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【若林源三解体新書】#20 ~決してツッコミたいわけではないのですよ・アニメシーズン2ジュニアユース編第1話「新たなる挑戦」部分的総括~

キャプテン翼アニメシーズン2ジュニアユース編として、翼君達J・BOYSサッカーの世界への挑戦がとうとうアニメ化され、2023年10月1日より放送がスタートしました。

せっかくなので、原作厨のわたしといたしましては、今回のアニメにおける若林くんの登場シーンを原作で振り返りながら総括という名のマイルドで偏頗な指摘をしたいと思います。




☆カットされてしまったシュナイダーの「チームへの想い」


アニメ第1話冒頭・ハンブルグのチームトレーニング。
突然姿を現し、若林くんのスローイングを胸トラップして練習に割り込み、流れを止めてしまう私服姿のシュナイダー。

「 お、おまえは………カール・ハインツ・シュナイダー! 」と若林くんがしょっちゅう顔を合わせているであろうチームメイトをそんなフルネームで呼ばなくてもいいのにわざわざ読者あるいは視聴者への紹介がてらその名を呼びます。


なお、このシーンの原作がこちら ↓ ↓ ↓
フィールドの外からシュナイダーが「 若林 」と第一声をかけます。


キャプテン翼 文庫版第14巻より
キャプテン翼 文庫版第15巻より


アニメと原作ではシチュエーションがちょっと異なりますし、原作を読めばわかりますがシュナイダーの第一声は「若林」であることが必然とも言え、ファンからもそれを相当期待されていたはずですが、そこはアニメの尺の関係などもあり、この後のシュナイダー対若林の一騎打ちシーンのために手っ取り早くシュナイダーをフィールドに立たせたかったのでしょう。
シュナイダーが「 若林! 」と言いながらボールをトラップなんてしていたら、それこそ意味不明です(と言いつつシュナイダーならやりかねないとも思いますが。)

問題は、その後。

シュナイダーが、ミュンヘンへの移籍をハンブルグのチームメイト達に告げます。それに対し、チームメイト達は反発。
「 これは、ハンブルグへの裏切り行為だ! 」
という非難の言葉まで飛び出します。
この場面は、アニメも原作もほぼ同様です。

チームメイトの反応もやむなしといったところでしょうか。
クラブと地域が色濃く密着しているヨーロッパサッカー。
地域の人々は、クラブを日常にあるものとして深く愛し、下部組織のジュニアチームの選手達もその声援を受けながら育つ。
そんな環境を考えれば、一緒にトップチームに上がって活躍するのが当然と思っていたチームメイト達の感情も理解できます。

それに対し、アニメのシュナイダーは、

「 ………ただ、ミュンヘンの方が俺の力を高く評価してくれるだけだ 」     

と、冷静に縷々るる述べ始める。

移籍理由の台詞と、目を閉じて仲間の言葉を受け止める様子は、原作もアニメもほぼ同様。
ただ、ともすれば、アニメの方は、非難の言葉に対して自分の正当性と熱い夢を一方的に語っているようにも見えてしまう。

しかし。
このシーン、原作ではちゃんとシュナイダーのチームへの思いが描かれています。


キャプテン翼 文庫版15巻より


「 べつにこのハンブルグを裏切るつもりはない 」
と、幼い頃からプレイし愛着のあるチームや仲間への裏切りなどではないことを示し、その後に、世界ナンバーワンプレイヤーを目指すために自分をより高く評価してくれる新天地を選ぶだけなのだ、と語る流れになっています。

このシュナイダーのワンクッションの台詞があるのとないのとでは、全然違う。
裏切りなどではない、ただ、もっと自分を高いステージへと上げてくれるチームへ移るにすぎないのだ、というシュナイダーの心情がはっきりと読み取れるこの補足の言葉、アニメでカットしてほしくはなかったですね。
たった一言なんですからわざわざカットしなくても……以下のような他の謎台詞で尺をとったりしなくてもよかったのではないでしょうか。



☆若林源三が対決しているのは「カール・ハインツ・シュナイダー」である


その後、シュナイダーと若林くんで、ペナルティ・エリア外からのシュートを決めるかどうかの対決が行われます。
シュナイダーがファイヤーショットでゴールを奪った後、通算50勝50敗になったと明かされているので、計100回勝負しています。

キャプテン翼 ROAD TO 2002 第6巻より

二人の勝負はこうして始まったようですが、この有り様では二人が出会ってからの約2年間で勝負100回なんてとっくに通り越している雰囲気。
ただ、二人の間の正式勝負としては100回ということなのでしょう。


「 シュナイダー 」というライバル

もともと、海外、すなわちハンブルグにやってきた若林くんの一番最初の目標は、シュナイダーのシュートを止めることでした。

キャプテン翼 文庫版15巻より


大人(21歳)になった若林くんへのインタビューでも、彼はハンブルグに来た当初の自分について、次のように述べています。

この年代では自分が一番のGKだという自負もありましたし、海外でもそれなりに通用すると思っていました。今思うと思い上がりも甚だしいのですが……。

(シュナイダーのシュートに)初日はその威力にまるで反応できませんでしたが、この男のシュートを止めれば世界ナンバーワンのGKになれるんじゃないかと直感的に感じました。

いずれもキャプテン翼マガジンvol.2 若林源三独占インタビューより


そして、止めるのみならず、ペナ外からは絶対ゴールを許さないという自分の矜持を貫こうと邁進する若林くん。
逆に、シュナイダーは、ペナ外からのゴールを奪うことにあくまでもこだわる。それは、大人になってからマドリッド五輪・日本対ドイツ戦で二人が対決した際にも変わりません。

ハンブルグはこの二人の活躍によって大会のタイトルを総ナメにしたとされています。
この二人が同じチームでありつつ、トレーニングで熱い勝負を重ねるたびに互いを高め合う良きライバルであることは言わずもがな。
そして、そんな二人ゆえに、世界大会においては敵となり本気で繰り広げる対決が、より一層エモーショナルになるわけです。


繰り返しですが、若林くんが世界ナンバーワンストライカーを目指すシュナイダーのシュートを止めるということは、世界ナンバーワンGKへの足掛かり。
シュナイダーとの対決の中に凝縮されている若林くんの想いはこれに尽きるでしょう。



「 翼 」というライバル

一方で、翼君との初対決は、例のこれです。

キャプテン翼 文庫版第1巻より


サッカーにおいて勝利のために絶対必要な「得点」(攻撃)と、同じく勝利のために絶対必須となる「(得点より多くの失点を防ぐ)防御」(守備)が直接対決する、まさにサッカーの真髄を表す象徴的なシーン。
『 キャプテン翼 』は、日本サッカーのW杯優勝という夢への道筋を描く物語であり、最重要キーマンであるこの二人の出逢いによってストーリーがその夢の実現へと走り始める。
若林くんと翼君は、日本のW杯優勝にお互い欠かせない存在なのです。


この初対決、さらに修哲小対南葛小の対抗戦で翼君からゴールを奪われ、前年度の全国少年サッカー大会無失点キーパーのプライドが崩れ去る若林くん。
その後の彼は、対抗戦の引き分けを経て、翼君への対応がガラリと変わります。
翼君に出会う前から日本のW杯優勝を意識していた若林くんは、翼君という存在が不可欠だとはっきりと認識したのでしょう。
だって、自分の本分は守りであり、試合に勝つためには絶対的に信頼できる得点者が必要なのですから。


若林くんがドイツへ留学する前に、再び翼君との一騎打ちの対決が行われます。
この時は、若林くんいわく「 まぐれ 」ですが翼君のオーバーヘッドを若林くんが見事キャッチ。これで二人の対決は一応一勝一敗一引き分け。
それ以外に、二人の直接対決及び勝敗が原作で描かれているシーンはありません。

そして、主人公の翼君ですら、若林くんのペナ外からシュートを決めることは現時点でも実現していません。
それもあり、翼君から絶大なリスペクトと信頼を受けている若林くんなのです。


いずれもキャプテン翼 文庫版第4巻より


キャプテン翼ライジングサン 第8巻より

↑ ↑ ↑  もう自分ではどうしようもないピンチでは、叫ぶしかない翼君


翼君がシュナイダーと決定的に違うのは、国際試合になれば常に若林くんと翼君は同じ日本代表チームとなり、W杯という一番の大舞台において、翼君が若林くんからゴールを奪って、あるいは若林くんが守り切って勝敗を決することは絶対に絶対にありえないという点。
ゆえに、より永遠のライバルと呼ぶに相応しい関係性が見受けられます。
しかし、ライバルですが、仲間でもある。それぞれがそれぞれの場所で自分を高め、W杯優勝という夢を叶える。

翼君も次のように語っています(若林くんのみではなく岬くんも含みますが……)。

それぞれがそれぞれの場所で自分を磨きあって日本をW杯ワールドカップで優勝させよう!!

それが俺の本当の夢なんだ!!!

キャプテン翼マガジンvol.18 『 キャプテン翼BOYS DREAM 』より


サッカーの話題になると、シュナイダーの言葉を借りれば「 若林がいつも自分の自慢のように話していた 」ほど、二言目には翼がどうのと言う若林くんではあります。
それは、翼君が主人公だからでしょうけれど、日本のW杯優勝と世界一のSGGKの称号を手にするという自分の夢を語る際には外せない存在ゆえの言動なのでしょう。



ゴールを奪われるか防ぐかという対決は、良い意味でのサッカーバカとして、この二人のどちらが相手だとしても、若林くんにとっては最高に楽しい瞬間には違いありません。

しかし、このように二人のライバルは毛色が異なるのです。


ファイヤーショットを前にした謎心境

そんな若林くんにとって、簡単に負けるわけにはいかないシュナイダーとの勝負。しかも、飛んでくるのは、凄まじいファイヤーショット。

いずれもキャプテン翼 文庫版第15巻


ここでの若林くんは、ペナ外は止めるという己の矜持と世界一のGKという目標のために、シュートに反応してゴールを阻止することに全集中しているはずです。

この最中に、

「思いだすぜ……翼と勝負した対抗戦!
それまで俺は、ペナルティエリアの外からのシュートは全部防いできた…
ノーゴールが自慢だった俺を唯一破ったのが、翼だった……
そして今、シュナイダー、おまえとの勝負は、いつだって翼を思いださせる!」

といちいち翼君のことを思いだしている今回のアニメの様子は、原作ではコンマ1秒も、また1ミクロンも感じられません。
しかも、キャプ翼ミリシラの人からすれば、対抗戦というやつで翼君がペナ外からゴールを決めたようにも聞こえてしまう。
アニメのこの長台詞を耳にした時、「????????」と、言ってしまうと違和感しかありませんでした。


ドイツでの成長において、シュナイダーという同世代世界ナンバーワンストライカーとの対決は、この男を全力で止めるのみ。
ゆえに、若林くんの意識のベクトルはすべてシュナイダー及び彼のシュートにのみ向いているのが自然な心理。
ここで、世界一を目指す同胞・自分側に立っている翼君をあえて相手とする対決場面をいつだって思い返して重ね合わせる必要なんて無いのです。
しかも、千歩譲って翼君との初対決シーンならまだしも、何故か修哲小対南葛小の対抗戦。若林くんと翼君の勝負にペナ外云々は関係のなかった対抗戦。

捉えようによっては、シュナイダーとの勝負に打ち勝って自分の実力を高めることが、翼君ともにW杯優勝を叶えることに繋がる、ゆえに翼君を連想するのも不思議ではないと言えなくもないと思わないでもないのですが……
ただ、さすがにシュナイダーとの対決の最中にいつだって翼君を思い出しているとは、さすがに言い過ぎ。

この二人の対決場面の直前に、アニメでは翼君がポルトガル語の家庭教師・カルロスに、『 若林くんというすごいライバルがいるんだ 』とキャプテン翼初見の子達への説明がてら話しているので、それを受けて、若林くんにも『 翼というすごいライバルがいるのだ 』と同じくキャプテン翼初見の子達への説明がてら内心で語って、お互いの関係を示した構図なのでしょう。
そういうアニメ制作の意図はわからないでもないのですが、少なくとも若林くんとシュナイダーとの対決で持ち出す話じゃありません。

どうせ捏造するのであれば、シュナイダーのハンブルグ最後の試合が対全日本ジュニアユースだよね、と話す場面で、シュナイダーに
「 おまえがいつも自分の自慢のように話している、あの大空翼がいるチームだな 」
とでも説明してもらえば充分だったのです。


☆若林源三はなぜ成長をあいつらに見せつけてやるなどとあえて言わされたのか


全日本メンバーとの再会前の素直な表情


シュナイダーが移籍する前の、ハンブルグでの最後の試合となるのが、対全日本ジュニアユース戦。
彼とその話題になった若林くんは、こんな想いを心に浮かべます。


キャプテン翼 文庫版第15巻より


このコマのこの表情を見れば一目瞭然ですが、この時点での若林くんは、翼君を含めた全日本メンバーとの再会と対決を心から楽しみにしているのです。
自分の知らない日本の3年間で、どんな奴がどれくらい成長しているのか、と。

この描写に、

「 ドイツでの成長をあいつらに見せつけてやる…! 」

と今回のアニメで入れられてしまったドヤァな横顔で息巻く雰囲気の若林くんは皆無です。


今回がキャプテン翼初見の人は、特に何も思わないでしょう。
また、普通のオタクの人は、『 アニメの若林くんのドヤ顔が可愛い 』『 原作にはない強気な若林くんをありがとう 』などの感想を抱いて終わるのだと思われます。

が、わたしは偏頗で面倒なタイプなので、このシーンもちょっと見逃せませんでした。。。


原作の彼のあの純粋で晴れやかな表情からすれば、自分の成長を見せつけてやる!と息巻くような心情はこの場面には含まれていなかったとみるべきでしょう。


【以下、ネタバレなのかもしれませんが、これほど世界中で有名なサッカーの金字塔漫画に今更ネタバレも何もない、もはや公知の事実として書いてしまいます。】

その後の、ハンブルグと全日本ジュニアユースの練習試合。
日本の仲間達の成長を肌で感じたいから、最初はフリーでシュートを撃たせるようハンブルグの仲間達に頼みます。

いずれもキャプテン翼 文庫版第15巻より


そして、試合では全日本メンバーの必殺シュートの数々を当然のように難なく止めまくります
楽しみにしていた試合、そして、楽しみにしていた全日本メンバーとの対決。
シュートを止めれば、それは自信満々な顔の一つや二つや三つは見せてしまうことでしょう。


ただ、この実力差は、若林くんからすればわかりきっていたことです。

そもそも、本場ドイツで修行している自分の方が負けるはずがなく、ハンブルグからのチームメイト達からも、おまえは今やこの世代でドイツナンバーワンGKやしまぁ大丈夫やろという信頼を一身に受けています。

そして、これは後に明かされることですが、若林くんは「 憎まれ役を買い、どんな手段を使ってもいいから全日本のメンバーにヨーロッパサッカーの壁のあつさをわからせる 」という見上さんからの特命を影で引き受けています。

「 わからせる 」ために、練習試合前の全日本メンバーとの再会場面、そして試合の最中、若林くんは彼らを煽って煽って煽りまくる。
そして、試合で全日本メンバーの必殺シュートの数々をすべて止めて見せることも、「 わからせる 」手段の一つたりうるもの。
ハンブルグのチームメイトには、日本メンバーの成長を確かめたいと告げ、それはそれで本音でしょうけれど、逆に全日本の攻撃陣のシュートを自分がすべて止めることで、世界には今のおまえらのままでは通用しないのだと示す狙いもあったと思われます。


まあ、結局のところ、若林くんが全日本メンバーに対して高飛車な態度に出る布石にしたかったんでしょうね、今回のアニメのあのドヤァは。


申し訳ないがそもそもレベチの男である


世界ジュニアユース大会前に、突然パリからハンブルグに若林くんを尋ねてやってきた岬君とこんな会話をしています。

いずれもキャプテン翼 文庫版第9巻より


すごい活躍をしてるみたいだね、と賛辞の言葉を告げる岬君に対して、まだまだだ、とこの時点での意気込みを主張する強気な顔の若林くん。

そう、自分にとって、今の成長ではまだまだなのです。
プロデビュー前・ジュニアユース大会時点の、ハンブルグにいる彼は。
自分ではこんなところで満足なんかしちゃいない、と。

そんな、日本より遥かにハイレベルな舞台に身を置きながら、さらにプロという高みを目指すような意識高すぎの人が、成長途中の自分を、しかも、実力面では絶対的に劣位である日本の元仲間達・ライバル達(初対面もたくさんいるけど)に対して見せつけたいと自慢げにドヤるなんて、中途半端で違和感が半端ない。

言ってしまえば、弱者に対して威張りたいというようなせこい一面を、ドイツに渡って色々な目にあって揉まれて成長した彼が持ち合わせているだろうか?

若林源三、そんなつまらん男なはずがない。


また、ハンブルグと全日本ジュニアユースの試合後、ひとつにまとまっていたチームを自分がばらばらにしてしまったみたいでそれでよかったのか?と見上さんに確認するほど、全日本チームという存在を気遣う面も彼は持ち合わせています。

キャプテン翼 文庫版第16巻より



試合前後の煽りは、見上さんからの憎まれ役の特命を従順に実行したにすぎず、それも、敵と書いてともと呼んでもいい全日本メンバー(初対面もたくさんいるけど)を思ってのこと。


以上のような側面に鑑みれば、自分の成長をあいつらに見せつけてやる!とわざわざシュナイダーの対決直後に内心でつぶやくような人だとは到底思えないのです。


………いえ、原作の、シュナイダーとの対決後の場面で、そういう台詞があるならもう仕方ないですよ?
でも、ないですもん。
だから、わざわざそれ要らなくない?っていう私見です。


せいぜい、まあドヤ顔でもいいけど、全日本ジュニアユースの第一戦の相手は、この俺達ハンブルグなんだ……! の台詞にとどめておけばよかったのに。






というわけで、アニメ第1話の若林くん登場シーンに関する総括を終わりといたします。

いくら原作は原作、アニメはアニメとはいえ、台詞を削るのはまだしも、あんまり余計な台詞や視点を入れこまないでほしいなあ……せっかく、原作のコマ割りや描き方を再現している部分も多いんですから……愛する作品のアニメ化を心から楽しんで視聴したいなあ…せっかく制作してくださってるんだし………というのが、わたしの正直な感想であります。



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最後までお付き合いくださり、
本当にありがとうございました。

よかったら また遊びにきてください!

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