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【かわいい女の子の】リアルな出会い系事情


クソすぎる。ときめきのない暮らしとか、クソすぎる。若さを無駄にしてるって感じがして、もったいなくて、もどかしくて、端的に表すとクソすぎる。

私は顔が可愛い方だ。言うなれば中の上。ダントツ可愛いわけじゃないけど、ほどよい可愛さ。手が出しやすそうな可愛さ。だから、彼氏なんてすぐに出来ると思ってたよ。なのにこんなの誰が予想した? 

私は処女である。私が、処女である。私なのに、処女である。ねぇ、おかしくない? 鼻は高いし目は大きいし、まつ毛長いし体型はスレンダーなんだけど。

でも、悪いのも私だよ。中高と多少モテていたのに、高嶺の花(笑)ぶって誰も相手にしなかったのが間違ってたよ。あと、女子大に進学したこと。完全なるミス。求めていた花のある暮らしが手に入らないことは、入学一ヶ月でなんとなく察した。「女子大だってなんだって顔が可愛きゃ彼氏なんてすぐできる」なんて考えは甘かった。あれから早一年、彼氏は諦めるしかないのかもしれないと思い始めている。大学生のうちに処女卒業することも。

いやいやいや、さすがにヤバい。卒業しておきたい。でも、最悪卒業できなくてもいいよね。私、可愛いし、どうにかなりそう。いやでも、処女って……。

そんなこんなで悩んで考え抜いた結果、とりあえず出会い系アプリを入れた。処女であることは確かにヤバいけど、なにより、私の人生があまりにオフホワイトだから、何かパッと映えるものを飾り付けていたかったの。

そこで、同い年の可愛い顔の男の子から「居酒屋いこうよ」って誘われた。めちゃくちゃ靡いた。だって可愛いんだもん。「居酒屋いこう」じゃなくて「居酒屋いこうよ」だよ。この「よ」がかわいい。だけど、この可愛い顔の男の子、「夜しか会えない🥺」らしい。ワンナイト確定。それに、「飲み代は割り勘でいいよね?🥺」お金まで払わせる気満々。処女をワンナイトに捧げたくない、でも、割り勘くらいなら全然いいし、処女じゃなかったら行ってたのに! 

泣く泣く彼からは引いた。連絡先も消した。処女って面倒くさい。ほんと、早く捨てたい。

最終的に選んだのは、つり目、背は高め、三十代後半の男。顔はタイプじゃないけど、一番誠実に対応してくれた人。

どきどきしたのは最初だけだった。つまりは待ち合わせの瞬間。茶色のロングコートに青いニット、時計を確認する彼と目があったとき、ちょっとときめいた。久しぶりの感覚だった。
でも、結局楽しかったか楽しくなかったかで言えば、楽しくなかったよ。
途中で気づくよね。「あ、無理だ」って。コーヒー1杯二千円のカフェでランチしてるときも、1万円のお洋服を買ってもらっているときも、全然楽しくないの。だって私、その人のことを微塵も好きだと思えない。好きなふりもできない。にこにこ微笑んでいたけれど、口角が悲鳴を上げるし、ため息つきそうになるし、足を組みたくなる。だから私は電話が来たふりをして、真っ赤な嘘をついて、逃げた。限界だった。ディナーまで一緒いるとか無理。送るとか言ってくるけど最後の顔力を振り絞った笑顔で断って、大通りの人混みに紛れて逃げた。


根本的に違ったな。そう、違ったんだよ。今日のあの人、私の好みと正反対じゃんね。まず、私は年上より年下がタイプだし、あの人、可愛いよりかっこいいようなタイプだし、そりゃあときめけない。……あと、場を盛り上げようともしない、ただだだ無言の男だったな。女の子に気を使わすな!自分に無言が許されてるって自信があったのか?初対面なんだから、空気を読んで上手いこと会話を運ぼうとしろよな。なんで私がその役目してるんだよ、普通逆でしょ。あー、ハイボール美味い。

ホントやっぱり、クソすぎる。また若さを無駄にして、一人で夜を仰いでいる。クソすぎる。孤独。一人きり。また迷走してる。高校時代のカウンセラーの先生が言ったみたいに、「君は白黒思考、つまり極端に考える癖があるからね。」そうなのかな? うーん、自分のこと、自分だけじゃわかんないや。

思い出す。大きな窓から、良くも悪くも多量の日差しが入る相談室、私たちは向かい合わせで座っている。あのとき、先生は続けた。顔をくしゃっと崩して微笑んでくれた。

「でも、大丈夫。君は明るいから。将来も明るいよ。」

明るくないよ。明るいわけがないじゃん。先生にも私が明るく見えてるんだね。そうだよね。仕方ない。今はたしかに、いつぞやの日々よりずっと幸せで価値があるとは思う。でも、私の自尊感情は地を這うみたいに低くなってる。

このまま、苦しいままで生きていかねばならないのなら、人生に価値はない。どうすれば価値をつけることができるの?

「そういうことは、自分で考えて」

先生と私のあいだには、壁がないように思えたけど、ときどき、張りつめるような冷たさが走った。やはり他人同士でしかないことを突きつける棘が膿む。先生は上手かった。カウンセラーとして経験が豊富だった。『先生は優しいけれど家族じゃない。甘えすぎるのはよくない。』、私の念頭にこの自覚を植え付けた先生の技術は、並々ならない生徒たちと対峙してきたからこそ培われたものなのだろう。私は、先生の、その中の似たような経験の一つとして消化された。先生が支えてきた生徒たちの一人として、先生の持っているあの緑色のファイルに挟まれた。

なぜか、煙草、吸いたくなった。吸えないのに吸いたくなった。点滅する横断歩道の端に、潜むように落ちていたセブンスターの箱を踏みつぶす。ヒールが汚れる。ビルの隙間から狭苦しそうに蒼白してる月がみえて、かわいそうだなと思った。酔っ払っている自覚はあるけれど、意識はきちんとしている。路上禁煙を謳うポスターの真横で煙草を吸う男の前を横切った。

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