ねこの手
ナースコールを押しました。
気持ちが悪くて吐きそうだけど、
私はベッドから起き上がることができません。
けれど、看護師さんは、
すぐに私の所に駆けつけることができないようです。
(大丈夫。)
私は自分に言い聞かせて目を閉じました。
★ ★ ★ ★
その頃、他の患者さんに対応していた看護師さんは
胸の内でつぶやきました。
(ああ、ナースコールが鳴っている。でも今は対応できないよ。
病棟はいつも人手が足りないの・・・。ああ、猫の手も借りたい!)
★ ★ ★ ★
優しい感触の手が、腕に触れました。
(看護師さん?)
目を開けると、そこには猫がいました。
猫はお話ができません。
でも、優しい手でトントンしてくれました。
まもなく、本物の看護師さんが来てくれました。
猫は、もういなくなっていました。
また、別のコールが鳴って、看護師さんが慌ただしく部屋を出ていくと
ベッドサイドに何か置いてあることに気づきました。
それは、黄色いタンポポの花でした。
柔らかな花をそっと撫ぜると
(にゃあ)
小さく猫の声が聞こえたような気がしました。