【楽しさと惰性】試し読み
※この記事は、そらとぶさかなのエッセイ本『楽しさと惰性』の試し読みです。書誌情報はこちらをご覧ください。
(『1. 切ない』より)
切ない。
まずはこの一言だ。
例えば、イベントで本が売れない時。隣のブースでは順調に売れているけど、自分のブースには長い事誰も近づいてこず、ぎこちない静寂の中で一人座っているような。
または、イベント前日に一分一秒を争うコピー製本戦を繰り広げている際、ふとスマホに通知が来て見てみると、友人が楽しげな旅行の写真をアップしましたと書かれていた時のような。
あと、イベント終了後の片付けの時間、本をキャリーケースに詰め込んでいる時、その日の朝からほとんど減っていない重みをずっしりと手に感じる時。それを、出来るだけ早く、人に見られず片づけたくなる気持ち。
イベントにまつわる記憶は大なり小なり切なさを伴っている。
人から「なんで即売会に参加してるの?」と訊かれる時は、まずこの切ない印象を思い出す。
ほんと、なんで自分は参加してるんだろう。と思う。
しばし切なさを凝視してみた結果、自分なりの答えとして浮かんできた言葉。
それが「楽しさと惰性」だった。
このエッセイでは、私のこれまでの経験談を織り込みつつ、「楽しさと惰性」の意味、そしてイベントでの出来事について書いていく。本はどれくらいの数売れるか、どうやって本を作っているのか等にも触れていく。
なお、この本においてイベントとは、オリジナルの文学作品の即売会を指す。
私のイベント出店歴は、今からだと四年前、二〇一四年の第二回文学フリマ大阪に始まる。
他にはコミティア、テキレボの委託、尼崎文学だらけ等、気になるイベントは参加してみている。基本的には、年二回、京都と大阪の文学フリマを中心に活動している。新刊もだいたいそれに合わせて作っている。
さて、「楽しさと惰性」についての詳しい話は後の章で述べるが、とりあえずここでは、イベントへの参加とはとにかく切ない事だ、とだけ述べておく。切なさというのも重要な概念である。
イベントが終わった帰り道。顔なじみの方々と別れて、キャリーケースをがらがら引き始める。
今回の出店で反省すべき点。発表された次回の即売会の日程。出したい本の内容。今回見かけた参考になるスペースのレイアウト。
次の即売会ではどんな事をしようかな。
そんな事を考えながら、とっくに真っ黒になった空を見上げる時が、最も切ない。