スズメの巣 第30話

第30話 さようなら

ジャッジメントトーナメント2日目となった。
第4試合から再開される。

橋口と金洗は、チームルームの外で話していた。
「さくちゃん。プロじゃない?」
「どしたの?急に?」
「プロの試合って1日何試合ぐらいだっけ?」
「だいたい4~5試合ぐらいだけど。どした?」
金洗は、首をかしげる。
「それぐらいか・・・。いや、昨日のみくちゃん見たでしょ。」
「ああ。あれね。目がバキバキだった。」
「そう。もし今日も長期戦で、今日も1人3試合連チャンってなったら・・・。」
橋口は心配の形相だった。

「そうねぇ・・・。アイロンマレッツは、大将に金村さんを置いてる。奇跡が起こせる人ではある。だから長期戦の目もあるね。」
「そう・・・。」
「で、大変申し上げにくいんだけど・・・。」
「うん?」
話していると、太平が来た。
「あっ、おはようございます。」
「みくちゃん・・・。」

体が自然に太平のもとへ動いていた。
そして、ぎゅっと抱きしめた。
「ど、どうしたんですか・・・!?」
「前にも言ったけど、ゆっくりでいいからね。」
「えっ?」
「昨日は、ムチャさせすぎてたしプレッシャーかけちゃったよね。」
「いや・・・そんな・・・。」
「ごめんね・・・。」
「私、いつも1日4試合打ってますし・・・。」
完全に困惑している。

「みんないるから、大丈夫。」
これだけ言って、体から離れた。
「みくちゃん。じゃあ部屋入って。」
「あぁはい・・・。」
太平には、困惑しかなかった。

「さっきの続き。」
金洗が覗き込んで話す。
「ああ、ごめんごめん。何だっけ?」
「沖村さんなんだけど・・・。」
「沖村さんがどうかした?」
「実は、今日急遽来れなくなったらしい・・・。」
「えぇ!?何で?」
橋口は、思わず大きなリアクション。

「理由は、全日本グランプリっていうオープン戦があるんだけどね。」
「ほぉ。」
「その本戦で負けたんだけど、準々決勝ベスト16の一人が棄権したらしくて。」
「なるほど。」
「次点で繰り上がりになったのが、沖村さんなわけ。」
「そういうことね。そんなこと前もあったよね?」
「あれはゆっかーさんの奴ね。だから、2人で戦わないといけない。」
「そう本人には言いづらいわけだ。」
「昨日の様子だと、プレッシャーになっちゃうかもだし。」
「そうね。みくちゃんには自然に言うようにしようか。」
そう言ったものの、焦りが見える。

ついに、第4試合が始まる。
アイロンマレッツは、3位以下で2部残留が決定する。

対局メンバー。
桜花隊 中堅 麻布
V-deers  先鋒 太平
乃木坂 大将 金村
夕暮れ 次鋒 鯵沢

ジャッジメントトーナメント初の女流対決だ。
やはり、1部リーグ経験者は強かった。
金村らしからぬ、鳴きの多用を見せた。
それに、太平は翻弄された。

太平だけではない。
1部リーグの麻布でさえもだ。
鳴きなのに、高打点。
それに、対応できたのは鳴き型の鯵沢。ただ一人。

「リーチ。」
そして、その強気な姿勢は、前日の第3試合と変わらない。

そして。
「ツモ。3000・6000。」
その強気なまま、鯵沢が豪運を引き寄せた。

スピーディーな試合展開。
50分でオーラスまでたどり着いた。
オーラス。
麻布の大物手よりも先に金村がタンヤオのみであがり。
終局となった。

第5試合の前に終了条件が発生した。
まず、夕暮れポセイドンズは、残るは3人。
しかし、全滅リーチが2チーム。
失格候補が1チームある。

仮に次の試合で敗北したとしても、一番最初に全滅の可能性はない。
よってポセイドンズは、ほぼ昇格確定といえよう。

・全滅リーチのアイロンマレッツ・桜花隊の条件
両チームともに2着以上の場合。
→V-deersは、大将不在のため失格。
アイロンマレッツ・桜花隊の昇格・残留が決定する。

・第5試合の結果がアイロンマレッツor桜花隊が2着以上。
かつ、どちらかが3位以下の場合。
→3位以下がV-deersならば、2チームとも1部リーグ昇格・残留。
→3位以下夕暮れポセイドンズなら、全滅したチームが残留・降格。

・アイロンマレッツ・桜花隊とも、3着以下の場合。
→両軍全滅。
5戦合計ポイント勝負となる。

V-deersは、2着以上のみ。これだけだ。
チャンスが一転、ピンチへと化けた。

「よくやった。あとは任せなさい。」
「ありがとうございます。」
試合のフィールドから去る太平に布崎は声をかけた。

運命の第5試合。
対局メンバー。

桜花隊 大将 青山
V-deers  次鋒 布崎
乃木坂 大将 金村
夕暮れ 次鋒 鯵沢

ベテランの攻勢が、止まらない。
青山VS金村。
この構図が出来上がる。
この2人は、リーチを積極的に打ち合う。
この2人だけがぶつかること3局。
3回とも、青山が金村に放銃する形となった。
鳴き重視の鯵沢は、守りを固める。

「あの教えさえあれば、チームは勝てる!」
心の中で、そう思っていた。

それは第5試合前に遡る。
ベンチには、木幡が待機していた。
鯵沢は、アドバイスを請うた。

「木幡さん!なにか、アドバイスないですか?」
「アドバイスかぁ。そうだなぁ。」
考える。
「ダサくてもいいんだよ。」
「どういうことです?」
鯵沢の頭に、?マークが浮かぶ。

「これは条件戦だ。無理しない。これが大事。」
「なるほどですね。」
「今回は、このチームにとってかなりいい条件戦だ。つまり1着に固執する必要はないんだ。長期的な目で見てどうするか考えるといい。」
「なるほど。」
「とりあえず、この試合はフワッと打ってごらん?」
「分かりました。ありがとうございます。」
気が楽になった。
そうだ、条件はうちが一番いいし。
そう打つと、勝てる気がした。

そして、試合は折り返し。
鯵沢の堅い守りに目を付けたのは、布崎だった。
自分の手を守りつつ、ダマで狙いを定めた。
青山・金村のリーチ合戦をわき目で見ながら、鯵沢のボロを狙った。
その一瞬のボロを仕留めた。
布崎は、満貫を打ち取る。

そして、オーラス。
現在最下位の青山は、親を連チャンし続けなければならない。
アガリ続ける。もしくはテンパイを継続させること。
いわば、もう後には引けないのだ。
ただ、無情にも4巡で金村がリーチ。

青山は、なんとかもがくも。
「ロン。」
非常な声が上がった。
裏ドラは乗らない。
「3900。」

試合が終わった。
1着金村、2着布崎の並びとなった。
実況はこう叫んだ。
「六本木桜花隊まさかの全滅です!降格が決定しました。昨季優勝チームが!!」

その瞬間。
チームスタッフ3人+太平は、狂喜乱舞。
太平は、泣き出した。

「やった・・・。」
そんな太平を見るなり。
橋口と金洗は、太平を2人がかりで抱きしめた。

鳳は、蚊帳の外であった。

試合終了後。
六本木桜花隊陣営は、寅野・青山・麻布が号泣していた。
「これから、成り上がればいいんだよ。」
赤坂は、優しく声をかける。

「2部だからなんだ。私たちは精一杯打とう!」
赤坂は、励ます。

様々な思惑がうずめくジャッジメントトーナメントは、終わりを迎えた。


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