星野維人

原稿用紙5枚ほどの掌編小説や詩を書いています。投稿は不定期ですが、読んでいただければ幸…

星野維人

原稿用紙5枚ほどの掌編小説や詩を書いています。投稿は不定期ですが、読んでいただければ幸いです。

マガジン

  • 写真詩

    自分で撮った写真と自作の詩のコラボです。

  • 掌編小説

    原稿用紙5枚の掌編小説

最近の記事

写真詩「想い出」

誰かに自慢話のように 話してみたくなる想い出もあるけれど 誰にも語らず そっと胸の奥にしまっておきたい 想い出がある ノートの隅に綴った メモ書きのような ささやかな想い出 ときどき記憶の扉を開き 感触をたしかめる 誰とも分かち合うことのない 温かくそして 切ない想い出

    • 原稿用紙5枚の掌編小説「十円玉」

      「ごめんね、十円足りないみたい」  レジカウンターの上に並んだ小銭を数え終えた若い女性店員は言った。カウンタ―の前に立った少年は、戸惑ったように小銭と店員の顔を交互に見た。とある書店での出来事である。小銭は大人の掌にひと山ほどはあろうか。その傍らに置かれた大きなガマ口の財布とコミックの新刊本。少年は小銭で支払いをしようとしたが、十円足りなかったらしい。 「じゃあ、もう一度数えてみるね」  女性店員は最初から小銭を数え始める。 「いち、に、さん、し・・・」  少年は不

      • 写真詩「雨の休日」

        雨の休日 今日はどこにも行かなかった 読みかけの本を読み 古いJAZZを聴き ひとりで珈琲を淹れて飲んだ 雨の休日 今日はどこにも行かなかった ただ静に あの人に思いを寄せた 雨の休日 今日はどこにも行けなかった ノートを開き 文字を綴った 雨の匂いのする 詩が生まれた

        • 写真詩「あなたという人」

          おおらかな人柄の奥に 涙を秘めた人 悲しみと向き合った痕跡を 心の瑕疵ではなく 豊かな人間性に昇華した人 あなたの言葉に触れ 眼差しを見つめるたびに 私は思う あなたは悲しみを孕み 優しさを生む人

        写真詩「想い出」

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        • 写真詩
          16本
        • 掌編小説
          18本

        記事

          掌編小説「大きくなったら」

           病院の待合室で、何気なく目の合った小さな男の子がトコトコと私の傍らに来ると、私の顔を見上げて言った。 「ぼく、おおきくなったらおいしゃさんになるんだよ」  この子は私を誰かと間違えているのだろうか。それとも単なる思いつきなのか。その唐突さに私が戸惑っていると、若い母親が慌ててやって来て、「すいません」と言って男の子を連れて行った。  順番を待つ患者たちの目が私たちに集まっている。私がどんな反応を見せるのか、彼らや彼女らは注目しているのだろう。私はと言えば、若い母親に向

          掌編小説「大きくなったら」

          写真詩「空白の隙間」

          会話が途切れ 無言の時間が 僕と君の間を流れる 僕は僕に没頭し 君は君に夢中だ 言葉はなくても お互いの存在を感じ 過剰な気配りなどせずとも 心は通じ合っている この空白の隙間を 無理に埋める必要のない まったりしたひと時が 僕は好きだ やがてどちらからともなく 声をかける ーーお茶でも飲もうか ふたつの時間が ふたたびひとつになる

          写真詩「空白の隙間」

          写真詩「言葉の花束」

          あやうく忘れるところだった 今日は母の日だったよね 読書好きだったあなたに 毎年本を贈ってきたけれど 今年は何を贈ればいいのかな とりあえず感謝をこめて 言葉の花束を贈ります 「ありがとう」 「元気でやってます」 路傍の花が 応えるように揺れていた

          写真詩「言葉の花束」

          写真詩「ときめき」

          本当は気になって仕方ないくせに 声をかけることも 名前を呼ぶことすらできなくて ただ妄想ばかり働かせて 悶々といていたあの頃 振り返ると 切なくて 微笑ましい日々 そんな胸のときめきも はるか遠い昔のこと あの子は今 どうしているだろう 会ってみたい気もすれけれど やっぱり会わないほうがいい あの時のときめきが 消えてしまわぬために

          写真詩「ときめき」

          写真詩「遠い輝き」

          それはかつて 確かにこの手の中にあったのに 今は失われてしまったもの それはかつて この手で掴もうとしたけれど 果たせなかったもの それはかつて 追いかけることすらしなかった かけがえのない何か その何かは今 手を伸ばしても届かぬほど 遠い彼方へ消えてしまった 思い出にすらできなかった あの輝き 取り戻せない時間の前で 呆然と立ち尽くす

          写真詩「遠い輝き」

          写真詩「予感」

          朝から降り始めた雨が 昼には止んだ 雲間から陽が差して 街はモノクロームから 色彩の世界へと変わる 新しい詩が生まれる予感に 僕は心の扉を開放して待つが 言葉は芽生えもせず 舞い降りもせず 一日の終わりとともに 扉は閉じられる 苛立ちと落胆と わずかな明日への希望を抱き 僕は眠りにつく まるで開店休業の詩人のように

          写真詩「予感」

          写真詩「手紙」

          木枯らしが吹く寒い日に 遥かなるあなたに向けて 僕は手紙を送った 言葉の代わりに 思いだけを託して 「あなたに会いたい」 郵便ポストは空のまま 季節は知らん顔で 僕の前を流れて行った けれど僕は知っている 路傍に咲く可憐な花が あなたからの返信であることを

          写真詩「手紙」

          写真詩「今を生きる」

          ご無沙汰してます 今年もまた会えましたね あなたたちの姿を愛でることが この季節の楽しみのひとつです 僕ですか? 思い通りにはいかないけれど なんとかこの一年を乗り切りました その間に失ったものと得たもの どちらが多いのか分かりません ひとつ言えることは 余分なものならもういらない と言うこと 今を愛おしく思えれば それで十分だと言うこと 僕はまさに今を見つめ 今に耳を澄ませ 今を生きたい

          写真詩「今を生きる」

          写真詩「ひそやかな訪れ」

          忘れ物はまだ見つからないのに 新しい季節は足早に巡ってくる 何かに追い立てられるようで 息苦しささえ感じた僕は ひそやかな季節の訪れに耳を澄ます 春の風に乗って 懐かしい声が聞こえた

          写真詩「ひそやかな訪れ」

          紙の本を出版しました

          このたび紙の本を出版しました。 原稿用紙5枚の掌編小説を12編まとめた作品集です。 タイトルは「十二の掌編小説 もういちど」 令和4年の上毛新聞の上毛文芸最優秀賞に選ばれた作品「もう一度」をはじめとして、その前後に入選した作品をすべて掲載してあります。 何本かの作品はすでnoteに発表してありますが、出版化に当たり一部加筆したものもあります。 母親や友達、見知らぬ人、そしてペット・・・自分にとって近くもあり遠くもある忘れえぬ人を題材にして書きました。 中編や長編の小説が一本の

          紙の本を出版しました

          詩「悲しみの心に」         

          肩を震わせて泣いている あの子を目の前にして 君は何もできず ただ涙を流すだけだった あのときの幼かった君は そうするしかなかった けれど大好きだったあの子の 悲しむ姿を忘れることはなかったね 誰かのそんな姿を 君はこれから何度も目にするだろう いつかその震える肩に そっと手を添える人になれたらいいね 悲しみの心に寄り添える人に なれたらいいね 労わりの言葉を言える 優しい人になれたらいいね 君が憧れた ヒーローたちのように 読んでいただきありがとうございます。 少

          詩「悲しみの心に」         

          詩「小さな声で」

          小さな声で 語るもの 言葉少なに 語るもの ひそやかに ささやかに それでいて 確信に満ちた声 なにも押しつけず なにも決めつけず 答えではなく問いかける声 そんな言葉を聴きたい そんな言葉で語りたい いまこの瞬間を

          詩「小さな声で」