「ちょっと、上手くできなくて」
 私は、恥ずかしさで死にそうになっていたが、リコが私の髪の毛を綺麗に束ねてくれた。二つ下には思えない頼もしさだ。それに私はリコに髪を束ねてもらっていることが素直に嬉しかった。女になれたことを心の底から喜んだ。
「貸し一ですからね。」
 女になった自分を通じても、リコは可愛かった。
 体が変わったとしても業務内容は特に変わることはないのでアルバイトは難なく終えた。
 私は帰路へ向かおうとするリコを呼び止めた。
「松場さん、」
「どうかしましたか」
「いや、今日本当に最初助かって、ありがとう」
「そんな、わざわざお礼を言わなくても」
「いや、本当に助かったから」
 リコはなんだか不思議そうにこちらを見ていた。
「なんだか今日の嵐さんなんだか楽しそうですよね」
 私は、こちらの世界でも毎日つまらなそうにしていたのかと少しがっかりした。
 言い忘れていたが、「嵐 ユウカ」これが私の女の時の名前だ。
「なんだか、最近楽しくて」
「それは、良かったです」
 私とリコは向き合っていたが、リコは百八十度向きを変えまた帰ろうとしていた。男であった時と同様にリコとは、アルバイト先では良く話すもプライベートの話やましてや一緒に帰ったり遊んだりなんてしたことなかった。だから私がもう一度リコを呼び止めた時、リコは驚いた顔をしていた。
「松場さん、ぼ、私その、メイクとかのやり方とかよく分からなくて、その教えて欲しいなって思って。そ、その松場さんメイクとかきれいだし、」
 ぎこちなすぎるなと自分自身思っていた。男だった時も女性を遊びに誘うことをしたことなかった為、女になって初めて女の子を遊びに誘うなんて、ましてや口説いているなんて、なんてヘタレ野郎なんだと我ながら思っていた。
「あーたしかに嵐さん、いつもメイクしてないもんね。私で良かったら教えましょうか」
 心が跳ね上がった。女になったことでリコと話す口実も出来て、おまけに休日もリコと遊べる日が来るなんて、私は今人生で一番のチャンスが到来したと思っている。
「じゃあ、空いてる日また連絡して」
 調子に乗った私は、ついにリコと連絡先で繋がることができた。私は女性であることを存分に楽しんでいた。

 一週間も過ぎれば、体も心も段々と慣れてくる。ついこの間まで男の体であったのが随分と昔のように感じられる。男の時に比べて、鏡の前に立つ頻度が随分と多くなった気がする。段々と女になった自分の体と顔を好きになってきた気がする。だから、もっと可愛い服を着てみたいと思うようになっていた。
 リコと出かける予定の日は次の休日。私はそれまで時計ばかり見ていた。リコとは、どこどこへ行きたいと連絡を取っていたから私がさみしい想いをすることはなかった。連絡を取るたびに出かける予定が楽しみになっていった。
 私は、それまでにまず髪を整えた。少し高めの美容院へ行って、放置され肩まであった髪の毛を顎あたりまで切り、毛先も綺麗にしてもらった。自分で言うのもあれだが、私は可愛くなっていた。気分を抑えきれなくなった私は、初めて自撮りというものをした。初めての自撮りは、当然だが上手くできなかった。世の中の女性たちは、凄いなと自分の写真を見ながら思った。加えて、私は男だった時と比べて身長は縮んだが、女性の中では少し大きめだった。そこで自分を一番よく見せる為にはどのような服が良いのかを真剣に考え始めるようになった。
 私は、体が女になったが故に男の時では芽生えなかった「自分を良く見せる」ことにある種の気持ちよさを感じていた。私は、前述したように女になりたかった訳ではないが、やはり心の奥深くに女になりたいと言う欲求が隠れていたのかもしれない。それに想像してみてほしい。自分がいざ異性になったらやってみたいことなんて山ほどあるだろう。
 リコと遊びに行く予定が近づくにつれ、私は着々と自己プロデュースにハマっていった。

 そしてきた当日。
 私は、朝から落ち着かなかった。遊んでいる時どんな会話をしたら良いのだろうかとか、話が途切れたらどうしようかとか。私は好きな人と出かけたことがない上に女性同士の会話なんて知らなかった。どうしたものかと悩んでいた。
 いつもは待ち合わせに遅刻してしまう私でも、今日は特別早く来ていた。家にいてもたってもいられなかったから。携帯の時計で何度も時間を確認しては、耳に入らない音楽を聞いていた。そこへ彼女は訪れた。白いワンピース姿にジージャン。いつも束ねている髪型を、今日は降ろして巻いていた。いつも可愛いと思っているが、彼女を見て今日は一段とその感情が湧きあがった。可愛い。
「おまたせしました」
 今日は春先ということもあって、彼女は少し汗ばんでいた。
「今日は、暑いね」
 やっと絞り出せた言葉がそれだった。情けない。
「あ、髪切ったのですね。似合ってますよ」
 彼女のその言葉は、素直にうれしかった。女性が髪を褒められて喜ぶ気持ちが少しだけわかった気がする。
「では行きましょうか」
 私たちは、お化粧用品を買うために出かけた。私は、化粧用品に関しての知識は無に等しかった。いつもは、化粧水と乳液しかしていなく、初めて買うお化粧は高く、どれもキラキラして可愛らしかった。彼女は「これは最近流行りの。」とか「これは、こうやって使うんだよ」とか言っていても私には訳が分からなかった。女性は大変なんだなと女の体になってはじめて感じた。リップなんてどれも一緒だろとか思っていたけど、テスターを手の甲につけてその印象は大きく変わった。少し色が違うだけで迷うし、自分の印象も大きく変わる。化粧は奥深い。
 私は、リコと店員に言われるがままに買ってしまった。少し、というかかなり値が張ってしまったが仕方がない。でも私は自分の買い物に満足していた。自分が可愛くなることが最近の楽しみになっていたのだから。
 一通り買い物を終えて、私はリコへどこへ行こうかと話していたが、彼女は押し黙って私の方をじっと見つめていた。
「嵐さん、この後家空いてますか?」
「別に、特に何もないけど」
「それなら、今日買ったやつでメイクしてみますか。嵐さん、今日もスッピンですもんね、」
 リコは私の顔をマジマジと見ていた。実際、女性はスッピンである女性と歩くのは恥ずかしいものなのか。それとも、もしかしたらリコはスッピンで出歩く私に気を使ってくれたのではないか。私は、まだ女性の気持ちというものが理解できない。
「あ、あそれなら全然、今からでも来てい、来てください」
 来て良いよと言おうとしたけれど、してもらうのだから来て良いよはおかしいのかもしれない。かもしれないではない、おかしい。
 そしてリコと電車に乗って私の家へ向かった。道中、私は自分の家の汚さを思い出していた。
「失礼かもしれませんが、嵐さんが化粧をしようと思うなんて意外でした。男でも出来たのですか」
 家に着いて、顔を赤くしながらセカセカと部屋を片づけている私を見ながらリコは聞いてきた。
「そんなことないよ、私、男に興味ないし」
「えぇ、そんなこと言って。本当は、欲しいんですよね、彼氏。だから最近おしゃれに目覚めたんですよね」
「いや、本当に、彼氏は欲しくないよ。ただ、最近自分が変わっていく姿を見て楽しんでいるだけ」
「へぇ」
「松場さんこそどうなの。恋人とか彼氏とか」
 私は、男性だったら絶対に出来ないであろう質問をリコにした。この返答は正直怖かった。
「いや、私は今はいませんよ。なんか出会いとかもなくて」
 気分が高揚した。
「そ、そうなんだ。彼氏いないのか。私と比べて松場さんならすぐできそうだけど」
 内心ではそんなこと思っていなかった。リコに彼氏なんて出来てほしくなかった。
「いや、私そんなにモテないので」
 嘘だ。リコは実際モテている。同じバイト先でリコに想いを寄せている人なんてたくさんいた。
「まぁ、そんなことよりお化粧しましょう」
 リコがパッンと手を叩き、私を鏡の前に座らせた。
 本当ならリコに化粧をしてほしいところだが、実際これから一人で化粧することになるのだから自分でやるのが当たり前か。彼女がアレコレ説明しながら、彼女の指が顔に触れる度、私の心臓は暴れていた。
「できた!」
 リコの喜ぶ顔と同時に自分の顔が完璧な女の子になっていて感動した。化粧はスキンケアから始まって、色々大変だったがいざ自分が可愛くなると嬉しいものがある。私は、冴えない顔つきだったがいざ化粧をしてみると案外いけるものなんだと自画自賛していた。
「化粧を教えてくれたお礼にご飯でもおごるよ」
 可愛い自分で外に出たくてリコを食事に誘った。リコも快く受け入れてくれて、私たちは近くのファミレスへ行った。本当は、もっときちんとしたレストランへ行きたかったけど、家の近くにそんなものはなくて。
「本当にご馳走になって良いのですか」とリコは遠慮していたが
「今日、メイクを教えてくれた私の神様だから、何でも食べて」と男女どちらが言っても痛いセリフを言いつつ、リコにご飯をご馳走した。

 それから私たちの距離はどんどん近づいていった。私は、これまで興味のなかった服や化粧品に興味を持ち始め、リコと一緒にたくさん買い物へ行ったりしていた。自分の変わっていく姿が気持ちよかった。それに私たちの呼び方も変わった。リコは、嵐さんから私の下の名前、ユウカさんに。私は松場さんからリコへ。
 私は、自分の見た目が女の子っぽくなる一方でリコに対しての気持ちは変わらなかった。リコに近づくたびにどんどんリコのことが好きになっていった。私たちは、毎日のように連絡を取り合って嬉しい反面、辛くなるときもある。リコは、私のことなんて恋愛対象として見ていないのは、恋愛経験が少ない私でもわかる。私たちは友達なのだから。私が変な行動をとって私たちの友達としての関係は崩れてしまうのではないかと。これは、同性になったからこそ怖かった。
 リコと親しくなって私は一度だけリコへそれっぽいことを伝えた。それは、ある日の居酒屋。お互い酔っぱらっていたこともあって、私はついリコに「リコ、私がもし男だったらリコは私と付き合える?」と言ったが、リコは「そんなのわからないよ。考えたこともなかったし。でもどうだろうな」と答えをはぐらかせられた。
 リコに近づけば近づくほど、私の想いはリコから遠ざかる。
 私は、どうすればいいのかわからなくなる。相談できる相手もいない。そもそもどのように相談してよいのかわからない。ただリコが私のことを一人の女として、はたまた恋愛対象として見てほしい、それだけのことだ。同性愛について今まで深く考えて来なかったけれど、いざ当事者になってみるとやっぱり考えてしまうものだ。どうしたらいいのかと。
 それに私は男が嫌いだ。自分が男と付き合うことなんて想像もつかない。一度は付き合ってみたいとも思ったが、やはり無理だと思った。

 私の心は体が変わってもずっと男だった。

 私の体が女になっても、私の心はきっと変わらないだろう。男性が女性へ、女性が男性へ恋をするように、私もリコの存在が好きだった。付き合いたかった。
 でも私が女性であったからこの関係を築けたのであって、男性だったらきっと今のような関係にはなれなかったであろう。
 私のこのリコに対する気持ちは、私たちが親友である限りずっと伝えられずにいるのだろう。
 私は密かにこの気持ちを心の奥にしまった。


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