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宇宙人ビンズと鎧虫ダンゴン

この物語は、惑星テコヘンがありとあらゆる星々を調査するために結成した「惑星調査団」に所属する能天気な宇宙人ビンズと、その友ベーリッヒの活動報告である。


お米って美味しいよね!やぁ諸君元気かな?テコヘン惑星調査団団員のベーリッヒだ!今相棒のビンズと共に宇宙船でお茶漬けを食べているところだ。ビンズが言うにはお茶漬けブームが世界で来ているらしい。わさびだの梅だの通販で高いのを揃えてご馳走してもらってる身としては「ブームの兆しは無い。」とは言えないよなぁ。我々がお茶漬けをかきこんでいるとテーブルの上にあった通信機が鳴り響く。しかしビンズはさっとボタンを押して通信を拒否する。おいおい、なんで切ったよ。

お茶漬け食ってる時は、電話がきても切るもんだぜ。

それどこの星の文化だ?すると通信機が再びなったので私が代わりに受話器をとった。連絡の主は我々が最も苦手とする上官からであった。彼は低く怒った声で話しかけてくる。

それで、連絡を切ったのはどっちだ?あ?

コ、コルビー提督!!

コルビー提督。ビンズの事が大嫌いな上官だ。性格も悪くやたら肥えた体型をしている。恐ろしい事に、コルビー提督は我々2人にあえて危険な任務を依頼して、あわよくばビンズが殉職してしまえばいいと思っているやつだ。何度もやられたんだ、今回もきっと危険な任務に違いない!私は向こうの機嫌を損ねないよう慎重に話をする。

すみません、今電波の悪いエリアにおりまして。きっとそのせいで一度切れたんだと、、、。

その割には飯を食う音が鮮明に聞こえるな。ビンズのガキが食ってるのは汁物の類いだろう。

うへぇ、一線からは離れたとはいえ鋭いなこの人。提督クラスは化け物みたいな人たち多いからなぁ。ビンズ、お前も食う手を止めんかい!

そ、それで提督。本日はどのようなご用件で?

ああ?貴様らに連絡する時は依頼の話に決まっておるだろうが。頭の良い貴様にわからんのか?

とりあえず頭の中で私は今コルビー提督を殴った。コルビー提督は話を続ける。

自然惑星J-3に異星人向けテーマパークが出来るらしいが、ある生き物が邪魔をしているせいで進行がかなり遅れているそうだ。お前らはその生き物を処理すればいい。その生き物の名は、その、あれだ、ダンゴンだ。

ダンゴン?ダンゴンって、あの?虫界のマスコットと言われ、よだれをやたら垂らしてて、おもちゃも売られているあのダンゴン?えぇ、あ、えぇ、コルビー提督が名を出しづらかった理由がよくわかる。ダンゴンは力が強く岩など平気で叩き割れるが、危害を加えなければ仲良く出来る生き物だ。惑星調査の初歩中の初歩、「ダンゴンは絶対に撃つな。何があっても撃った方が悪い。」という教訓がある程だ。コルビー提督もかなり疑問に思っていたようだ。

ベーリッヒよ。わしはビンズが大嫌いだが、君の能力はそこそこ評価しているつもりだ。幸い対象のダンゴンは工事現場にいる人間に危害を加えている訳ではないが、かなり頻繁に敷地内へ侵入してくるそうだ。依頼してきた工場現場の職員は追い返すのにあの手この手を使ってもまたすぐに来るという、それも1匹でな。一定数の群れで行動するはずのダンゴンのこの行動、君はどう思う?

そうですね、、、。宇宙海賊やテロリストに兵器改造させられていたら、今頃多くの死傷者が出てるはずですのでその線は無いかと思います。工事現場に使われる素材にダンゴンを引き寄せる香りのものが使われていたら、もっと多くのダンゴンが侵入してくるはずですのでそれもないかと。住む場所を変えたければ、わざわざ工事現場を横切らなくても迂回すれば良いという思考くらいはダンゴンにも出来るはずです。

流石だな。他の研究団員は1つ答えるのにも時間をかけたが、君は色んな線をこうも早く考えてくれた。いずれにせよ、ダンゴンが何らかの理由で人に危害を加える恐れがある。ダンゴンは大人しいとはいえ、パワーは下手な兵器よりも強いし、戦闘団員数人でやっと倒せるくらいだからな。願わくば暴走してビンズの頭を捻じ切って欲しいものだ。

本音がストレートに出ておりますなぁ。私はお茶漬けの4杯目を食べてるビンズに聞かれないようこっそりとコルビー提督に質問した。

あの提督、前から気になっていたのですがビンズを嫌う理由ってなんですか?

ああ?逆にお前はあのクソガキのどこが好きなんだ?くだらん質問をしてないで早く現場に向かえ!ついでにビンズの生首も提出しろ!ふん!

コルビー提督からの連絡は途絶え、そのすぐ後に座標が送られてきた。やれやれ、異常に口は悪いけど普通に会話は出来るんだよなぁ。でもビンズの事となるとあんなに怒るのは何故だろうか。しかし、コルビー提督の言うことも一理ある。私はビンズの何が好きでコンビを組んでいるのだろうか。口は悪いし、性格はやんちゃだし、やたら武器買うし、インフルエンサーだし、強いし、私とは何もかも違うのに。無いものに惹かれるってやつなんだろうか。とにかく我々は宇宙船に座標を入力し目的地へと向かう。


自然惑星J-3。緑豊かな星で危険な生物もあまりいない。テコヘンも所属している宇宙商業連合の管理下にあり、その広大な土地を利用し様々な惑星が商業施設を建て自身の星以外の収益を上げる事を目的とした、いわゆる商業用惑星なのだ。一部では星固有の生態系を壊す事から自然か経済かで世論が揉める事もある。高度な知的生命体がいない星ならではだ。私としては経済の発展に犠牲は付き物だが、むやみやたらに広げて欲しくない気持ちがある。我々の乗る宇宙船は目的地の工事現場にたどり着いた。今回の依頼は商業連合直下の建設会社だ、数多くの異星人達が我々を出迎える。すると彼らは早速我々の手を引いて案内し始めた。

お待ちしておりました!!今そこにダンゴンが来てまして、、、!ひとまず追い払ってくれませんでしょうか!?

テーマパーク建設現場の橋の方には鉄柵があったが、それを突き破りそいつは現れる。熊のような大きさの体と手に目は6個。しなびた葉のような色の甲殻に覆われ、二足歩行でゆっくりとヨダレを垂らしながらこちらに迫ってくる。そう、奴こそが虫界のマスコットこと、「鎧虫ダンゴン」である!

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きゃわいいなぁもう!しかし報告通りだ。たった1匹で敷地に入ってきたぞ。暴れる様子はないが、慎重に対処しよう。私とビンズは宇宙船から持ってきた果物をちらつかせて、彼が来た森の方向にまで誘導する。ダンゴンはなんら疑う事なく我々について来た。そしてそのまま果物を置いて、ダンゴンが遠くで食べている隙に建設現場まで戻る。するとあまりの手際の良さに拍手される一方で、すぐに戻って来るのではと不安になる職員もいた。しかし私は彼らをなだめる。

今のはほんの応急処置です!ひとまず現場の状況を教えてください!


我々は建設現場にある仮設事務所で熱いお茶をもらい職員達数名と話す。ダンゴンが現れたのは約2週間ほど前、最初は職員達も仲良く接していたようだが、追い返してもすぐに戻ってきたり敷地の奥にいつの間にか入るものだから困ったとの事。追い出し方は我々と同じように果物で誘導したり、重機のクラクションで驚かしたりなど様々だったようだ。良かった、そのくらいならダンゴンも怒ることはないだろう。我々は職員達に頭を下げられダンゴンの駆除を依頼してきた。だが戦闘団員であるビンズは全然気乗りしてはいなかった。

いくら敷地に入ってくるとはいえ、死傷者はゼロだ。向こうに戦意がないなら俺は撃つ気にならんな。

私も相棒のビンズに賛成です。調査団としても駆除の対象には該当していませんから。そのかわりダンゴンは出来るだけ遠くに引き離しましょう。


私はビンズと共に再び敷地に足を踏み入れてきたダンゴンの前に出て、すかさず煙玉を放り投げる。ただの煙玉ではない。大型動物用の麻酔が含まれている。眠らせた隙に宇宙船で運ぶ作戦だ。ダンゴンは早くも眠りにつき、我々はリアカーを使い弾丸を宇宙船に乗せすぐさま20キロほど遠くの場所に連れて行き森に眠ったまま放す。いやー、リアカーって便利。我々は建設現場に戻り職員達に報告すると再び称賛された。とりあえず、1日様子を見て何もなければ帰ろう。 


その夜、我々は建設現場からのもてなしを受けた。建設現場は宴会場にかわり、私とビンズは酒と焼き鳥を楽しんだ。しかし、今回の任務は楽だったな。この地域にはダンゴンが多くいる。あのダンゴンもそのうち別の群れと合流するだろう。しかし、この場所に執着した理由はわからなかったな。すると向こう側から叫び声が聞こえる。なんだ、酒の飲み過ぎで誰かケンカでもしてるのか?私とビンズが缶チューハイを片手にその場に向かうと、なんとあのダンゴンが再び工事現場に侵入してきたのだ。そんな馬鹿な、20キロ離れたあの場所から何時間もかけて移動してきたというのか!さらに、酔った職員がツルハシを振り回してダンゴンを威嚇する。

てんめぇ!!また来やがったのかぁあ?いつまでも許されると思うなよぉ!おらぁ!!

職員がツルハシをダンゴンに振り下ろそうとすると、ビンズは缶チューハイをその職員に投げつけ動きを止めツルハシを奪いとる。他の職員達もそれに乗じてスコップや鉄パイプを持ってダンゴンに襲い掛かろうとするが、ビンズがツルハシを振り回して逆に職員達を止める。

控えろぉ!ツルハシマスター、ビンズ様のお通りだぁ!!俺に勝てる自信があるならこいやぁ!

ビンズの口上により職員達は青ざめ一斉に道具を片付ける。無理もない、ビンズの強さは多くの星々に知れ渡っているからな。するとダンゴンは騒ぎに紛れて敷地の奥に入って行ったので、我々は再び果物を使い近くの崖にまで誘導する。せっかくだ、ダンゴンの監視と共に高いところから状況を見てみよう。ダンゴンがこの場所に執着する理由がわかるかもしれない。


崖に着くと、気がつけばもうすぐ朝になろうとしていた。私は酔い覚ましにペットボトルの水を飲みながら観察するが、あまり変わった様子は見られない。建設現場の周辺、木々が多く倒れているのと、ついでに大きめの更地が見えるな。木々が倒れているのは自然によるものだろうが、更地は明らかに人の手が加えられている。あそこにも何か施設が出来るのだろうか。ビンズは果物をダンゴンに与えていた。

よく食うなお前〜。んで、なんかわかった?

お前は人に仕事を押し付けすぎだぞ。君的にはどう思うんだい?

さぁな。俺研究団員じゃないし。

この男はもう。私は念のためダンゴンの体を機械でスキャンするが特別異常はない。やはり兵器改造されてる訳じゃない。ダンゴンは自分の意思であの建設現場に侵入している。テーマパークに使われている素材も普通のものだと確認したし、彼がどの群れにも合流しなかった理由になる材料はない。ビンズはダンゴンにずっと話しかけていた。

しっかし、お前も変な奴だよなぁ。群れや家よりも遊園地がいいのか?あそこにいる奴らはお前にエなんてくれないぞ。早く帰った方がいいぜ、お土産に果物たくさんやるから、、、。

ビンズ、今なんて?

果物沢山やるから、、、。

違う!早く帰った方がいいと言ったんだ!盲点だった!ビンズ、君はここでダンゴンを足止めしておいてくれ。勉強が嫌いな君でも、ダンゴンの知識くらいあるだろう。

お、おい!お前1人で何しに行くんだよ!

私は、真実を確かめる。もし私の勘が当たっていたら、ダンゴンを我々の手で保護しよう。トラブルになる前に!

私はそう言って1人建設現場に戻る。酔いはもう完全に覚めていた。


私が建設現場に戻ると建設現場の職員達が私に駆け寄りこう話してくる。

ベーリッヒさん!探しましたよ!やはりあのダンゴン、駆除して頂けませんか?これ以上工事を引き伸ばす訳には、、、。

おかしいと思ったんだ、、、。なぜダンゴンの様な大人しい生物をそこまで「駆除」させようとするのか。

はい?何の話しで、、、?

建設現場を調べさせてくれませんか?

それは、構いませんが、もう既に調べたじゃないですか。建設現場の塗料も材料も、、、。

そうですね。では次に周辺の空気と、地面を調べさせて貰えますか?

建設現場の職員達はスコップや鉄パイプを持って私を取り囲むが、私は光線銃をちらつかせる。

脅す気はありませんが、ビンズでなくても1人や2人くらいを撃てる技術は持ってます。だから、邪魔をしないで頂きたい。

職員達はその場を退き、私は大勢に見られながら周辺の空気をスキャンする。すると反応が出た、ダンゴンが発するフェロモンが漂っている。ダンゴンは群れが迷子になった時、匂いを辿れる様にフェロモンを発する。まぁ、群れがちゃんと集まっていれば別の群れのダンゴンが引き寄せられる事はないし、そもそもフェロモンを出す機会なんて滅多にない。家族の顔はちゃんと覚えてる種だし、迷子になる事自体珍しいからな。さて、じゃあそのフェロモンはどこから出ているか。そのフェロモンは、死体からも出続ける事があるという。何十キロも離れたダンゴンを引き寄せるほどの濃度、この量は1匹や2匹で出せる量じゃない。私が建設現場の地面をスキャンすると、出て欲しくはなかった反応が出た。


ダンゴンの死体の反応だ。数は50を超える。


私がスキャンでその事を知ると職員達は土下座をして私に謝ってくる。

お願いです!この事は内密に、、、!!

先程崖から多くの木々が倒れているのを見ました。この辺の木がやたら湿り気を帯びていたのはここで水害があったからでしょう。そしてこの現場の近くに似たような更地がありました。正直にお答えください、ここは本当に建設現場の予定地でしたか?

け、建設予定地だったのは本当です!ここは一等地で眺めも良かったもので、、、。しかし我々が工事に入る直前にダンゴンの群れがこの一帯を住処にしたんです。商業連合に問い合わせたところ、契約上買った土地でのトラブルには対応出来ないと言われてしまい、やむなくテーマパークの配置を購入した土地内で変える事により対処しようとしました。隣に更地があるのはそのせいです。しかし更地にした直後大雨により洪水が発生しました。我々は別エリアにいたため無事でしたが、ダンゴンは洪水の餌食に、、、。

ダンゴンは体が強いとはいえ生き物です。自然災害に太刀打ちは出来ません。あなた方は弱っているダンゴンの群れを見つけ、まだ生きているのも含めて生き埋めにした。本来予定していた土地で工事をする為に、違いますか?

お、仰る通りです、、、。でも、我々には助ける方法もなかったし、、、。

助ける方法を模索していた人間のする事か!!これ程までにダンゴンがフェロモンを発したという事は、洪水で別れた群れにいち早く危機を知らせる為だったんだ!そして唯一の生き残りが群れの生死を確認する為に何度も何度も帰ってきた、フェロモンを辿って自分の家に、、、!あのダンゴンが他の群れに行かなかった理由です、仲間が生きてる事を信じていたから!しかしあなた方は我々を雇い、大事になるのを恐れて生き残りのダンゴンをすぐ駆除する様我々に頼んだ。

職員達は項垂れて言葉も出なかった。

しかし、済んでしまった事はもう仕方がありません、あなた方にも事情はあるでしょうからもう咎めはしません。いずれにせよ、ダンゴンの遺体が完全に腐敗するまでフェロモンは出続けるでしょう。それよりも生き埋めにした事による疫病などの心配をしなければなりません、数が数ですから。あなた方は慌てていた事もあり、浅く埋めすぎたのです。こうなれば一度掘り返してより深く掘って埋めるか、死体を一度焼いてから埋めるしかありません。

わ、わかりました、、、。え、あ、ベーリッヒさん、あれ!!

ん、なんだ?私が職員が指差す方へ顔を向けると、ダンゴンが地面を掘り起こしていた。その横でビンズがダンゴンをロープで引っ張り何とか動きを止めようとしていたが効果は無さそうだった。

ビンズ!!どうして止めなかった!!

すまねぇ!果物が尽きたから麻酔を使って眠らせようとしたけど効かなかったんだ!ロープ使っても、俺の力じゃ無理、、、!

するとダンゴンは何かを発見する。そう、仲間の亡骸だ。ダンゴンはロープを引きちぎりビンズの体を掴んでこちらに投げ飛ばす。ビンズは受け身をして何とか無事だったが背中を打ったため立ち上がるのに時間を要した。そしてダンゴンは目を赤くして我々に吠えた。職員が仲間の死を隠していたからか、それとも仲間の死に悲しんでいるのかわからない。だがはっきりわかる、ダンゴンは我々を攻撃対象にした。ダンゴンは我々に向かって突進してきた。その形相は凶暴な怪獣と遜色ない程であった。職員達は一斉に逃げ出したが、ダンゴンは執拗に追いかける。私はダンゴンに駆け寄り止めようとした。

落ち着いてくれダンゴン!!我々が悪かった!!君の仲間は今度こそちゃんと埋葬するから止まってくれ!許される訳無いのはわかっているけど、君に人を殺させたくないんだ!

しかしダンゴンは止まる様子はなく、私を払い除け職員達が隠れているテーマパークの鉄骨を手で攻撃する。するとどうだろうか、鉄骨はまるでバターのように滑らかな曲線を描いて切り裂かれているではないか。職員達は悲鳴をあげながら逃げ惑う。まずい、このままでは死人が出るぞ。仕方がない。私は光線銃を引き抜き狙いを定めていると、職員の1人がブルドーザーを操縦してダンゴンに突っ込む。

俺がぶっ倒す!!虫が重機に勝てるかぁ!!

や、やめろぉ!ダンゴンのパワーを甘く見るな!!

ブルドーザーが突っ込むと、ダンゴンは両手で押さえ込み、そのまま天高く投げ飛ばした。重機は轟音と共に落ち、乗っていた職員は血だらけで脱出しようとしたが、ダンゴンは職員の体を掴みまるで雑巾の様に絞ろうとする。

た、助け、、、!

私が光線銃を向けた瞬間、別方向から光線が発射され、ダンゴンの頬を掠った。ダンゴンが発射された方向を向くとビンズがいた。

こっちだダンゴン、、、。鬼ごっこでもしようぜ。

するとダンゴンはビンズを追いかけ攻撃し始める。ビンズは何とかダンゴンの鋭い爪と剛腕を回避し攻撃はしなかった。やはりビンズもダンゴンを殺したくないんだ。すると職員の1人がこちらに叫んでくる。

何やってんだ!!もう殺しちまえよ!!

黙っていてください!!!

私が声を荒げると職員は茂みに隠れる。もう殺すしかないのか。今ダンゴンはビンズに釘付け状態、私が背後に接近して銃を連射すればダンゴンを倒せなくもない。だけど、ビンズが撃たなかったのは私を気遣ったからだ。それを私が無駄にしてどうする。殺す以外に方法は、、、。待てよ、ビンズは麻酔を使ったけど効かなかったと言ったな。恐らく麻酔を使用してから時間が浅いため抵抗力が付いたんだろう。いや、それでも多少なり効いているはずだ、眠らないまでも弱らせるくらいには。よし、なら鬼ごっこ開始だ!逃げ足ナンバーワンの実力を見せてやる!

ビンズ!!鬼ごっこ入れてくれ!!

ほいきた!!ダンゴンさん、ここまでおいで!!

私とビンズは走りに走る。ダンゴンの注意を引きつけるため鉄パイプをカンカン鳴らしながら翻弄する。ダンゴンは力が強くても頭はあまり良くない、純粋が故に。ダンゴンは我々に攻撃してくるも我々は回避を優先しているため中々当たらない。それと同時にダンゴンにも変化が現れる。そう、ダンゴンもヘトヘトなのだ。ビンズが麻酔を使っていたのは本当だったらしい。ダンゴンの腕の振りも遅くなり、やがて地面に倒れる。赤い目は元の黄色に戻り、どうやら落ち着いたようだ。しかしそれを知ってか職員達は道具を持ってダンゴンを退治しようとする。

い、今ならやれるぞ、、、!

ダンゴンはそれを見て逃げようとするが立てない。しかしビンズが一歩前に出て職員達の道具を光線銃で撃ち落とす。

鬼ごっこの次は射的か?的になりたいやつは前に出ろ。

私はさらに前へ出て職員達に呼びかける。

もうやめましょう。理由はどうあれ、ダンゴンは人を傷つけました。本当は森に帰してあげたかったが、今後の事を考えればもうこの星に置いておくのは危険でしょう。このダンゴンは我々が保護します。だから武器を下ろしてください、相棒に引き金を引かせないでください!

そういうと職員達は道具を手放し、我々は宇宙船でダンゴンを運び、この事件は一応解決した。私が望む結末とは大分違ったが。私は建設現場にダンゴンの死体の処理方法を教え、マニュアルを残してビンズと共に星を去った。本当は一緒に処理をするのが適切なんだろうが、その場から去りたいという私なりのわがままだったのだろう。


ダンゴンは宇宙船の窓からJ-3が離れていくのを眺めていた。特別叫びもせず、かといって戻ろうと暴れる事もなく、自分がもう戻れない事を実感している様だった。どんな理由があっても人に危害を加えた生物を調査団としても放っておけないからな。ビンズはそんなダンゴンの隣にずっと寄り添い、私は通信機でコルビー提督に報告する。

、、、という訳です。すみません、本当は森に帰せる様最善を尽くしたのですが、、、。

コルビー提督の性格上怒られるとも思ったが、彼はそうかそうかと流した。

まぁ、最善の判断だろうな。ビンズがダンゴンにやられなかったのが残念だ、せっかくワインも用意したのに。

心の声が噴出しておりますなぁこの人は。

それで、ダンゴンはそこにいるのか?

あ、はい、現在テコヘンの生物保護区へ輸送する所です。その後本部に戻ってまた次の任務に向けて準備を、、、。

そうか、、、。わしも建設会社の事情を知らなかったとはいえ、君に苦労をかけた。君にはいつもの報酬の3倍を出そう。次の任務まで羽を休めるといい。

え、ビンズには何も無いんですか?

あぁ?あのクソガキには何もやらん!心配なら貴様の報酬で奢るなりしろ!イライラさせおってこの馬鹿が!煮るぞ!ふん!

コルビー提督は乱暴に通信を切り、とりあえず報告は終わった。私に煮物要素なんぞあるのだろうか。私は宇宙船の窓の方にいるビンズと話す。

ビンズ、お前以前コルビー提督に何かしたのかい?君と私とで態度があまりに違うんだが。

あぁ?覚えねえなぁ。最近はホル姉さんの化粧がまた濃くなったって言ったかな。

コルビー提督の娘さんじゃないか!それは君が悪い!ん?

私はビンズの手を見ると若干赤みを帯びていたので彼の手を掴んでよく見ると、手のひらは擦り切れてかなり傷つき血が出ていた。

ビンズ、この傷。

何でもねえよ、ロープでダンゴンを引っ張ったから軽く切れただけさ。

そうか、ダンゴンを止めるために彼はずっとロープをあの崖から握りしめていたんだ。コルビー提督は言った、ビンズの何が好きなんだって。好きとか嫌いじゃなくて、私は放っておけないから彼といるんだろうな。でもありがとうは言わないでおく、彼が照れるだろうから。その代わりうんと飯を奢ってやるさ、意地悪な提督の言う通り。

ご飯の前に消毒が必要だ、消毒液を持ってくるから、、、。

気にすんなよ、ダンゴンも腹が減ったってさ!

そうか、じゃあダンゴンは先にご飯をあげて、君には消毒をしないとな。

そんな〜!

こうして、我々はいつもの雰囲気に戻り我々の宇宙船はテコヘンを目指してゆっくりと宇宙を飛んでいく。


数日後生物保護区にてJ-3よりダンゴンが輸送された。ダンゴンはあるコンビと行動を共にしたかったが、彼らは任務があるため連れてはいけない。しかしダンゴンは彼らと同じくらい接してくれるテコヘン人に出会う。それは意地悪で有名だが、いつも果物を持ってきてくれる提督だったという。


宇宙人ビンズと鎧虫ダンゴン 〜完〜


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