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銀河鉄道に“乗った”夜


立つことすらできない

貨物車の固い床に這いつくばるしか為す術がなかった

震度5弱の揺れが続く漆黒の世界では

ガギグゲゴ以外の音は聞こえない

おまけにサハラの砂と鉄鉱石の塵が容赦なく襲い掛かる

唯一許された行為は目を開けること

その制限時間は5秒

短命の視覚が捉えたのは満天の星空ではなかった

そこは宇宙だった

神秘的な空間が広がっていた

見上げているのか見下げているのかもわからない

落ちそうという恐怖さえ感じる

振動と轟音と砂塵にまみれ、猛スピードで突き進む

ロケット?

いや違う

あの日僕は“銀河鉄道”に乗っていた

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アイアントレインのことをどこで知ったかは忘れたけれど

その異名は一瞬で脳裏に焼き付き

いつまでも離れなかった

“世界一過酷でクレイジーな鉄道”

旅の舞台はモーリタニア

スーパーに並んでるタコの産地

知っていた情報はそれだけ

恐怖よりも好奇心が打ち勝ち

絶対に行くと決めた

その野望を世界一周中に叶えた

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「言葉のわからない異国の旅行者」が「ちょっと困っている地元の友達」になれた国だった

英語が話せなかったら英語ができる人を連れてきてくれた

その英語が話せる人は率先して道案内してくれた

車で乗り合わせた婦人がサンドウィッチを分けてくれた

すれ違った青年が身にまとっている民族衣装を着させてくれた

運転手は多すぎる検問に備え、パスポートを10枚もコピーしてくれた

そこに金銭は全く発生しなかった

あったのは優しさと暖かさだけだった

騙されないぞと気を張ってた自分が情けなくなった

次に行ったら謝ろう

また鉄道に乗ろう

アラビア語とフランス語を覚えよう

世界遺産バン・ダルガン国立公園も興味深い

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旅行先としてはおすすめしないけれど

旅先としてはこの上ない

そんな国

モーリタニア

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バーチャルでも旅ができる時代だけれども

視覚と聴覚だけの旅はやっぱり物足りない

思わぬ出会いや優しさに触れて“喜”び

からかわれて、騙されて、バスが故障して“怒”る

歌い踊り、語り合い“楽”しみ

別れを惜しんで“哀”しむ

五つ感覚と第六感が本格稼働し、喜怒哀楽溢れるのが旅

だから僕は旅をやめられない



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