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无怨无悔ーー「私」がいなかった過去には、もう戻りたくない

(1483字・この記事を読む所要時間:約4分 ※1分あたり400字で計算)

【无怨无悔】

ピンイン:wú yuàn wú huǐ
意味:過去の出来事に対して恨んだり悔んだりせず、それを受け入れること。

『「私」がいなかった過去には、もう戻りたくない』

 割と大学生の頃まで、
 
「小学生からやり直せたら」
「幼稚園児に戻れたら」
 
という類の妄想をよくしていた。
 
 
 現実逃避をしたかったのだろう。
 加えて、いつも
 
「私の人生、どこかでエラーが起こったに違いない」
 
ーーとばかり思ってもいた。
 
 
 もしそうでなければ、説明がつかない。
 なぜこれ程にも生きているのが苦しくて、頑張っても頑張っても一向に改善されないのかが分からなかった。
 
 だから幼い頃に返り、一度じっくりと生き直してみたいと、そう願っていた。
 きっとどこかにヒントがあるはずだ、と。
 
 
 不思議な道具を使ってタイムスリップしたり、
 目が覚めたら赤ちゃんの姿になっていたり、
 超能力を使ってかつてあった特定の事件の結末を変えたり、
……
 
 そんな幻の中で自分を理想とする人生へと導く。
 そしてハッピーエンドを迎える度に、でもこれは決して叶わない、ただの想像なのだという現実を自分に突き付けた。
 
 
 不毛な時間だ。
 
 そう知ってはいても、せめてもの慰めということで、懲りずに繰り返していた。
 
 



 
 
 はて、そういえば。
 
 
 気付けば、長らくそういった妄想をしていない。
 
 
 今の私は、もうすっかり社会人だ。
 
 早朝に起きて職場に向かい、来る日も来る日もせっせと働く、そんな大人になっていた。
 
 
 生活費を稼ぐ為に、食べていく為に頭を下げる。
 我慢の連続で、時には理不尽だと分かっていても、ひたすらただ耐え忍ぶだけの日々。
 
 学生の頃は、大人は勉強も試験もなく、親の顔色を見る必要もなく自由気ままだと思い込んでいた。
 
 まさか学校生活から解放される先にもっと大きな苦労が待っているなんて、当時は考えてもみなかった。
 
 
 ここでもし、「これを飲めば学生時代に戻れる」と、不思議な薬を渡されたらーー
 
 
 
 断固拒否するだろう。
 
 
 
 「そんな都合の良い薬、胡散臭いだろ」という現実的な理屈はさておいて(笑)。
 
 今の私は、もう過去になんか二度と戻りたくない。
 
 
 恐怖だからだ。
 
 自分のことについてあまりにも分かっていない、あの無知で若い時代に戻ることに対し、怖さを感じているからだ。
 
 
 何が好きで、何が嫌いなのか。
 
 得意分野・不得意分野は何なのか。
 
 どこまでが体力とメンタルの限界なのか。
 
 大事にしている価値観は何か、どこを目標としているのか。
 
 
 あの頃は、私でありながらも、私のことを何一つ分かっていなかった。
 
 
 特に、ここ数年になるまで私は自分のマイノリティ属性(発達障害傾向、セクシャルマイノリティなど)についてもよく知らなかった。
 
 なんとなく、周りから浮いていて。
 なんとなく、苦しいなぁっていつも感じていて。
 なんとなく、所謂「多数派」の世界に合わせていて。
 
 必死に皆が言う「こうであるべき」を目指せば目指す程、自分を見失っていた。
 
 
 別に現状に満足している訳ではない。
 
 相変わらず辛かった過去からくるトラウマで苦しんでいるし、未来は不確かで不安になる時もある。
 
 
 でも、今の私には、味方がいる。
 
 「私」という味方がいる。
 
 
 日々辛くても、しっかりと「私」を認識して暮らしていけること自体が、私の生きがいになっていた。
 
 自分自身を知るにつれて、人生、どこかでエラーが起こったって良いじゃないかとも思えるようになった。
 
 
 そういった一つ一つの「エラー」があるからこそ、「自分色」が濃くなるのだから。
 
 そしてそれらが強さともなり、生きていく意味になるのだから。
 
 
 「やり直したい」とばかり思っていたのは、きっとモノクロだったあの日々を、「私」という絵の具で徹底的に塗り替えたかったからなのだろう。

📚「人生」というキャンバスに、私だけの色を!

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