ぞっとした話

昔、誘拐されそうになったことをよく思い出す。
初老の男性2人が乗った車が目の前で止まり、1人が霊園に案内して欲しいと言う。雨が、もうどんな勢いだったか思い出せないが、ざあざあと降っていたような気もするし、降り始めだったといえばそんな気もするが、寒さを感じ急いでいたのはよく覚えている。

子供に霊園の場所を聞くのはおかしいけど、大人が困っているのを助けないのは悪いことかもしれない。でも知らない人だ。知らない人の車に乗ってはいけない。それに霊園?霊園なんて、至極わかりやすい場所にある。

それにおじさん2人は怒ったような顔をしていて怖かった。「乗って案内して」とか「ほら早く」とか、そんなことを言われた。口頭で道を簡単に案内して、乗ることはできないと断って、帰宅した。

どういうわけか私はこの記憶を、大人を助けなかった悪い自分の物語として脳裏に刻んだらしく、誰にもこの話はしたことがなかった。どう考えても不審者情報だ。もう20年近く経ってから、今さらよく思い出す。酷い目にあったかもしれないし、もしかしたら命を落としたかも。じぶんの生き残った物語としてたびたび思い出してはぞっとする。


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