さいとうゆずか

文学部の大学院生になりました

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最近の記事

出町柳から大阪湾まで歩いた日

 いつかやりたいと思っていた。鴨川を眺めるのが好きなわたしは、この穏やかな川がやがて名前を幾度か変えて、海へと流れてゆくことを知っていた。  大学2年生の夏、友人ふたりと、夜通し歩いて海を目指そうと話していた。計画するたびに誰かが体調を崩すという偶然が重なり、立ち消えになっていた。  わたしは大学院生になった。やるならいましかない、と思った。だって、こんなに無意味で、誰のためでもないこと、なんかやってみたくなってやっちゃったー、って言って笑って許されるの、22歳までじゃな

    • 花束 (短歌連作)

      さよならを言うために会う待ち合わせ 花束が振りむいて笑った 旅立たぬわたしに花が渡されてあなたの両手はもう羽ばたける 「ひとに花をあげる理由を探してて」そう言うあなたは窓辺のようで switzwerlandの投稿ばかり見る そこにもインフルエンサーはいる アルゴリズムに教わるほどの寂しさを抱えてたのに 交換しよう アルプスの山にも花は咲くだろう fleur あなたが指先で摘む にっぽんで最後に食べたいもの聞かれ飽きたって並ぶクロワッサン屋 最後って大袈裟じゃな

      • April, come she will

        同じタイトルの音楽があるということを、本を読んで初めて知った。 川村元気『四月になれば彼女は』 映画を観に行った。予告編は暗記するくらい見た。これでもかとインスタグラムに流れてくる広告の動画を、毎回ちゃんと再生した。どうしてこんなに惹かれていたのかわからないけど、何ヶ月も前から見たいと思い続けた映画だった。 美しかった。佐藤健が演じた主人公の「藤代」も、森七菜による「春」も、写真で世界を切り取ろうとするひとたちで、彼らにはこんな風に世界が見えているのかもしれないと思った

        • まくらもとの本

          最近、枕元に本を1冊置くことにしました。寝る前の30分はスマホを見ない方がいいと、あらゆるところで噂されているから。これが長年スマホ依存症のわたしには難しくて、目覚ましをかけたり溜まっていた返信をしたり、明日の予定を確認したりと、寝る前は何かとスマホが気になってしまいます。ならば最後に画面を見てから、本を読んで30分稼ごうじゃないかと。 記念すべき1冊目が穂村弘さんのエッセイ『彗星交叉点』。みて、素敵な表紙!これが枕元にあるだけでもう、眠りの質が保証されそう。もはや枕元の本

        出町柳から大阪湾まで歩いた日

          銀河鉄道を待ちながら

          お久しぶりです。 ありがたいことに見ている人はいるもので、ここ最近、久しぶりに会ったひとたちに「最近更新してませんよね?」と笑いながら突っ込まれる事態に。、、、最近、久しぶり? なんか、最近と久しぶりが並ぶと変な感じがするね。 今日はついに、その突っ込みとともに、わたしの文章を好きだと言ってくれる子に出会ってしまいました。更新せざるをえない。けど、更新できなかったのは、8割はもちろん自分の怠け癖と、寝不足解消のために意識的に早寝をしていたせい(深夜の方が筆が乗るのです、今

          銀河鉄道を待ちながら

          海の青

          旅先で、その地について書いた本を買う。憧れていたけれど、なんだかんだと選り好みする性質もあって、なかなか思うような本に出会えたことがなかった。 だから、俵万智さんの『青の国、うたの国』を見たとき、これだ! と思ったのだ。タイトルにも表紙にも、一目で惹きつけられた。以前から俵さんの本を読んでみたかったということはもちろん、前日到着したばかりの宮崎駅前で、日向夏の形をした、通称「日向夏ポスト」の横に俵さんの文章があって、宮崎は俵さんの町なのだ、と気がついたことも手伝って、わたし

          愛せるひと

          誰かに愛される人よりも、誰かを愛する人よりも、なにかを愛せる人は強い。 津村記久子『ミュージック・ブレス・ユー!!』の主人公のアザミは、音楽を愛している。彼女はひたすら曲を聴き、自作のリストに溜めてゆく。音楽の趣味で繋がった海外の友人とメールをやり取りしている。集中力がなく数学の成績は壊滅的、カラフルな歯列矯正器を付けていて、親から何も期待されていない高校3年生。それでも他の登場人物たちは、さらに読者は、彼女に惹かれざるを得ない。だって強すぎるから。魅力が。 好きなものに

          「せめてできることを」

          愛してやまない八咫烏シリーズの最新刊、発売されました。うきうきで買って帰りました。躊躇いなく単行本で買う本って実はあまりないんだけど、これは間違いなく買う。一刻も早く読みたいから。 八咫烏シリーズの魅力は、ひとがひとを裏切ったり、信じていたものが信じられなくなったりする世界を描きながら、絶望や諦めとは違う未来を描こうとするところにあると思う。どんでん返しも巧妙な仕掛けも、ひとりひとり印象的な登場人物たちも、そのために存在しているんじゃないかと思う。 今作も、ストーリーに関

          「せめてできることを」

          ひさしぶりに

          昼間に空き時間ができた。12時から16時半まで。期待でいっぱい。これは有効活用するしかない。やりたいことはたくさんある。ダンスの練習(これは本当にやらなきゃいけない......本当に......)、必要最低限のそれではない気合いを入れた家事、高校の友人とつくっている文芸誌のための原稿書き(締め切り延長中)、ダンスの衣装を買いに行くこと、失くしたコンタクトレンズの調達! わたしのはハードレンズで、1枚のレンズを2年くらい使えるはずなんだけど、こないだの東京旅行で失くしました。

          (東京#2+横浜)②

          ※写真は、友人の撮った横浜の港です。 東京へ来て2日目の朝。代官山へ向かった。11時から中目黒で約束があり、その前に蔦屋書店に行きたかった。 代官山の駅を出た瞬間、ここは果たして日本なのか、と思った。なんか違う。わたしが知っている日本のどの街とも違う。どちらかというと、一度だけ行ったことのあるフランスが、どこかに潜んでいるようだった。フランスの原液を日本で希釈しました、みたいな。そうやって書くとあんまり美味しそうじゃないけど、全く貶しているわけではなくむしろ逆、唯一無二の

          (東京#2+横浜)②

          東京#2+横浜

          ※タイトルについて 東京#1を書いた気がしていて探したら、書きかけのまま下書きフォルダに埋もれていました。気が向いたら完成させます。こんなに信用ならない言葉はないよね。だいたい、今年は毎日更新する、って言ってたのにやってなかった。数日前、久々に短歌サークルに行ったら、そのことを指摘されてしまい恥ずかしかったです。読んでいてくれるのはありがたいのですが。というわけで、今日は、東京から帰ってきたばかりですがきちんと書こうと思います。 1泊2日で東京へ行った。目的が3つくらいあっ

          夜明けまで

          夜明けまで一緒にいてよ、と言えるひとがいたらいいなと思う。 てっきり物語のなかで、徹夜でもするのかと思っていたが違った。ただ、いつ訪れるかわからない夜明けを待つような日々を送るふたりの物語で、彼らは無理をしない (ように心がけているつもりだろう) し、終電で帰る。でも、そばにいなくても、恋人や友人という関係でなくても、夜のなかにいるものどうし、一緒に夜明けを待ちわびることができる。それがどれだけふたりに力を与えたのかは、物語を読めばわかる。 人生がまっくらだ、と思うような

          えだゆき

          木の枝に積もった雪って、というか雪が積もった枝かな、すごく好き。枝の細くて、でも折れない強い黒色が際立つから、心の輪郭までなぞられたような、切ない気持ちになる。そういう枝に、えだまめをリスペクトしてえだゆきという名前をつけたい。 今朝はそればかり目に入って、ひとりでどこかへ行ってしまいたくなったので、一山越えて落ち着くことにした。大学の裏の山。子どもの頃、某漫画の影響で、裏山っていうのは昭和の世界にしかないんだと思っていた。ドラム缶の寝転ぶ空き地がもうないように。でも違った

          雪の帰り道

          きょうは雪の日だった。 雪の好きなところは、まっすぐに落ちないところ。ちょっと浮かび上がってから、はらはらと流れるように落ちてゆく。ずっと眺めていると、一瞬、空中で止まって見える。 札幌の雪はもっと粒が大きいから、落ちるスピードがはやい。京都の雪は、空を見上げて、ずっと眺めていたくなるくらい、儚くてかわいらしい。札幌で同じことをすると、睫毛に雪が積もって凍ります。 きょうはしかも、夜遅くに道を歩くことができた。誰もいない道で、手袋でそっと雪をつかまえる。ねらった結晶を、

          京都には

          不思議な力が働いているのかもしれない。それはいつもポジティブな力ではなくて、むしろこの土地に降りかかったさまざまな災いや戦いで無念のうちに命を落としたひとたちの思いが、そうさせているのかもしれない。 出会うはずのないひととひとの巡り合いとか、再会とか、新しい自分に出会うことだってある。この本では一瞬背中が寒くなるような京都の影との遭遇が描かれるが、それによって誰と繋がれたのか、に話の重心があるため、じんわりと温かい気持ちになる。 早朝のグラウンドに、もう来ないかもしれなか

          銀河の打ちしぶき

          「どこへ行くと?」 阿蘇駅前からバスに乗り込んだわたしたちに、運転手のおじさんが振り返って聞く。 「唐笠松まで」 おじさんは呆気に取られた顔をした。切符を売ってくれた女性と同じように、目を瞬いて言う。 「押し戸石の丘に行くとね?」 「はい」 わたしは明るい声を出す。よかった、最寄りのバス停は合っていたようだ。あとは切符売り場でのやり取りの再現に近い。おじさんが、バス停からかなり歩かなければならないことを説明し、わたしが「がんばります」とありったけの若さを詰め込んだ声で言う。こ

          銀河の打ちしぶき