スズメの巣 第40話(最終話)

最終話(第40話) 見つめる未来

新シーズンが始まる。
お台場にある、リーグ・ザ・スクエアのアリーナでは、豪華絢爛な開会式のセットが組まれていた。

開会式セットの後ろにいた。
観客の様子を見ても、V-deersグッズをまとったファンも見受けられる。
推しメンタオルを持つもの。
ユニフォームを着るもの。
楽しみ方は、十人十色だった。

「2度目の開会式だな。」
鳳は、どこか誇らしげだった。
「どうしたんですか?鼻が高いように見えますけど?」
橋口が、問いかける。

「いやだってよ。1年であの舞台に進んだんだぞ。うちのチーム。」
「それは、そうですけど。大半は選手の皆さんのおかげでしょう。もちろん鳳さんも力になっていますけどね。」
「固いこと言うなよ~。」
「確かに、そうです。でも・・・。」
橋口は、どうも気が気でなかった。
「なんか気がかりなことがあるんだな?」
「ええ。」
橋口は考えながら、返答する。

「どうせお前のことだ。平本さんのことだろ。」
「はい。初参戦が1部リーグって・・・。プレッシャーが半端ないと思うんです。」
橋口は、キョロキョロしながら話す。

「ったくもう。変わらないねぇ~。」
「なんでのんきなんですか!」
橋口は、ちょっとキレた。

「安心しろ。控え室の愛田にもう確認してある。」
「えっ?何を?」
「チーム3人が、穏やかにしてある。ましてや、平本さんかなりリラックスしてるらしいぞ。」
「分かってたんですか!?」
橋口は、ビックリした。

「そんな気がしてたんだよ。お前だしどうせ心配になるだろうと。」
「へ、へへ・・・。」
「まぁ、これもお前のおかげもあるかもしれんがな。」
「は?私なにもしてませんよ?」
「何言ってる。このチームカラーやチームの戦法。メンタルヘルスに力を入れたチームにお前がしたんだ。」
「それは、みんなで決めたものです!私一人じゃ。」
「でも、提案したのはお前だろ?」
「ええまあ・・・。」
渋々納得した。
鳳は、話を続ける。
「その結果、みんながリラックスしてこのリーグに望めてる。こういうチーム作りに成功したんだよ。」

「とりあえず、平本さんは大丈夫だから。安心しろ。もうすぐ開会式始まるぞ。勇姿見届けるんだろ?特に太平さんの。」
「みんなのですけどね。」
「まぁ、どっちでもいいけど。」
鳳は、微笑んだ。

そして、開会式本番。
チームメンバーが、雄大な音楽と共に入場してくる。
鳳が言った通り、平本もリラックスして入場してきた。

橋口には、何か考えさせられるものがあった。
チームを作って1年強。
1から作り上げてきた。
我が子のようなチームだ。
笑顔で、開会式を見つめる。
照明は、エグイくらいまぶしいけど。

そして開会式が終わり、チームルームへ。
ついに開幕戦だ。

そして、開幕戦先発は、太平を選んだ。
1部リーグという大舞台。
太平は、猛者たちを冷静になぎ倒していった。
そして、南3局のこと。
「ツモ。えっと・・・6000・12000」。

ドラがちょっと多かったから申告に時間がかかったが、いわゆる三倍満を決めた。
これが、決勝打となり開幕戦を勝利で飾る。

こんなことが考えられただろうか。
あのか弱いというべき。
自信がなかった太平が、こんな成長を見せるなんて。
もちろん、このリーグ・ザ・スクエアもそうだが。
個人での活躍も、大いにあると思った。
もう、伸びしろしかない。
それで、団体では天下人の功績からCリーグ昇格。
女流リーグも今年Bリーグに初昇格。
調子もよさそうだ。

チームルームは、狂喜乱舞。
選手・スタッフ入り乱れての喜びようだった。

それに負けず、第2試合は布崎が出陣。
低打点が乱発するデッドヒート。
その中で、圧巻の押し引きを見せ1着を守り切った。
いわゆる、デイリーダブルを開幕戦で決めて見せた。

興奮冷めやらぬ中。
試合が終わり、帰宅の途につこうとしたときのこと。
「橋口さん。」
声をかけたのは、太平だった。

「どうした?」
「あ、ありがとうございました!」
「な、何が!?」
橋口は、驚く。

「私をこの舞台に引っ張ってくれて。」
「なーんだ。そういうこと。」
「私、色んな人の支えがあってここまで来れたんですけど。やっぱ橋口さんがいなかったら・・・。」
「何言ってんのぉ!みくちゃんの実力だから。こっちこそありがとう。これからもがんばろ!」
「はい!」
「じゃあお疲れ様。」
「気を付けて帰ってね!」
「はい。お疲れ様です。失礼します。」
太平は、帰っていく。

やっぱ、いつみてもみくちゃんだな。カワイイ!
ニヤニヤしながら、橋口はお台場の夜に消えていく。

そして、チームは。次の1歩を踏み出したばかり。
もちろん、橋口も歩みを進めていく。

終わり。

お読みいただきありがとうございました!

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