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コンテンツツーリズム作品としても優秀な『HELLO WORLD』

(タイトル画像は映画『HELLO WORLD』公式サイトから引用 / (C)2019「HELLO WORLD」製作委員会)

映画『HELLO WORLD』もうご覧になったでしょうか? 『天気の子』の上映もまだ堅調な中、完全オリジナル作品ということもあって、ちょっと動員が伸び悩んでいるようなのですが、SFアニメ好きならば絶対に見ておくべき作品でした。個人的には映画のキャッチコピーどおり「この物語(セカイ)は、ラスト1秒でひっくり返る――」ということはなく、『 劇場版ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』の伊藤智彦監督と、『正解するカド』脚本の野﨑まどさんが組めば、こうなる、こうなるべきだという結末に大満足でした。上映後の客席からも「良かったよね」という声が多く聞こえて来ました。

京都に暮らす内気な男子高校生・直実(北村匠海)の前に、10年後の未来から来た自分を名乗る青年・ナオミ(松坂桃李)が突然現れる。
ナオミによれば、同級生の瑠璃(浜辺美波)は直実と結ばれるが、その後事故によって命を落としてしまうと言う。
「頼む、力を貸してくれ。」彼女を救う為、大人になった自分自身を「先生」と呼ぶ、奇妙なバディが誕生する。
しかしその中で直実は、瑠璃に迫る運命、ナオミの真の目的、そしてこの現実世界に隠された大いなる秘密を知ることになる。(公式サイトより引用)

この作品の舞台は京都です。しかしただ単に京都の名所を舞台に選んでいる訳ではありません。(このあたりは、これまでも京都を作品の「装置」として描いてきた野﨑さんのセンスが光ります)あくまでもSFとして説得力のある場所が選ばれつつ、そこに蓄積されてきた伝承・伝奇も想起させる描かれ方がなされます。

例えば物語冒頭、主人公のバディ(メンター)となる「未来の自分」との遭遇は伏見稲荷を想起させる場で行われます。1万ともされる奉納された鳥居は、「未来の自分」の悲願を表しているだけでなく、その場所が本来と違う座標となったことも、物語の結末ときちんとリンクしているのです。その後、2人で訪れることになる鴨川デルタなども、物語の分岐点(あちら側とこちら側)として解釈すると味わい深いものがあります。終盤、京都駅を舞台に大バトルが繰り広げられるのですが、『ガメラ3』を思い出しながら見ると、「アレをそう使うのか」とまた違う角度から楽しむ事ができるはずです。

恐らく様々な考察サイトがこれから生まれてくると思います。またネタバレにもなってしまいますので、この記事では物語そのものには詳しくは言及しません。いずれにせよ、様々な映画・アニメで描き尽くされた感もある京都を舞台にして、SFという切り口でこのような描き方が出来るのかと感心しました。

現実と仮想空間、過去と未来を行き来する作品の中で、実際のその土地が持つ物語、人々がそこに想起するイメージが効果的に用いられることは、100分前後という短い映像の中に情報を盛り込むためには欠かせない技術でもあったと思います。「データベース消費」が指摘されてから随分経ちますが、近年ライトなSF、というかファンタジー的な作品が多い中で、『HELLO WORLD』は最近珍しい濃密なSF作品です。コンテンツツーリズムに欠かせない「情報の密度」「重層感」が確認できると思います。

このように書いていくと、「ハードSFでとっつきにくいのではないか」という印象を持たれるかも知れません。けれども小中学生向けのみらい文庫からもノベライズから出版されていることからわかるように、子どもでも楽しめる作品になっています。映画の宣伝は、えてして有名俳優・女優といったキャスティングや一般受けを意識した「どんでん返し」といったコピーに重きを置いたものになりがちなのですが、ツンデレヒロインのどこか懐かしい魅力を確かめに(そしてそれがフルCGで表現されているという技術の高さも素晴らしいわけで)劇場に足を運んでみるのも一興かと思います。きっと「ねじりパン」が食べたくなるはずです。

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(画像はPRタイムスより引用)


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