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纏う力

すごくいい文が書けたと思ったのにまちがって消してしまった。

私には好きなものがたくさんあった。香水、ランジェリー、お洋服、そしてそれらの好きなものを纏った日常と観劇。ランジェリーは特にこだわりがあって、大学生のころからセレクトショップに出入りしていた。摂食障害でボロボロになった心身は、美しいレースのランジェリーを纏うことで少しずつ力を取り戻していったのだった。

ランジェリーは何人かの友人にもすすめて、一緒にセレクトショップにも行った。なかなか私のようにハマる人は少ないのだけど。そうこうしているうちに、仲の良い友人の1人が亡くなった。ランジェリーは、彼女には何の助けにもならなかった。

それまで愛してきたものたちの何も私を助けることはできなかった。全ては色褪せ、夜毎泣き咽ぶために日中に力は残らず、私はゾンビのように徘徊した。観劇も買い物もまるでだめだった。私はその友人と昔よく買い物に行った。10代だったからお金もなく買った記憶はほとんどないのだけど、巨大なファッションビルを右往左往した。あのころはどうしようもなく幸せだった。あの子が居ないのに買い物なんてできなかった。

韓国文学の短編集に、殺された友人そっくりの服を纏う主人公の話がある。センスのよく美しい友人の服をかわりに体の上にのせて、その主人公は生きていく。一歩間違えば狂気じみた行為だが、傷ついた私にはその物語が際立って素晴らしく思えた。私も友人が着たいと言っていた服に似たものを手に取った。それは喪服であり戦闘服だった。纏うことで力が湧いてくる。私はもうしばらく生きて闘いを続けようと思った。


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