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2022年も映画が面白くてよかった(今年観た映画振り返り)

昨年大みそか、「来年は観たらちゃんと1本ずつ書いていく!」と誓ったのに、やっぱり今年もギリギリでしたよっと。

というわけで2022年観た劇場新作映画だいたい全部、ちょっとだけ旧作映画と配信も含みながら振り返っていきます。

↓今年のベスト10はこれ

↓気になった映画はJustWatchの動画配信検索で配信中かどうか調べてみてください。


キングスマン・ファーストエージェント

「ビスポークのスーツ着て、表向きは一流テイラー、真の顔は国際スパイ組織:キングスマン に属し戦うスパイアクション」という人気シリーズ3作目!
今回は、前作で人気キャラも死んじゃったし組織の過去に迫る前日譚的なストーリーだったんですけど、いかんせんマジメにやりすぎた。
買収によりウォルトディズニー資本になった影響なのか知らないけど、キングスマンと言えば「悪ノリ!血しぶき!人体破壊!」を期待した全世界のファンがずっこけるほど真面目な正統派アクションスパイ映画でした。
いや、これがみたいなら007観に行くっちゅーねん。。たぶん前作の人肉バーガーでめちゃくちゃ怒られたんじゃないでしょうか。
(ちなみに第1作はめちゃくちゃ人間の生首が飛びます)
我々が見たいのは血しぶきゴアアクションであってジェームズボンドではないのです(暴言) カムバック人肉バーガー!!

確かに前作はちょっとやり過ぎたとは思う(前作:キングスマン・ゴールデンサークルより)


偶然と想像

2021年公開だけど年明けに観たので。
『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督による3話の短編会話劇オムニバス。 2回目に観るときは全編目を瞑って耳だけで観てほしい、とんでもなくクオリティの高い映画。映画館でぶっ飛びました。

1話目は若いキャストらしく言葉の応酬に観客が振り回されるスリリングな展開。前半の主役、女性2人のタクシー車内での会話から、友人を先に降ろしタクシーに来た道を戻るよう指示することでそれまでと逆の展開することを示唆する演出が見事。
2話目は大学教授と社会人学生と大学生。3人の変わりゆく関係性と時間の描き方、唯一劇中で大きく時間が経過する話で、時間の経過で変わりゆく男女関係の機微、その描き方が本当に素晴らしい。
3話目は五十がらみの女性二人、言葉の選び方で二人の生きてきたそれまでや境遇を浮かび上がらせる脚本が秀逸。唯一男性が登場しない話で、女性だからこその距離感と、人生の向き合い方。一つ一つの言葉で二人の人生がゆっくり解かれてゆく様が、優しい。

全ての偶然と会話、そこで紡がれていくものを描いた美しい映画で、”会話”という非接触コミュニケーションの濃密さはもはやエロス。これはもう、非接触セックスだろ。

2話目が抜群に好き


フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊

タイトルが長すぎる!!フランスで発行されている架空のアメリカ雑誌「フレンチ・ディスパッチ」編集部、最終号の発行を巡る4話のオムニバス。
実在する雑誌『ニューヨーカー』とその編集部をモデルにした雑誌文化賛歌

ウェス・アンダーソン監督らしい異常なまでに作り込んだ画面、物凄く情報量が多いのに人物の背景と過去をバッサリ切り落とすことでテンポよく回していくストーリーテリング、そして溢れるアメリカ雑誌文化への愛。
ウェス・アンダーソンにしか許されない映画作りで、背景となる雑誌文化とか理解しておくと、より理解は深まると思うけどそんなの知らなくても圧倒的に計算され、偏執的にこだわった画作り観てるだけでも最高の映画。
予告編見てもらえばわかる通り、何の映画か全然わからない映画で万人受けしないし興行的にもサッパリでは。でもそれがいい。あと、パッと見オシャレ映画に見えるけどウェス・アンダーソンは生々しさを好むのでわりとストレートにエロくていいです。

多分、紅茶がぶ飲みしながら観ると良いと思う。

最高にウェス・アンダーソン


さがす

突然失踪した父を探す女子中学生。父は生きているのか?なぜ消えたのか?自分の知っている父は本当の父ではなかったのか?今までは自分から遠い場所で起きていると思っていた事件が、自分と地続きになる瞬間。

コミュニケーションを抉る本作、とにかく登場人物全ての演技と描写がすさまじく、特に父役の佐藤二郎がキモくて情けなくて不潔で優しくて利己的で弱くて最高に人間でした。
貧困や社会階層、福祉の問題も切り取りつつ進む本作は何を言ってもネタバレなのでぜひ観て確かめて欲しいんだけど、ポン・ジュノ監督の助監督を務めた片山慎三監督、貧困の解像度が高い描写が圧倒的。ある事件が起こるアパートの部屋、一つの人生の最果てのようなその”すべてが行き詰った雰囲気と匂い”がリアルで身につまされる。

本作の全てを象徴するラストシーンは圧巻。

全然主要キャラじゃないのに観たら絶対忘れないジジイ・オブ・ザ・イヤー
(マジでこの映画観た人全員、覚えてると思う)


ガガーリン

 パリ郊外、ガガーリン公営団地。孤独な少年ユーリは老朽化による団地取り壊しを阻止するため一人団地の設備修繕をする日々。取り壊しが決定しても一人団地に残り、住人が退去し立ち入り禁止となった団地内で植物を育て住人のいなくなった部屋を温室やコクピットに改造し自分だけの宇宙を作り上げる。

孤独なユーリのボーイミーツガールで、独特の映像美で表現されるユーリの世界と青春と恋。社会の理不尽さや大人の都合に抗う若者、ユーリの放つ美しさは僕らがもう二度と手に入れられない一瞬のキラメキなんですよ。定住しないロマであるヒロインのディアナと、団地という自分だけの世界に籠るユーリ。「ここではないどこか」を求めるディアナと「ここにしかない何か」を求めるユーリが過ごす、団地内だけの世界。外に出れば終わってしまう世界。ラストシーンの美しさは、今年観た映画で一番だった。
ジャンル映画となりつつある「フランス団地映画」でも異色の一本。

いやーいい映画観た。

誰もいない団地の室内をバイクで2人乗り。最高の青春じゃないですか?


林檎とポラロイド

「記憶喪失の奇病」が流行する世界、記憶を失い憶えていることは「林檎が好き」ということだけの男。男は治療のため「新しい体験をポラロイドに撮る」というリハビリを受ける。

最小限の台詞と表情だけで語るストーリー、デビュー作でここまで観客を信頼して映画作れる!? 主人公が選ばなかった行動で失いたかった記憶が浮かび上がる喪失と再生の物語、脚本と演出が凄ぇな!

街並みが美しいギリシャ映画で、めっちゃくちゃ退屈で面白い映画なんだけど、たしかに人生って基本的に情報量少なく退屈で、映画内のポラロイドに象徴されるように瞬間を記憶で切り取って情報量あるように思い込んでるだけなんだよな。 本当の人生とはその隙間、シーンとシーンを繋ぐ”間”なのである。

人生の映画でした。

チャリンコ体験を自撮り中。世界一オジサンの自撮りが出てくる映画です。


DEATH DAYS

誕生日でなく自分が死ぬかもしれない日(デスデイ)が年に一度やってくる世界、3話構成の短編映画。

森田剛演じる主人公が、どうせ組まないバンドの命名で盛り上がったり、コンビニ蕎麦のほぐし水で揉める青春時代が最高に無駄で自由だった20代の深夜2時テンションでくだらなすぎてかなり笑った。 最近恋人と別れたり仕事クビになったり死にてえな〜と思った時にオススメ! 死を想うことで楽しく生きよう。メメント・モリ。

↓なんとYoutubeで全3話公開中。

↑全3話、YouTubeにあるのでぜひ。1話15分ほどで観やすい。


ガンパウダー・ミルクシェイク

サイコーーーーーー!!マジ最高!100億点!!!!
初期キングスマンのテンションと悪ノリで女殺し屋たちが銃を撃ち、とにかくたくさん人が死ぬ!いいから今すぐ上の予告編見てくれ。

組織と敵対し命を狙われる殺し屋、という今まで100万本くらい作られてきた映画のストーリーだけど、それを組織(=男社会)に立ち向かう主人公たち(=女性)を通して女性の自立を描く「ウーマンエンパワーメントアクション映画」にしてしまい、秘められたメッセージが本作を単なるガンアクション映画で終わらせない。

武器屋兼図書館でのバトルで、「(女の子には)これが必要」と渡される本(銃が入ってる)はヴァージニア・ウルフ『自分ひとりの部屋』シャーロット・ブロンテ、ジェーン・オースティンなど女性自立について書いた女性作家の本ばかり。女性が強く生きるために必要なことを書いた本の中に、男と戦う武器が入ってるというメッセージ。そして少女に手渡される本は『若草物語』なのだ。震える。(※若草物語は因習に逆らい女性の自立をうたう小説です)

そしてこの映画は「窮地の女性を都合よく男が救いラブロマンス」という男性都合主義を全否定し全て女の子の手で解決、「立ち塞がる強キャラ女」が出ず最後まで「女は女を殺さない」を貫いたのも良かった。

と、メッセージ性が強いけど、そんなのお構いなしの大エンタメアクション映画なので全国民観てください。ウルトラギガマックス最高です。

日本が誇る害悪男性ぶっ殺し映画こと「女囚さそり」完全オマージュファッションにあたしゃ震えたね


ナイトメア・アリー

1950年代のアメリカで、一人の男が浮浪者寸前の放浪から成り上がりそして悪夢に陥るアメリカン・ノワール・サスペンススリラーにしてアメリカの古典が原作。

貧乏暮らしでも青年らしく輝いていたスタンを演じるブラッドリー・クーパーが、チャンスを掴み金と名声を手に入れるたびに業が深く顔つきが変わっていく様は圧巻でしたね。成功した途端、貧乏時代を支え苦楽を共にした妻が邪魔になるブラッドリー・クーパーに劇場の女性客全員「死ねばいいのに」と思ったことでしょう。大丈夫、もれなく酷い目に遭います。
ケイト・ブランシェットがもはや魔女。

ケイト・顔面の圧が強い・ブランシェット。もはや存在が怪異では?


ベルファスト

俳優ケネス・ブラナーが監督を務め、自身の出身地ベルファストを描いた自伝的映画にして地元ベルファストへのラブレター。
1969年、カトリック対プロテスタント。宗教が街と人を分断していた北アイルランドベルファストが舞台。

時代に翻弄されつつも愛と希望とユーモアを忘れない、モノクロだからこそ鮮やかに浮かび上がる今は居なくなってしまった人々の言葉。全ての故郷を離れた人たちと、そこに残った人たちへ贈られた美しい映画。
主人公バディ少年以外の家族がパパ、ママ、じいちゃん、ばあちゃんって役名なのは、これは全ての観客それぞれの家族の物語だからなんだろうし、情報量抑えたモノクロ映像だからこそ登場人物に観客それぞれが”自分の中の父、母、故郷”を重ね、全ての観客が自分の中に残る家族からの大事な言葉を思い出す、そんな映画。
人を作り人生を彩るのは、誰かからの愛と希望なんだぜ。
めちゃくちゃ良かった!

ケネス・ブラナーから映画への感謝が詰まった幸せなシーン


スターフィッシュ

そんな映画と思わんかったやんオブ・ザ・イヤー!

人類が滅亡した世界を救うため亡き親友の遺したテープを探す女性───上映始まるまでナチュラル系の映画かと思ってたら全然SFスリラーで、まさかクリーチャー出てくると思わんやん!

90年代USインディ/ポストロックのMixテープにのせ世界を救うメロディを探す旅は超名作ゲーム『MOTHER』みたいで良かった。めちゃくちゃ眠くなるけど面白かった!
『Dの食卓2』のオマージュのような本作、世界の謎が明確に明らかになるわけじゃないけどラストシーンの美しさだけで全て許せるな。

このポスターでクリーチャー出るとか思わんやろ普通?


TITANE/チタン

ここ数年で一番狂ってる映画だぞ!!

主人公アレクシアを通し古き因習を暴き社会問題を突きつける意欲作───なんだけど何でターニングポイントが「車とセックス」なんだよ馬鹿!!!! 「理解のある彼くん」など必要としない、観客に200km危険球投げ込む映画表現への狂気の挑戦。これに最高賞贈ったカンヌはマジですげえな!!

幼少期の事故で頭にチタン(異物)を埋め込み、事故をきっかけに家族内の異物となり、そして女性で性的マイノリティ=社会の異物でもあるアレクシア。 ある事件での逃亡生活と妊娠(※車の子供を妊娠します。何言ってるかわからないと思うけど大丈夫、みんなわかってません)をきっかけに旧来の家父長制やマッチョイズムと対峙し、それが原因で言葉を話さなくなるアレクシア(抑圧され声を上げられぬ女性、少数者のメタファー)。
新しい生活で出会った"良心"というあだ名の若者(新しい価値観を上辺だけ理解しようとする人々のメタファー)は、うわべの理解を示しながら"集団のために"異物(アレクシア)をそっと排除しようとする。 そしてその新生活も、男性は筋肉や髭といった男らしさの男性的記号が重視される社会(=現代社会のメタファー)

多様性の正体とは何か? ラストシーンで突きつけられるものを観客はどう受け取るのか? 倫理、多様性、ジェンダー、マッチョイズムとミソジニー、偏見と差別、宗教観、因習と社会の問題をごった煮で観客の頭からぶっかける社会派カルトバイオレンスムービー『TITANE/チタン』

ここ数年で一番狂ってる!すげぇぞ!!!!!!

いやもう、凄いんだってば


アネット

カラックスが普通のミュージカル撮るはずないだろ!

相変わらず鼻がデカいアダム・ドライバー、パンイチのアダドラ、ケツ出しのアダドラ、セックスしながら歌い出すアダドラ、140分アダドラでお腹いっぱい鼻いっぱい。 カラックスらしい傑作すぎて、ミュージカル期待していった正統派ミュージカルファン絶対ブチ切れるだろこれ。

チャッキーに似た、アダム・ドライバーの子供(アネット)の造形からしてカラックスの悪意を感じるんだけど、アメリカショービズ界といわゆる毒親を風刺しつつ過去作『ホーリー・モーターズ』から引き続き第4の壁を超えてくるカラックス。 エンドロールの素晴らしさはカラックスからのご褒美、このエンドロールのために観る価値がある。

コメディアン、アダム・ドライバーのネタが超絶シュール



カモン カモン

ジェシー役のウディ・ノーマンの演技が抜群!そしてモノクロの映像で際立つ光と音の美しさ。
いま子供と過ごしている人、過ごしていた人、この映画めっちゃくちゃおススメです。

突然9歳の甥ジェシーと暮らすことになった独身男ジョニー(ホアキンフェニックス)と甥っ子のハートウォーミングストーリー、と思いきやここにあるのは「他者との分かり合えなさ」 それでも"一番近い他人"である家族を軸に対話の美しさと尊さを描く。

この映画は他人とわかり合う素晴らしさと同量、「コミュニケーションのストレス」を観客に与えてくる。
そう、他人を理解するってめちゃくちゃしんどくてストレスなのだ。

どのシーンも嘘みたいに素晴らしいんですよこれが。



英雄の証明

舞台はイラン。拾った大金をネコババしなかった美談で有名になった主人公が賞賛とSNSの中傷に翻弄される様子を描く。

自分の疑惑を証明しようと奔走する中、商店街のガラス張り店舗の中で起きたある事件。「多くの人が目撃した事実」がSNS/ネット社会により変化していく、そしてSNSの直接の描写はせずそれに影響された周囲の人の変化によりSNS社会の問題を描くのがとても巧みだった。現実がネットで書き変わる現代社会の歪み。

名監督ファルハディだけあってさすがの面白さなんだけど、イラン庶民の生活とか「恥」「名誉」が重視される文化を知ってはいたけど映像として見るその感覚とか、意外と女性が黒ずくめのチャドル着ないんだな、とか母はどこでも強いな、とか改めて異国異文化映画って面白いな~としみじみ。
ステレオタイプに思っていた「対米強硬のイラン」「厳格なイスラム法で女性が弾圧されるイラン」などのイメージとはまた違うイランがある。
めちゃくちゃビックリしたのがイランって刑務所に服役中でも月に1回?数日間家に帰れるんですね(罪にもよるだろうけど)。投獄とは・・?ってなった。

まったく知らない街並みだからか、旅情をそそる映画だった。

食事シーンって文化の違いが一番出るので好きです




KKKをぶっ飛ばせ!

KKKに襲われた黒人三兄弟のリベンジ・バイオレンス・カルト・ゴアムービー!

黒人チームの姉貴がデカくて強い!安酒飲みながら書いたとしか思えない脚本と映像、B級サメ映画の人間版だと思ってもらえれば大体合ってます。KKKチームが白人中年~老人男性ばかりで黒人チームに逆襲されると基本弱いのが笑える。それにしても、そりゃこんだけ人肉食えば全米公開中止になるだろ!

人肉スプラッタゴア祭りです、焼肉食べながらどうぞ。



トップガン・マーヴェリック

言わずと知れた大ヒット作ですね。なのでどこが良かったかなんて全員知ってるので書きません。ってかあのトップガンの続編とはいえ、日本でこれだけ大ヒットすると思いませんでした。マジで大ゴケするんじゃないかなーと思ってましたもんね私。
で、なんでヒットしたんだろーって考えてて気づいたんですよ。
トップガン・マーヴェリックって、『釣りバカ日誌』なんですあの人気シリーズの。は?何言ってんだコイツと思うでしょうが待ってください。

出世にこだわらず悠々と仕事するトム・クルーズ=ハマちゃん
ヒラ社員なのに大企業トップ(太平洋艦隊司令官“アイスマン海軍大将)とマブダチのトム・クルーズ=ハマちゃん
なんだかんだでヒロインと恋仲になるトム・クルーズ=ハマちゃん

ほら。釣りバカでしょ?F-14が釣り船に見えてきたでしょ?パイロットスーツが釣りジャケットに見えてきたでしょ?砂浜アメフトを見守っているように見せかけトムの視線の先はひょっとしてキス釣りの竿だったかもしれません。
このように、ヒット作の法則は『釣りバカ日誌』に隠されています。
これからはトムの事を親しみを込めハマちゃん、と呼んであげましょう。
すなわちアイスマンはスーさんです。
『釣りバカ日誌・マーヴェリック』素晴らしい映画でしたね。

※念のため言いますけど私はトップガン・マーヴェリック、大好きです。

誰が何と言おうとハマちゃんと釣り船です


ベイビーブローカー

いつも「多数の中での孤独」と「社会が見えていないフリをしているもの」を描く是枝監督、”命”を巡る最高のロードムービー。
貧困で赤ちゃんを売る母親、買う母親。闇の赤子ブローカーを巡る物語。
人は、誰かを赦し赦されることで生きていける。

冒頭、大雨の中母親が赤ちゃんポストのある教会目指して深夜の暗がりの中、階段を登るシーンが印象的。 社会の底辺へ逃げ戻るように大雨の中階段を駆け下りる『パラサイト』へのオマージュで、社会の底辺から子どもを救うため、光の当たる世界へ大雨の濁流に逆らい一歩ずつ登る完璧なオマージュ。
そのシーン直後、赤ちゃんを売るブローカーのソン・ガンホが牧師姿で登場し「赦し」のメタファー(=牧師姿)が象徴的に明示されそこから映画は赦しを問いながら進んでいく。 人は誰かを赦すことで自分も赦されていく。 その過程を描く本作、実は最後まで赦されない人物がいる。「その人はいったい誰に赦されていないのか?」是枝監督は最後に小さな問いを残す。

ペ・ドゥナとイ・ジュヨン、ブローカーを追う女刑事2人がひたすら韓国メシを食い続ける張り込みグルメ映画でもあった。なんで韓国のインスタント麺とかジャンク飯、あんなにうまそうなんでしょうね。ぜひテレビ東京とスピンオフで「孤独のグルメvs2人のグルメ」やってほしい。おススメ映画!

この2人、とにかく車内で飯を食う。



リコリス・ピザ

最高のオープニング製造機ポールトーマス・アンダーソン大先生、今作も最高の幕開けをいつも通りの長回しでかましてくれます。男女が出会い、歩き語るそれだけでなぜこんなに最高になるのか、この10分だけで2時間語りたい。
1973年のハリウッド近郊を舞台に、冴えない写真館アシスタントのアラナと高校生ゲイリーの恋模様を描き出す。

一見平凡なこの映画を読み解くポイントは「アメリカの青春」「最後の古き良きアメリカ」である1973年の青春映画『アメリカングラフィティ』
リコリス・ピザの舞台はアメグラ公開年を明確に意識した1973年で、『リコリス・ピザ』序盤のトイレ爆発シーンはアメグラ冒頭のトイレ爆発シーンを”左右反転し”オマージュ。
アメグラをそのままオマージュするんじゃなく、「ポール・トーマス・アンダーソン流の「アメグラのその後」をやりますよ」という宣言を冒頭でおこない、オリジナルアメグラと違い「旅立てず地元に残ることを選択した、何者にもなれなかった若者たち」を描いた『リコリス・ピザ』

本作の主人公はゲイリーと見せかけ実は、凡人のアラナ。
ポールトーマス・アンダーソンは『リコリス・ピザ』で、アラナを通し「ここではないどこか」を夢見て何者かになれるかもと期待し、でも内心は何者にもなれず終わっていく自分への諦観に少しの安堵を覚えるアメリカン・グラフィティ後の「何者にもなれなかった僕たち」を描き出す。
ポールトーマス・アンダーソンはこの映画で語ります。
平凡。でもだから美しいんだ、と。
大傑作です。

↑『リコリス・ピザ』が『アメリカン・グラフィティ』をなぜオマージュしたのか、なぜアラナなのかという話を語ってるので暇な方はどうぞ



わたしは最悪

学生時代に望んだアートや文学の道に進めず、かといって現在が充実しているわけではないユリヤ。才能ある男に惚れたり、すぐ他の男に目移りしたり、自由な恋愛を生き結婚と出産には縛られたくない。家族は結婚や出産を期待してるけど私の人生はこれじゃない気がする__

「男が認めたくたがらない」、現代のリアルで自分を生きる女性像が最高に解像度高い!
劇中で「環境問題とスピリチュアル、オーガニック自然食&ヨガに目覚めた意識高い女」の描かれ方がめっちゃくちゃに毒に溢れてて声出して笑った。監督、自然派オーガニック女性嫌いすぎるだろ笑

女性の評価が気になるので観た人だれか感想教えてください。

凄く良い映画だけどカップルで観るのは絶対におススメしません。
言ったからな!俺言ったからな!


キャメラを止めるな

『カメラを止めるな』フランス版リメイク!B級感は薄れたけど、フランス人らしく我が強く嫌なやつ多い分ラストの感動はオリジナルより上かも。全ての伏線とストーリーわかってるのにこんなに笑えることある?

日本でのヒット作をフランスでリメイク、という設定が追加され更に多層化するメタと入れ子構造が、オリジナルカメ止めに最大限のリスペクトを捧げたフランスからのアンサーで最高の映画愛だった。

オリジナル観た人、絶対に観た方がいいよ!

大人が全力でバカやってて楽しくないわけないじゃないですか



ボイリング・ポイント/沸騰

ロンドン、人気レストランの一夜を驚異の90分ワンカットでシームレスにカメラが動き、人種、性別、貧富格差、差別、幸不幸の明暗を描き出す。 バックヤード-厨房-客席でそれぞれ起きる問題の種類が変わる、社会構造と問題を示唆する作りが秀逸! レストランは社会の縮図なのだ。

バックヤードなど裏側では薬物、貧困、家庭崩壊、メンタルヘルスなど社会が抱える内的問題を描き、 光の当たる客席では見栄や偏見、差別など外側の問題を描く。同じ店内でテーブルごとに幸不幸が存在する、 レストランという鍋に社会が放り込まれボイルされている構図。

全編ワンカットなので主人公であるオーナーシェフをカメラが追うことで様々な場所に場面が切り替わるんだけど、そのためシェフがレストラン内外の様々場所に常に移動して、全然料理作らない。それに付き合わされる観客は90分ずっと「シェフ、いい加減料理作らないとマズいだろ・・」と冷や冷やしっぱなしのスリリングな映画です。
いやマジではよ料理作れや。

そりゃスーシェフ(副料理長)もキレるわ



モガディシュ「脱出までの14日間」

1990年ソマリア内戦に巻き込まれた韓国と北朝鮮大使館員、絶対に相容れない両国が戦争地帯となった首都から脱出するため反発しながら手を組む呉越同舟大脱出アクション!なんと実話ベース!

韓国ノワールとコメディのいいとこどりのような映画で、中年オヤジの韓国映画はこれだから面白い。土壇場で胆力見せるオヤジたちの熱さよ!スマホどころか携帯もロクに無い時代、状況が全くわからない異国の内戦で必死に情報を集め国外脱出の道を探る、捕まれば死が待つ最終脱出シークエンスがスリリング!
世界中どこだろうと、腹をくくったオヤジというのはめちゃくちゃカッコ良く魅力的なのです。

爆発コントに見えるけど大脱出中


アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台

刑務所の囚人更生プログラムでの演劇授業が国中で評判を呼び、遂に囚人たちは名門オペラ座での公演が実現する_スウェーデンの実話を基にしたフランス映画。

囚人たちが演じるのは20世紀最高の不条理劇、サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』。え、もっとわかりやすいのあるじゃん!って思うんですけど講師のエチエンヌはこれに決めます。この演目決定が素晴らしく、『ゴドーを待ちながら』は来ることのないゴドーを待つ話なんですけど、売れない役者であるエチエンヌは、いつまで待っても自分にはついぞ訪れなかった役者としての成功を。いつも負け続けの人生の囚人たちは、成功と他人から尊重される人生を。常にどこかで待ち続けてた半生なんですよね。

ゴドーは明快な話ではないので当然、教養がなくしかも「楽そうだから」とかで演劇プログラムを選んだ囚人たちには意味がわからないのですが、エチエンヌの熱意でいつの間にか囚人たちは演劇に夢中になり、「素人の囚人たちなんて」「囚人たちにあの『ゴドー』なんてできるわけない」と冷ややかだった周囲の反応が変わり、やがて国中で有名になっていく。
そして囚人たちがついに招かれた超一流劇場オペラ座での最終公演。本当にあの世からサミュエル・ベケットが仕組んだんじゃないかと疑ってしまうくらい『ゴドーを待ちながら』にふさわしいラストシーンが最高に震える。
映画でも描けないような映画的実話です。おススメ。
『ゴドーを待ちながら』を知らなくても楽しめるけど、知ってたら100倍楽しい。

ゴツい囚人にマジギレで指導するエチエンヌ(右端)、胆力のパラメータが振り切れてる


プアン 友だちと呼ばせて

ガンで余命宣告された男が親友と共に、死ぬ前に元カノたちに思い出の品を返す旅に出るタイ製ロードムービー。

元カレが昔の思い出持って会いに来るなんて女性にとっては悪夢でしかないクソ迷惑な話なんだけど、男ってのはそういう馬鹿で自分勝手で独りよがりなもんです。だからフラれるんだぞ。
とはいえ、男の幼稚なセンチメンタリズムとタイの旅情が見事にマッチして、ご都合主義なところもありつついつの間にか引き込まれていく不思議な映画です。多分、私も馬鹿な男だからですね。
20代の青臭い青春時代の後始末でもあるこの映画、年末だし疎遠になっている友だちを思い出すにもいいんじゃないでしょうか。

タイを巡るお供は古いBMWとカセットテープ、ってのがいいんですよ


NOPE/ノープ

本年度No1怪異襲来映画!!なんで私はこれがベスト10圏外なんでしょうか。予告編見返してマジで思っちゃったな。大傑作です。

ハリウッド郊外で映画用の馬を飼育・調教する主人公兄妹。ある日、日常のすぐそばに潜む「なにか」の存在に気付き、そしてそれが襲い来る_という映画なんだけどこのストーリーだけで終わらないのはさすがはジョーダン・ピール監督。
IMAXの現時点最高峰じゃないか、という映像に加え「ハリウッドの映画産業の歴史」「映画界での黒人差別問題」「映画(ショービズ)と観客の見る/見られる関係性」などをキーワードに「映画そのもの」に対する問題提起や意思表明、そして「映画そのもの」を紐解く作業がストーリーと並行して盛り込まれ、オモテのストーリーとウラのストーリーが同時進行していき映画やショービズの暴力性や問題性を暴きます。

神が与えた"映像という奇跡"を、撮影進化の歴史を見せながら現時点人類最高の映像を見せる映画讃歌であり、映像を手にした人類の愚かさを暗喩する宗教寓話でもある。

が、あくまで映画自体は最高の怪異映画なのでそんなのぜんっぜん気にせず楽しんでください。中盤から明らかになる怪異の正体も最高だし、大エンタメ傑作です。スマホじゃなくなるべくでっかいテレビで観てね!!
血もいっぱい流れるよ!

スティーヴン・ユァン演じるジュープの経営するうさん臭い遊園地がいいんですよ


ブレット・トレイン

今年度最高オブ最高、No1バカ映画!!

飛び交う銃弾、死にまくる殺し屋、吹っ飛ぶ新幹線! ブラピがトンチキ日本を駆け抜ける、とにかく各停車駅の治安が最悪でオススメはスラムチンピラ感溢れる静岡駅!
伊坂幸太郎原作だけど、冒頭15分くらいで伊坂幸太郎の原作通りにやるのをやめ「見回りの先生が通り過ぎた修学旅行の男子高校生」くらい好き勝手やり始め、そして見回りの伊坂幸太郎先生が戻ってくるのに合わせラスト10分くらいで伊坂幸太郎テイストに戻ってきます。お前たち本当に好き勝手やりたかったんだな笑

ハリウッドが予算つぎ込んで作ったデタラメクレイジージャパン、JR東海の偉い人たちが全員泡吹いて倒れそうな今年イチの最高バカ映画なので知り合いにJR東海の人がいたらぜひ一緒に観てみてください!

女王蜂のアヴちゃんが歌う主題歌の、ビージーズ「Stayin' Alive」カバーも最高。

真田広之が実写版『ゴールデンカムイ』


地下室のヘンな穴

「入ると12時間過ぎるが3日若返る穴」がある家を買った夫婦のフランス映画。

さすが奇妙で変な映画を撮らせたらカンタン・デュピュー監督、今回も設定一発勝負の話に「電子ペニス」とかひどいワードぶち込んでくるぞ!70分の映画に6カットも猫が映る多分ねこ映画、猫かわいいので+3億点です。

若返りを求める話は世界中に寓話としてありますが、これもご多分に漏れず酷い目に遭います。「若返って夢だったモデルになりたい!!」と言い出す奥さんの暴走っぷりがたまらない。「さすがジャポン、電子ペニス手術ができるとはぶっ飛んだ国だぜ」として登場する我らが母国に日本人涙目。『ブレット・トレイン」に次ぐトンチキ日本も味わえます。

とんでもない物件案内をする不動産屋。欠陥住宅すぎるだろ



グリーンバレット

殺し屋・国岡シリーズ最新作!

新人殺し屋研修の講師を請け負った国岡が殺し屋志望の女子6名を鍛える免許合宿の殺し屋版です。

コミュ障や無気力など問題だらけのクソダル女子っぷりがリアルで、めちゃくちゃ笑える青春殺し屋女子ストーリー! 重火器大好きサイコ板尾創路、軽トラに乗ってやってくる敵殺し屋、過去作のヒットで予算増えたのかCGがわりとまともになってきたのが逆に笑える。全てが最高、新作ごとにどんどん評価が高まる阪元裕吾監督作品。いま観るべき邦画でおススメ!

なんだグラビアアイドルかよ、、と思ったらこの女子6人のクソダルっぷりが今後のキャリア心配になるくらい良いんですよ


ナルコの神(NetFlixドラマ)

ファン・ジョンミンの顔が悪い!

Netflixドラマシリーズ全6話。
南米の小国スリナムを舞台に一獲千金をもくろむ平凡な男が麻薬ビジネスに巻き込まれていく韓国ノワール。

主人公カン・イングはエイの韓国への輸出ビジネスで一旗揚げようと南米の小国スリナムに渡る。しかし現地マフィアとのトラブルや地元軍隊からの賄賂要求などトラブル続き。助けを求めた地元有力者である韓国人牧師チョン・ヨハンのおかげでビジネスはうまく行くかに見えたが、実はチョン・ヨハンは牧師は仮の姿で裏の顔はスリナムの麻薬ビジネスを取り仕切る麻薬王だった_

とにかく麻薬王ファン・ジョンミンの顔が悪いんだけど、それに渡り合い麻薬王を騙し出し抜こうとする主人公カン・イングもどんどん顔が悪くなっていき、最終的には全員悪人顔になっていくのが最高!

このドラマ、最新の映画トレンドとしても見逃せないのはエピソード4の冒頭5分、ワンカット長回しのジャングル内銃撃戦!本作と同時期に公開されたNetflix映画『アテナ』の冒頭で話題になったワンカット長回しの恐らく原型で、この撮影で培ったノウハウがアテナで使われたのかも?
手持ちできる小型IMAXカメラをカメラクルーがパスしていくバケツリレー方式でトラックの窓をカメラが通過したりこれまで観たことない映像体験。
ドラマ自体もめちゃくちゃ面白く、大変おススメ。

全員、悪い



人質「韓国トップスター誘拐事件」

ファン・ジョンミンが悲惨!

韓国人大物俳優ファン・ジョンミンが本人役で身代金誘拐される犯罪映画。『ナルコの神』観た後だと「麻薬王なのにめっちゃやられてる・・」と面白くなってきます。
設定とか少しユルいんだけど韓国ノワールらしく「社会の下層で見捨てられている短絡的かつ暴力的な犯罪者」の湿度がリアル。誘拐団リーダー以外は全員、何きっかけで人殺すかわからないし、かといってリーダーの元日本代表中村俊輔似のサイコパスはガチのサイコパスだし本当にコイツらには誘拐されたくない。時間と共にボコボコになっていくファン・ジョンミンが見どころ!

フルボッコだけどどうせ麻薬王だしな・・と思われてしまう可哀そうなファン・ジョンミン



復讐は私にまかせて

喧嘩は強いがチンコ勃たない男×女シラット使い=バトル恋愛アクション!

拳を交えた2人は恋に落ち(なんでだよ)謎の女は墓から蘇る!(なんでだよ)
凄い熱量の超展開インドネシア映画でタランティーノ絶対好きだろこれ!バトル、愛、陰謀、カーチェイス全部盛り!

イラン映画『英雄の証明』でも言ったけど、異国の庶民生活が見える映画が大好きで、これは貴重なインドネシア映画でその観点でいうと100点、マジ最高。とはいえ単なるイロモノ映画じゃなく、人体バトルアクションの情熱以外にも、叙情的に描かれるシーンやストーリーの切り方など「ゴダール的・・?」と思わないでもない部分もちょっとあり(ホントだって!)、なによりインドネシア人の情熱が凄いのでインドネシア最高です。

この映画を観るとインドネシアサポーターが「アジアで一番熱くて過激」と言われる理由がちょっとわかった気がする。あの人たち、理屈じゃない。


LAMB/ラム

羊飼い夫婦の元に生まれた「羊でも人間でもない何か」を巡るファンタジースリラー

不穏!とにかく不穏!描かれるのは愛なのにどんどん不穏さが増していく、だってアダちゃん、ヒトじゃないからね!!!! 狂っているのは俺か世界か?上映後「アダちゃんかわいい~~♡」って言いながら帰っていく女子が怖かったよマジで・・

聖書関連のメタファー 、「クリスマスの夜」「羊小屋」「羊飼い」「マリアとアダ」「頭部が獣の異形の姿(異教の神)」が散りばめられ 決定的なのは弟ペートゥルが湖でアダと魚を獲る場面(新約聖書のペトロは漁師でありキリストに声をかけられ一番弟子となる)
西洋の神のメタファーと異教の神が存在するのは、キリスト教文化が数々の異世界に侵略し異教の神と異教徒を駆逐してきた愚かさの歴史がこの映画のテーマにあること。異教徒を征服した西洋人は、人々を改宗させ己の神を捨てさせ同化を図る。羊の群れから取り上げられたアダのように。征服された異教の神は、消えたのか?征服者の末路は?異教徒は服従するだけなのか?映画のラストは現代社会の未来なのかもしれない。

宗教画を元に着想したと思われる、構図の対比によるメタファー


アテナ(NetFlix映画)

一大ジャンルとなった感のある、フランス貧困団地映画。
反移民差別からの暴動をワンカット風長回しで追う冒頭10分のシークエンスが凄い!『ナルコの神』エピソード4で使われた小型IMAXカメラを走り回るカメラマン同士でパスしながら撮る撮影ノウハウで2022年の映画表現として最先端技法のひとつ! まずは冒頭10分だけでも!凄いから!

フランスの移民貧困団地ものといえば傑作『レ・ミゼラブル』(※同名の有名小説、ミュージカルではない)で、アテナはこれに比べて見劣りするけどカメラワークと見せ方に振り切ってるのは良かった。 冒頭10分の「TPS視点からカメラ位置が移動し続けカーアクションではカメラが車外に飛び出す」とかこれ撮りたかっただけだろ笑

↑アテナメイキング。超面白い



秘密の森の、その向こう

はい大傑作です。
『燃ゆる女の肖像』のセリーヌ・シアマ監督最新作。
「幼い娘が、幼かったころの自分の母と出会うファンタジー」という心温まる短編。のフリして過去と現在二つの家をまるで「舞台の回転セットの表裏の関係」のように使う様は完全に舞台劇。さらにその中に2人の少女の劇中劇を落とし込み「全ての人は現実を演じる役者」「関係性の再構築」を「2つの家を行き来する舞台劇の中で行われる劇中劇」でたった70分で描き切る。 セリーヌ・シアマ監督、化け物みたいな監督になってるじゃん!

シアマ監督はセリフ無く映像で語る演出が秀逸だけど本作も冒頭、祖母が亡くなった病院の帰りの車中で、幼い娘が無言で母にお菓子を食べさせ運転中の母を後ろからハグするシーンで、この一連の流れだけで祖母が亡くなった母の悲しみを表現する演出が素晴らしかった…幼児だって言葉で表現できないだけで大人の悲しみを感じ取り、大人を慰めたいと思ってる。
シアマ監督の演出が凄いのはこのシーン、ほとんど娘は映ってないのに大人の悲しみと娘の優しさを表現してるんだよね・・

※母娘です


アザーミュージック

NY、閉店する伝説のレコード店「アザーミュージック」の最後を追うドキュメンタリー 。

サブスク時代にはもう生まれない、単なる店じゃ無く人が集まり文化が生まれる場としてのレコ屋。ラプチャー、アップルズ・イン・ステレオ、モグワイなどなどアザーミュージックに見出され無名時代にインストアライブをおこなった有名ミュージシャンも多数出演。

店の歴史を追う映像の中で、店主たちの「金持ってなさ」具合だけが変わらないのが印象的。何かを純粋に愛してしまった人ほど金儲けが下手なのはどの世界でも一緒で悲しい。

登場する人の音楽愛がただひたすらに最高な本作、店の歴代売上19位にコーネリアス「ファンタズマ」が。小山田圭吾も登場します。

この写真にワクワクする人種は絶対に観たほうが良い


ドライビング・バニー

離婚し定職が無く妹夫婦宅に居候し、交差点で車の窓掃除で日銭を稼ぐバニーの夢は、貧困から行政に保護されている子供2人と幸せに暮らすこと。しかしある日、義弟が姪に性的虐待をおこなっていることを知ってしまったバニーは姪を連れ出し逃避行へ。

どこの国にもある「女性一人で生きていくとぶち当たる壁」という問題を描いた本作には「風船が天井につっかえ漂うシーン」が。『プロミシング・ヤングウーマン』では「社会の見えない天井に阻害される女性」の暗喩として使われた風船は、本作では「社会的弱者として抜け出せない貧困で社会に行き場を無くす女性」のメタファーとして。

そしてバニーは劇中、母と暮らすことや誕生日会をねだる幼い娘に対し何度も嘘をつく。「絶対にママが家を探し一緒に住めるようになるから」「来週必ず迎えに行くから誕生日パーティーをしよう」うまくいかない人生でギリギリの気持ちを保つため、人は守れない約束で現実を先延ばしにするのだ。その希望はどこまでも哀しいのだけれど、バニーが救った希望の芽が潰えず走り出すラストシーンはどこまでも希望に溢れてる。
ラストシーン、姪役のトーマシン・マッケンジーが未来を見つめる眼差しに救われる。

※盗難車です


RRR

こんなシーン無かっただろ笑

2022年最高傑作!!
「いま地球上で一番実写版ゴールデンカムイに近い映画」こと世界最強インド兄弟。もしくは実写版アベンジャーズです。

ってかこの映画に解説とかいります?もう今すぐ予告編見てくれ、そして見たらすぐ最寄り劇場でのRRR上映予定を調べて走るんだ。世界最強熱量がそこにある。多分スクリーンから10万キロカロリーくらい出てるからこれ。

2022年はメッシのW杯優勝と共にRRR公開年として世界の歴史に刻まれることでしょう。

↑ビーム役NTR Jrインスタよりラーマ&ビーム渋谷スクランブル降臨動画。
ほんまもんのスターや。


アフター・ヤン


ビーム飛ばない、宇宙人出ない、クリーチャー出ないSF映画!

ある家族と暮らすアンドロイド「ヤン」がある日故障してしまう。主人公はヤンを修理しようと奔走するが_

小津安二郎を敬愛する『コロンバス』のコゴナダ監督なので宇宙に飛び出すこともなく、とにかく静かに進みます。例えるなら禅寺で撮られたSF映画。
めちゃくちゃ静かな映画なんだけど、映像と音楽がとにかく良いです。

たぶん小津安二郎がSF撮ったらこうなるんだと思う。おススメ。

マニア大歓喜「ラーメン食いながら目線をくれるコリン・ファレル」、どんな需要だよ



犯罪都市2 ROUNDUP

暴走ビンタ特急、海を渡る!

ビンタ一杯腹一杯、歩く暴力マブリー兄貴が暴れまくった大ヒット作『犯罪都市』の続編です。韓国だけにとどまらずベトナム⇄韓国をなぎ倒しまくる今作、海を渡ってもやることは特に変わりません!こんなにも主人公がピンチにならない、悪党に同情するアクション映画が他にある?そろそろ「ビンタでなぎ倒した人物世界一」というギネス記録認定だと思うんですがどうでしょうか。

特にやることは変わらない、と言いましたが2になってバディ物になったのは良かったですね!バディ物は相棒が振り回されるほど面白いんですけど、振り回す側が史上最大級台風みたな風速のマ・ドンソクなので、振り回されるチェ・グィファ演じる班長に心から同情するけど面白いからこのままでお願いします。

シーズン10作撮るつもりらしいのでベトナムの次は西へ西へ、4作目くらいでインド兄弟と闘ってほしいですし、10作目くらいではビンタで銃弾跳ね返してほしいです。マブリー兄貴ならやれる。

本作も最高でした。

↑なんと犯罪都市のインドリメイク『Radhe』 完全インドテイストで微妙に面白いのでとりあえず見て。



ドント・ウォーリー・ダーリン

ミッドサマーのせいですっかり「画面に映るだけで不穏」「悪夢のユートピア芸人」になったフローレンス・ピュー主演!
フローレンス・ピューを見たら不穏映画と思え!!
優しい夫や隣人と贅沢で完璧な暮らしを送っていた街の異常性が徐々に明らかになるユートピアスリラー、世界一不穏なあつ森だよ!!

妻は家で家事をこなす事に疑問を持たず夫の仕事すら知らされない。 このユートピアで前時代的な家庭の在り方を作った、望んだのは誰なのか?完璧に見えるこの街の歪さはなんなのか?誰かの理想は誰かを苦しめ、理想はやがてエゴになる。「常にどこかから見られている」ように暗示している鏡の使い方がお見事!

全てが計算ずくのオリヴィア・ワイルド監督、前作が『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』そして今作と2作連続大傑作。ほんまもんの天才だ。

すっかり不穏顔芸人



ザ・メニュー

アルティメットサイコパス海原雄山!!

予約困難なレストラン天才シェフのフルコース、料理されるのはお前たち!という注文と殺人の多い料理店。シェフがね、マジでヤバいんよ。

たまたま来店した10人前後の客が無秩序に殺される大量殺人のようで実は殺される理由があり、例えば「料理に対し無神経に酷評する」「金を出せばすべて許されると思っている」「料理(作品)に対し敬意が無い」「ウンチク語りばかり」など、要するに無責任にクリエイターを傷付けるモンスター消費者というべき存在。
それに対しレストラン側にも業界の闇や問題(パワハラ、セクハラ、希望を持てない業界の問題など)を象徴する犠牲者が出る。

全ての客に殺されるべき理由があり、全ての業界には問題がある。全創作者の怒りを代弁するサイコスリラー・ダークコメディ。作品には敬意を払いましょう…


あり得ないぐらい柏手の音がデカい、サイコパス海原雄山



シスター 夏のわかれ道

両親の事故死で孤独になったと思ったアン・ランの前に突然現れた6歳の弟ズーハン。ズーハンは「一人っ子政策」時代に望まれない娘だった自分とは違い、アンが就職で家を出た後に産まれた、両親が望んだ待望の「跡取り息子」だった。ズーハンを養子に出し自分の人生を生きるかズーハンを引き取り自分の人生を犠牲にするか。アンに親戚の圧力や社会の不条理が。

「女は家のため犠牲になるべき」という旧弊に反発する主人公に観客を同調させ、そこに「世界で独りぼっちの弟」という存在を放り込むことで「子供の庇護=女性の自己犠牲」を求める世間の側に、ズーハンに同情した観客はいつの間にか立たされるという、観客/世間の無自覚を炙り出す作りが凄いですね。

賭け麻雀ばかりしてる叔父さんが、良い味出してるナイスクズ!
めちゃくちゃ良い映画です。予告編だけでもぜひ

このクズ伯父さんが後半、いとおしく見えてくる奇跡が起きます



バルド、偽りの記録と一握りの真実(NetFlix)


劇場で観れて本当に良かった。大傑作。
アメリカで暮らすメキシコ人ジャーナリストの、家族と人生と祖国にまつわる映画にしてフェデリコ・フェリーニの『8 1/2』へのオマージュ。

離れてしまった故郷、親友との距離、子供や家族との時間、不可逆な人生。 夢と現実の境界が崩れるエピソード群が繋がり胸の奥に溜まった澱のような感情を描き出す。長い人生をかけても、本当を伝えられないまま終わるのが人生かもしれない。

観る人は選ぶけど、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』とか好きな人はおススメ。『8 1/2』が好きなら絶対おススメ。

カウフマンの『もう終わりにしよう。』といい、こういう儲からないけど映画にとって意味のある映画を製作し続けてくれるNetFlix最高。
大傑作!


トロール(NetFlix)

俺たちもゴジラを作りたいんだぜ!!!!と思ってしまったノルウェー人によるゴジラ愛と国産モンスタートロールが出会い生まれた北欧怪獣映画!

「ゴジラかっけー、俺たちも作りたいよなぁ…そうだ俺たちにはトロールがいるじゃないか!!」と思いついてしまったので仕方ない。
人間による身勝手な自然開発、環境破壊→謎の巨大足跡→伝説巨人トロール復活→政府に呼ばれる古生物学者→否定される怪獣説→遂に現れてしまう大怪獣トロール、と完璧なまでのゴジラ作法です。
めっちゃ面白いよ。

↑トロール映画といえばトロール界に轟く伝説の名画『トロール・ハンター』も超おススメ。ノルウェー人、どんだけトロール好きなんだ。



MAD GOD/マッドゴッド

ハリウッドの特撮、特殊効果のレジェンド フィル・ピケットが作り上げた、人類の捨て去った怪異モンスターの蔓延る世界へ潜って行く狂気のストップモーションアニメ。初夢で絶対に見たくない クリーチャーと人外しか出てこない世界、驚異の全編人語ゼロ!

ダンテの「神曲 地獄篇」を実写化したような地獄ツアーで、2022年にCG無し特殊効果コマ撮りでこれ観る幸せよ。

絶対に住みたくない街ランキング、堂々第1位。



柳川

ガンで死期を悟り、疎遠だった兄を誘い日本の柳川へ旅に出る中国人兄弟。柳川には兄が青春時代に愛し、突然消えた中国人女性が。弟が秘めた恋心、兄の未練、奔放な女性。 3人の心情と戻らない時間、現在の人生と変わりゆく関係が柳川の堀のようにぐるぐると回っていく、福岡ロケの中国映画。

名作!って映画じゃないんだけど『柳川』と同名のヒロイン「柳川(リウ・チュアン)」がすげー良かったし、彼女に恋心を抱く日本人役の池松壮亮の煮え切らない感じも良かった笑

兄弟だけの空気がこの2人乗りに確かにあって、それが良かったんですよね



Never Goin’ Back / ネバー・ゴーイン・バック

夢のビーチを目指す青春ガールズムービー。なんだけど貧困地域、母は売春、自分も周りもドラッグまみれで来月の家賃も無い、家賃は無いけど大麻は買う、格差を生きるリアルアメリカンホワイトトラッシュの青春。

こんなに下品でゲロとドラッグとウンコが出て来る最高にバカ映画なのに、どこまでも明るい二人がどこまでも哀しくなってしまいます。映画はエンドロールで終わりだけど、この2人の未来はここからどうなるのかと。さすがA24制作。初めてだよ、ゲロとウンコが出てくる映画でこんなに哀しくなるの。

まぁこの2人はどこでもしぶとくサバイブしていくでしょうけど。

「ノープラン発、激烈ポジティブ行」超特急2名様



未来惑星ザルドス(4Kリマスター版)

若きショーン・コネリーが全編パンイチで走る1974年の超絶カルト問題作!

1974年にこれデートで劇場で観た人とか事故すぎるでしょ。
未来の社会を予見した少子化、文化の停滞など着想は凄いけどなんでこうなったの感がハンパない。観たら絶対に忘れない怪作。いや、凄いんだよ造形とかテーマとか、、でも何ていうの、他になんかこうもっとやりようあるじゃん!
いやなんだかんだで俺は好きなんだけどさ!

ザルドスです。「これ何?」って聞かれてもザルドスです、としか答えようがないザルドス


やっと終わった、、、、現在2022年12月31日21時50分です。

他にも観てるけど今年心に残ったやつをピックアップしました。
来年も楽しい映画がたくさんありますように!
よいお年を!
来年こそ本当に、マジで溜めずに1本ずつちゃんと書いて来年の俺!
お願いだから!!


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