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【感想?レビュー?】メモリーガール どこまでも「エモい」、美しいゲーム

こんにちは、なるぼぼです。

つい先日、偶然にも「Tokyo Indie Games Summit」に行ってきました。
その中で偶然見つけたゲームが「メモリーガール」
サミット中はブースの後ろにチラシ一覧が置いてあったのですが、メモリーガールのそれを見たときに「これは面白いぞ」と直感が走り…。
体験版をちょっと触らせていただき、時間の関係でお暇してしまったものの、パッケージ版と同人誌を即決で購入しました。

そして旅の後一気にクリアしました。
今回はそんなゲームの感想をつらつらと書いていこうと思います。
よろしくお願いいたします。

本記事は一部ネタバレを含みます。
見出しにてネタバレの警告をしておりますが、ご一読の際はお気を付けください。

1.蘇る語り部のゲーム

まずはジャンルの話から。
本作は「ノベルゲームコレクション」で公開されているとおりノベルゲームに分類される作品であり、実際のUIも美少女ゲームにかなり近い配置になっています。
しかし、本作はところどころアドベンチャーゲームのような要素を採用しています。

本作は「いなくなっためもりちゃんの彼氏を探す」ゲームなのですが、いなくなった場所を探索するアドベンチャーゲームとなるような要素があります。
そして、彼氏を探す中でおつかいを頼まれ、「怪談を聞く」ことになります。
なんで怪談!?と思われるかもしれませんが、まぁここはネタバレになってしまうので割愛。
ともかく、めもりちゃんと友達のメシアちゃんは、知人から語り部形式で色々な怪談を聞くことになります。

ここで、僕は言いようのない懐かしさを覚えました。
ノベルゲームというと「学校であった怖い話」を真っ先に想起するほどに、僕は語り部ゲームが大好きです。
しかし、語り部ゲームはバンプレスト3部作以降は「アパシーシリーズ」程度しか僕も存在を知らず、あまり触れる機会がありませんでした。
偶然とはいえ、この令和に語り部ゲームと出会えるとは…!と驚きました。

語り部ゲームの良さは、ゲーム中の人物の性格が、話の語り口に現れるところです。
例えば「学校であった怖い話」の風間さんなんかは、ひょうきんでおどけるうえに、やりたい放題のセリフまみれで「クソうざい面白キャラ」を語り口から演出しています。
本作も例にもれず、怪談を喋ってくれる「マスター」「三智秋」「委員長」の3人の個性が、語り口から出ています。(もっとも、「マスター」は初めからキャラがとんでもなく濃いので語り口からキャラを掘り下げる必要がないのですが…)

さらに、有料版の強みとして「ボイスの導入」があります。
ボイスはノベルパートでもパートボイスが導入されているほか、怪談の語りにおいてはフルボイスが導入されています。
ボイスが追加されたことで話にのめりこみやすくなったうえに、キャラクターの個性がより際立つようになったので、語り部ゲームとしてより面白く仕上がっています。

話の内容に関してはネタバレなので内容は控えますが、単発で見るとう~ん…?となるようなものだったと思います。
おそらくゲーム内容の全てを俯瞰してみると真意がわかる、という内容のものなのですが、怪談直球勝負というわけでもないので、プレイ中に疑問符が浮かぶようなシーンはあったな…と思いました。
ゲーム中、アドベンチャーパートとノベルパートのようにゲームの内容が切り替わる瞬間があるので、どうしても話を聞いて回るアドベンチャーパートを本筋のストーリーと切り離して考えているのがよくないんでしょうね。
とはいえ、語り部ゲームとしての面白さ、話を聞く面白さは十分に担保されているので、一見の価値ありだと思います。

2.美しすぎるビジュアル

本作の魅力として真っ先に上がるのは、おそらくビジュアルでしょう。
語り部が先制して出てきたのは僕が語り部ゲームが好きなオタクだからなのですが、そうでないのなら浮遊しているような世界観やビジュアルの良さに引き込まれていくと思います。
プレイ直後から僕はフォントの良さや背景の雰囲気に没入していきましたが、かなりツボだったのが「常に夕焼けの世界」「テレビ式の枠」です。

「トワイライトシンドローム」の第10話、夕焼けの街を歩くシーンもそうなのですが、夕焼けでどこか曖昧になっている世界の中で、浮遊した感覚に苛まれながら探索をするというのは、なんとも良いものです。
背景が現実の東京に似ているところとか、渋谷や京橋のあたりの背景の淡い感じはなんともいえずツボです。
ぼかしが絶妙に入っていたりしていいんですよね。
あと電車移動中のドット絵(?)がかなり好きです。
めもりちゃんとメシアちゃんの小さな旅が表されていて、いいものでした。
電車移動だからイラストが揺れるところとか、マジで良いです。

もう一つがテレビ枠に近いような、ゲームのような雰囲気。
冒頭で語られるのですが、本作はゲームの中の世界観で、なぜかNPCであるめもりちゃんが心を持ちゲームの中であること、そして現在の状況がループ下にあることを自覚しています。
だからこそ、ここがゲームの中であるのを示すように、時々小さなノイズが画面に走ったり、枠がテレビの枠になっていたりと、デジタルな雰囲気をところどころに感じられるようになっています。
こうした世界観が夕焼けに溶けるように混ざり合っているので、幻想的で美しい雰囲気を余すことなく味わえます。

他にも語り部が話すときの画面構図がとてつもなくオシャレとか、エンディング周りの演出が神がかってるとか、色々と語りたいことはあるのですがビジュアルはこの辺にしておきます。
絵柄に惹かれたり画面の使い方に興味を持ったらマストバイだと思います。

3.濃い!濃い!濃すぎるキャラクター達

さて、本作のポイントとして、キャラクターの濃さを逃すわけにはいかないでしょう。
本作には、とにかくビジュアルを含め濃いキャラが多数登場します。

真っ先に目を引くのは「カルトくん」でしょう。
男子なのにメイド服!という服装が目を引きますが、他にも丸メガネにごりごりのピアスと、癖となる要素がこれでもかと詰め込まれたキャラクターです。
ビジュアルだけでもとてつもないインパクトを誇るキャラですが、ゲーム中のセリフは割と控えめで、一緒にいる三智秋の怪談話に付き合ってくれる関係性になっています。
とはいってもインパクトが凄いです。
物腰柔らかな話し方も相まって、色々と突き刺さるキャラクターなのではないでしょうか。
男の僕でも癖の塊ってわかるぐらいですし。

喫茶店の「マスター」のキャラも滅茶苦茶濃いです。
オネエ系の語り口だけどイケメン、かつ怪談の語り部としてはかなり丁寧な語り口。
ギャップ萌えですね。
怪談の時は凄く冷静に話しているのに、終わった途端「キャ~!」みたいな雰囲気のセリフになるので頭がバグります。いい意味で。
人生経験豊富な方で、色々な話をめもりちゃんやメシアちゃんに振ってくるのもマスターらしいなと感じます。
登場回数はあまり多くはありませんが、強烈なインパクトを残すキャラですね。

最後に一番近くにいたメシアちゃん。
メシアちゃんは典型的なガーリーな女の子だけど、めもりのことを真っ先に心配してくれる凄い良い子です。
怒るものにはしっかり怒って、でもめもりちゃんのことはちゃんと心配して。
世話焼きな女の子の一面を余すことなく見せてくれます。
ずっと一緒にいてくれて、プレイヤーの気持ちを時々代弁してくれるのもいいですね。
濃すぎるキャラの中で、彼女自身も濃いものの、ちゃんとツッコミに徹してくれるのは良いと思います。

他にもクマのお面をした謎の男ロストや、駅前でママを待つ少年のらいむくんなど、個性的なキャラクターが多数登場し、コミカルに表情を変えます。
こうしたキャラクターの個性が際立っていることによって、キャラに愛着が持てるようになっているのも、登場回数が少ないゲームでの積極的なアピールに繋がっていると思いました。

あと、重要なのが「めもりちゃん本人も芯のあるキャラになっている」ということ。
めもりちゃんは無口な性格からあまりしゃべりませんが、じぇりあんぬと呼ばれるマスコットを持ち歩いていたり、彼に対しての気持ちを思うことが多かったりと、彼女の強い気持ちを理解できるシーンが数多く用意されています。
彼を探すためにたくさん行動して、色々なものを見たり聞いたりする小さな旅でも、彼女の性格とか思いに触れられるので、主人公というよりも一人のキャラクターとして見れたのはよかったですね。

あと超かわいい。
ゲームが好きだから十字キーのヘアアクセつけてるとことか、けだるげながらも彼氏のために怪しいところにでも出向く健気な所とか、良すぎないか?
良い。

4.せつなく、衝撃的なエンディング(ネタバレ注意!)

さて、最後はエンディング周りの話。
正直ネタバレをあまりしたくないのでよろしくはないのですが、本作はエンディングの比重があまりにも大きいと感じたので、ここだけはネタバレアリで話させてください。



…大丈夫そうですかね?それでは。

さて、本作はマルチエンディングを採用しています。
選択肢が2回ほど出てきて、そこでどれを選ぶかで話が大きく分離します(その前に起こした行動でエンディング分岐することもありますが、根本的な変化は選択肢だと思います)。
本作は、そのエンディングがどれも大きな影響力を持っているとともに、全てにおいて丁寧に作られた「意味のあるエンディング」であること、そしてそのすべてが「妙なせつなさ」を持っていることが重要です。
この記事の執筆タイミングで僕が見たエンディングは、「END2」「ANOTHER END2」「END3」「THE END」です。
これらを確認しながら、思ったことを話していきます。

まず「END2」と「ANOTHER END2」の二つ。
ゲーム(という設定)の中で苦しみ続けるめもりちゃんを救済しようと現れたカルトくんの手によって、めもりちゃんが殺されるというものです。
めもりちゃん自身が自分を守るために行っているとはいえ、傍から見ればゲームの中のNPCと思い込んで過ごしている人というものは苦しく見えるのでしょうね。
カルトくんの行為は完全に否定されるものでもないと思います。

そうした考えになるのも、「ANOTHER END2」の存在が大きいです。
「ANOTHER END2」では三智秋とメシアちゃんがめもりちゃんとカルトくんの居場所を突き止め、めもりちゃんが一命をとりとめるエンディングです。
結果としてめもりちゃんは命を落とすことはなくなりますが、彼女はゲームの中に囚われたままになってしまいました。
三智秋とカルトくんはお互いの意見を全く曲げず、その場はお開きとなってしまいます。
カルトくんは、最後にめもりちゃんに「いつでも相談に乗るからね」と言い残してその場を去ります。

このエンディングにあるのは、「本質的な救いとは何か」というものなのでしょう。
カルト、メシアと名が付けられているように、カルトくんのやり方は一般的に見れば恐ろしく理解しがたいものです。
しかし彼の語る「救い」は、今だに現実に帰れないめもりちゃんを救うための一つの手段であり、それでいて現実的な方法論でもあります。
後ほどお話しますが、「THE END」は綺麗な終わり方になるものの、かなり非現実的な方法でめもりちゃんのゲームからの脱出が描かれています。
だからこそ、他人から見て「こうすることでしか救えない」と思う考え方も、ある種正しいものだと思えるのです。
カルトくんの過去がそうすることの正当性を物語っているようにも思えましたが、三智秋姉の集団自殺の際に何があったかは作中で詳しく語られていないので、謎多きキャラクターとして終わってしまいましたね…。
でもカルトくん自身が最初からミステリアスなキャラだったので、あの終わり方でもいいとは思います。
「カルトくん」という1キャラを引き立てる上でも、いいエンディングでした。

続いて「END3」。
メシアちゃんから現実を投げつけられそうになり、自衛のためにゲームとしての世界観をより強く思い込むことで、めもりちゃんがより壊れていく、というエンディングです。

このエンディングは「相互交流の難しさ」が示されていると思います。
元のめもりちゃんを知っているメシアちゃんにとって、明日彦くんの死を受け入れられず苦しみ続けるめもりちゃんを見続けるというのは、とてつもなく苦しいことです。
メシアちゃんにとって、ゲームに溺れているめもりちゃんを見続けるということに対する我慢の限界が、亀裂を見つけた瞬間だったのかもしれません。
作中では、めもりちゃんだけがゲームの世界に没入してしまっているがゆえに、みんなそれに付き合ってくれるように乗り気で話をしてくれます。
だからこそ、そうしためもりちゃんの世界に一番近くで触れ続けていたメシアちゃんが、最初に我慢できなくなってしまったのでしょう。

めもりちゃんは真実をぶちまけられた後、メシアちゃんの顔を黒く塗りつぶしてしまいました。
そこには「見たくないもの=今のメシアちゃん」というものがあって、それを見なければいいという考えが強くなっていくようになっています。
そして自らゲームの中にいる世界をより強めていくことによって、明日彦くんとの繋がりをかき消さないように、現実からより離れていくように生きていくことを選択します。
その選択をした原因は、悲しいことにメシアちゃんが出した本音でした。
メシアちゃんは、よりゲームの中に潜っていくめもりちゃんを見ながら、「メシアはずっと私の味方だよね?」という言葉にうなずくことしかできないのでした。

このエンディング、かなり多くの演出が埋め込まれていて、「凝ってるなぁ」と感じていました。
だからこそ、めもりちゃんの感情の振れ幅の大きさが表現されているような気がして、なんだか悲しくなりました。
トラウマを思いっきりえぐられるというのは辛いものです。
メシアちゃんの言葉は、真実を的確に伝える、他人からの「心無い言葉」になってしまっていました。
もちろんそれが救いになることもありますが、めもりちゃんにとってはそれは「棘」でしかなく、「よりゲームにこもるためのトリガー」でしかなかったのでしょう。
一番近くにいて、一番信頼して、一番戻ってきてほしかった人だからこそ出た言葉なんでしょうけど、それが伝わらないというのは、せつないものです。

最後に「THE END」。
実質的グッドエンドです。
僕は最初にここに辿り着いて、衝撃を受けました。

めもりちゃんは次元の裂け目を超えてゲームの海の中に行き、そこでロストと出会います。
ロストの正体はめもりちゃんの中にいた自己愛の存在で、それは明日彦君の姿をしていました。
自殺寸前の状態で「死にたくない」という自己愛を思い出しためもりちゃんは、自分の自己愛の気持ちを思い出して明日彦くんの死を受け入れ、前を向いて生きていくことを決意します。
直後に訪れたメシアちゃんの本心を聞きながら、生きていくことを決意しようと、めもりちゃんは心に決めるのでした。

いや、ほんとにこのエンディングが胸にぶっ刺さった。
めもりちゃんが自分だけで問題を解決するという芯の強さには驚かされましたが、明日彦くんの真実とか、そういったものがすべて示唆されて現実を見なければなならない、というところで、データの海が実は飛び降りる死そのものだったりとか、そうした真実の表し方が見事でした。
それでいて、めもりちゃんが明日彦くんを失ったのに生きていることに嫌気がさしたりとか、そうしたものの中でもちょっとだけ「明日彦くんのことが好きな私はここにいる」と思うことで前を向く姿とか、めもりちゃんの感情が痛いほどに伝わってきました。

あと、とにかくこのエンディングはエモかった。
夕焼けの背景の中で抱きしめ合う二人とか、メシアちゃんが駆け寄ってきたりとか、めもりちゃんの中での気持ちの変化が演出として現れてきたりとか、演出も凄かったです。
しかし、それ以上に言葉の一つ一つが刺さった。
「好きという言葉の呪い」とか、明日彦くんの姿を借りて出てきたロストの「がんばれ、めもり」という言葉とか、そういった一つ一つの言葉に大きな意味が込められていて、とても心が動かされました。
切なさを孕みながらも、前を向こうとするめもりちゃんの希望を感じられるエンディングは、心にずっしりと残るような、でもそれでいて爽やかな気持ちになれる、とてもいいエンディングだったと思います。

あとエンディングテーマの「メモリーガール」もぶっ刺さりました。
聴けば聴くほどゲーム内容と歌詞がリンクして刺さりまくり、感情メーターが降り切れておかしなことになりかけました。
それぐらいに完璧な組み合わせで、全部感情を揺さぶるものになっていたので、非常に良かったと思います。

5.終わりに

いかがでしたでしょうか。
クソデカ感情を全部吐き出したのでボリュームがえげつないことになりましたね…。
久しぶりに文章を書いたので色々と煩雑になっています。
すいません。

とはいえ、一目見ただけでビビッときたうえに、ここまで感情を揺り動かすようなゲームがこうして出てくると思うと、凄いもんだな…と思います。
作者さんの同人誌では「曲からゲームが生まれた」と仰っていましたが、ここまでエモーショナルに、しかもゲームとしての面白さも担保して生み出されていると思うと、とんでもないなと思います。
作者さん一人でスクリプトなどを組まれているそうなのでそこも凄いです。
体験版プレイ後も「凄いですね!」と思わず言ってしまったぐらいには驚いたのですが、実際やってみると演出面があまりにも凝っていて、「一人でこれを作ったのか…!」と再度驚かされました。
凄すぎます。

このゲーム、他の人のレビューに書いてあった「ニディガとかに近い衝撃」と同じ感覚を味わったとは思うんですけど、それが突き抜けて爽やかだったのが良かったですね。
色々な苦難を抱えながらも最後には爽やかに締めていく。
美しいゲームでした。
(あんまり大きな声では言えませんけど、コンセプトとか言いたいことはかなりペルソナ3フェスに似ていたので、フェスも上手く伝えられていれば爽やかに完結したのかな…なんて思ったり。)

さて、これを読んでメモリーガール、欲しくなりましたよね!?
なんと!Boothにてパッケージ版/ダウンロード版が販売中です!
しかも500円!?ホントに500円でいいのこれ!?

しかも!同人誌も一緒に販売されてます!
同人誌はマジで作者さんの思いとかゲーム中のアレコレが全部書いてある上に、イラストも載っていてとんでもないレベルの贅沢品です!
マジでどっちも買った方が良いです。
超おススメ。是非。

さて、次の記事ですが、同じくTokyo Indie Games Festaでプレイした「ふりかけ☆スペイシー」を予定しています。
ホントはそこまで記事にする気もなかったのですが、ちょっと触っただけでも色々と言いたいことが出てくるぐらいには素晴らしいゲームだったので、クリア後に書き出そうと思います。
それまでお待ちください。

それではこの辺で。
さよなら~。


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