夫の物欲バロメーター
「おだやか日本一」の我が夫は、買い物が大好きだ。
常にAmazonやメルカリをチェックしているし、仕事帰りにはお菓子やアイスを大人買い。新幹線は絶対に指定席を取り、「歩く時間が無駄」とすぐタクシーに乗りたがる。
とにかく、お金を使うことに躊躇がない。
その結果、食べきれない大量の食料品や小物類がドンドン増える。
彼は「今後ずっと使えるか」を考えずに買い、「いらなかったら捨てれば良い」と言いつつ捨てられないので増える一方だ。その証拠に、彼の実家の空いた2部屋は彼の荷物で埋まっており、家族を悩ませていた。
そんな物欲の権化が、ある時期一切買い物をしなくなった。
Amazonもめっきり届かないし、仕事帰りはどこにも寄らない。「最近なにも買わないね」と聞くと「何が欲しいのか分からなくて…」と弱々しい返事。
原因は『多忙によるストレス』だった。
彼はこの時期、朝7時から夜12時まで仕事をしていた。休みは日曜日だけ。転勤先の知らない人ばかりで色々融通が利かないうえ、社員や取引先など、今までより人数が多く人間関係が煩雑。
ちなみに、彼は上司や同僚から「メンタルが強い」と言われがちな人間である。
実際、合理的な性格で余計なことは一切考えないし、愚痴も言わない。人当たりがよく協調性があり、嫌われることはまずない。
そんな彼でも、今回の転勤はあまりに辛かったようだ。
ストレス解消の買い物。
「こんなに働いてるんだから、我慢するなんてもったいない!」とカゴいっぱいにお菓子を詰め込む彼が、その手段すら取れなくなってしまっている。
今まで散々「買ってこないで!」と注意していた私だが、ついに「何か欲しいもの買いなよ」という世紀末レベルの事態に発展した。このままでは、確実に彼が病んでしまう。
休職経験がある私は「どうしてものときは休みなよ」と言ってみたが、夫は「絶対やだ。そういうタイプの人になりたくない。周りに迷惑がかかるし、甘えだと思う」とバッサリ。本当にダメなときだってあるんだよ、人間だもの。君が心配だよ。
どうしたものかと思っていたら…
転換点になったのは、意外にも”仕事のミス”だった。
その日は久しぶりの連休を予定していた。しかし、当日の朝になり大きなミスが発覚。しかも2つも。それは同僚に迷惑をかけるものだったらしく、かなり焦っていた。幸い、仕事に出向かなくて済んだが携帯が手放せない事態に。
だいぶ落ち込んでいた彼だが、昼頃になって急に
「もう全てがどうでもいい!遠出しよう!」
「鎌倉のアジサイが見たいって言ってたよね!いこう!ホテル取ろう!」
あれよあれよと、突然の鎌倉まで長距離ドライブ。アジサイを見つつ、カフェで休憩しながら宿を予約。すると夜になって急に
「明日、せっかくだし着物で歩かない?」
「人力車乗りたいなぁ」
彼は結婚式以来「自分は着物が似合うのだ」と自信を持つようになった。とはいえ、写真も嫌いだし目立つのも嫌いな彼。着物で人力車なんて、絶対乗らないタイプなのに…!
急遽、着物レンタルを予約して人力車に乗り、写真をパシャパシャ撮ってもらった。
そのときの晴れやかな表情と言ったら。
その日を境に、彼は「どうせもうすぐ転勤するし、どうでも良くなってきた」と何か吹っ切れた様子になり、相変わらず忙しかったが元気になった。
そして、我が家には再びAmazonとお菓子が溢れるようになったのである。
引越しに際し、彼は今「食器棚とソファを買い換えようぜ!」と躍起になっている。バランス。バランスを取ろうね。落ち着け。
どうやら彼の物欲は、精神状態を表しているらしい。買えなくなったらピンチなのだと、今回の転勤で学ばせてもらった。
好きなことができなくなったらピンチ。私が休職したときもそうだったなぁ。自分のバロメーターを知ることは、現代社会では必須なのかもしれない。
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