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うそつきは初恋のはじまり

物静かで、何考えてるかわからない。

アイツに、そんな感情は一ミリも無かった。


「なあ……いいか」
「わたし……?」

ただの罰ゲーム。

ウソの告白。


「言いたいことあんだけどさ。ちょっと、ついてきてくんね」
「…………いいよ」


俺たちの『ウソ』の恋仲が始まることになるなんて。




・・・




「中西ってさ、な~んか近寄りづらいよな~」
「それな。何考えてるかわかんね~んだよな」

中西アルノ。

同じクラスの女子生徒で、頭がいい……以外はあんまり思いつかない。

休み時間は教室で。

放課後は図書館でワークを広げて勉強している姿をよく見る。


「そーだ!今日のゲームの賭けさ、中西への告白にしね?」
「いーね。おもしろそうじゃん」

「○○はどう思うよ?」
「あー……」

ここでそれはダメなんじゃ……とか言ったら、ノリの悪い奴とか思われんのかな。


「まあ……?」
「はい、決まり~。じゃあ、グッパでトーナメント分けな」


グーが二人、パーが二人。

負け上がりのトーナメント。

いつもやってるサッカーゲーム。

そのはずなのに、指が思うように動いていかない。


「はい、○○の負け~」
「早速行った行った!」

荷物を無理やり持たされて、背中を押されて教室から出る。

放課後のこの時間、中西はいつも図書館にいる。

今日もそれは例外ではなく、夕日の差す窓際の四人掛けの机。

彼女は一人参考書を開いて、ペンを走らせている。


「ほら、早く行けよ」
「わかってるよ……!」

俺は図書館に入り、真っすぐ彼女の元へと向かう。

さらりとした髪に、夕日に透けるんじゃないかってくらい白い肌と参考書に視線を落とす横顔。


「なあ……いいか」
「わたし……?」


中西は参考書から顔を上げて、首をかしげながら俺の方を見上げる。

不思議そうな顔をするのも当然だろう。

話したことなんてほとんどないんだから。


「言いたいことあんだけどさ。ちょっと、ついてきてくんね」
「…………いいよ」

意外にもすんなりと了承した中西は、参考書をすぐに鞄に詰める。

そんな中西を、夕日の陰になった校舎裏へと連れて行く。


「あのさ……」

そこまで言って、言葉が詰まる。


「…………?」


上目で、中西が俺を見つめる。


「俺と……付き合って欲しい……」

無限にも、永遠にも思える沈黙。


「お願いします」

その沈黙を破ったのは、意外な言葉だった。


「え……あぁ……」

断られるんだろうな。

って思ってたから、予想だにしない返答に間の抜けた言葉が口から零れてしまう。


「おーい」

中西が俺の目の前で手をぶんぶんと振る。

思考が再び回りだしても、状況は上手く呑み込めない。


「あ、ごめん……。まさか、オッケー貰えるとは思わなくて……」
「正直だね」

「突然だったから……」


グループにいくつかのメッセージが届く。

【失敗しろとか思ってたけど、○○なら成功するよな~】
【一緒に帰れよ笑】
【デートとか誘っちゃったり!?笑】


「……あ、あのさ。一緒に、帰らない?」
「うん。もちろん」


笑顔で中西は頷いた。

その笑顔に、体がガッと熱くなる・

夕焼け空の帰り道。

秋の空は、どことなく澄み渡っているような気がする。


「中西も、帰り道こっちだったんだな」
「中学、隣なんだよね」

「だから頭いいんだな~」


こんな話し方するんだな。

こんな顔、するんだな。

知らなくて当然か。

今まで、話したことなんてあったか?


「中西はさ、なんであんなに勉強すんの?」
「あー……それしか、ないし……。それに、夢があるんだ」

「夢?」
「お医者さんに、なりたいの」

そう言って、中西は空を見上げた。

それ以上は、聞いちゃいけない気がした。

その目が、どことなく悲しいものに思えたから。


「それで、なんだけど……。明日、デートとかどうですか」
「ほんとに?行こ!」


思いのほか、反応がいい。

話してて、楽しくもある。

家の前まで着いて、手を振って玄関をくぐる中西を見送る。

やっぱ今日、暑いかもな。




・・・




翌日、中西の家まで俺は迎えにいった。

道中、何度もスマホの画面で前髪とか、服の乱れとかを確認した。

そして、震える指で中西にメッセージを送る。


「ごめん、お待たせ!」

家の前で十分くらい待っていると、玄関から中西が飛び出してきた。


「遅くなっちゃってごめんね」
「いや、全然待ってないし……。それより……」


かわいい。


「それより?」
「は、早く行こう。ちなみに、どこ行くんだ?」

「ちょうどミュージカルのペアチケットが余ってたんだよね」


そう言って、中西がチケットを一枚俺に手渡す。

演目は……


「レ・ミゼラブル……」
「わたし、レミゼの映画めっちゃ好きでさ。ミュージカルのチケット貰ったはいいけど一緒に行く人いなかったんだよね」


やっぱり、話してみた中西の印象は、普段の雰囲気と全然違う。

近寄りづらいとか、話しかけにくいとか、全然そんなじゃない。


「たのしみ~!早く行こ!」


中西に手を引かれ、ふわりとなびく髪の毛と、香るサクラの匂い。

その匂いに、頭がくらりとする。

熱い、秋の道。

劇場はそれなりに空調も効いていて、椅子はふかふかで。


「おぉ……」
「座り心地いいよね」

なんとなく、子ども扱いされているようなのは癪だったが、いざ舞台が始まると、その迫力に俺は圧倒されてしまった。

本当に、19世紀のフランスに来てしまったかのような感覚。

ミュージカルって、すごい。

「想像以上だった。すごいんだな、ミュージカルって」
「わたしも……ビックリしちゃった……」


近くのカフェに入って、適当にナポリタンと飲み物を頼んで感想を語り合う。

しかし、あまりの凄さに俺の語彙力は行方不明。


「お待たせしました~」


ナポリタンが二皿届く。

届いたそれを見て、中西は顔を歪ませた。


「ピーマン……」
「食えないのか?」

「余裕……」
「ならいい」

「で、食べられない」
「食えないのかよ」

恥ずかしそうに目を伏せる中西。

子供っぽいその表情が心をくすぐる。


「ピーマン、俺の皿に移していいよ」
「助かります~」

目を細めながら、ひょいとフォークでピーマンを掬って俺の皿にのせていく。

その手際が無駄にいいのがおもしろい。

食事を終えて、中西を家まで送って、


「じゃあね!今日は楽しかった!」


一人になった帰り道でふと、この関係がウソなのだと頭をよぎる。

所詮は、ウソ。

ウソのはずだったのに。


「あー……」

この気持ちは、本当にウソなのか。



・・・




「えーっと、文化祭の出し物は白雪姫の劇に決まりました!」


そう言えば、もうすぐで文化祭だったな。

中西は、文化祭とかあんま興味なさそうだけど……


「王子様と、白雪姫のやくやりたい人!」


メインの役なんて、やりたい奴がやればいい。

そう思っていたのだが、中々手が上がらない。

そんな雰囲気を打破したのが、


「はいはーい!王子様は○○で、白雪姫は中西さんがいいと思いまーす!」


というバカにでかい声。

二やついた顔で、こっちを見てくる。

立候補者もおらず、もうそれでいいよって空気が流れ始める。


「俺がよくても、中西は……」


中西は、頬を染めて俯くのみだった。

この場において、無言は肯定だ。

有無を言わさず、この役で決定してしまった。


「はぁ……お前らふざけんなよ」
「いいじゃんかよ~。そう言うノリだって」


ノリ……


「中西も、満更でもなさそうだったし?」
「本人から聞いても無いのに、そんな事言うなよ」

「そんなことって……」
「あれ、本気になっちゃってる感じ?」

「所詮、お前と中西の関係なんてウソなんだからさ」

その言葉に、心をやすりで引っかかれたような痛みが走る。


「ま、どうせネタばらしするんだから、あんま入れ込むなよ~」


そう言って、友人たちは購買に向かう。

その後ろ姿に俺は何も言えず、廊下にただ立ち尽くすのみだった。


「○○くん……?」
「あ、中西……」

「どうかしたの?」


ウソの彼女。

会話は聞かれていなかったみたい。


「いや、なんでもない。それより、巻き込んでごめんな」
「ううん。選ばれたからにはやるよ、わたし」


中西は両の手を顔の前で握り、唇をキュッと結ぶ。

やる気は十分といった感じだ。


「てか、白雪姫ってキスシーンあるよな」
「キ……!」

「まあ、あんま意識しなくていいか」
「そ、そうだね……!まずはセリフとか入れないとだもんね!」


渡された台本。

王子は主役なだけあって、セリフもかなりの量だ。


「どうすっかな……」
「う、うち来て……練習する?」

「う、うち!?」
「多分、今日は親帰ってこないし……」


なんだこの展開は。

《あんま入れ込むなよ~》

そんなこと言われたって。


「わかった。じゃあ、お願いするよ」
「やった……!」

こんな顔見せられたら、入れ込むなって方が無理じゃないか。




ーーーーーーーーーー




彼と話したことがあるのは一度だけ。

それも、小学校の頃の話。

だからきっと、彼は覚えていない。




ーーーーーーーーーー




「お前きめーんだよ!」
「女のくせに爬虫類が好きとかありえねーだろ!」


小学生のそれは、単純な理由で。

異端を排除しようとする防衛本能的なあれで。


「お前きもいんだから、学校くんなよ!」

振り上げられたランドセル。

わたしは反射的に背中を丸め、頭を手で守る。

鈍い音が響く。

しかし、痛みはない。

恐る恐る目を開くと、わたしたちの間に立つ一人の男の子。

どうやら、彼がわたしをかばってくれたらしい。


「男二人で女の子いじめて楽しいかよ!」
「な、なんだよお前!」

「しらけたし、帰ろうぜ」


わたしをいじめていた男の子二人は、手に持っていたランドセルを背負い直して走り去っていった。


「あ、あの……」
「ケガ、ない?」

彼は振り向いて、笑いながらそう言った。


「わたしは、大丈夫……。でも……」


彼の鼻から伝う赤い一筋の線。


「ん?」

彼もそれに気が付いたようで、右の手の甲でごしごしとそれを拭う。


「へへ、全然平気だよ、こんなの!」


本当なのか、強がりなのか。


「じゃあ、気を付けて帰れよ!」


彼は、わたしの心にぽつりと灯りをともしていった。

クラスも違くて、彼とはそれっきり話せないまま、わたしは中学受験をしてみんなが通うところとは隣の中学に進学した。




・・・




高校は付属のところとは違うところに進んで、ドキドキしながら迎えた入学式。

同じクラスの、窓際。

一目で、彼だってわかった。

でも、わたしは臆病で、意気地なしで。

話しかけられないまま、一年が過ぎた。

その間にも、彼の周りにはいつも友達がいて。

わたしは、勉強くらいしか取り柄が無くて。

だからこそ、あの日は衝撃だった。


「俺と……付き合って欲しい……」


涙が溢れそうだった。

心拍数が跳ね上がった。

顔が熱かった。

夢なんじゃないかな。

ウソなんじゃないかな。

その日の帰り道も、デートに行った日も、わたしは舞い上がらないようにするので必死で。

こんな日常が、永遠に続いてくれればいいなって、思ってしまう。




・・・




「おーい、中西?」
「……あ、ごめん!」


文化祭まであと三日。

劇の練習も、いよいよ佳境。

だけど、最近は特に中西の様子がおかしい。

ボーっとしてるって言うか、心ここにあらずって言うか。


「今日の練習はここまでにしよう。外、結構暗いし」


時計を見てみれば、時刻は夜の七時。

俺の提案に賛同してくれたクラスメイトたちは、教室の机をもとに戻していく。


「ごめんね。わたしのせいで……」
「俺も気にしてないし、みんなも多分気にしてない。ちょっと頭が回らない日なんて、誰にでもあるし」

「…………」
「今日は、帰って早く寝よう」

「いいこと言うじゃん、○○くん」
「お前ら……」

廊下からのぞき見ていた様子の友人たち。

にやけた顔で俺たちの方を見る。


「嘘つきとは思えないね」
「うそ……?」

最悪のタイミング。

人の心を踏みにじるには、最高のタイミング。


「そうそう。○○が中西さんに告白したの、罰ゲームだったんだよね~!」
「ほんとう……なの……?」

「中西、違っ……!」


中西が教室から飛び出す。

その目に、涙を浮かべているのを、見逃せなかった。


「お前らなぁ。バラすにしても、タイミングってもんがあるだろ」
「最高のタイミングじゃない?」

「それな~」


吐きそうだった。

なんとなく、こいつらとのノリが合わなくなってきたなって思ってた。

いつか、ちゃんと中西に謝って、今度こそって思ってた。

まさか、こんなタイミングで。


「それよりさ、○○のこと?」
「は?」

「○○、顔はいいんだし。実際、中西のことも誑かしてたじゃん?」


そんなこと、今はどうでもよくて。

物言いが気に食わなくて、一人の帰り道。

星空を見上げながら歩いた。

一人きりは、寂しいな。

ここ最近、毎日中西と一緒に歩いていた帰り道。


「ミスターコンか……」


その日常を、もう一度、手にするには。




・・・




文化祭当日の学校は、休日なのもあってかお客さんが多く、普段の数倍活気づいている。

劇は二日目。

昨日の練習、中西もいたけど、上手くコミュニケーションが取れなかった。

全部、俺が悪い。

だからこそ、この現状は俺が変えなきゃいけない。


「ミスターコンの参加者ですか?」
「はい」

「では、控室にお願いします」




・・・




どうして、勘違いしてしまっていたんだろう。

彼に愛されているなんて思ってしまっていたんだろう。

今日から文化祭。

劇の本番は明日なのに、昨日の練習も迷惑かけっぱなしだった。

学校中が活気にあふれる。

わたしだけが海の底に沈んでいるようで。

それなのに、吸い寄せられるように、体育館に足が向かった。

ミスターコンなんて、興味がないのに。

ちょっとだけ覗こうなんて思って、扉の陰から中を覗く。


「では、それぞれアピールをお願いします!」


元気のいい司会者の人にマイクを渡される参加者の一人。

その横。

右から三番目。

彼が、○○くんがいた。

隣の人のアピールが終わって、彼にマイクが渡る。

彼は、何を言うんだろう。


「僕は……この場を借りて、謝りたいことがあります」

ここまでの参加者とはまるで違う雰囲気で話し始めた○○くん。


「僕は、一人の女の子を傷つけてしまった」

ステージに登っている彼がこちらを向く。

視線が、ぶつかる。

彼はマイクを持ったままステージから飛び降りる。

そして、人混みをかき分けてわたしの元に一直線にやってくる。


「中に……いや、アルノ」
「は、はい……!」

この場に集まった全生徒の注目がわたしたちに注がれる。

それでも、○○くんはお構いなしに続ける。


「好きです。今度は、ウソじゃないです」


真っすぐな目だった。

一切の嘘もない、綺麗な目だった。


「こんな俺でよければ……。もう一回、やり直させてほしい」


答えなんて、決まっていた。

ウソだったとしても、あの日々が楽しくて。

ウソだったって知らされてから、世界は灰色で。


「わたしなんかでよければ」

一筋、涙が頬を伝った。




・・・




「ほら、お前ら。俺と一緒にアルノにごめんなさいだ」


文化祭の一日目が終わって、俺は中西と友人たちを教室に残した。

そして、この間のことを全部謝ることにした。

中西が許してくれないならそれはそれで当然のことだと思っていたけど、


「いいよ、別に。気にしてないよ」


中西が、優しくて助かった。


「じゃあ、俺とアルノはもうちょっと残って明日の劇の練習してくから」


月明かりが窓から覗く教室に二人きり。

白雪姫の劇で王子様と白雪姫が話すシーンはさほど多くない。


「あとは……き、キスシーンだな……」
「で、でも……!本当にするわけじゃないし……!」

「だよな……!」


アルノが、机の上に横たわり、目を瞑る。


「なんて……綺麗な人だ……」


俺はそっと、キスを……


「ま、まあ、このくらいでいいだろ」

せず、寸前で止めた。


「うん……!い、いいんじゃないかな……!」


お互い顔を背けて、早口になって。


「そろそろ、片付けて帰らないとな!」
「だね!」

なんだか、よそよそしくなって。


「明日の本番、がんばろうね」

月は、微笑むように輝く。




・・・




本番当日。

問題のキスシーン。


『そして、ぱたりと倒れて死んでしまったのです』


暗転して、ナレーションだけが体育館に響く。


『小人たちは、棺の傍で泣いて暮らしました』


用意された長いテーブル。

目を閉じて横たわる白雪姫。


『そこに、隣の国の王子様がやってきました』


眩しいスポットライトが俺を照らす。

王子は、姫の横たわるところへとゆっくり近づく。


「なんて、綺麗な人なんだ」


そして王子は、

姫にそっと、


キスをした。


『すると、喉につかえたリンゴが落ちて、姫が生き返りました』


ナレーションと同時に、顔を真っ赤にした姫が上体を起こす。

王子さまは、一目で恋に落ちました。


「どうか、結婚してください」


王子様が、白雪姫の手を引く。

そして、もう一度二人は。


『二人は、隣の国で幸せに暮らしましたとさ』


照明が暗転し、幕が引かれる。




・・・




「お、おい○○!あの時ほんとにキスしたんか!?」

どうやら、話題はそのことで持ち切りだったらしい。

前日に多くの生徒の前で公開告白したやつが、その相手に本当にキスをしたのか。

自分が当事者でなければ、俺もすこぶる気になる話題だ。


「どっちなんだよ!?」
「さあな~」

「中西さんは!?」
「…………」


アルノは、頬を染めて俯く。


「ま、マジなのか……。じゃあ、二人で、ごゆっくり……」

二日目も終わり、残るは後夜祭。

グラウンドに生徒たちが集まる中、俺たちは教室に残っていた。

「○○のせいで、教室から出られないじゃん」
「ごめんて。でも、俺はアルノと二人でここから見る花火も綺麗でいいと思うよ」

「まだ見てないくせに!」


電気を消して、ぼんやりとした炎と月の明かりだけが導。


「にしても、びっくりしたよ。本当にキスするなんて」
「まあまあ。軽いドッキリのつもりだったんだよ。でもさ、一瞬だったし、本当にしたかどうかなんてわかんないっしょ?」

「じゃあ、さ……」

背伸びをしたアルノ。

唇が重なる。


「…………」

口元を隠しながら、顔を背けるアルノ。

暗い教室の中でも、耳まで赤くなっているのがわかるほどだ。


「自分からしておいて、恥ずかしがるなよ」
「恥ずかしいものは恥ずかしいし……」

「そりゃそうでしょ」
「なんか、○○は余裕あるね」

「別に、余裕はないよ」

花火が上がって、教室が明るく照らされる。


「ほんとだ」
「だろ」

「うん。顔、真っ赤」

どちらともなく、俺たちはもう一度キスをした。

心が温かくなるような。

血の巡りが早くなるような。

この気持ちは、絶対に嘘じゃないって言い切れるから。




………fin

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