スズメの巣 第32話

※この物語はフィクションです。

第32話 たまに出るヤツ

3月31日。
社内が騒がしい。
橋口は、謎な顔をしている。

「何の騒ぎですか?」
「お前、忘れてないか?」
まさかと思った鳳が、呆れたように話した。

「何が?」
「3月31日だぞ今日。辞令の告示だぞ?」
「ああ。だからですか。」
橋口は納得がいく。が。

「お前、見てないな?」
「ええ。だってまだでしょ?」
「もう告示されてるわ!!」
鳳が、食い気味に突っ込む。

「あっホントですか。」
「なーに、他人事みたいに言ってんだ?」
「そりゃ、ウチには関係ないでしょ。」
「バカか!会社員の人生が決まるんだぞ!」
「人事異動は、しないですよ。社長から昨日直電来ましたから。」
「何で初めに言わねぇんだよ!だったらいいわ!」
鳳は、怒った。そして、呆れた。

呆れた鳳は、キレ気味にこう言い放った。
「じゃあ。いっそのこと辞令見るな!それで、何があっても知らないからな?」
「何言ってるんですか。いいですよ全然。」
橋口は、売り喧嘩に買い喧嘩で言い放った。
「お前・・・。ホントに気にならないの?」
「ええ。いつもそうだし。」

すると。
「お疲れ様です!ビックニュースですよ!」
金洗がオフィスにバタバタと入ってくる。

鳳が、その慌てようから何かに感づいた。
「金洗!落ち着け。あと今時間あるか?外で話したいことがある。」
「ビックニュースですよ!言ってからじゃダメですか?」
「今だ。」
鳳は、圧をかける。

「うっ・・・。はい・・・。」
「よろしい。橋口。すぐ戻る。」
「いいじゃないですか。言ってからでも。」
「ちょっとサプ・・・あ。」
鳳が、わざとらしく言って外に出た。
「サプライズ?」
ガチャン!
橋口は、呆然としていた。

「何ですか!急に!」
金洗は、怒りながら言った。

「ビックニュースって麻田の件だろ?」
「そうです!うーみんに知らせないと!」
ちょっと興奮している。
そうだ。
麻田が兼任ではあるが、このチームに戻ってくるのだ。
そりゃビックニュースである。

「金洗。アイツが辞令を見てない前提だな?」
「もちろんですよ!私が連れていかないと、絶対見ないです!!」
自信満々に言った。

「だよなぁ・・・。」
「何か問題でも?」
「いや、結論から言うと橋口は見てない。」
「でしょうね。」

鳳の悪知恵が働いた。
「金洗。力を貸してくれないか?」
「力?」
「明日。麻田が戻ってくるのは言ってない。黙っててくれないか?」
「あーそういうことですか。」
金洗は全てを察した。

「いいですよ!」
「今、橋口にはサプ・・・。と若干匂わせた。橋口のケーキを用意すると口裏を合わせてほしい。いいか?」
「了解です!」
「自主的に辞令を見させにいくためだ。よろしく頼むぞ。」


オフィスに戻る。
「戻ったぞ。」
「あぁ、おかえりなさい。」

「それで、ビックニュースとは?」
橋口は、直球で聞いてきた。
話をはぐらかす。
「うーみん。ケーキ何食べたい?」
「何よ・・・。今だったらイチゴかな?」
「イチゴね。了解!」
「何かあるわね。」
「何もないよ。うーみんだって誕生日いつだっけねぇ?」
「えっ?!ウソ・・・。」
橋口は、手で口を押さえた。

「フフ。これ以上は詮索しないわ。」
橋口は、上機嫌になった。

オフィスから橋口がいなくなった。
どうやら会社のコンビニに行った様子。

「アイツってなんでケーキだけで満足するの?」
「なんでしょう?ホントに疑う時は疑ってかかるんですけど・・・。一撃の時は、モロ引っかかりますよ。」

翌日。
3人で仕事していると。
ガチャ。
ノックせずにドアが開く。

「失礼します。」
聞き覚えのある声だった。
「あっ!!」
橋口が、声をあげる。

そこには、麻田が身一つで立っていた。

「本日から、またお世話になります。兼任としてですが、再び配属されました。よろしくお願いいたします。」

「何で!?」
橋口は、何も知らない。

「おかえりなさい!」
「待ってたぞ。」
2人が迎え入れる一方。
橋口は、愕然としている。
「橋口。なんだそのリアクションは?」
麻田は、首をかしげた。

「いやだって・・・。何でここに!?」
驚きが隠せない。
麻田は、冷静に話した。
「いや、昨日の辞令で出戻りのこと書いてあったはずだぞ?」
「はぁ!?」
2人の方を見る。

「イェーイ。」
金洗は、ピースサイン。
「ちゃんと見れば、こうならなかったのに。」
鳳は、呆れたように言った。

「言ってくれても、良かったじゃないですか!!」
橋口は、みるみる内に顔が赤くなる。

「自分でいけよ!」
「会社のやつ見てないのか?」
「何で気にならないの!?」

3人の総ツッコミを食らった。

「・・・すみませんでした。以後気を付けます・・・。」

橋口は、恥ずかしさが止まらなかった。

「あの・・・。ちなみに私のケーキはウソ?」
「それは、用意する!」
「ならいいや。」

「よくねぇわ!!」
鳳のツッコミが、オフィスに響き渡った。

つづく。


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